3 這い寄る不穏と愛しき日常 ○
医務室を出た後、ギルド窓口に顔を出して今回の迷宮探索の書類を作成し、自分の分の稼ぎを受け取った。
ついでにさりげなく書類を確認して、パーティメンバーとして記載されていた少年少女の名前を記憶に刻む。剣士の少年がライナーで、探索士の少女がルキノだった。
今度はちゃんと覚えておこう。何しろ数少ない好意的な知人――友人だと思うには憚られる小心者だった――なのだ。
そして受付嬢から『ギルド長が呼んでいる』と伝言を受けたことにより、体調も戻っていたのでそのまま向かうことにした。
なお、シルフィアーノも許可されているので同伴させても問題はない。その裏には、下手に引き離すと問題を起こすからだと言われているとかいないとか。
セレンディアがギルド長の部屋へ向かうのを見て『なぜ?』と目を向けるのもちらほら居るが、そういう人たちは大体ギルド登録をして日が浅い。ギルド長は仕事に関わらないことでは立場の壁を作らず気さくで、フットワークが軽いことで有名であり、さらっと会話の輪に加わったり、新人を誘ってご飯を奢っている姿などが見られたりする。
そして何より、この街におけるセレンディアの保護者でもある。声高に公言しているわけではないが、隠してもいないので知っている者も多い。一時期は『特別扱いされている』だの『実は隠し子なんじゃないか』だの、果ては『愛人では』などと噂を立てられたが、最後の項目でギルド長(とシルフィアーノ)の鉄拳が飛んだ。
今回のように唐突に部屋に呼び出したりしてある意味特別扱いはしているが、査定を甘くしてはいない、と彼の秘書が保証したことにより、騒がれることはほぼ無くなった。
「おう、来たな。とりあえず座れや」
ギルド長は手にしていた書類から顔を上げ、ニヤリとでも擬音がつきそうな、厳ついながらもどこか愛嬌のある笑顔を向けてくる。
齢四十代といったところか。鋭い眼光、傷だらけの肌、中年とは思えない鋼の筋肉も、歴戦の勇士であることを醸し出していた。
部屋にはギルド長用の大きな執務机と、その手前に応接用の机とソファーが並んでいる。セレンディアたちは勝手知ったるなんとやらでいつもの通りにソファーに座り、その対面にギルド長が大きな音を立てて深く座り込み、足を組む。
「さて、とっとと用件済ます……の前に、おめぇら昨日またギルドの備品壊しやがったな」
切り出された内容に思わずセレンディアは渋い顔をする。
「ふん、相手が悪いのですわ!」
ガルルルルッと今にも噛み付きそうなのは当然シルフィアーノである。彼女の言うことも正しくはある。一応は正当防衛なのだから。
先日は、街にやってきたばかりのギルドの新人が、シルフィアーノの容姿に心奪われ下心丸出しでナンパをしてきたのであった。主一筋であるシルフィアーノが靡くことはなく追い払おうとしたのだが、それで納得しなかった男があろうことか逆上して襲い掛かり、あえなく返り討ちにしたのだ。そしてその巻き添えで備品が壊れてしまった。
彼女に関するトラブルはこれだけではない。セレンディアが能力をやっかまれたり、虚弱さを嘲笑われたりでシルフィアーノが癇癪を起こすのだ。もちろんセレンディアも抑えようとはしているのだが、間に合わない時も多い。
基本的にギルド人員同士のトラブルは当人たちの間で解決するものと決められているので、揉め事を起こしてもギルドから介入を受けることはあまりないのだが(もちろん部外者に手を出したら厳しい処分を下される)、シルフィアーノが主に肉体言語で解決しようとするため、けが人が出るだけでなく壁やら物やらが余波をくらってしまうのだ。
なお、セレンディアが『ギルドの問題児』扱いされているのも、これらを加えてのことである。
「今回は向こうが悪いのは確かだな。でもおめぇさんもよぉ、何を言われてもされても抵抗するな我慢しろとは言わねぇがせめて手加減とかしようや? 従魔がしっかりしてねぇと主の品格も疑われるんだぜ?」
