第八十一夜 ミスティックアーク
一つ、ゲームの話でもしようか。
『もしもこんな世界があったら』。なろうに登録している方々なら、一度は空想した事がある内容だと思います。
それは剣と魔法の世界の冒険世界だったり、動物達が人間のように暮らすほのぼのとした世界だったり……。そうした思いが高じた人が書き手としてなろうに投稿するようになるんじゃないかと、個人的には思います。
そんな空想の中の世界。もしも自由に旅が出来たら、どんなに素敵でしょうか。
基本行ったら行きっ放しの異世界転移とはまた違う、自由な異世界旅行。実現したら楽しそうですよね。
今回ご紹介する作品は、そんな自由な異世界旅行を擬似的に体験する事が出来るゲームです。名は「ミスティックアーク」。
さあ、不思議な世界への扉を共に開いてみる事としましょう。
本作はスーパーファミコン最盛期、旧エニックス、現スクウェアエニックスよりスーパーファミコンにて発売されました。開発は前回ご紹介した「エルナード」と同じくゲームプラン21で、「エルナード」のレーダーや戦闘システムがそのまま引き継がれているのが特徴です。
ストーリーはどこかの世界にある女神の神殿。そこには何者かによって、人間の体から心を抜き取り残った体を人形にした『フィギュア』が集められていた。ある時、そのフィギュアのうち一体が自分の意思で人の姿を取り戻す。人に戻ったフィギュア――『あなた』に女神が語りかける。『この神殿を出たければ、暖炉の火に従いなさい』。その言葉通り暖炉の火にヒントを貰い、『あなた』は神殿にある様々なものから幾多の世界へと渡る。その先に、『あなた』が元いた世界は果たしてあるのだろうか……? というものになっています。
プレイヤーの分身たる主人公は男女を選べ、そのどちらにもデフォルトネームが存在しています。また覚える魔法の種類や習得順も男女で異なり、一部の人々の反応もまた男女で変わるようになっています。
また本作に初めて触れた人は、女神の神殿のその美しく幻想的な雰囲気に心を奪われるかもしれません。それほど物語の中心となるこの女神の神殿の映像美は素晴らしいものと、筆者は思います。
女神の神殿内ではものを調べる時、それが重要なものであれば画面が切り替わりアドベンチャーゲームのように選択肢を選んでそのオブジェを詳しく調べる事になります。オブジェに対して正しい行動を取れば世界の移動など何らかのアクションが起こりますが、ゲームをスタートしたばかりの段階では何も起こらないオブジェの方が多いです。これらは各世界で『アーク』と呼ばれる力の源を手に入れオブジェに宿す事で反応するようになっており、今行ける世界でアークを手に入れたら女神の神殿に戻りアークを使ってまた次の世界へ……を繰り返すのが本作の基本となっております。
また女神の神殿には、主人公以外にも多数のフィギュアが存在しています。これらは旅の仲間になってくれるものであったり、冒険の途中で引き剥がされた心を手に入れ心と体を一つにする事でフィギュアになった体を元に戻してあげられたりとどれも攻略に深く関わってきます。
他にも寄り道要素として闘技場が用意されているのですが……。これは後述のあるシステムが強く影響する施設なので、説明は後回しとさせて頂きます。
各世界で手に入れたアークは、武器や防具など様々なものに宿せます。その中でも最も重要なのが、仲間のフィギュアに宿す事です。
仲間のフィギュアは最初のアークを手に入れた後、台から外して持ち歩けるようになります。そして女神の神殿以外の世界で力のアーク、または知恵のアークを仲間のフィギュアに宿らせると、実体化し共に戦ってくれるようになるのです。
入手出来る仲間のフィギュアは全部で六つ。ここでは簡単に、各仲間の性能を見ていきましょう。
ミレーネは攻撃魔法が得意で、強力な攻撃魔法を幾つも覚える他回復魔法も少し覚えます。その分直接戦闘力はあまり期待出来ません。
リーシャインは魔法が一切使えず装備品も少なめですが、基礎ステータスが物凄い勢いで伸びる変則的なキャラ。覚える特技も多めです。
カミオーは直接攻撃力は全キャラ断トツで、特技や魔法も攻撃的なものが多いです。しかし防御力には不安が残ります。
ラックスはカミオーとは対照的に全キャラ一の防御力を誇ります。雷属性の魔法や、固さを生かしたHP消耗攻撃の特技で火力もカバーします。
メイシャは回復魔法を使わせたら右に出るものはなく、MP回復特技で無尽蔵にMPを補充出来るまさに要塞。しかし攻撃は不得意です。
トキオは装備品も多く、早いレベルで覚える分身斬りが対象は指定出来ないものの攻撃力をそのままに二回攻撃出来るという壊れ性能。本作屈指のバランスブレイカーです。
