第九十一夜 ファイナルファンタジーUSA ミスティッククエスト
一つ、ゲームの話でもしようか。
日本国内にて、大成功を収めた「ファイナルファンタジー」シリーズ。スクウェアはこの勢いに乗り、海外でも「ファイナルファンタジー」シリーズを展開しようと計画します。
まず手始めに「ファイナルファンタジー4」の海外版が作られ、発売されました。しかしどうにも、海外ユーザーの反応は良くありません。
スクウェアはこの失敗を、『ゲームのシナリオやシステムが複雑すぎた』と捉えます。「ファイナルファンタジー」シリーズが海外受けしなかった本当の理由は、剣と魔法のファンタジー世界というのが海外では古臭く時代遅れのものになっており海外の嗜好に合わなかったからなのですが(同様の理由で「ドラゴンクエスト」シリーズもあまり売れなかったらしい)、まさにそういった世界が日本では人気だった為にその事に気付けなかったのです。
事実ファンタジー路線を完全に払拭した「ファイナルファンタジー7」は海外でもヒットする事となり、スクウェアの名を世界に知らしめる一因となりました。この事からも解るように、当時のスクウェアの分析は実に的外れだったと言えるでしょう。
とにかくそんな訳で、『もっと解りやすいRPGを』という理念の元に遂に海外向けのオリジナル「ファイナルファンタジー」が作られ発売される事になりました。その結果は……書くまでもないでしょう。
そして海外で爆死した(あ、書いちゃった)この「ファイナルファンタジー」、何を間違ったのか日本でも発売される事となったのです。しかし日本で出たら出たで、海外を馬鹿にした……もとい、盛大に勘違いしたノリが日本人にウケる筈もなく……。
そんな「ファイナルファンタジー」のようで「ファイナルファンタジー」ではないソフト、その名も「ファイナルファンタジーUSA ミスティッククエスト」。今回は、これをテーマにお送りしたいと思います。
本作はスーパーファミコン黎明期、旧スクウェア、現スクウェアエニックスよりスーパーファミコンにて発売されたRPGです。「ファイナルファンタジー」の名を冠している本作ですが元々の「ファイナルファンタジー」シリーズのスタッフは一切開発に関わっておらず、本作を開発したのは「Sa・Ga3」を作ったのと同じスクウェア大阪になります。
ストーリーは地火水風の四つのクリスタルの力によって調和が保たれていた世界に突如、ダークキングという名の魔王が現れる。ダークキングは手下のモンスターを使ってクリスタルの力を封じ、世界を支配してしまった。ところかわって、旅の途中の一人の若者がダークキング配下のモンスターによって滅ぼされた村からからくも脱出する。その時若者の前に現れた謎の老人は告げる。若者こそが四つのクリスタルの力を取り戻し、ダークキングを滅ぼす事の出来る勇者なのだと。若者は半信半疑ながらも、老人に導かれるままクリスタルを復活させる為冒険を始める……というものになっています。
長々と書きましたが要するに、『悪い魔王を選ばれし勇者が倒す』という大変単純明快なシナリオなのが本作です。ストーリーに重きを置いた「ファイナルファンタジー」らしからぬシナリオですが、それも解りやすさを重視した故なのでしょう。
ちなみにこの主人公、事ある毎に『やれやれ』と肩を竦めるという間違ったアメリカンぶりを発揮してくれます。日本には今でも侍がいると信じている海外の人の事を笑えない偏見ぶりです。
町やダンジョンへの移動はマップで行き先を指定する事で行い、この時は戦闘は起こりません。行き先はダンジョンをクリアしたり町でフラグを立てる事で増え、基本的には新しく増えた行き先に行けばいいので迷う事は少ないと思います。
これらストーリー上で必ず行く事になる場所に加え、本作ではバトルポイントと呼ばれる施設が存在します。ここではその名の通り雑魚戦が発生し、進行上行く必要は全くありませんがここで決められた回数戦闘に勝つと装備や魔法が手に入る為地味に重要な施設だったりします。
町やダンジョンでは直接主人公を動かし、情報を得たり仕掛けを解いたりします。本作は若干のパズル要素も持っており、仕掛けを解かないと先に進めない場所がダンジョンを探索していると頻繁に出てきます。
町では情報収集や宿での回復の他、一部の装備や消費アイテムを買う事が出来ます。本作では手に入れた装備は自動的に装備され、上位互換を手に入れたら勝手にそちらに装備が替わるので大変楽な事になっています。
装備の上位互換も本当に上位互換で、一般的なRPGによくある『防御力は高いが属性攻撃に耐性がなく、耐性持ちの前の装備の方が優秀だった』という事は一切ありません。上位の装備ほど勿論攻撃力や防御力は高く追加効果も耐性も増し増し。増える事はあっても減る事はありません。
話が少し逸れました。消費アイテムの方はまとめ買いが可能ですが、一人の商人につき取り扱っているアイテムは一種類の上今いる町に欲しいアイテムが売られているとは限らない為ちょっぴりめんどくさい事になっています。そもそも後述の理由により、わざわざ町でアイテムを買う必要性自体が薄いのですが……。
ダンジョンではモンスターを倒したり宝箱からアイテムを得たり仕掛けを解いたりしながら先に進みます。最後以外は本来特筆すべき事ではないのですが、ここでは順を追ってご説明させて頂きます。