「う……」
従魔の制御は、もちろん契約者の義務である。それゆえ――そこにいかなる理由があろうとも――シルフィアーノが問題を起こすごとに、主であるセレンディアの問題へとすり替わる。
正論すぎる正論の上、敬愛する主に迷惑がかかると言われシルフィアーノは大いに凹んだ。でも、彼女も頭では理解しているのだ。感情がついていかないだけで。
一転してしおらしくなってしまったシルフィアーノの頭を、セレンディアは苦笑しながらぽんぽんと慰めるように叩いてからギルド長と目を合わせる。
「備品破壊の件はすみませんでした。この子にも後で言い聞かせておきますし、ボクも今後一層気を付けます」
「まぁ言った通り今回は向こうが悪いからそんなグダグダ言うつもりはねぇが、あんまり甘やかしてないでもうちょっと気ィ遣えって話だな。んで次が本題だ」
ギルド長は軽く釘を刺しつつもあっさりと話題を移した。
腰にぶら下げていた袋を取り外して中身を机の上にあける。転がり出てきたのは、セレンディアの拳より一回り小さいサイズで丁寧に研磨をされた鉱石であった。
「あぁ、いつものお仕事ですね。数はいくつです?」
「火と水が五、残り全部光で頼むわ」
霊力が非常に多い、という理由ももちろんあるが、これが虚弱なセレンディアがギルドに所属し続けていられる一番の理由であった。
――霊石作成。
霊石とは、内部に霊力が溜まっている鉱石の総称であり、多くは霊脈のある場所の近くで採掘がされる。ただしどの属性の霊石ができあがるかは、その土地の状況に因って変わってくる。火山近辺であれば火属性に、川底であれば水属性になる、といった具合だ。
そしてその霊石は霊力が必要となる様々な場面で使用される。霊力が足りない人が補助にしたり、ランプの明かりの代わりにしたり、食物を冷やしたりと非常に多岐に渡る。その効果は元となった鉱石の種類や質、大きさに因り、値段もピンからキリまで存在する。
人為的にも作成が可能で特定の属性が作成できるメリットはあるが、作成するには技術と篭める量以上の霊力が必要とされる上に、鉱石が大きくなるほど難易度が跳ね上がる。更には複数人で霊力を篭めると波長の違いにより質が落ちてしまうので、できるだけ一人でやらねばならないのだ。霊力を篭めたインクを用い、霊的な意味を持つ文字、記号を組み合わせて陣を描くことで――霊石作成に限らず様々な術でも――補助することもできるが、それはそれでコストが嵩んでしまう。
セレンディアは技術の問題をクリアできており大量の霊力容量を誇る。むしろ余ってるくらいだ。なので霊石作成にはうってつけで、ギルドとしては是非確保しておきたい人材なのである。
とは言え、この事情を知るのは極一部である。何故なら霊石は需要が大きくお金になり、セレンディアが大量に作成できるとなれば、拉致監禁されて奴隷のように働かされることも容易に想像できるからだ。もっとも、シルフィアーノがそれを許さないが、余計なリスクはできるだけ排除しておきたい。
セレンディアが功績を上げていても周知されることはない。それゆえ事情を知らない他のギルド員からは不審がられる。そのような不当な扱いをセレンディアは受け入れているがギルド上層部は申し訳ない気持ちを抱いているので、迷惑料という名目で多少報酬に色を付けていたりする。
「残り全部光って……多いですね。何か事件でも起きたのですか?」
鉱石を数えてみると全部で三十個あった。光の霊石は主に癒しの術に使用される(前述のランプは火の霊石である)。大量に必要とされるということは、けが人が大勢出たということだ。
「その件は調査中だが……ひとまずは怪物の異常発生があったとだけ伝えておこう。ある程度まとまったらギルドで告知する」
「……わかりました」
