第九十五夜 聖剣伝説3
一つ、ゲームの話でもしようか。
システムを重視するか、ストーリーを重視するか。アクションが付くにしろシミュレーションが付くにしろ、RPGにとっては切っても切り離せない問題です。
勿論どちらも両立させるのが一番いいのでしょうがそれは言うほど簡単な事ではなく、納期や開発費、昔ならば容量の都合も考えると自然とどちらかだけに寄ってしまいがちです。勿論どちらにもメリットデメリットはあり、システム重視は奥が深くなる反面そのシステムが理解出来なければただ難解なだけのゲームになってしまいますし、ストーリー重視は当たれば多少のシステムの不満は帳消しにしてくれますが当たらなければ中身のないムービーゲーと揶揄される事でしょう。
これらは例え一つのシリーズ内でも一定ではなく、ストーリーの良さで売っていたシリーズの最新作が攻めたシステムを搭載してきたり、逆に独特なシステムが好評を得ていたシリーズの最新作がストーリーにも力を入れたといった事も起こります。こういったシリーズ途中での方向転換は当たり外れが激しく、どちらも両立した名作に化けるかどちらも中途半端な駄作に落ちるかはまさに賭けだと言えます。
前回までご紹介してきた「聖剣伝説」シリーズもまた、この移り変わりを経験したシリーズです。二作目の「聖剣伝説2」まではどちらかと言うとシステム重視の作りで、ストーリーも王道ではありますが裏を返せばそれは先が読みやすく単純という事でもあります。
ですがプレイステーションで発売された「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」になると評価の軸は主にストーリー面になり、操作感などのシステム面は話題にされにくくなったように思います。これには「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」がストーリー偏重の時代に生まれた、元々ストーリーと違ってシステム面は話題にしにくいなど様々な要因はあるのでしょうが、とにかくこの方向転換は成功を収め以降「聖剣伝説」シリーズはストーリー面も大いに期待される事になります。……その後の方向性が大分迷子になった気はしますがそれは置いといて。
今回ご紹介するのは、シリーズの方向性が変わる途中の転換期に当たる作品。「聖剣伝説3」です。
本作はスーパーファミコン最盛期、旧スクウェア、現スクウェアエニックスよりスーパーファミコンにて発売されたアクションRPGです。本作から武器や魔法を使ったアクションパズル要素は完全になくなり、代わりに戦闘面などがより遊びやすくなりました。
ストーリーはそれぞれに強い望みを胸に抱きながら、聖都ウェンデルを目指す六人の男女。そのうちの一人が途中にある湖の村アストリアに辿り着いたその晩、不思議な光が村に現れそのまま近くにある『ラビの森』の方へと消えていった。光を追い、ラビの森の最深部へと辿り着いた彼(彼女)が見たものはすっかり弱りきったフェアリーの姿だった。間一髪、彼(彼女)を宿主にした事で一命をとりとめたフェアリーは、自分を聖都ウェンデルまで連れていって欲しいと彼(彼女)に頼む。どうせ目的地が同じなら、と渋々フェアリーの同行を受け入れる彼(彼女)はまだ知らなかった。今この時、自分の運命が大きく変わり始めた事を……というものになっています。
本作では六人の主人公候補の中から主人公を一人と仲間を二人選び、そのストーリーを遊ぶという方式になっています。選ばなかった三人も独自に旅をしているという形で登場し、ほんの少しストーリーに絡んできたりします。
大筋のストーリーこそ全員共通ですが六人それぞれに聖都ウェンデルを目指すに至るオープニングイベントが用意されており、共通イベントの反応もそのイベントに深く関わるキャラがいるかどうかによって細かく変わってきます。更には選んだ主人公によって途中のダンジョンとラスボスまで三通りに変化し、何度でも周回して遊びたくなる作りとなっております。
