第三十三夜 ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者
一つ、ゲームの話でもしようか。
「ゼルダの伝説」「メトロイド」と次々と大ボリュームのディスクシステム作品を世に送り出した任天堂。そんな任天堂が次に目を付けたのは、アドベンチャーゲームでした。
ディスクシステムの持つ容量とソフト単価の安さを利用して、前後編の二作に分かれた大作アドベンチャーゲームを作るべく開発を開始したのです。結果、ディスクシステムにて数多くの名作と呼ばれるアドベンチャーゲームが産み出される事となります。
任天堂は同時期に二つの開発チームを作り、それぞれに設定やシステムが異なるアドベンチャーゲームを作るよう命じます。そのうちの一つが、「スーパーマリオ」シリーズや「ゼルダの伝説」シリーズの産みの親である宮本茂氏が手掛けた「ふぁみこんむかし話」シリーズです。
そしてもう一つが、後に「メトロイド」シリーズのプロデューサーとなる坂本賀勇氏が手掛けた「ファミコン探偵倶楽部」シリーズ。今回はその処女作、「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者」についてお話しようと思います。
本作はディスクシステムが最盛期を迎えていた頃、前述の通り前後編に分かれて発売されました。前編と後編は同時に発売された訳ではなく、その発売の間には約二ヶ月の開きがありました。当時発売直後に前編を買ったユーザーは、二ヶ月の間やきもきしながら後編の発売を待たなければならなかったのです。
ストーリーは記憶喪失となった主人公が橘あゆみという少女との出会いにより自分が空木探偵事務所に所属する探偵であった事、そして何らかの事件を手掛けている最中に行方不明になったらしい事を知る。あゆみから聞いた僅かな手掛かりを頼りに寒村に居を構える名家、綾城家に辿り着いた主人公だったが、それは恐ろしい連続殺人事件が起きる幕開けに過ぎなかった……というもの。作中では綾城家に纏わる不気味な言い伝えも語られ、どことなく横溝正史の世界を彷彿とさせます。
システムは非常にオードソックスなコマンド選択式。罠選択肢によるバッドエンドこそないものの一部文字の直接入力が求められる部分や選ぶ選択肢を捻らなければならない部分もあり、攻略は決して一筋縄ではいきません。
連続殺人事件が題材となっているだけあり、事件の関係者である登場人物達が次々と死亡していくのも大きな特徴です。推理小説を読み慣れていたりすると「ああ、こいつは死ぬな……」と事前に予測出来たりしてしまえるのが難点ですが、関係者の死亡によって二転三転していく捜査状況は下手な推理小説よりもよっぽど読み応えがあるレベルです。
関係者達を殺したのは一体誰なのか、何故主人公は記憶を失わねばならなかったのか。そして主人公の失われた記憶の先にあるものは……その全てが明らかになった時、あなたの心には果たして何が残るでしょうか。
さて遡る事第四夜、ゲームに関するトラウマの話をしたのを皆様覚えておいででしょうか。小さい頃は夢にまで見たほどの、トラウマゲームがあると。
何を隠そう本作こそが、そのトラウマゲームなのです。何がトラウマなのかと申しますと、ずばり作中で出てくる死体の描写です。
これがまた、グロさこそないもののとんでもなくリアルなのです。目がカッと見開かれた刺殺体、逆に虚ろな目で木にぶら下がる首吊り死体……恐怖を煽るBGMも相まって、幼い筆者は本気でガチ泣きする寸前でした。
何しろ前編発売時、この死体の描写が全国のちびっ子達を泣かせた為に後編の死体描写はカメラを引いた曖昧なものばかりになったという話が出たくらいです。……もっとも後編も後編で、開始直後に前述の首吊り死体とご対面となるのですが。どうやら死体描写の路線変更を決めたのは、後編冒頭を作った後だったようです……。
唯一の救いと言えば、当時リアルタイムで本作を持っていたのが筆者ではなく筆者の友人だったという事でしょうか。友人がプレイするのを隣で見ているという形でなければ、筆者はきっと耐えられなかったと思います。まして一人で遊んでいる最中に当該シーンに初遭遇していたらと思うと、寒気がします。
大人になり、ファミコンミニでやっと実際に本作を手に入れた頃には流石に恐怖を克服出来るようになっていましたが……それでも死体が出てくるシーンになると、早く終われ早く終われと心の中で唱えまくっていたのはここだけの秘密です。
そんな全国のちびっ子にトラウマを植え付けつつも、推理小説ファンを中心に大好評を得た本作。本作を始祖とした「ファミコン探偵倶楽部」シリーズは、その後スーパーファミコンの時代まで続いていく事となります。
とりあえず、今回はこれにて。