怪物の異常発生――まさに今日セレンディアたちが体験したばかりのことであった。あのようなことが他にも起こったのだろうか。
心に留め置きつつも、今はこの仕事を終わらせよう、と眼鏡を外す。
先ほど、作成には技術が必要だと述べたが、これはセレンディアの体質のうちの一つで解決をすることができた。
彼女の瞳は、霊力が見えるのだ。
普段の霊力はただ漂っているだけである。しかし、人が術を使うと流れが生まれる。空白地帯ができる。制御にミスがあると澱みができる。など状況に因って変わってくる。
霊石作成では霊力が見えることを利用して、どこから、どのくらい、霊力を流し込むのかを視認しながら行えるので成功率が他の人に比べて高くなるのだ。ちなみに、失敗すると鉱石が割れることがある。貴重な鉱石だったりすると目も当てられない。
霊力は彼女曰く『仄かな光のように見える』とのことだが、それでもそこらに漂っているものだからその光量はひどく眩しくなる。それゆえ、目を保護するために特殊な眼鏡を掛けているのであった。
この症状は幼少時、霊力の制御が難しくなってきた、血を吐き始めた頃から現れたことから、溢れる霊力が関係しているのではと予想しているが、きちんとした理由は良くわかっていない。ただ、『見える』ことが知られると厄介なことになるので、これも同様に極一部の者しか知らなかった。
「全く……マスターは霊力タンクではないですのよ」
「まぁまぁ、これもボクの訓練になるからね」
霊力の制御は、体に欠陥を抱えるセレンディアにとってはまさに死活問題とも言える。細かな制御の訓練になるとともに報酬も得られる霊石作成は一石二鳥なのだ。
それに、ギルド長には色々お世話になっているし便宜も図ってもらっているしで恩義を感じているのだ。口に出しては言わないが。
主の胸中は知りつつも、それでもその扱いについ文句が出てしまうシルフィアーノを宥めてから、霊石の作成に取り掛かるのであった。
「お疲れさん。報酬はいつも通りギルド金庫にこっそり入れとくぜ」
「はい、それでお願いします。あぁー……さすがにちょっと疲れた」
いくら霊力容量に自信のあるセレンディアと言えど、三十個は(精神的に)負荷がかかる作業であった。ちなみに、平均的な術士で同じ鉱石のサイズだと一度に十個程度しか作成できないので、霊視の能力により無駄使いが少ないとはいえ尋常でない量なのだが、それを『ちょっと』疲れたで済ませられるあたり人に聞かれれば眉をひそめられる事案であろう。
なお、全くどうでもよいことではあるが、セレンディアの作業中、鉱石に注がれる霊力を『美味しそう』とか『勿体無い……欲しい……』とか涎を垂らさんばかりにシルフィアーノが熱く見つめていたが総スルーした。
「また鉱石を仕入れた時に頼むわ。今日はもう帰っていいぞ」
「あ、ギルド長、ボクからも一つ。書面でも報告してありますが、先ほど仰っていました怪物の異常発生、本日ボクも遭遇しました」
「……詳しく聞こうか」
「と言っても、何故そうなったのかはよくわからないのですが――」
迷宮内で起こった出来事を、覚えている範囲で述べていく。本来あの場所に居るはずのない強さの怪物が居たこと。そして唐突に二匹目が沸いたこと。
セレンディアとて初めて経験したことなのだ。事件究明の糸口になるようなことは話せなかった――のだが、横から意外な口が挟まれた。
「マスター。アレはおそらく、悪魔の仕業ですよ?」
「えっ?」
「何だと?」
あっさりと言うシルフィアーノに驚く二人。セレンディアから続きを促す視線を向けられ、従魔は語る。
「何処の誰、というのまではわかりませんけれども……微かに悪魔の残り香を感じましたので。ただ残量からいって、もうあの迷宮には居ないでしょうね。……全く、わたくしの縄張りで、ワ タ ク シ のマスターに手を出すなんて万死に値しますわ……! もし見つけたら千に引き裂いてやりますのよ!」