中でも剣士デュランと魔法使いアンジェラの組み合わせはどちらもパーティーに入れると専用会話が発生するなど公式で優遇されており(盗賊ホークアイとアマゾネスリースにも専用会話はあるが、こちらはどちらかがパーティーにいない状態でないと発生しない)、もうお前らくっついちゃえよ状態になる事受け合い。筆者はこのカップリングが大好きで、どちらかを主人公にした時は必ずもう片方もパーティーインさせていたものです。
余談ですが本作の主人公キャラの一人、アマゾネスのリースは亡国の王女という立場、清楚な雰囲気に健気な性格、にもかかわらず女性キャラ唯一の肉弾戦担当であり槍を振り回して戦うアグレッシブさなどの理由から今なお高い人気を誇っており、ファンアートも多数存在していたりします。但しそのファンアートの内一部は……お察し下さい。
そう言う筆者のお気に入りは盗賊のホークアイ。前述のリースと(同じパーティーにしなければ)いい雰囲気になるキャラという事もあり一部では目の敵にされている彼ですが、パーティーキャラにした時のかっこよさは全キャラ中随一だと思っています。
ストーリーを進めていくと、キャラをクラスチェンジさせる事が出来るようになります。クラスチェンジしたキャラは基礎ステータスが大幅にアップし、それまで魔法を使えなかったキャラもレベルアップで魔法を習得出来るようになるなど数多くの恩恵を得られます。
クラスはレベル3まであり、キャラが規定のレベル以上になる事で上のレベルへのクラスチェンジが可能になりますが最高のレベル3になるにはそれに加え、専用のアイテムが必要になります。このアイテムは敵を倒して得るしかなく、クラスチェンジ可能なレベルが近付いてくるとひたすら対象の敵を狩り始めるのはきっと誰もがやった事。
クラスチェンジ先は常に二種類。最初は光と闇どちらの方向にクラスチェンジするのか決め、二度目は光なら光の方向の二種、闇なら闇の方向の二種のどちらにクラスチェンジするかを更に決める事になります。
つまり一人のキャラにつき四種類の最終クラスが用意されている計算になり、一度クラスチェンジしたらもう前のクラスには戻れない事もありクラスチェンジ先には相当悩まされる事になります。一応ステータス傾向として光はバランス重視型、闇は攻撃偏重型という違いはありますが、選んだクラスによって習得魔法ががらりと変わる事からステータス傾向よりはどちらのクラスの魔法がより欲しいかを選択の決め手にした方がいいでしょう。
またクラスのレベルが上がると、強力な必殺技が使えるようになります。必殺技は敵に攻撃を当てる事で増える必殺技ゲージが一定値まで溜まる事で使用可能となり、溜まったゲージの量によってその時放てる必殺技のレベルは変わります。
レベル1の状態ではかわされる事もある必殺技ですがレベル2からは必中となり、演出も派手になっていきます。クラスによっては画面内にいる全ての敵に攻撃が可能だったりと、まさに必殺技の名に相応しい、状況を一気にひっくり返せるほどの威力を持っています。
但しこの必殺技、敵も使ってくる上必中なのも一緒となかなか厄介な代物でもあります。中にはこちらの必殺技や魔法へのカウンターとして必殺技を放ってくる敵もいるので、そういう敵にはカウンター対象外のレベル1の必殺技で対応していきましょう。
戦闘システムは前作から大分変わり、まず攻撃ゲージがなくなってどのタイミングで攻撃してもダメージは一律となりました。これにより連撃もしやすくなりましたが敵も前作より怯みにくくなっているので、調子に乗って反撃を喰らわないよう注意しましょう。
エリア毎の広さや敵数も抑えられ、敵を全滅させた際にはきちんと表示が出るなど今いる場所が安全かどうかも解りやすくなりました。また宝箱もそのエリアで倒した最後の敵のみが敵全滅後に落とすように変更され、これにより欲しいアイテムを持っている敵を最後に倒すようにするなどのテクニックが必要になっています。
しかしこの宝箱。確率で罠が仕掛けられており、無事解除するにはルーレットで『OK』を当てなければいけません。
