第八十七夜 時空の覇者 Sa・Ga3完結編
一つ、ゲームの話でもしようか。
「Sa・Ga2 秘宝伝説」の発売より時は流れて、スーパーファミコンが世に出た頃。そのスーパーファミコンで新しくゲームを出す企画が、スクウェア内で持ち上がります。
ディレクターは「Sa・Ga」シリーズの生みの親、河津秋敏氏。氏を中心に製作され、「Sa・Ga」の名を冠したそのソフトは大ヒットする事となりますが、今回はその前夜のお話。
「Sa・Ga」シリーズは元々ゲームボーイが起源であり、そのゲームボーイでの続編もほぼ同時期に進められていました。しかし同時期という事は、前述のソフトの開発で忙しい河津氏を抜きにしての開発になるという事。生みの親の手から離れた「Sa・Ga」は、一体どんな作品になったのか……。
今回お届けするのは、そんな「Sa・Ga」シリーズの異端児。「時空の覇者 Sa・Ga3完結編」です。
本作はスーパーファミコン黎明期、旧スクウェア、現スクウェアエニックスよりゲームボーイにて発売されたRPGです。実は開発はスクウェア本社ではなく、スクウェア大阪という支社によるものだったりします。
ストーリーは突如天に水瓶が現れ、尽きる事なき水を流し込み始めた世界。デューン、ポルナレフ、ミルフィー(いずれも名前変更可)の三人の少年少女達は滅びの未来で産まれ、産まれてすぐにタイムマシンである『ステスロス』の力で現代に送り込まれダームの町の長老ギルの孫娘シリュー(こちらも名前変更可)を始めとしたギルが拾い育てた孤児達と共に暮らしていた。デューン達の願いは、水瓶の水を止め滅びの未来を変える事。滅びの未来の子供達三人にシリューを加えたデューン達一行は、ステスロスを使い過去や未来に飛びながら水瓶の水を止める方法を探す。果たしてデューン達は滅びの未来を変える事は出来るのか……? というものになっています。
このあらすじからも解る通り、本作のストーリーは従来の「Sa・Ga」シリーズとは大分毛色が異なります。多層世界を舞台にしていた従来のシリーズと比べ、本作には過去や未来には飛ぶものの世界と呼べるものは二つしかなく世界同士の自由な行き来も出来ません。
また主人公キャラ達のかっこいい台詞も見所だった本シリーズですが本作で喋るのは優等生のデューンばかりで後はシリューに僅かに台詞があるのみ、デューンと同じ境遇という最もキャラを立てやすい筈のポルナレフとミルフィーに至っては作中一言も喋る事はありません。折角パーティーメンバーを完全に固定化したのにこれはないんじゃないか?とちょっと思ってしまいます。
従来と路線が違うのはストーリー面だけではありません。システム面にも、大きな違いが見られます。
まず成長システムがレベル制になり、武器の回数制限も撤廃されました。あれだけあった武器の種類も本作では力依存の人間向けと魔力依存のエスパー向けに分かれるに留まり、素早さ依存の武器は廃止されてしまいました。
更に魔法はMP制となり、魔法屋で購入した魔法を装備しMPを使って放つという形に。全体的に、一般的なRPGに近いシステムになっています。
防具で属性攻撃やバッドステータスに耐性を持たせる事は出来るものの、完全に防げるバッドステータス耐性はともかく属性攻撃耐性の方はダメージを軽減するだけなのでこれも少々勝手が異なります。それでも助かる部分はありますが、従来のシステムに慣れていると戸惑う事受け合いです。
さて「Sa・Ga」シリーズを象徴するシステムと言えば肉食いですが、本作にも一応搭載されてはいます。これがなかったら、本当に「Sa・Ga」シリーズを名乗る意味ないですしね。
ただ従来と大きく違うのが、人間やエスパーに肉を食わせてモンスターにメタモルフォーゼさせる点です。それを、今から詳しく解説します。
まず本作で戦闘に勝つと、倒した敵の種類によって確率で『肉』か『ネジ』を落とします。この肉を人間やエスパーに与えれば『獣人』に、逆にネジを与えれば『サイボーグ』にそれぞれ変化します。