段々と怖い顔になり、身に纏う霊力を荒れさせるシルフィアーノを慌てて抑える。胸元に頭を引き寄せて撫でてやったらあっという間に収まった。チョロい従魔である。
「ふむ……なるほど。となると、高位の神官を連れていかねぇと……」
調子に乗って頬を擦り付けてくるシルフィアーノを尻目にギルド長を見ると、何やら思索しているのかブツブツと漏れ聞こえてくる。
今日のところはもう出番はなさそうかなと、ギルド長に暇を告げて我が家へ帰ることにした。
ギルドから徒歩二十分ほどの場所にある住宅区域。そこにセレンディアの自宅がある。
セレンディアは年若いが先程の霊石作成のこともあり、同年代に比べて遥かにお金を所持している。それゆえ(主にシルフィアーノが迷惑を掛けるという理由があり)、賃貸ではなく、ギルド長の伝手で多少は安くなっているとはいえそれなりに広い家を購入していた。
「ただいまー」
「おっかえりー!」
「セレさま、おかえりなさい」
挨拶をしながら入ると、かっ飛んできたジンとぺたぺた足音を鳴らすルカが出迎えてくれた。
「あぁ、ジン、ルカ、ごめんね。すぐご飯あげるから」
ここでいうご飯とはもちろん霊力のことである。
入ってすぐの居間にある椅子を引いて座り、二人を手招きした。
「……マスター、わたくしは?」
「キミは あ と で。ボクの部屋に荷物運んでおいてくれるよね?」
「……ハイ」
主の有無を言わせぬ笑ってない笑顔を前に、シルフィアーノはしょぼくれて奥の部屋へと移って行った。
後がちょっと怖いなぁ、と内心冷や汗をかきながらもジンは差し出された手の上に乗り、ルカは隣の椅子に座って手を繋ぐ。
「――ん」
主人と契約精霊(従魔)は霊的な経路で繋がっているので自動的に霊力が分け与えられるのだが、精霊が霊力を消費した時、意識して霊力を送ることでより早く回復させることができる。
送る方法はいくつかあるのだが、セレンディアは手を繋ぐ――必要なのは体の接触である――方法を好んでいる。
ジンは三十秒ほどで翅を震わせて飛び立ち(小さいので必要量が少ない)、ルカもそれから二分ほどしてから「もう、だいじょうぶ」と手を離した。
「うーん、相変わらずご主人の霊力は濃くてウマイなー」
満足そうにふよふよ漂うジンに、同意とばかりに何度も頷くルカ。
そもそもの話、精霊との契約には相性が必要なので、契約精霊たちが主の霊力を『美味しい』と感じるのは割りと普通のことだったりするのだが、そのような野暮なことは誰も知らないので指摘もされないままだった。
そして丁度食事が終わるのを見計らったかのようなタイミングで、
「ウォンッ」
と鳴き声が聞こえてきた。
「ただいま、グラフ」
姿を認めたセレンディアが声をかけると、尻尾を振りつつ近くへ歩み寄って来る。
グラフと呼ばれた者はどこにでも居る大型犬のような外見をしているが、その正体はやはり精霊である。土属性であるのが関係しているのか偶然か、毛並みは栗色だ。
ちょこんと主の前で座る様は躾の行き届いたペットのようにしか見えない。もちろんセレンディアはペット扱いはしていないのだが、たまにそのフサフサ尻尾をモフりたくて堪らない衝動と戦うことになる。いや、負けてモフったことは何度もあるのだが。
「留守番ありがとう。……と言うか、結局一人で留守番させることになってごめんね」
『問題ない。飛び出すことは予想していた』
「……あ、そう」
飛び出す、というのは言うまでもなくシルフィアーノのことである。甘やかされて訓練にならないのを危惧したことと、それなりに治安が良い区域でもあるが念のために防犯として最低誰か一人残すことにしており、今回はグラフと一緒に留守番をするよう言いつけたのだが……精霊に予想ができて主が予想できなかったとは……セレンディアはちょっと凹んだ。
「えっと、ともかく、ありがとうね」
