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ミヤコワスレを君に  作者: 五十鈴 りく


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15/26

【 15 】

 その翌日も、僕は白澤のことばかり考えていた。どうやったらもっと時間を共有できるのか、そればかりだ。

 今度は陽介さんたちとバスケをしに行こうって誘おうかな。


 でも、今は部活の真っ最中。

 炎天下で汗だくになってノックの練習だ。僕はやっぱり補欠のままだったけど、補欠の中では上位だから、頑張り次第では昇格できるかもしれない。

 あんまり余計なことを考えてないで、僕は今、必死で取り組まなくちゃいけないんだと思う。


 少し汚れた、それでも白いボールを追いかけて走る。汗が止め処なく流れて、雨に濡れた後くらいにみんなぐっしょりとしていた。それに、顔も腕も赤黒い。一日だけでもすごく日焼けする。


 そんな中、やっとの休憩だった。マネージャーたちが冷えた麦茶を用意してくれた。部員たちは持参した水筒の中身がすでに空になっていて、麦茶をがぶ飲みする。

 僕も喉がカラカラで、空になった水筒に麦茶を継ぎ足して一気に飲み干した。ひんやりと喉を通っていく心地よさに生き返る思いだ。


 ふぅ、とひと息つくと、そんな僕を中川がじっと見ていた。

 あれから初めて顔を合わせた。やっぱり、ちょっと気まずい。でも、なるべく普通にしていないと周りから変に思われる。


 僕なりに自然に笑ってみたけど、中川は僕から目をそらした。

 ――やっぱり、今まで通りにはいかないんだな。



 部活の帰り道。智哉は自転車を引きながら僕の隣を歩いた。智哉は自転車通学で、僕と途中までの道は同じなんだ。

 その道中、恐る恐るといった様子で僕に訊ねた。


「なあ、基輝。お前が夏祭の時に連れてたのって、あれ、白澤だよな?」


 ドキ、と心拍数が上がる。あれだけの人混みだったから、僕が気づかなかっただけで、どこかで智哉ともすれ違ったんだろう。

 落ち着け。覚悟はしていたはずだ。


「う、ん」


 歯切れの悪い返事になる。喉が上手く動いてくれない。

 浴衣姿の白澤は大人っぽくて、ちらっと見ただけでは本人だって確信は持てなかったんだと思う。でも、違うよなんてとぼけても、じゃあ誰なんだって話になったら答えられないから、結局は正直に言うんだけど。

 そっかぁ、と智哉はつぶやいた。


「お前から誘ったの?」

「うん」

「そりゃあ頑張ったな」


 教室の白澤しか知らない智哉からしたら、僕は無謀としか思えない挑戦をした結果、功を奏したことになる。

 智哉の顔は少し複雑そうに見えた。


「まあ、美人だけどさ、基輝が白澤を選ぶのはちょっと意外だったな」


 そんなことを言われた。そりゃあ、そうだろうな。

 僕だって、学校での白澤しか知らなかったら誘ったりしない。むしろ進んで声をかけることもなかった。


 だから今にして思えば、今の僕たちの関係って、本当に偶然に出来上がったにすぎない。たまたま僕があの日、海辺で座り込む白澤を見つけたから。ただ、それだけなんだ。


 そのほんのちょっとの繋がりから、僕は白澤を特別に想うまでになったんだ。先のことなんて誰にもわらない。


「……僕だって、まだ白澤のことをちゃんとわかってなんかいないけど、でも、教室で見せるような態度が全部じゃないんだ。素直じゃない性格をしてるのは確かだけど――」


 どう言っていいのかわからない。喋っているうちに僕の方がわからなくなってきた。

 白澤はひねくれていて、理解不能なことばっかり言うし、僕はよくそれに振り回されている。


 でも、それでも、僕はそうした白澤にドキドキして、目が離せなくなって、気づけば会いたいって思っている。第一印象の悪さを、今では懐かしく思うくらいだ。


 智哉はポツポツと話す僕の言葉に耳を傾けてくれた。雨の日、その翌日、陽介さんたちとのこと、順を追って話していく。

 智哉と別れるいつもの分岐路にきても話は続いて、智哉は立ち止まったまま話を聞いてくれた。自転車を支えながら智哉はうなずく。


「基輝は白澤にこの町を気に入ってほしかったんだな」

「うん」

「白澤は多分、気に入ってくれたと思うよ」


 なんで智哉はそんなことを言うんだろうと思った。智哉の笑顔はいつも通り明るかった。


「だって、ここにはお前がいるから。祭の時の白澤、見たことないくらい楽しそうにしてたし」

「そう、かな……」


 楽しそうに見えた。それは僕の願望だけじゃなかった。傍目からもそう見えたんだと思ったら、僕はどうしようもなく嬉しくて、智哉を見上げた目はゆるんでいた。


「智哉、僕の話ばっかりで悪かったな。そっちのことも話してよ。戸上とどうだった?」


 智哉も聞いてほしいことがあったはずなんだ。気を利かせてそう振った。そうしたら、智哉はよく日に焼けた顔を袖でこすった。


「あ、うん、まあ――」


 ボソボソ、と聞き取れない声で何か言った。照れているのかな、これは。

 顔を見る限りではそうだと思う。僕も気づけば声に出して笑っていた。

 去年、一年後にこんな話をしているなんて思わなかったけど、案外楽しい。


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