第七十六夜 アクトレイザー
一つ、ゲームの話でもしようか。
もしも神様になって、自分の思い通りの世界を作れる力を得たら皆様ならどんな世界を作りますか? これって意外と難しい問いな気がします。
だって何でも思い通りになる力は持っているかもしれないけど、代わりに自分の作った世界一つを丸ごと面倒見なくてはならないのです。自分が好きに出来れば世界なんてどうでもいいという人も中にはいるかもしれませんが、うーん。
一つの世界を作るというのは、執筆にも似ていると思います。自分の力で物語の舞台を、そこに住む人達を想像して動かしていくのですから。
けれど我々は神ではなく、物語の全てを想像し切る前に飽きてしまったり続きが浮かばなくなってしまったりで執筆を止めてしまうのが大半です。最初から最後まで物語を書き通す力を持った人達は、それだけで凄いと思います。
そう考えると、神様とは大変な立場なのだなと思います。例えるならどんなに不評でも完結まではエタる事が許されないなろう作者のようなものなのですから。
今回は、そんな過酷な神様の仕事を追体験出来る作品。「アクトレイザー」をご紹介しようと思います。
本作はスーパーファミコン初期、旧エニックス、現スクウェアエニックスよりスーパーファミコンにて発売されたアクション+シミュレーションです。開発はクインテット。「イース」シリーズや最近では「軌跡」シリーズでも有名なパソコンゲーム界の老舗、日本ファルコムから独立したスタッフが起こした会社です。
ストーリーは創造神が悪魔サタンに破れ、長き眠りに就いた世界。地上は魔物達が闊歩する魔境と化し、人の住めない場所となっていた。神が眠りに就き、どれほどの時が経ったのか……。遂に目覚めた神である『あなた』は、荒廃した世界を再び人の住める地にする為に地上へと降臨する。果たして『あなた』は、世界を再び蘇らせる事が出来るのか……? というものになっています。神様、初っぱなから悪魔に負けてます。
セーブデータの名前でもある神様の名前を登録したら、いよいよゲームスタートです。……そこ、アシスタントである天使が『○○さま』と呼んでくれるからってくれぐれも『き』とか名付けて『きさま』と呼ばせないように。
ゲームがスタートすると、まずは全体マップを移動してどの地域に降臨するか決める事となります。攻略に順序はありませんが、目覚めたばかりの神様は力の大半を失ったままで貧弱極まりないので最初は大人しく真っ先にカーソルが合っている『フィルモア』から攻略すると良いでしょう。
降臨する地域を決めたら、まずはその地域に人が住めるようになるよう地上に蔓延る魔物達を退治する事となります。ここはアクションパートとなっており、神様は地上に残された神像に乗り移りステージボスの打倒を目指していきます。
このアクションパートは横スクロール制なのですがまず自機がやたらとでかく、そのせいで当たり判定も大きいです。攻撃は上段と下段に撃ち分けられますが剣なので射程が短く、かなり近付かないと攻撃が当たりません。
ジャンプの挙動も少々独特で、空中制御は出来るものの縦に大きく横に短いという飛距離の為横に足場を飛び移る事が困難になっています。ただでさえ縦に長い自機なのにジャンプも縦に長いとあって、横からの攻撃をかわすのが困難になる羽目に……。
ライフ制と残機制が併用されているのでゲームオーバーには比較的なりにくいシステムとなっていますが、肝心の難易度自体が高めな上地味に制限時間もある為ゲームオーバーになる時はどうやってもなります。幸いゲームオーバーになってもステージ最初からやり直す事になるくらいしかペナルティはないので、何度も挑んでいけばそのうちクリアは出来ると思います。
また地域を解放していくと、このアクションパートで使える魔法を手に入れる事が出来ます。魔法は数種類あり、それぞれ必要とされる魔力の数が異なります。
一度に持っていける魔法は一つだけで、更に事前に装備しておかないと持っているだけでは発動できません。発動に必要な魔力はステージでアイテムとして拾える他、地域の解放により初期魔力が増える事もあります。
そのステージに合った魔法を選び、使い分けていきましょう。とは言っても、燃費が良く使いやすい星屑の魔法が使われる事が大半なのですが……。
ステージ最奥にいるボスを倒すとステージクリアとなり、その地域は魔物の支配から解放されます。ステージは各地域毎に二つあり、二つ目のステージをクリアする事でその地域は完全に魔物から解放されるようになっています。
各地域一つ目のアクションパートをクリアすると、いよいよ荒れ果てた地域の開拓の開始です。こちらはうってかわってシミュレーションパートとなっており、アシスタントの天使を操り新しく神様が産み出した人々にちょっかいを出す雑魚魔物を追い払いながらその地域に人間を繁栄させる事が目的となります。
解放されたばかりの地域には、始めは神殿とそこに住む一組の男女しか存在しません。この地に人間を増やすには、見下ろし型のフィールドのどの方向に開拓を進めるか神様が導いてあげなければいけないのです。
人々は神様の決めたルートに沿って道を作り、家を建て、田畑を耕していきます。そうやって人の住まいが広がるほど人は増え、その信仰心により神様は更なる力を取り戻していきます。