まずモンスター。本作はシンボルエンカウントとなっており、更に位置は固定で動く事はありません。一見すると戦いたくない敵を避けられて楽チン……と思うかもしれませんが、当然ながら先に進む為の通路や重要アイテムのある通路にはモンスターが大量配置されている為、くまなくダンジョンを探索したければ結局全てのモンスターを倒す事になりがちです。
例え戦闘から逃げても敵シンボルが消える事はないので、どかしたかったら何が何でも倒すしかありません。本作でのモンスターは、どちらかと言うとダンジョン内の障害物の役割が強いのです。
次に宝箱。本作の宝箱は二種類に分かれており、それぞれ消費アイテムが入った木の宝箱、重要アイテムの入った赤い宝箱となっています。
このうち赤い宝箱の方は一回取れば後は開きっ放しの一般的な宝箱なのですが、問題は木の宝箱。何とこの宝箱、ダンジョンを出入りする度に中身が復活するというとんでもないチートアイテムなのです。
更に問題なのはダンジョンにあるだけならモンスターも一緒に復活してるし面倒だな、で済むのに敵の出ない場所にもこれが配置されているという事です。それも大量に。
これにより消費アイテムがタダで取り放題という状況が生まれてしまい、商人の存在が完全に死んでしまう事に。敢えてアイテムを増殖させず普通にプレイしているだけでも大量に消費アイテムが余るのが本作なので、はっきり言ってアイテムの数が過剰としか言えないです……。
最後に仕掛け。まず前提として本作には四種類の武器があり、それらを戦闘に使うだけでなくダンジョン内で切り替えながら駆使していく事で様々な仕掛けを解いていきます。
剣ならば高い所にあるスイッチを押し、斧ならば木を切り倒す。爪ならば壁をよじ登ったり遠くの杭に引っ掛けて崖を渡り、爆弾ならば壊せる壁を破壊する……といった感じに全ての武器に使い道があります。全体的に単調で平坦なきらいがある本作で、ここだけは胸を張って楽しいと言える部分だったりします。
また武器を使う以外にも主人公はジャンプをする事が出来、これを使って一マスだけ離れた場所に飛び移る場面も時には必要となります。ちなみに敵シンボルは飛び越えられないので、諦めて戦って下さい。
敵シンボルを調べたり飛び越えようとしたりすると、戦闘に突入します。敵は三体まで同時出現し、こちらに襲い掛かってきます。
戦闘はオーソドックスなターン式で、主人公と、仲間がいれば仲間のコマンドをそれぞれ入力するとターン開始になります。行動順は基本的には素早さの高い順ですが、多少のランダム要素があり絶対ではありません。
武器攻撃を行う際は、主人公のみ好きな武器をその場で選んで攻撃します。武器には特殊能力があるものもあり、爪は攻撃力が低い代わりに耐性のない敵に必ずバッドステータスを与え、爆弾は個数制限があるものの全体に分散攻撃が出来ます。
魔法は白魔法、黒魔法、封印魔法に分かれているものの封印魔法が全て攻撃魔法な為実質白魔法と攻撃魔法の二択となります。攻撃魔法は当然敵に使うものですが、白魔法の場合は味方に使うか敵に使うか選ぶ事が出来るのです。
例えばケアルでアンデッド系にダメージを与えられるのは本家「ファイナルファンタジー」と同様ですが、それだけではなく状態異常回復魔法のエスナを敵に使うと敵にバッドステータスを与え、ダンジョンから脱出出来る脱出魔法テレポを敵に使えば敵を消し飛ばしてしまったりします(消し飛ばした敵の経験値とゴールドは入りません)。こういう意外な使い道があるので、たまには敵に白魔法を使うのも面白いかもしれません。
各魔法は個々ではなく種類別の回数制限になっており、例えばケアルを使ってもレイズを使っても同様に白魔法全体の使用回数が1減るだけとなっております。この回数は中盤以降手に入るアイテムで全快出来る上に順調にレベルを上げていればどんどん回数が増えていくので、無駄遣いさえしなければそこまで神経質にならなくても良かったりします。
また本作では敵の残りHPによってグラフィックが刻々と変化し、視覚的にも敵が瀕死である事が解りやすくなっています。メデューサの頭が禿げ頭になるなど笑えるグラフィックもあるのは、戦闘の緊張感を削いでいるのかどうなのか。
なお本作で全滅した場合は、戦闘の最初からやり直すかタイトル画面に戻るか選ぶ事が出来ます。やり直しは何回でも出来ますが、あまりに勝てないようなら潔く諦めてレベルを上げ直した方がいいかも……。
余談ですが、本作の仲間の一人にロックという名のトレジャーハンターがいます。思わず「ファイナルファンタジー6」の彼を連想してしまいますが、彼とは見た目も性格も全く違う別のキャラクターです。当たり前ですが。
この名前と職業、更に年齢まで被ってしまったのは全くの偶然だそうです。こういった話、業界では結構多かったりします。
単純すぎるストーリーや全体的にぬるすぎる難易度はともかくダンジョンのパズル要素はなかなか面白く、全く光る部分がない訳ではありません。ともあれ、難しすぎるのも問題だけど簡単すぎるのもそれはそれで問題なんだなあ……と本作は教えてくれている気がします。
とりあえず、今回はこれにて。