OKの数とルーレット速度は宝箱を開けたキャラの運に左右される為、宝箱はなるべく運が高いキャラで開けるようにしましょう。特にオーガーボックスやパンドラボックスの罠は宝箱がモンスターに変わるだけでなく、手に入る筈だったアイテムまでパアになってしまう為最も美味しくない罠だと言えます。
本作では魔法効果を持つアイテムも加わり、一つのアイテムを持てる総数も前作の四個から九個と大幅に増えた為、例えばパーティーに攻撃魔法の使い手がいなくても攻撃魔法の効果を持つアイテムを大量に買い込みそのアイテムで攻撃するという事が可能になりました。持ちきれないアイテムも本作から登場した『倉庫』に突っ込んでおけば最大99個まで貯められる為、すぐに使わないアイテムは倉庫に入れておき必要になったら取り出すというテクニックも使えます。
但し敵がいる場所では倉庫は開けない為、ボス戦などで使いたいアイテムがある時は先読みしてあらかじめ倉庫から出しておく必要があります。周回プレイ中ならともかく初見では、いつ何のアイテムが役に立つかを見極めるのは難しいかもしれません。
本作の全ての敵には属性が設定されており、同属性で攻撃すると威力が下がったり逆にHPを回復してしまったりし、逆に反属性で攻撃すると大ダメージを与える事が出来ます。更に本作には昼夜と曜日の概念があり、昼夜は光と闇の属性に、曜日はそれ以外の属性に強い影響を与えます。
例えば火の精霊サラマンダーの曜日ならば火属性の敵や魔法が強化され、反属性である水属性の敵や魔法は弱体化します。本作ではあらかじめ属性が解っているボスと戦う機会が多く、この昼夜と曜日の属性効果を利用するとより有利にボス戦を進める事が出来ます。
敵を倒してレベルアップすると、その場で力、体力、知性、精神、素早さ、運のどのステータスを上げるか選ぶ事になります。この中で地味に重要になってくるのが知性で、本作で魔法を覚えるには前作同様精霊を仲間にした後知性を一定値まで上げないといけないのです。
但しこれには例外もあり、回復魔法を習得するクラスは精神を、そしてホークアイの一部のクラスは素早さをそれぞれ同様に上げておかないとただレベルだけを上げても魔法は習得出来ない為、早く魔法を覚えさせたければこれらのステータスを重点的に上げていきましょう。勿論魔法は後回しにして、先に別のステータスを上げていくのも自由です。
前作では鍛冶屋で鍛える事で強くしていった武器は本作では完全な買い替え制に変わり、更に武器種がキャラによって固定になった為前作にあった武器を利用したギミックは全削除されました。また防具もキャラ一人一人に別々の防具が用意され、使い回しは一切出来なくなっています。
敵から得なければいけない最強装備に至っては全ての最終クラスの分が用意されており、本作の武器防具の総数は物凄い事になっています。異なる最終クラスの装備が手に入る事こそありませんがどの部位の装備が手に入るかについては完全にランダムな為、もう入手済みの装備ばかり延々と入手する事になってしまうのもよくある話。
敵キャラに個性的なキャラが多いのも、本作の魅力の一つです。各主人公には何らかの因縁を持つ敵キャラが必ず一人は用意され、ストーリーを盛り上げてくれます。
中でも筆者が好きなのはホークアイの因縁の敵、美獣。最初は典型的な悪女キャラなのですがストーリーを進めると自らの主君の為ならいかなる手段を取る事も辞さないというだけの高潔な忠誠の徒であった事が判明し、そのギャップにメロメロになった感じです。
他にも正真正銘の外道ながら、どこかとぼけていて憎めない死を食らう男もお気に入り。いざ戦闘になると分身を生み出し即死魔法を繰り出すなど、苦労させられた敵としても印象が深いです。
システムをRPG寄りに変化させ、ストーリー面を強化しながらもより遊びやすいシステムを目指した本作はシリーズ転換期と呼ぶに相応しい、システムとストーリーの調和の取れたものになったと思います。数々の魅力的なキャラ達との冒険は、何周遊んでも飽きないものとして今も筆者の心に強く残っています。
とりあえず、今回はこれにて。