第五十六夜 デジタルデビル物語 女神転生
一つ、ゲームの話でもしようか。
さてお盆も終わり、季節も秋を待つばかりとなりましたね。と言っても、この回を書いている時点ではまだお盆の真っ最中なんですが。最近、時事ネタの扱い方に困る連載作家の気持ちが少し解ってきた気もします。
まあそんな訳なので、残暑を吹き飛ばすべく今回からまたプチ特集を計画しようと思います。何故わざわざプチと付けたのかと言うと、過去二回の特集に比べると圧倒的にソフト数が少ないからです。それでも単発と呼ぶには逆にソフト数が多すぎるので、こういった形にさせて頂きました。
今回のプチ特集、テーマは「女神転生」シリーズ。第一回はシリーズ全ての原点、「デジタルデビル物語 女神転生」についてお送りしたいと思います。
本作はファミコン黎明期、旧ナムコ、現バンダイナムコエンターテインメントよりファミコンにて発売された3DダンジョンRPGです。ここでおや?と思った方もいるかもしれませんが、そう、「女神転生」シリーズは最初はナムコが発売していたのです。
今では「女神転生」シリーズを始めとした各種名作タイトルの開発元として有名になったアトラスも、当時は自力でソフトを出すだけの資本がないしがない下請け会社に過ぎませんでした。当時のナムコはこのような会社からソフトの販売権を得る形で様々なRPGを出しており、「女神転生」シリーズもそのうちの一つでした。
しかし本作とその続編、「デジタルデビル物語 女神転生2」がヒットを記録した事により下請けであったアトラスの業績も向上。自社ブランドとしてソフトを出す用意も整い、スーパーファミコンの「真・女神転生」からは晴れてアトラス名義での発売を迎える事と相成ったのです。
また、当時のユーザーの方々でも恐らく知らない方は多いと思われますが、実は本作はれっきとした『原作もの』です。本作は「デジタルデビルストーリー」という小説が原作となっておりまして、ストーリーも「デジタルデビルストーリー」一巻の後日談という位置付けなのです。
悪魔召喚の儀式をパソコンでデジタル化した悪魔召喚プログラムを独自に完成させた天才、中島朱実。しかし呼び出された悪魔を制御しきれず、結果自らが呼び出した悪魔達と死闘を繰り広げる事となる。実は創造神イザナギの生まれ変わりであった中島は死闘の末自らが呼び出した悪魔達を倒し、同じく創造神イザナミの生まれ変わりであり戦いの中で一度命を落とした転校生、白鷺弓子を蘇らせる事にも成功する……。ここまでが「デジタルデビルストーリー」一巻の大まかなあらすじであり、本作におけるベースとなっています。
本作のストーリーはこの事件の後を描いており、突然飛鳥地方にあるイザナミの玄室の上に巨大な迷宮が現れかつて中島が倒した悪魔達も復活してしまう。中島と弓子は悪魔召喚プログラムをインストールしたハンドベルトコンピューターを手に、迷宮を作り上げ悪魔達を復活させた魔王ルシファーに戦いを挑んでいく……というものになっています。
なお原作である「デジタルデビルストーリー」はその後本作とは全く違う物語を展開していき、最終的に「デジタルデビルストーリー」と「女神転生」シリーズは完全に別物、と言える関係になってしまうのですがそれはここでは置いておきましょう。あまり脱線しすぎると、いつまで経ってもゲーム内容に触れられませんし。
本作のマップは全て地続きになっており、それを計六つのエリアに分けるという形になっています。基本的に拠点となるのはスタート地点のミコンの町で、再開用のパスワードが聞けるのも再開後の出発点になるのもここのみとなります。
ミコンの町も3Dダンジョンで構成されておりますが安全地帯となっており、敵が出る事はありません。このような安全地帯は他には一ヶ所しかなく、そこもエリアボスを倒した後でなければ安全地帯としては機能しないようになっています。
町の施設は武器防具両方を取り扱う辺境の店、HPとMPを回復する回復の泉、そして悪魔合体を行う邪教の館の三つに分かれています。通常のRPGにおける消費アイテムといったものはなく、敵から一定確率でドロップ出来る回復アイテムである宝玉が唯一それに当て嵌まりますが店で買う事は出来ません。
最後の悪魔合体に関しては、本作の肝となる部分ですのでまた後程ご説明させて頂きます。次は本作でのダンジョンの歩き方について、説明させて頂きましょう。
本作のダンジョンは前述した通り六つのエリアに分かれており、それぞれのエリアはダンジョンの見た目、BGM、そして出現する敵の強さまで全てが異なります。エリア移動した途端に敵の強さが跳ね上がるなんてよくある話なので、今いるエリアのボスが倒せるようになるまではエリア移動せず地道にレベルを上げていく事をお勧めします。
道中には落とし穴はありませんが今向いている方角以外全てが見えなくなるダークゾーンやそこにいる間はずっと歩く度にダメージを受けてしまうエリアなどがあり、マッピングを困難なものにしてくれます。またパスワードを聞けるのがミコンの町のみという都合上、中断するだけでも物凄い手間がかかるのも痛手です。
