第六十七夜 ドラゴンクエスト
一つ、ゲームの話でもしようか。
さて、前回の「COCORON」でリアルタイムで買っていたソフトのネタはほぼ切れました。僅かに残っているのは「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」の途中のナンバリングばかり……。
慌てない。まだ慌てる時間じゃない。後から中古で買ったものを足せばネタは幾らでもある……!
そこでぶち当たったのが、所持ソフトの異様なスクエニ率です。筆者と同世代でRPGが好きだった方なら解って頂けると思いますが、スーパーファミコン~プレイステーションの頃ってまさにスクエニRPGの黄金期だったんですよね。
特にスクウェアの方は、筆者と同世代のRPG好きでスクウェア産を一本も遊んだ事がない人は余程のスクウェア嫌いだと言えるほど名作RPGをガンガンに出しまくり、ヒットさせまくっていました。もしもPS2の時代、今まで稼いだ大金を注ぎ込んだCG映画が会社が傾くレベルで大コケしていなかったら今もスクウェアはスクウェアとして単独存続していた可能性もあります。
まあそんな感じですので、普通にバラバラに紹介していったら三本に一本ぐらいはスクエニのゲームの紹介になってしまいかねません。それは何と言うか、ちまちま小出しにしているみたいで気持ち悪いなと。どうせならいっぺんにやってしまおうじゃないかと。
という訳で今回からは『スクウェアエニックス大特集』と称しましてファミコンやゲームボーイ、スーパーファミコンで筆者が持っているスクエニ作品を一気に纏めてご紹介していきます。そのトップバッターを務めますのは、やはりこのソフトなくしてスクエニのエニックス側は語れない。「ドラゴンクエスト」です。
本作はファミコン黎明期、旧エニックス、現スクウェアエニックスよりファミコンにて発売されたRPGです。よく『ファミコン初のRPG』と勘違いされる本作ですがRPG要素を持つゲームというのはRPGの名を冠していないだけで既に幾つか出ており、厳密な意味でのRPGも本作より前に「ハイドライドスペシャル」がパソコンより移植されているので名実共に『ファミコン初のRPG』ではなかったりします。「頭脳戦艦ガル」? 知らない子ですね。
ストーリーはかつて勇者ロトが光の玉をもって闇を払った地、アレフガルド。ラダトーム王の治世の元平和な日々が続いていたアレフガルドだったがある日竜王と名乗る邪悪な竜が現れ光の玉を奪い、アレフガルドをモンスターが溢れる大陸へと変えてしまった。王はかつての勇者ロトの子孫である若者を城に呼び寄せ、竜王を倒し光の玉を取り戻して欲しいと告げる。勇者ロトの子孫である『あなた』は見事竜王を倒し、アレフガルドに平和を取り戻す事が出来るのか? ……というものとなっております。
現在もなおRPGのテンプレとして名高い『勇者の子孫が姫を助けて魔王を倒す』という流れは本作のストーリーが元になっている部分が大きく、それだけの影響力を持った作品だったと言えます。実際は倒すのは魔王ではなく竜で、姫を助けるかどうかも任意だったりするのですが。
本作が日本におけるRPGのパイオニアとなり得た理由の一つとして、親切な誘導があります。当時のパソコンなどにおけるRPGは『説明書をじっくり読み込んでから遊ぶもの』であり、ゲーム中にああしろ、こうしろなどと基本システムを教えてくれるなどという事はまずなかったのです。
その点本作はまずオープニングで目的を示されるところから始まり、外に出る前に一通り基本コマンドを使う機会もあり、町に出れば人々が冒険の基本になるシステムを教えてくれ……と、初めてRPGに触れる人が説明書も読まずに始めてもゲームの中で冒険の基礎をしっかり身に付けられる配慮がなされています。この方式は後発のRPGにも組み込まれ、日本におけるRPGのスタンダードとなっていきます。
根本的なシステムこそずっと変わる事のない「ドラゴンクエスト」シリーズですが、初代という事もありまだシステムが練り切れていなかったり容量不足の苦肉の策だったりで後のシリーズとはシステムが異なる部分も幾つか存在します。以下に、本作のみの特徴を列挙していこうと思います。
まず有名なのが主人公を含めた登場キャラ全員に正面を向いたドットしか用意されていない、いわゆるカニ歩き状態という点です。会話をしたい時はその都度方角を指定して行いますが、扉の鍵を開ける時は扉に隣接していればOKなど多少の融通も効きます。
コマンドの種類も、今見ると少し雑多です。足元の宝箱を開けるには『しらべる』ではなく『とる』必要があり、ただ調べるだけでは宝箱があるとしか表示されません。次作である「ドラゴンクエスト2」からは『とる』は『しらべる』に統一され、わざわざ使い分ける手間はなくなりました。