更に獣人に肉を与える事で『モンスター』に、サイボーグにネジを与える事で『ロボット』に更なる進化を遂げるのです。以下に人間とエスパーも含めた各種族の特徴を挙げるので、参考にして下さい。
人間とエスパーはいわゆる基本となる種族で、人間なら力、エスパーなら魔力がこの時一番強くなります。ただし耐性は完全に防具頼みとなり、特技も使えません。
獣人は人間・エスパーとモンスターの中間で、固有のステータスを持ちつつ装備の影響も得られます。人間の影響を残している為か、特技は肉弾系のものが多めです。
モンスターは完全にステータスが固定され、装備の影響を全く受けなくなります。人間・エスパーや獣人には不可能なワイルドな特技を多く覚えているのが特徴です。
サイボーグは人間・エスパーとロボットの中間で、装備品によってステータスそのものが上下するという前作のメカのような特徴を持ちます。特技は獣人と比べると、知的なものが多めです。
ロボットはなった直後は弱いですが、専用アイテムでドーピングすることでどこまでもステータスを伸ばせます。特技も使えてお金さえかければ最強……と言いたいところですが、MPが0になるので魔法が一切使えなくなります。
同じ肉、同じネジを与えてもキャラによってどの種類に変身するかは異なり、単純にはいきません。また人間とエスパー以外の時にレベルが一定まで上がると勝手にその種族の上位種に進化してしまい、ずっと同じ種類でいるという事が出来なくなっています。
個人的には、サイボーグとロボットはまだ選考の余地はあるけど獣人とモンスターは役立たずかなあと思ってしまいます。特にモンスターはステータス固定が痛く、装備を固めて耐性を増やしていく本作では逆風にしかなっていません。
まあ単純なダメージソースから言っても、最終的には人間とエスパーだけのパーティーになるとは思います。特技は確かに便利ですが、根本的な性能差がそれで埋まるかと言われれば……。
なおメタモルフォーゼしている状態から人間やエスパーに戻りたい時は、モンスター寄りならネジを、ロボット寄りなら肉をそれぞれ与えれば徐々に人間・エスパー寄りになっていきます。また過去世界で手に入るステスロスのパーツ『浄化マシン』を使えばいつでも人間やエスパーに戻れるようになっており、この辺本作の『ああ、「Sa・Ga」だからとりあえず肉食い入れただけなんだなあ』感が表れてて何だか少し切なくなってきます。
とまあ、色々不満を並べてはきましたが個人的に好きな部分も勿論あります。一つは途中で加わる事になるNPC、ディオールの生き様です。
ディオールは現代ではまだ子供で、未来世界に舞台が移ると成長して仲間になるのですがこの男がまあ瀕死になる事なる事。それだけでも凄いのですが、Dr.ボルフェスなるバイオ工学の権威があっという間にその怪我を治してしまうのです。これにはブ○ック○ャックもびっくり。
その再生レベルたるや、細胞が一欠片でも残っていれば完璧に元通りになるという凄まじさ。お陰で本来悲しい別れとなる筈のシーンが、完全にギャグになってしまっているという……でも大好き。
もう一つ、今度はシステム面で好きな部分として魔法の作成があります。これは物語中盤の終わり頃に初めて可能になるシステムで、各地に散らばっている地火水風の四種類の石のうち二つを組み合わせる事で強力な魔法を作り出すというものです。
これにより中盤の時点で最強魔法をぶっぱする事も可能ですが消費MPも多い為、それだけでは戦闘が立ち行かなくなります。敵の強さに合わせて、作った魔法を使い分けると良いでしょう。
なお手に入る分の石全部を使って丁度全ての魔法が手に入る計算なので、全部作り切れないと無茶苦茶悔しくなる事受け合いです。しかも一度世界を移動したら、もう戻る事は出来ないので……。
「Sa・Ga」シリーズとして見れば本当に『何でこうなった』でしかありませんが全体的にはバグもなく、堅実な作りになっていると思います。難易度も過去作より低いので、過去作がクリア出来なかったという方も是非プレイしてみては如何でしょうか。
とりあえず、今回はこれにて。