第四十夜 スーパーマリオUSA
一つ、ゲームの話でもしようか。
かつて、「夢工場ドキドキパニック」という任天堂開発のソフトがフジテレビよりディスクシステムにて発売されました。これは当時日本で開催されていた『夢工場』というイベントのイメージキャラクター達を主人公にした横スクロールアクションゲームで、知名度は高くないながらも実際にプレイしたユーザー達には好評を博しました。
時は流れ、ファミコン最盛期。「スーパーマリオ」シリーズの当時の最新作、「スーパーマリオブラザーズ3」を発売するに当たって、任天堂にある一つの問題が浮上しました。
第三十七夜でも触れた通り、日本での「スーパーマリオブラザーズ2」は海外では発売されておりません。海外でも「スーパーマリオブラザーズ3」を出し、ナンバリングを統一するには急遽、海外における「スーパーマリオブラザーズ2」を用意する必要が出来たのです。
そこで任天堂が打ち出したのが、発売元の違いから海外展開される事のなかった「夢工場ドキドキパニック」を、「スーパーマリオ」シリーズのキャラを使って発売するという計画でした。この計画は大きく功を奏し、「夢工場ドキドキパニック」は海外における「スーパーマリオブラザーズ2」として幅広い支持を得る事になります。
さて、スーパーファミコンも発売されたファミコン後期。ディスクシステムもほぼ終焉を迎え、「夢工場ドキドキパニック」を遊べる機会は殆どない状態になっていました。
時は、ディスクシステムの名作をファミコンに移植しようという流れが起こっていた頃。任天堂はどうにかして、「夢工場ドキドキパニック」を復活させたいと考えます。
しかし「夢工場ドキドキパニック」は前述の通りフジテレビ名義、そうでなくてもいわゆる版権ものです。そのままの復活は絶望的でした。
そこで任天堂は同じシステムを使った、海外で発売した「スーパーマリオブラザーズ2」の逆輸入を試みます。こうして海外における「スーパーマリオブラザーズ2」もまた、日本で発売される事となったのです。
日本での発売に向けて更に改題したその名は、「スーパーマリオUSA」。ここから先は、元となる「夢工場ドキドキパニック」との違いにも軽く触れつつ話を進めていきたいと思います。
本作は前述の通り既にスーパーファミコンも発売されたファミコン後期、任天堂により発売されたファミコンの横スクロールアクションゲームです。元が「スーパーマリオ」シリーズとは関係ないゲームだった為か、「スーパーマリオ」シリーズでお馴染みの大魔王クッパやその手下達が一切出てこないのが特徴です。
ストーリーは夢の国サブコンから助けを求められる夢を見たマリオ、ルイージ、ピーチ姫、キノピオの四人。翌日、ピクニックがてら夢の話をしていると謎の洞窟が出現。それこそが、夢で見たサブコンへと通じる洞窟だった……というもの。
本作最大の特徴として、今まではさらわれたりサポート役に徹したりしていたピーチ姫とキノピオが初めてプレイヤーキャラとなった事が挙げられます。これは元々の「夢工場ドキドキパニック」のプレイヤーキャラが四人であった為で、言わば数合わせの為にプレイヤーキャラに昇格出来たようなものだと言えます。
各プレイヤーキャラはそれぞれ性能が異なり、自分の使いやすいキャラを選んでプレイする事が重要になります。ここでは元々のキャラも合わせ、各プレイヤーキャラの性能を比較していきましょう。
まずはお馴染みマリオ(夢工場ではイマジン)。マリオは全てにおいて平均的な能力の持ち主で、最も癖が少なく初心者にも扱いやすいキャラだと言えます。
次にルイージ(夢工場ではママ)。足をばたつかせながらふんわりと高く飛ぶのが特徴ですが、物を持っている時は飛距離が激減してしまいます。
お次はピーチ姫(夢工場ではリーナ)。全ての能力が低めに設定されていますが、ジャンプした後Aボタンを押しっぱなしにする事で一定時間空中浮遊が出来、ルイージ以上の滞空性能を誇ります。
最後にキノピオ(夢工場ではパパ)。力が強く物を持ち上げる速さ、物を持っている時の移動速度共に最高を誇りますが代わりにジャンプ力は最低です。
以上四人のうちの誰かを選択し、ゲームを進めていく事になります。ちなみに筆者は一貫してキノピオ使いでした。
ステージ上には至る所に草が生えています。これら草はオブジェではなく、上でBボタンを押す事によって引き抜く事が出来ます。
また草だけではなく、上に乗る事が出来る敵全般もBボタンで持ち上げる事が出来ます。これら引き抜いたアイテムや持ち上げた敵を他の敵にぶつける事によって、敵を倒す事が可能になるのです。
また草を引き抜いていると、時々三角フラスコ(夢工場ではランプ)が現れる事があります。これは敵にダメージを与える事は出来ませんが、代わりに裏世界へと通じる扉を出現させる事が出来ます。
裏世界にいられるのは一定時間のみでスクロールもしませんが、裏世界のどこかにはライフアップアイテムのキノコ(夢工場ではハート)が隠されておりこれを取る事でそのステージ限定で通常2のライフを最大4まで上げる事が出来ます。キノコは最初のうちは三角フラスコの埋まっているすぐ近くにある事が多いですが、ステージを進むうちに三角フラスコを長距離運搬する必要が出来、取る方法も一工夫が必要となってきます。
更に裏世界ではステージ最初の二回だけ、生えている草がステージクリア後のミニゲームを行うのに必要なコインに変わります。これによって、まず草が沢山生えている所でコインを荒稼ぎしてからキノコを探すか、もしくはキノコだけさっさと探して先を急ぐかの選択が可能になっています。
敵は前述の通り本作が初登場のものばかりで、「スーパーマリオ」シリーズでお馴染みの敵キャラ達は全く出てきません。しかしヘイホーやキャサリンのように、本作が「スーパーマリオ」シリーズの一つとして発売された事により後のシリーズ派生作品にも多く顔を出す事になったキャラ達も中には存在します。
「夢工場ドキドキパニック」からの変更点としましては、ボスキャラの増加が挙げられます。石を投げつけ攻撃してくるワールド5のボス『チョッキー』は元々の「夢工場ドキドキパニック」にはいなかったボスでした。
他にも鍵のかかった扉を開ける鍵を守護する敵『カメーン』のデザインが異なるなど、細かい変更がなされている箇所もあります。変更に至った詳しい理由は不明ですが。
さて「夢工場ドキドキパニック」と本作の最大の変更点。それは真のエンディングを見るのに必要なプレイ回数です。
「夢工場ドキドキパニック」では、真のエンディングを見る為には全キャラでラスボスを倒す必要がありました。しかし本作にはセーブ機能が存在しない為、どのキャラでも一度クリアするだけで真のエンディング……一つだけしか存在しないのをそう言っていいかは解りませんが、とにかく、エンディングを見る事が出来るのです。
これは、途中セーブが可能になった本作の他機種移植版においても変わらない仕様となっています。苦手なキャラでまでクリアしなきゃいけないのは大変ですものね。
こうして数奇な運命を辿り、「夢工場ドキドキパニック」は本作として広く世に知られるようになりました。もしも日本と同じ「スーパーマリオブラザーズ2」が海外でも出ていたら本作も生まれなかったのかもしれないと思うと、ちょっぴり感慨深いですね。
とりあえず、今回はこれにて。