階段の登り降りも階段に重なるだけでは駄目で、階段の上で『かいだん』コマンドを使わなければいけません。その為洞窟に入った時の状態によっては階段を見失って詰む事態が発生し、次作からは階段に重なるだけで別フロアへの移動が出来るように変更されました。
『とびら』コマンドは鍵の種類が増えた次作では一旦姿を消しますが、容量と技術力が上がった「ドラゴンクエスト4」にてまた復活する事となります。とは言ってもその次に出た「ドラゴンクエスト5」ではボタン一つで調べるも扉を開けるも簡単に出来る便利ボタンが導入され、更にその次の「ドラゴンクエスト6」からは体当たりだけで扉が開く更にお手軽仕様になってしまった為復活したのも短い間でしたが。
アイテム面では、薬草と鍵のみ複数管理される点が次作以降と違う点でしょうか。この二つはそれぞれ六つまで持て、アイテム欄では纏めてワンセットとして扱われます。
どちらも冒険中はお世話になる事が多いアイテムなので、遠出の際はなるべくフルにして持っておきたいところです。特に本作では回復魔法としてお馴染みホイミの回復量が20前後という貧弱ぶりなので、回復量が後のシリーズと変わらない30前後の薬草は上位魔法べホイミを覚えるまでの間回復の要となる事でしょう。
また本作を象徴するアイテムと魔法に『松明』と『レミーラ』があります。本作では洞窟に入ると自分のいるマスしかマップが表示されなくなり、これらを使う事で視野を広げる事が出来るのです。
松明よりもレミーラの方がより遠くまでマップが見れるようになりますが、レミーラはMPを消耗する上歩く度にだんだん視野が狭まっていき最後には効果が切れてしまいます。松明は何歩歩いても効果が切れる事はないので、どちらを使うかは自分のプレイスタイルとよく相談しましょう。
武器防具の面では本作に『そうび』コマンドはなく、例えばこん棒を装備している時に銅の剣を買うと自動的に装備が変わり前に装備していた武器防具はなくなってしまいます。本作は『高価な武器防具ほど強い』という解りやすいシステムなので高価な武器を買ったのに性能がいまいちだった……という罠にかかる心配はありませんが、冗談で弱い武器を買ってみよう……なんて考えると痛い目に遭うのでそこはお気を付け下さい。
あと細かい部分ではありますが、武器を買うと主人公のグラフィックに剣が、盾を買うと主人公のグラフィックに盾が地味に追加されたりします。剣と盾が揃い、ついに本格的な冒険が始まるぞ!とワクワクしたのは筆者だけではない……と思いたいです。
本作では敵の行動パターンも少なめで、直接攻撃以外には攻撃魔法のギラを唱えるかラリホーを唱えてこちらを眠らせてくるかしかありません。このうちギラもダメージである事を考えると、こちらが受ける状態異常は眠りだけという事になります。
一方こちらの補助魔法もラリホーと敵の呪文を封じるマホトーンしかない為、ラリホーを使う敵に対してマホトーンを使うか否かぐらいしか駆け引きはなかったりします。敵をラリホーで無力化するにしても、眠りの継続ターンの短さから使用するMPに見合っているとは言いがたいですし。
自己投影型の喋らない主人公には付き物の名付けも、本作では地味に重要な部分です。本作では付けた名前によって主人公の成長パターンが決まり、レベルカンストすれば皆同じステータスになるものの早熟型や晩成型など名前毎に違った成長を楽しむ事が出来ます。
その様はまさに『自分だけの主人公』。勿論時代が時代なので付けられる変化はさほど明確ではありませんが、当時の子供には嬉しい配慮だったのではないでしょうか。
さてストーリーの項目で少し触れましたが、本作のヒロインであるローラ姫の救出は本作では『おまけ』の位置付けだったりします。一応姫を救出後に貰えるアイテムを使う事で本作における最重要アイテムの在処が解る仕組みにはなっていますが、あらかじめ場所さえ解っていれば別に姫救出で貰えるアイテムを手に入れる必要はないのです。
開発陣もそこら辺は想定済みだったようで、姫を救出しないままエンディングを迎えると姫が救出された事になっているなどの展開もなく普通に姫不在のまま物語は幕を下ろします。一人取り残された姫のその後を考えると、ちょっと可哀想な終わり方の気もします。
また姫を救出してから城に帰るまでは姫を抱き上げたまま旅する事になるのですが、何とこの状態のまま竜王を倒しに行く事も可能です。姫を抱き上げたまま戦う主人公に敗れる竜王の心境は、果たしていかばかりのものでしょうか……。
国民的RPGの処女作は日本におけるRPGの方向性を決定付ける、まさにゲームの歴史を変える一作となりました。ここからRPGというジャンルが広く認知されるようになり、やがて爆発的なRPGブームを起こす切欠となっていくのです。
とりあえず、今回はこれにて。