とは言えどんな土地でも開拓出来るほど、人は強くも万能でもありません。人の力だけでは開拓が困難な土地は、神様の起こす奇跡によって開拓がしやすいよう整えてあげる必要があるのです。
例えば木が鬱蒼と茂る森ならば、雷を落として木々を焼き払う。人がまともに歩けない湿地帯ならば、日照りを起こして土地を乾かす。緑の影もない砂漠ならば、大雨を降らせて土地を潤わせる……。こうして神様が手を貸す事で土地の開発は進み、更に人間が繁栄していく事となるのです。
しかし神様も目覚めたばかり。そう易々と奇跡は起こせません。奇跡を行うにはポイントを消費せねばならず、ポイントを使い切ってしまうとそれ以上奇跡を起こす事は出来なくなってしまうのです。
ポイントは天使に雑魚魔物を倒して貰う事によって僅かに回復しますが、それではとても回復が追い付きません。ポイントを大きく回復させるには、以下の二種類の方法があります。
一つは世界中の人口の総数を増やし、神様のレベルを上げる方法。神様のレベルが上がるとポイントが全回復し、最大ポイント量も増加するのでより多くの奇跡を使えるようになります。
そしてもう一つが、魔物の巣を封印する方法です。攻略的にはこちらの方が重要で、シミュレーションパートの当面の目的にもなっています。
各地域のフィールド内には、幾つかの魔法陣が点在しています。これが魔物の巣で、雑魚魔物達はここから生み出されているのです。
中にいる魔物達には限りがあり、根気良く天使で倒し続けていればいつかは尽きますがその数何と数百匹。いちいち一匹ずつ潰していたのでは、何日あっても足りません。
そこで人々を魔物の巣に誘導して、代わりに巣を封印して貰うのです。魔物の巣の封印に成功するとそこにいた魔物達を全滅させた分のポイントが一気に加算され、文明レベルが上がりより人が増えやすくなったり天使に与える事で雑魚退治がスムーズになるアイテムが手に入ったりという恩恵も受ける事が出来ます。
但し魔物の巣の封印は、その地域に人口が一定数いないと行えません。人々にしっかり準備を整えさせ、彼ら自身の手で魔物との決着を着けさせましょう。
人口が増加していくと、最初に産み出した代表者達から様々な報告がもたらされます。それは魔法や初期残機、初期魔力を上げてくれるアイテムを手に入れるヒントであったり、人々を悩ませるトラブルを解決して欲しいというお願いであったりします。
厄介なのはトラブルで、この状態になると人口の増加が完全にストップしてしまいます。その地域の中だけではどうにも出来ないトラブルもあり、そういう時は心苦しいですが別の地域を開拓し解決策を見つけるしかありません。
地域を完全に魔物から解放した後でもトラブルは起こるので、寧ろ魔物がいなくなってからの方が神としての真価を試されると言ってもいいでしょう。人々を導くと言うのは、決して簡単な事ではないのです。
そんなこんなありつつも、その地域にある魔物の巣を全て封印し終えたらいよいよ地域に潜む大ボスが姿を現します。この大ボスのいるアクションパートを攻略する事でその地域は完全に魔物から解放され、以後はトラブルがあったらそれを解決しつつ人々の繁栄を見守るのみとなります。
……でも地域に人間を更に増やす為、文明レベルの低い建物を雷で焼き払うのはきっと誰もが通る道。神様とは時に、非情にならねばならないのです。
全ての地域を人の手に取り戻すとサタンの待つ『デスヘイム』に行けるようになり、そこにいるサタンを倒せばエンディングです。世界は完全に神様の手を離れ、新しい道へと進んでいく事になります。
苦労した割にはエンディングは少しあっさり気味ですが、それが天地創造というもの。子供はいつか必ず、親の元を巣立っていくものなのです。
ちなみに本作、タイトル画面でコマンドを入力すると難易度の上がったアクションパートだけを遊べるという誰得仕様となっております。本作の続編も純粋なアクションゲームになった辺り、開発陣にとってはシミュレーションパートはあくまでおまけ扱いだったのかもしれません。
しかしながら後年ネットでの評判を見てみるとシミュレーションパートの人気が圧倒的で、これだけやっていたかったという声も珍しくはありません。かくいう筆者もシミュレーションパートに魅せられた一人で、各地域を人間で一杯にするのが楽しかった記憶があります。
またパソコンゲームが主流だった時代からゲームの作曲に携わり、今なお第一線で活躍しておられる作曲家、古代佑三氏による音楽はスーパーファミコン初期のソフトだというのに後期ソフトと遜色ない素晴らしいものであり、現在でも『スーパーファミコンソフト一優れた音源』として語り草になっているほどだったりします。筆者も一時は携帯の着信にしていたほどお気に入りで、この音楽を聞くと辛かったアクションパートの事を思い出……いやいや。
新規タイトル、聞いた事もない開発会社という事もあり、知名度的にはいまいちマイナーなままで終わってしまった本作。しかし本作を遊んだ者には主にシミュレーションパートの高いゲーム性から強い印象を植え付ける事に成功し、それがこの後も作られ続けるクインテットのソフトの方向性における柱となっていくのです。
とりあえず、今回はこれにて。