第五十三夜 おそ松くん バック・トゥ・ザ・ミーの出っ歯
一つ、ゲームの話でもしようか。
今女性を中心に根強い人気を誇るアニメの一つに、「おそ松さん」があります。これは故赤塚不二夫氏の名作ギャグ漫画「おそ松くん」の十年後を描いたとされるギャグアニメで、アニメ「銀魂」と同一のスタッフが作り上げるギリギリを攻めたぶっ飛んだ展開と女性人気の高い声優を惜しみなく使ったキャスティングにより、放送開始されるや否や瞬く間に女性を中心とした高い支持を獲得しました。
今回取り上げるのはその「おそ松さん」……ではなく、元となった「おそ松くん」のゲームとなります。前置きで期待した方がいたら申し訳ありません。
この「おそ松くん」ですが、昭和の終わりに放送されたアニメ版が三十~四十代の方には一番印象が強いかもしれません。おそ松達六つ子よりも、イヤミやチビ太の方が目立っていたあのアニメです。
今回のテーマとなる作品も、そんな「おそ松くん」のアニメ人気が絶頂の頃に発売されました。キャラゲーは地雷、という風潮が既に固まった頃の作品にしては、割とよく出来ているのではないかと個人的に筆者は思います。
では前置きはこの辺にして、そろそろご紹介といきましょう。今回のテーマはこちら、「おそ松くん バック・トゥ・ザ・ミーの出っ歯」となります。
本作はそろそろファミコン全盛期、旧バンダイ、現バンダイナムコエンターテインメントよりファミコンにて発売されたコマンド選択式アドベンチャーゲームです。セーブはパスワード方式となっており、セーブポイントで表示されるパスワードをメモして再開する形となっています。
ストーリーはイヤミの家から古い掛け軸が発見されるが、掛け軸に描かれたイヤミの先祖は出っ歯ではなかった。その掛け軸を見たおそ松は出っ歯ではないイヤミの先祖……にはあまり興味はなく、一緒に描かれたお宝らしきものに興味津々。イヤミから掛け軸をふんだくるとそのままタイミング良くデカパン博士が完成させたばかりのタイムマシンに乗り込み、お宝求めておそ松の時間旅行が幕を開けたのだった……というもの。何と言うか、実にアニメ版「おそ松くん」らしさに溢れています。
本作は探索パートとマップパートに分かれており、マップパートで調べたい場所へ行き探索パートでその場所を詳しく調べるという流れになっています。以下に、それぞれのパートの特徴をご説明します。
探索パートでは一般的なアドベンチャーゲームと同じで、提示されたコマンドの中から適切なものを選んで今いる場所を調査します。コマンドは話をする、考える、カーソルで指定した部分をより細かに調べるなどの基本的なものからひれ伏す、降参するといった一風変わったものなど様々です。
基本的にはしらみ潰しにコマンドを選んでいく事になりますが、一部ゲームオーバー直行の選択肢も含まれているので時には考えて行動する事も必要です。とは言え一般的なバッドエンド有りのアドベンチャーゲームと比べると、その頻度はかなり低めですが。
また探索する場所によっては、『げんき』というステータスを消耗してしまう事もあります。『げんき』は0になるとゲームオーバーとなり、必ず大量の『げんき』を消耗する事になる場所ではそれ以下の『げんき』の時に入ろうとすると必ず門前払いを食うようになっています。
マップパートでは十字キーでおそ松を操り、マップの中を進んでいく事になります。マップは最初から全ての場所に行けるとは限らず、現代以外は進行状況によって行けるエリアが広がっていく仕組みになっています。
各時代のマップには各場所への入口の他にも歩き回っているキャラが何人かおり話しかける事で先に進む為のフラグが立つ場合もありますが、中には話しかけるだけで『げんき』が減ってしまうキャラや、中盤以降になると積極的におそ松目掛けて突進してくる上に触れるだけで『げんき』が減るという完全なお邪魔キャラまで出てきます。これらのキャラにいつ話しかけてもいいように、『げんき』は常に高めに保っておきたいところです。
その『げんき』をどうやって回復するかですが各時代のマップにはそれぞれゲームセンターとホテルが一つずつ存在し、それらの施設でお金を払う事で回復が出来ます。但し時代によっては、ゲームセンターの方は最初は行けない場合もあります。
ゲームセンターでは一回100円(単位は時代によって異なるがどの時代でも持ち金は統一)で神経衰弱が行え、『げんき』を少量回復するお子様ランチか1000円のどちらかの絵柄を揃える事で揃えた方の景品が手に入ります。神経衰弱は間違えるまでは連続してカードをめくる事が出来、当てた分だけ一度に景品を得られますが一度でも間違えると当てた景品は全て没収となってしまいます。
ホテルでは2000円を支払う事により、大幅に『げんき』を回復する事が出来ます。ゲームセンターよりも確実な回復が出来ますが必ず全快する訳ではないので、ゲームセンターが遠い場合などの緊急回復用が面な役割となるでしょうか。なおここでパスワードを取る事も可能で、パスワードを取る場合は当然ながらお金は必要ありません。
もしお金を使い果たしてしまってもご心配なく。マップのどこかには必ずお金が落ちており、拾う事で20円が持ち金に追加されるのです。
拾える金額自体は微々たるものですが、このお金はスクロールで画面を切り替えるだけで復活するので塵も積もれば何とやら。本当に困った時には有効活用しましょう。
さてキャラゲーにおいて最も重要な要素と言えば、原作の再現度です。どんなにゲームとしてきちんとしていてもこれが低いとキャラゲーである意味はなく、逆にゲームとして少々粗があろうともこれが高ければファンには一生もののゲームになったりします。
では本作はどうなのかというと、十分に及第点は満たしていると筆者は思います。時代が時代ゆえに原作漫画版ではなく当時のアニメ版準拠ですがイヤミのお馴染みのギャグ『シェー!』に始まりデカパン博士の真面目な助手チビ太と喧嘩っ早い短気なチビ太を別々の時代に置く事で両立していたり、どの時代でも重要な地位にいるデカパンやどの時代でもどこかとぼけたダヨーン、何よりどの時代でも我が儘でちゃっかり者なのは変わらないヒロイントト子ちゃん。そこに己の欲望にどこまでも忠実な主人公おそ松も加わって、いい意味でドタバタでハチャメチャな物語を繰り広げてくれます。
本作にはゲームオーバー以外にグッドエンドとバッドエンドの二種類のエンドがあるのですが、どちらのオチもなかなかパンチが効いていて面白いと思います。原作がギャグ漫画だからこそ重くなりすぎないバッドエンドが作れたのかもしれないと思うと、なかなか興味深いですね。
キャラゲーの粗製乱造が問題視される中生まれた本作は、原作へのリスペクトを忘れない堅実な良作へと仕上がりました。マイナーな上に版権ものである都合上移植は絶望的ですが、もし本作を手に取る機会があれば是非とも遊んで頂きたいものです。
とりあえず、今回はこれにて。