と、ねぎらいも兼ねて、霊力を分け与えるために頭を撫でる。ついでにその毛の感触にセレンディアも癒されるアニマルセラピーである。
『これも役目。礼は無用。が、食事はいただこう』
普通に会話を行っているように見えるが、グラフはそのまま言葉を発しているわけではない。『このような感じ』という意図を霊力に篭めて飛ばしているのだ。そしてグラフは元々言葉を必要としていなかったため慣れておらず、片言のような感じになる。その代わりと言うか何と言うか、大きく振られる尻尾が雄弁に意思表示をしていたりするのだが。
余談ではあるが、この声(のようなもの)は普通に周囲に聞こえている。独り言だと勘違いされる悲しい事態にはならない。
「…………」
そんな和みオーラが出ている居間に、じっとりとした視線が突き刺さる。犯人は言わずもがな。
「……………………」
セレンディアもさっきから気付いていてあえてスルーしていたのだが、ちらっとつい見てしまったのがいけなかった。
「……ごめん、ボクも大人気なかった」
その表情に、結局大した間も置かず根負けすることになる甘い主であった。
その夜。寝室にて。
いつも通りの権利を勝ち取った(?)シルフィアーノは、嬉々としてセレンディアと一緒のベッドに入った。
他の精霊たちも隣室にそれぞれの寝床が与えられている。精霊は睡眠……霊力消費削減のための活動抑制をするのだが、それは実体化を解いて霊体に戻ることなので本来なら寝床は必要ない。セレンディアができるだけ誰かの居る気配を好むのと、溢れる霊力を無駄使いしたいという他の精霊使いからしたら噴飯ものの事情もあって実体化したまま寝てもらっていることが多い。ちなみに、シルフィアーノにも用意されているものの一度も使われたことがない。
「……抱き枕にするのはいいんだけどさ……その手つき、ちょっと、ヤメテ。くすぐったい」
ピトリと隙間なく抱きつかれたあげくに、回された腕が体の色んなところをさする。その感触が、非常に、ムズムズする。
シルフィアーノと契約して以来ほぼ一緒に寝ており(これはシルフィアーノの食事とセレンディアの治療も兼ねている)、隣に居るのにはとっくに慣れたがこの手つきには少し困る。寝にくい。
「いえいえ、これはえっと、そう、確認もあるのですよ」
「何その取って付けたような理由……確認って何を?」
「……あの頃に比べて、お肉が付きましたね、と」
「――っ」
吐息を零すように呟かれ、意識がしばし、過去へと戻る。
――血と薬の臭いしかしなかった部屋。
――碌に物も食べられず、骨と皮ばかりだった体。
――少しずつ、死に向けて腐っていった日々。
でも、今は。
「……キミのおかげだよ」
小さな、小さな囁き。けれどそこには、返しきれない恩と感謝が篭められて。
腕で目元を覆うも、流れ落ちる一滴の涙。けれどそれは、あの時流したものとは全く意味が異なって。
眠るのはもう怖くない。
ゆえに少女は、今日も安らかに。
「……えぇと……」
寝息をたてるセレンディアに、シルフィアーノはバツの悪そうな顔をする。
指摘された通り、取って付けた理由だったのだ。下心からです、なんてそれを素直に言うには憚られて出した咄嗟の言い訳。そもそも、毎日一緒に寝ているのだから肉が付いたことはとうにわかっていて、今更しみじみと言うようなことでもない。
過去を、少女にとっての地獄を、欠片とはいえ思い出させてしまったことに罪悪感が沸く。
だからせめてものお詫びに。
「……貴女の体が、少しでも良くなりますように――」
祈りとともに、少女の体を調整すべく、その額を当てた。
作中で記述していませんが、メガネのレンズに効果があるわけではありません。
メガネそのものが術具で、掛けることで目に霊視能力を抑える術がかかるので、レンズの隙間から光がちらちら、ということにはならないです。
ちょっとお高い感じ。