消費アイテムが存在しない都合上道中の宝箱はイベントアイテムが入っているものとマッカ(本作のお金の単位)か敵かどちらかが二分の一の確率で出てくるものの二種類しかなく、あまり助けになるとは言いがたいです。とは言えいくらマッカがあっても足りないのが本作。稼げるところでは、なるべく確実に稼いでおきたいものです。
敵(以下、悪魔)とランダムエンカウントすると戦闘になります。戦闘コマンドには一般的な攻撃、魔法の他に『話す』というものがあり、これが本作を象徴する最大の部分となります。
話すを選択すると、その悪魔との交渉に入ります。悪魔はマッカやマグネタイト(詳細は後述)、それと宝玉をこちらに要求してくるので与えてやると、運が良ければ仲魔になってくれます。勿論仲魔にならない事もあり、それどころかどんなに交渉しても絶対仲魔にならない悪魔までいるのでどの悪魔を仲魔に出来るかは事前によく頭に叩き込んでおきましょう。
ただしシリーズ経験者ほど注意しなければならないのは、本作で悪魔が仲魔になるのはグループの残りが一体になった時のみ、という事です。知らずに二体以上グループに残っている時に交渉しても絶対仲魔にはならないので、無駄にマッカやマグネタイトを減らさないように気を付けましょう。
仲魔に加えた悪魔は共に戦闘で戦ってくれるようになり、直接攻撃や手持ちの魔法で中島達をサポートしてくれます。仲魔は普段ハンドベルトコンピューター(以下、COMP)の中で待機していますがマッカを使って呼び出す事でパーティーに加わり、死ぬか再びCOMPの中に戻すまではずっとパーティーにいてくれる事になります。
しかしその状態だと、移動する度に常にマグネタイトが減っていきます。このマグネタイトは悪魔が実体化する為に必要なもので、もし仲魔がパーティーにいる状態でマグネタイトがなくなってしまうと移動の度に仲魔のHPが徐々に減っていってしまうのでこうなったら大人しく仲魔をCOMPに戻してしまいましょう。
マグネタイトは、仲魔にならない種類の悪魔を倒す事で補給出来ます。ちなみに仲魔になる種類の敵を倒した場合は、一定確率で宝玉がドロップします。
必要な時だけ呼び出し、マグネタイトを節約するか。常に呼び出しておき、マッカを節約するか。マッカやマグネタイトの手持ちと相談して、効率的な方をお選び下さい。
敵を倒し経験値を稼ぐと、レベルアップとなります。本作ではレベルアップによる直接のステータス上昇はせず、レベルアップの度に手に入るポイントを好きなステータスに割り振っていくシステムになっています。
割り振れるステータスはHPに関わるつよさ、MPや魔法の威力、交渉の成功率に関わるちりょく、攻撃力に関わるこうげき、行動順や防御力に関わるきびんさ、逃げる確率など様々な運要素に関わるうんの五種類となっており、どのように割り振るも各プレイヤーの自由です。これらステータスはゲーム開始前にある程度割り振っておく事が出来るので、自分のやりやすいようにカスタマイズしてみましょう。
ただしつよさだけはとあるイベントをこなすのに必要になる為、最初から一定値割り振っておく事をお勧めします。このイベントはクリアに必須なので、つよさを上げるのを後回しにするほどクリアが遠のくからです。
中島と弓子の二人は戦闘でレベルアップしますが、仲魔はいくら戦っても経験値を得られないのでレベルアップする事がありません。COMPに入れておける仲魔の容量も七体までですので、どうしたってそのうち使えない仲魔で一杯になります。
そこで行う事になるのが悪魔合体です。悪魔合体とは、任意で選んだ仲魔二体を合体させて新しい悪魔に生まれ変わらせるというシステムになっています。
当然選んだ仲魔は消えてしまいますが新しく生まれた仲魔は元となった仲魔より強い事が多く、何よりこの悪魔合体でしか仲魔に出来ない悪魔もいる為戦力増強の為頻繁に悪魔合体は行われる事となります。この戦略性と、悪魔とは言え生き物同士を自分の手で合成させる背徳感が本シリーズ最大の魅力と言っても過言ではないでしょう。
シリーズが進むにつれ悪魔合体は奥深さを増し、上級者になるとプレイ時間の大半をこの悪魔合体に費やす、なんて事もあります。この『敵を仲間にして戦わせる』システムは、この後様々なRPGに伝搬していく事となります。
余談ですが「女神転生」シリーズの電脳悪魔絵師として有名なイラストレーター、金子一馬氏は本作の時点ではまだ制作に参加しておらず、登場する悪魔の絵も後継作とは大分趣が違うものとなっております。しかしこれはこれで味があり、シリーズお馴染みのケルベロスなどは実に迫力たっぷりに描かれているので後継作との違いを楽しむのもまた、一興かと。
シリーズ全ての原点となる本作は、まだまだ荒削りではあるもののその独特の魅力をもってユーザーの心を掴む事に成功しました。この後、後年のシリーズの世界観の方向性の礎となる「デジタルデビル物語 女神転生2」が発売される事となるのです。
とりあえず、今回はこれにて。