第七十夜 ドラゴンクエスト5 天空の花嫁
一つ、ゲームの話でもしようか。
ファミコンからスーパーファミコンへと時代が移っていく中、それまでRPGと言えば「ドラゴンクエスト」シリーズ一色だった市場にも変化が現れ始めました。「ファイナルファンタジー」シリーズの台頭です。
「ドラゴンクエスト」シリーズとはまた異なる魅力を持った「ファイナルファンタジー」シリーズは徐々に勢力を伸ばし、やがてドラクエ派、FF派という言葉を生むまでに至りました。この辺りは、本エッセイ初期の頃にも触れた事と思います。
そして「ドラゴンクエスト」シリーズの開発スピードの低下、加えて「ファイナルファンタジー」シリーズが短い期間でどんどん新作を出していた事から両者のナンバリング数は1992年、遂に並ぶ事となります。奇しくも二つの大作RPGが同じナンバリング数で、それも同年に発売されたとあって、売り上げが真っ二つに割れたであろう事は想像に難くありません。
以前の回でも触れた通り、この年筆者が選んだのは「ファイナルファンタジー5」でした。しかし後年双方を遊び比べて思った事は、比べるのが馬鹿らしいくらいどちらも面白いゲームだという事です。
そんな今回のテーマ、「ドラゴンクエスト5」の魅力を余すところなくお届け出来れば幸いです。それではいってみましょう。
本作はスーパーファミコン黎明期、旧エニックス、現スクウェアエニックスよりスーパーファミコンにて発売されたRPGです。それまでシリーズの制作を手掛けてきたチュンソフトが本作では監修に留まり、そして次作からは完全にチュンソフトの手を離れるというシリーズ全体にとって転換期に当たる作品でもありました。
ストーリーは主人公を務めるある一人の男の数奇な半生を描いたもので、筆者には上手く纏められる自信がない為あらすじは今回は割愛させて頂きます。幼少期と青年期に分かれて描かれる彼の人生は本当に波乱万丈で、恐らくシリーズの中では最も作中の経過時間が長いのではないでしょうか。
また詳細は差し控えますが、本作は『主人公が勇者またはその子孫ではない初のドラクエ』となっておりその点でもシリーズ転換期に相応しい内容になったのではないかと思います。とは言っても主人公の肩書きを背負うくらいですから、本作主人公もまた只者ではないのは確かなのですが。
システム面では、まず『便利ボタン』というものが増えました。これは今までメニューを開きコマンドを選択して行っていた会話や探索、扉を開けるといった行為をワンボタンで簡単に行うといったもので、これにより操作がグッとスムーズになりました。ライバルの「ファイナルファンタジー」シリーズがファミコン時代からワンボタンでこれらの操作を可能にしていたのを、参考にした形なのかもしれません。
勿論従来通りメニューを開く事でも行動を行えるので、壺を調べたいけど隣に人がいる、なんて時はメニューからしらべるを選択しましょう。まあそんな機会はほぼないんですけども。
装備面ではでは武器や防具を買う際現在の装備と比べて数値がどれだけ上下するか買う前に参照出来るようになり、無駄銭を落とす可能性が激減しました。買ったその場で装備を変更させてくれ、いちいち装備コマンドを選ぶ必要がなくなったのもプラスです。
乗り物の数も増え、従来の船、空飛ぶ乗り物の中間に位置する乗り物として空飛ぶ絨毯が新たに加わりました。空飛ぶ絨毯に乗っている間は敵も出ず、海も陸も移動出来ますが山や森は越えられないので万能という訳ではありません。
前作から登場の収集アイテム、ちいさなメダルも健在で本作ではタンスや壺からちいさなメダルを見つけた際自動的にメダル王のところまで送られアイテム欄を圧迫しなくなりました。ただし敵が落とした場合はその限りではないので、その時は大人しくメダル王に会いに行きましょう。
トラップモンスターも本作では壺のトラップモンスターが追加され、街中でも油断は出来なくなりました。ボロボロの状態で街を漁っていたらトラップモンスターが出て全滅……なんて事にならないよう気をつけましょう。
戦闘では第一作以来、久々に背景がつくようになりまた本作から呪文がアニメーションするようになりました。ド派手な攻撃呪文が敵に炸裂する様はまさに迫力満点で、戦闘を大いに盛り上げてくれます。
また、本作はRPG史上初『クリア後になって初めて入れるようになるダンジョン』『ラスボスよりも強い隠しボス』が搭載された作品でもあります。これ以降様々なRPGで隠しダンジョンや隠しボスが現れる事になるのですが、本作の場合、隠しボスに関するとあるデマに振り回されたプレイヤーが数多く存在しただろうと推測されます。
さて本作の目玉の一つと言えば何と言っても、モンスターを仲間に出来るシステムでしょう。条件は仲間になる可能性のあるモンスターを主人公を加えたパーティーで倒し、更にその戦闘終了後まで主人公が生きている。それらを満たしていれば戦闘終了後に確率でモンスターが起き上がり、仲間になってくれます。
敵を仲間にする先駆者の「女神転生」シリーズとは異なり、仲間にしたモンスター達は経験値を得ればレベルが上がり武器防具を装備する事も出来ます。中には『スライムの服』のような完全にモンスター専用の装備があるのも、本作を象徴していると言えます。
モンスターが仲間になる確率は種類によって様々で、仲間になりにくい種類に至っては確率が256分の1というとんでもないものまで存在します。しかし仲間になりにくいものはそれだけ強い場合が多く、もし仲間に出来れば心強い旅の共となってくれるでしょう。
仲間にしたモンスターや少なからずいる人間の仲間達は基本的には作戦に応じたAIが自動的に攻撃を行いますが、本作からはそんな仲間達のコマンドを従来通り自分で選択出来る『めいれいさせろ』という作戦が新たに追加されました。ただし仲間のかしこさが20に満たない場合は命令を無視される事も多々あり、必ずかしこさ20以上で加入する人間の仲間達はともかくモンスターは最初はかしこさが低い場合が多いので注意が必要です。
本作では他のシリーズ作品とは違い三名までのパーティーしか組めず(リメイク版では四名に増加)、スタメンを誰にするかは非常に悩ましい選択になると言えます。なるべくバランスのいいパーティーを組み、並み居る強敵達に挑みたいものです。
本作を彩るもう一つの要素と言えば、やはり結婚でしょう。ビアンカとフローラ、魅力的な二人の女性のうちどちらを選ぶかという人生の選択はプレイヤーの心境にも大きな影響を及ぼし、発売から二十年以上経った今でもビアンカ派とフローラ派が互いにけなし合い争い合うといった派閥争いにまで発展しました。あ、筆者はフローラ派ですがビアンカも、リメイク版で追加されたデボラも大好きです。
あくまで結婚は物語のスパイスに過ぎず、その後の物語が大きく変わる事はありません。それでもこれだけ鮮烈な印象を残すのは、自分の意思で生涯の伴侶を選び決断するという現実にも似た覚悟を必要とするからではないでしょうか。……と言いつつ真っ先にフローラの父親であるルドマン氏を選ぶのは、きっと既プレイヤーなら誰もが通る道。
スーパーファミコン初のドラクエは前作より更にドラマ性が高まり、人生というものを深く考えさせられるものとなりました。それでいてゲーム的な楽しさも両立してくれるのは、やはり流石と言うべきでしょうね。
とりあえず、今回はこれにて。