第七十九夜 天地創造
一つ、ゲームの話でもしようか。
さてここまでエニックスで販売された、クインテット開発のゲームを三本連続でご紹介して参りました。エニックスというのは元々自社開発は行っておらず、中小規模の開発会社からライセンスを会得して販売を行っているので開発会社の名前が他社よりクローズアップされやすいんですね。
これは主に自社開発による人気作をガンガン世に出してきたスクウェアとは真逆で、後にエニックスがスクウェアと合併を決めたのもお互いの財政難の他、安定した自社開発ブランドを手に入れたかったからではという説もあります。最大手の「ドラゴンクエスト」シリーズですら割と頻繁に開発会社が変わっていたりするので、その状態で常にクオリティを一定水準以上に保つのがどれだけ難しかったか想像に難くありません。
クインテットもエニックスでソフトを何本も出す事によって名を上げた、そんな会社の一つでした。残念ながら自社名義でソフトを出す事は結局なかったものの、クインテットの出したソフトはプレイしたユーザーの記憶に残り今も語り継がれるものとなったのです。
今回は、そんなクインテットの集大成。技術も思想も、全てが詰め込まれた作品。「天地創造」をご紹介したいと思います。
本作はスーパーファミコン最盛期、旧エニックス、現スクウェアエニックスよりスーパーファミコンにて発売されたアクションRPGです。今までのクインテット開発のアクションRPGと違い、本作は効果音も全て新規となっております。
ストーリーは地球の内側に存在する『地裏』に唯一存在する村、クリスタルホルムに住む乱暴者の少年アーク(名前変更可)はある日、親代わりの長老に決して開けてはいけないと言われていた『あかずの扉』を好奇心から開けてしまう。中は地下室になっており、その最奥にあった謎の箱を開くと奇妙な生き物『ヨミ』が現れ同時に心配してアークの様子を見に来た幼馴染みの少女、エルを含めたクリスタルホルムの住人達が皆氷漬けになってしまう。唯一氷漬けになるのを免れた長老はアークに言う。『村人達を救いたければ、村の外の塔に赴き地表の大陸を復活させよ』と。そしてアークはヨミと共に箱に入っていた武器『槍』を手に、初めて村の外に出る。アークの身に待ち受けているものとは一体……というものになっています。
本作のキャラクターデザインを担当するのは、「ドラゴンクエスト ロトの紋章」を月刊少年ガンガン誌上にて連載していた藤原カムイ氏。ゲーム上のドットキャラも、氏の細かなデザインを最大限表現したものとなっています。
本作の肝は何と言っても、同時期のアクションRPGの中でもトップクラスの操作性でしょう。自由にダッシュし、ジャンプし、攻撃する。それだけでも凄いのですが、その攻撃方法も実に多彩なのです。
まず基本の攻撃に始まり、ボタン連打による連続攻撃、空を飛ぶ敵に有効なジャンプ攻撃、ダッシュ中に攻撃を押すと無敵時間付きの飛び込み攻撃、更にダッシュジャンプ時には最大威力の必殺攻撃までと様々な攻撃を放つ事が出来ます。本作でも可能な防御と合わせ、状況に応じた攻撃を行っていく必要があります。
また本作ではライフがHPとして数値式になり、回復アイテムも従来の全回復のみからアイテムによって回復量が数値で分かれるようになり現在のダメージ量に合わせて使い分けられるようになりました。回復アイテムは宝箱から手に入れる他店売りもしており、寧ろ買って手に入れるのがメインと言えます。
他にも旅の途中で手に入る『プライムブルー』というアイテムと交換する事で魔法のメダルが購入出来、このメダルを使う事で追加攻撃や戦闘補助を行う事が出来ます。本作には属性による相性というものが存在し、敵の弱点属性で攻撃する事でより多くのダメージを与える事が出来るのです。ただし魔法のメダルは、ボス戦では使う事が出来ないようになっているので注意が必要です。
なお本作ではレベルアップが経験値方式に変わっており、レベルアップするとHPが全快すると共にどのステータスがどれだけ上がったか教えてくれます。このステータスアップも一定ではない気がするのですが、筆者には確かめる術がありません……。
とにかくここまで操作の自由度と快適性を両立させているのは、スーパーファミコンでは本作ぐらいだと思います。こればかりは実際に手に取って頂かないと伝わりにくいので、機会があれば本作を是非遊んで頂きたい……と切に願う次第です。
さて本作では『買い物』という概念が新たに加わり、よりRPGっぽくなったと言えます。買えるものは回復アイテムであったり、武器や防具であったり、様々です。
武器や防具にも属性が付与されている場合があり、数値上は強い武器の筈なのに敵に与えられるダメージが少ない!という時や防具を強くしたのに受けるダメージが増えた!という時は相性の悪さを疑った方がいいかもしれません。数値上の攻撃力が高い武器や防具が、必ずしも最適解であるとは限らないのです。
お金は、倒した敵が落としたのを拾う事で稼ぐ事が出来ます。従来作のように落ちたお金を手元に引き寄せる事は出来ないので、ちょっとめんどくさくても歩いて拾いにいきましょう。
そして忘れてはいけないストーリーも、本作で評価されている部分の一つです。大陸を復活させるところから始まり植物、鳥、動物と次々と進んでいく地表の復興、そして復活する人間とその人間が引き起こすもの……本作はこれまでクインテットのゲームが我々ユーザーに問い掛けてきたものが強く形になって現れていると言えます。
人間を繁栄させる事は、本当に幸せに繋がるのか? 全てのものが幸せになる道はないのか? 本作は、それを強く我々に訴えかけているような気がします。
ただ本作も「ガイア幻想紀」と同じく説明不足な点やシーンによる設定の齟齬が見られる点は、非常に残念であります。一つ一つのシーンはとても盛り上がるものであるだけに、それをただ継ぎ接ぎするだけではなく一つの流れるような道筋を作り出してくれたなら……と思わずにはいられません。
本作が大好きな筆者ですが、本作について語れる部分はさほど多くありません。言葉にはし尽くせない面白さ……本作を現すならば、まさにそれだと思っています。
とにかくやってみて欲しい。今回の総評は、それに尽きます。
とりあえず、今回はこれにて。