第二十六夜 クロノ・トリガー
一つ、ゲームの話でもしようか。
「ドラゴンクエスト」と「ファイナルファンタジー」のスタッフが一緒に一本のゲームを作る――。
スーパーファミコン全盛の時代、まだエニックスとスクウェアが別々の会社として存在していた頃、これは本当に凄い事でした。
何しろ「ドラゴンクエスト」と「ファイナルファンタジー」と言えば、当時の日本のRPG界の人気を二分していた言わばライバル同士です。歴史上の人物で言えば、徳川家康と石田三成が手を組んだようなものです。
その、まさに夢のようなプロジェクトの名は、その名もストレートに『ドリーム・プロジェクト』。そしてその『ドリーム・プロジェクト』により産み出されたソフトこそが、今回ご紹介する「クロノ・トリガー」なのです。
本作は前述通りスーパーファミコン全盛、あと少しでセガサターンやプレイステーションなどの次世代機が出ようかという頃に旧スクウェア、現スクウェアエニックスから発売されたスーパーファミコン用のRPGです。プロデューサーに「ファイナルファンタジー」の産みの親である坂口博信氏、シナリオに「ドラゴンクエスト」の産みの親である堀井雄二氏、キャラクターデザインに「ドラゴンクエスト」のキャラクターデザインであり言わずと知れた「ドラゴンボール」の作者である鳥山明氏を迎えたその豪華スタッフ陣は、現在においてもなお最高峰と言えるレベルのものであると思われます。
ストーリーはガルディア王国に住む主人公クロノが建国千年を記念する祭で少女マールと出会い、幼馴染みルッカの発明品によってマールが消えてしまった事を切欠に時間を越えた壮大な旅に出る事になる……というものです。いわゆるタイムトラベルものなのですが、過去の時代でクロノ達がした事が現代にも影響を及ぼすなどタイムトラベルものとしての基本はばっちりと掴んでいます。
まず本作の特徴としては、ストーリーの各区切り毎にサブタイトルが付けられている事が挙げられます。セーブデータ画面で確認出来るこのサブタイトルは、今自分がどの辺りを進めているのか解りやすくしてくれると共に次はどんなサブタイトルがつくんだろう?という期待感を煽ってくれる役にも立っています。このシステムは、後に「ゼノギアス」などに継承されていく事となります。
今の時代には珍しくなくなった『強くてニューゲーム』が初めて登載されたのも本作です。イベントアイテム以外レベルや技、アイテムをクリア直前のデータからまるっと引き継いで最初から始められるこのシステムは、後述のある仕様に大きく貢献してくれる事となります。
鳥山明氏によってデザインされた、個性的なキャラクター達も本作の魅力の一つです。見た目とは裏腹の熱い志を持つ剣士カエル、心優しき二足歩行ロボットのロボ、何事も豪快な原始の女族長エイラなど、彼ら彼女らの持つ熱く、時に悲しいストーリーはプレイヤーをゲームに引き込む事に一役買っています。
本作は移動と戦闘がシームレスで行われ、今歩いているマップがそのまま戦闘フィールドになります。キャラやマップが立体的になり、リアルさが追求されるようになった現在ではごく一般的な仕様になりましたが、これを2Dドット絵時代にやってのけたのが本作の凄いところです。
戦闘は当時のFFで一般的だったATB(アクティブタイムバトル。リアルタイムの経過によってターンが訪れ、こちらがコマンドを入力しなくても敵が行動してくるシステム)が採用されており、敵は戦闘フィールド上をうろうろと歩き回ってはこちらに近付いて攻撃を行ってきます。この、『敵が戦闘フィールド上をうろうろ歩き回る』というのが本作での戦闘におけるポイントとなっておりまして、通常攻撃を行う分には位置は関係ないのですが技を使う場合、各技に設定された効果の範囲内により多くの敵を巻き込む事で複数の敵にダメージを与える事が可能になるのです。
勿論各キャラ最強の技ともなると効果範囲は戦闘フィールド全体とかになるのですが……。そこまで行くのは大抵クリア直前とかなので、プレイの大半は技の効果範囲を気にしながら使っていく事になります。
また、二人以上のキャラが協力して技を放てるのも本作の特徴です。これも現在のRPGでは珍しくなくなりましたが、当時としてはこれらド派手な合体技は実に画期的だったのです。
さて、本作最大の特徴として『いつでもラスボスに戦いを挑める』というものがあります。本作では序盤の終わり頃までストーリーを進めるとラスボスの元へ通じるゲートが開放され、以降いつでもラスボスと戦えるようになります。
とは言え初めてラスボスに挑めるようになった段階で戦いに赴いても、ラスボスが弱体化する訳ではないのでまるで相手になりません。ラスボスを倒せるだけのレベルや技、アイテムが整うのはそれこそ終盤になってからの事になります。
では、何の為に序盤からラスボスに挑めるようになっているのか? その答えが、前述した『強くてニューゲーム』です。
『強くてニューゲーム』は前述の通り、クリア直前のデータを引き継いだ状態で最初から始める事が出来ます。つまり、本当の意味でいつでもラスボスに挑める状態が出来上がる訳です。
それによるメリットも勿論あります。本作は、ラスボスを倒した時期によってエンディングが全く異なるものになるというマルチエンディング方式が採用されているのです。
また強くてニューゲーム開放後には、スタートしてすぐに行ける場所にラスボス直通のゲートが出現するようになります。それを使い、スタート直後にラスボスを倒すと……? その結末は、ご自身の目でお確かめ下さい。
後の世のゲームに継承された要素も多い、まさに『ドリーム・プロジェクト』の名に相応しい作品となった本作。現在においても数多くの根強いファンを持つ本作は、きっとプレイヤーの皆様に夢のような時間を提供してくれる事でしょう。
とりあえず、今回はこれにて。