第九十六夜 ナナシノゲエム
一つ、ゲームの話でもしようか。
最近また暑いですね。一旦しまった半袖を、また引っ張り出して着ている人も多いのではないかと思います。
今回は季節外れの納涼と題しまして、本エッセイでは初となるホラーゲームを取り上げたいと思います。スクウェアエニックスも、多くはありませんがホラーゲームを出してるんですよ。
ホラーゲームと一言に言っても玉石混淆。後の世代まで語り継がれる傑作もある一方、ホラーとしてもゲームとしてもどうしようもないような駄作もまた多いです。
またホラー全般が駄目という人も世の中には少なくなく、ホラーゲームというジャンルそのものが通常より特に人を選ぶ事になってしまっているのは否めません。その為近年ではコンシューマよりも、フリーゲームの方にホラーゲームが集中する傾向が強いようです。
さてスクウェアエニックスは、舌の肥えたホラーファンが満足するようなホラーゲームを作れたのでしょうか? 今回のテーマは「ナナシノゲエム」です。
本作はDS中期、スクウェアエニックスよりニンテンドーDSにて発売されたホラーアドベンチャーゲームです。DSのソフトでは珍しく、本体を縦に持ったプレイが中心となっています。
ストーリーはツインスクリーン、略してTSという携帯ゲーム機がコミュニケーションツールとして普及した時代。しかし最近、このTSに関する奇妙な噂が流れていた。『呪いのゲームをプレイした者は一週間以内に死ぬ』。そんなある日、大学生の主人公の元に突然ゲームが送られてくる。送信者は主人公の先輩である尾高文人。その後主人公は尾高の恋人でもある友人の長沢理子に頼まれて、最近休講が続いている尾高の自宅マンションまで様子を見に行く事になる。理子から借りた合鍵で尾高の家に入ると、中は窓という窓が塞がれ玄関の扉にもガムテープが貼られているという異常な状態。その様子に不気味なものを感じながらも、尾高を探す主人公。やがて尾高は見つかった。自室の奥でTSを点けっ放しにし、何故かずぶ濡れになった物言わぬ死体となって……。そう、尾高から送られてきたゲームこそが噂の『呪いのゲーム』だったのだ……というものになっています。
ジャンルとしては『リング』以降爆発的に広まった伝染系ホラーであり、そこに恐怖の対象から逃げ回る追跡系ホラーゲームの要素が加わったものとなっています。主人公は男女を選べるようになっており、ストーリーそのものは変わりませんが主人公の性別によって人間関係に若干の変化が表れます。
グラフィックはDSにしては頑張っている方で、筆者としては十分怖かったのですがコアなホラーゲームフリーク曰く『綺麗すぎて怖くない』ようで……映像技術が高いと言うのも場合によるのだな、としみじみ感じさせられます。一方でゲーム内ゲームとして遊ぶ事になる『呪いのゲーム』はレトロなドット絵RPGで、昔の「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」を遊んだ層を懐かしい気持ちにさせてくれます。
物語は会話パートと探索パートに分かれ、会話パートはストーリーの進行、探索パートは実際に主人公を動かし目的地に辿り着くのをそれぞれ目的としています。会話パートはただ会話をするだけで話が進みますが、探索パートは『ルグレ』と呼ばれる追跡者達から逃げたり途中で送られてくるメールやゲームを確認したりとやる事が多く、なかなか忙しい立ち回りを要求されます。
探索パートは主人公視点となっており、プレイ中主人公の姿を確認する事はありません。移動は方向キーとタッチペンで行い、どちらを使っても問題なく動きますが両方同時に使う事により走ったり素早く振り返ったりする事が出来、場面によってはこれらの行動を使いこなさないとルグレから逃げ切れなかったりします。
メールやゲームを受信するとTSの着信音が鳴り、TSを開くよう合図してくれます。TSを開いている間は例えルグレが同じエリアにいても襲ってくる事はないので、安心してTSを確認出来ます。
TSを開いている時は画面も通常の横向きとなり、ボタンは使わずタッチペンで項目を開いていきます。新着のある項目はそう表示されるので、TSが鳴ったらすぐに新着の項目を開きましょう。
受信するもののうちメールはさほど重要ではありませんが、ゲームの方は受信した時点でやらないと先への道が開けない為必ずやる事になります。謎解きやお邪魔キャラを避けていく事が必要な場面もあり、ゲームでゲームオーバーになる事はないとは言え苦手な人には少しイライラポイントかも?
またゲームは先に進む為以外にも使い道があり、受信していない時にゲームを開くとノイズで今いるエリアにルグレがいるか教えてくれます。今いるエリアにルグレがいるか不安な時は、TSを開いて確認すると良いでしょう。
余談ですがこのTSの画面、初期のDSのホーム画面がモデルになっており再現度は高いです。逆に言うとDSi以降でやるとホーム画面が一致しないので、ちょっと没入感が削がれるかもしれません。筆者の事ですが。
さて本作を、ホラーゲームとして見た場合はどうか。登場するルグレ達には出る場所によって行動パターンが決められており、そのパターンから逸れた行動を取る事は基本的にありません。
一番多いのは決まった順路を歩き回るだけの徘徊型で、これらはこちらから近付かない限り襲ってくる事はありません。もっとも先に進む為の道はその徘徊型の順路の中にある事が多く、完全に無視をしていくような楽は出来ないのですが。
この辺、ゲームを攻略するに当たっては楽でいいのですがホラーとしてはうーん?とならざるを得ません。相手に対する反撃手段を一切持たず一回捕まれば即ゲームオーバーなシステムの都合上こういう配置にするしかなかったのでしょうが、このせいで折角のルグレ達が単なる障害物になってしまい、見た目がいくら怖くてもプレイ中は怖いより鬱陶しい気持ちの方が強かったです。
本作にはエンディングが二種類あり、トゥルーはハッピーエンドなんですがこれもバッドエンド好きにはウケが悪かった模様です。映画ならともかくゲームなのですから、頑張ったご褒美がハッピーエンドでも別に構わないと筆者は思うんですけどね……。
ただクライマックスの流れが少々強引という意見は、筆者も一理あるとは思います。呪いの元凶に理不尽に殺され死後もルグレとして利用されたにしては、クライマックスに出てくる犠牲者達が皆異様に物分かりが良すぎるんですよね……。
なお本作、発売当時は富士急ハイランドとタイアップしており、世界一長い事で有名な富士急のお化け屋敷『戦慄迷宮』の当時の内装を再現した『慈急総合病院』に探索パートで行く事になります。お化け屋敷とのタイアップと考えると、本作のルグレにお化け屋敷風の登場をするものが多めなのも何だか頷けてしまう気がします。
スクウェアエニックス初の本格ホラーゲームは、難易度は低めで遊びやすい一方ホラーとして怖いかは疑問符がつく結果となってしまいました。それでも一定のセールスは獲得した本作は、この後続編を発売する事になるのですが……この話はまた次回。
とりあえず、今回はこれにて。