以上の個性的な仲間達から二人までを選び、戦闘に参加させる事が出来ます。筆者の鉄板はトキオとメイシャでした。
経験値はフィギュアのままでも主人公が持ち歩いてさえいれば少し減った状態で入り、きちんと成長もします。ですが戦闘に出したキャラよりもやはり少し弱くなってしまう為、レギュラーメンバーはなるべく固定にしておいた方がいいでしょう。
仲間は戦闘で死亡すると、実体化が解けた上に女神の神殿まで戻されてしまいます。ダンジョンの奥地でこれが起こったら目も当てられないので、なるべく死者は出さないように気を付けていきましょう。
ちなみに主人公が死ぬと、何人仲間が残っていようとも敗北扱いになり持ち金を半分失った状態で女神の神殿からやり直しとなります。「エルナード」のようなお金を宝石に変えておく方法も使えないので、こうなった場合リセットしてやり直すかそのまま冒険を続けるかは各自のプレイスタイルで分かれると思います。
さて、本作を語る上で欠かせないのが主人公のみが使える特技『フィギュア』です。これはボス以外の魔物をフィギュアに変え、前述の闘技場で戦わせたりアイテムと交換したり出来るというシステムになっています。
オープニングデモを飛ばさず見る限り、主人公の使う『フィギュア』は主人公自身をフィギュアへと変えた力と同じものであるようです。何故主人公がそんな力を使えるのかは、ストーリー全体の大きな伏線にもなっています。
魔物をフィギュアにするのは、「ポケットモンスター」のポケモンゲットよろしく魔物のHPが減っていればいるほど成功しやすい傾向があるようです。しかし全体的に成功率は低く、どうしてもフィギュアが欲しい時は敵にダメージを与えない特技などを仲間にも連発させて粘る必要があります。
無事にフィギュアをゲットしたら、次は女神の神殿のある世界に存在する闘技場でフィギュアを戦わせ、銀貨を稼ぎます。銀貨はフィギュアをアイテムと交換する為に必要なもので、隠しでお金を銀貨に替えられる両替所が存在するものの基本的には闘技場で稼ぐしかありません。
フィギュアを戦わせる場合は提示された魔物のグループの中に任意でフィギュアを選んで加え、弾き出された自分のフィギュアへのオッズが勝利した際の報酬として得られる仕組みになっています。こちらの出したフィギュアが弱いほどオッズは跳ね上がりますが、負ければ当然何も得られないどころか負けたフィギュアはその場で消滅してしまいます。
苦労して手に入れたフィギュアを失いたくないという人は、フィギュアを出場させずにそのままの魔物のグループの中でどれが勝ち抜けるか賭ける事も出来ます。賭ける銀貨の量が選べる為より大きく稼ぎたいならこちらですが上手く的中させる事は難しく、一発当てるつもりが折角稼いだ銀貨がパアになった、なんて事にも……。
そうして稼いだ銀貨とフィギュアを使って交換出来る景品は大半が安い換金アイテムであるものの中にはレアアイテムと交換出来るフィギュアもあり、そうしたレアアイテムは交換に使う銀貨も大量に必要とします。フィギュアを持てる総数にも限りがあるので、いらなくなったフィギュアはバンバン戦わせて銀貨を稼ぎバンバンアイテムと交換してしまいましょう。
もう一つ本作の特徴と言えば、絵本でも読んでいるかのようなその独特の世界観にあります。ある世界では猫の海賊達が砂漠で争い、ある世界では人々が巨大なスイカやヘチマの中で暮らし、またある世界では子供達と一人の大人だけが生活し買い物は飴玉でする……新しい世界に着く度に、今度はどんな世界なんだろう?とワクワクする事受け合いです。
勿論楽しい事ばかりではなく、各世界は皆様々な脅威に見舞われています。それを解決したその先に、きっとアークは待っている事でしょう。
筆者が断トツで好きなのは可愛い猫達が一杯の砂の世界ですが、闇の世界のえもいわれぬ不気味さも忘れがたいものがあります。それぞれの世界にそれぞれの良さがあり、プレイしていればきっとお気に入りの世界が見つかる筈です。
余談ですが故森彰彦氏作曲の本作のBGMは大変に評価が高く、特に戦闘曲は数々のプレイヤーを魅了し今なお名曲と語り継がれるものばかりであります。……そして後から曲名を聞いて困惑するまでがワンセット。あの曲名の付け方はある意味天才的だと思います。
「エルナード」で問題だった大味な戦闘バランスも改善され、その魅力的な世界観も相まって名作との声高い本作。現実を少しだけ抜け出して、ゆっくり幻想の世界に浸りたい……そんなあなたにぴったりな本作、是非プレイしてみては如何でしょうか。
とりあえず、今回はこれにて。