第二百十三夜 サイレントヒルゼロ
一つ、ゲームの話でもしようか。
かつてアクションホラーの名作シリーズ「バイオハザード」に並ぶ勢いの、コナミのアクションホラーシリーズがありました。その名は「サイレントヒル」。
『現実に侵食していく恐怖』をより克明に描いたこのシリーズは好評を博し、二度の実写映画化もされました。しかし次第に売上が伸び悩んでいくようになり、コナミのゲーム事業縮小と共にぱったりと音沙汰がなくなってしまいます。
今回は筆者が直にプレイした、唯一の「サイレントヒル」シリーズをご紹介します。初の携帯機でのシリーズ作で、シリーズ最古の時代を描いた物語。「サイレントヒルゼロ」です。
本作はPSP中期、コナミよりPSPにて発売された3Dアクションアドベンチャーゲームです。開発はコナミとは別の会社で、その為かそれまでのシリーズとは細かいシステムが異なっています。
以下はストーリー。トラック運転手のトラヴィス・グレイディは配送の仕事の為、夜の道をサイレントヒルに向けてトラックを走らせていた。しかし町外れに差し掛かった頃、突然ライトの前に現れた小さな影に慌ててトラックを急停止させる。幸いトラックはその影に当たる事なく止まり、何事かとトラヴィスはライトに照らされた先を見る。そこにいたのは、まだ幼い少女だった。トラヴィスの見ている前で、逃げるように奥の道に駆けていく少女。トラヴィスがトラックを降り少女の後を追うと、そこには燃え盛る一軒の家があった。そしてその前には不審な女性の姿……。何があったのかトラヴィスは女性を問い質そうとするが、直後に少女の悲鳴が家の中から響き、悲鳴の主を救う為意を決して炎の中に飛び込んでいく。悲鳴の主は二階にいた。全身に火傷を負った、変わり果てた姿となって……。しかし少女にまだ息がある事を確認したトラヴィスは、その体を抱き上げやっとの思いで家の外に連れ出す。そこで限界を迎えたトラヴィスはそのまま意識を失い――。次にトラヴィスが目覚めた時、彼は何故かサイレントヒル市街地のベンチの上にいた。何故自分がこんな所にいるのか訝しみつつも、少女の安否を確かめる為トラヴィスは地図を頼りに妙に人気のない通りを抜けてアルケミラ総合病院へと向かう。病院に辿り着いたトラヴィスだったが、そこで出会った院長を名乗るカウフマンという男に『そんな急患は来ていないし、入院もしていない』とすげなくされてしまう。納得のいかないトラヴィスはそのまま足早に立ち去ったカウフマンを追うが、立ち去った先にカウフマンはおらず、代わりに看護師のような姿をした奇妙な化け物が……。辛くも化け物を撃退したトラヴィスは、その先で血と膿にまみれた世界を映し出す奇妙な鏡を見る。そしてその鏡にトラヴィスが触れると目眩が起こり、気が付くと彼は血と膿にまみれた世界の中にいた――。鏡の中と鏡の外。時折現れる謎の少女に導かれるようにして、その二つの世界を行き来しながら、トラヴィスはやがてサイレントヒルで起きている事件の真相に迫っていく。それは同時に、彼が記憶の底に封印していた過去をも浮かび上がらせていくのであった。トラヴィスの過去、そして今サイレントヒルで起きている事とは一体――? といった感じになっています。
本作は初代「サイレントヒル」の前日譚という位置付けになっており、初代で登場したキャラクター達も何人か登場しています。その為初代をプレイ済みの人には本作のエンディング及びその後が思いっきりネタバレされている事になりますが、往々にして前日譚とはそんなもの。
本作と従来のシリーズ作品との違いその一、裏世界の扱い。とはいえそれを語るには、まず裏世界とは何なのかを説明しなければなりませんか。
「サイレントヒル」シリーズには、『表世界』と『裏世界』という概念があります。表世界とは基本は現実に近いものの外が常に霧に覆われている世界を指し、裏世界とは辺り一面血と膿だらけで、地面が金網となった汚れた世界を指します。
プレイヤーキャラはこの二つの世界を行き来しながら、探索を行っていきます。どちらにいようが敵であるクリーチャーは出るので実際はどちらも異世界には違いないんですが、とりあえず便宜上の呼び名とお考え下さい。
従来のシリーズでは、世界間の移動はストーリー進行に合わせて行われました。自発的な移動は出来ず、表世界なら表世界を、裏世界なら裏世界を重点的に調べる事でもう一つの世界への道が開けるようになっていました。
しかし本作の世界間の移動は、様々な場所にある鏡に触れる事によって行われます。即ち従来と違って、自発的な移動が可能である訳です。
本作では頻繁に表世界と裏世界の行き来を行い、先に進んでいく事となります。表世界では途切れていた道が裏世界では繋がっていたり、またはその逆だったりする為、行き詰まったらとりあえず世界移動というのが本作では鉄則となります。
もっともゲーム的なギミックとしては面白いものの、ホラーとして見た場合は従来のじわじわと現実が侵食されていく感覚が若干薄れたような気も……。これまでホラーらしさを優先してきた本シリーズとしては、らしくない変更点だったかなと思います。
本作と従来のシリーズ作品との違いその二、武器のシステム。本作の武器は、大まかに分けて三つに分類出来ます。
ハンマーや調理用ナイフなどの近接用武器。ショットガンや狩猟用ライフルなどの遠距離用武器。そしてタイプライターやポータブルテレビなどの投擲用武器。ちなみに毎度お馴染み鉄パイプは今回は未登場。
このうち遠距離用武器は、従来のシリーズと使い勝手は変わりません。しかし近接用武器と本作初登場の投擲用武器は、かなり勝手が異なっています。
まず近接用武器。従来の、というかこの手のアクションホラーでは、近接用武器はリーチに難があるものの使用回数無制限というのが定番でした。
しかし本作の近接用武器には、クリア特典を除き全てに耐久値が設定されています。耐久値がなくなった武器は壊れ、永久に失われてしまいます。
そして投擲用武器は、攻撃に使えるのは一回こっきりの完全使い捨て。しかも例え当たらなくても、再回収は不可能となっています。
この仕様の為、本作では実に大量の武器が手に入るようになっています。点滴用支柱だの書類整理棚だの全部纏めて持ち歩くトラヴィスさんの四次元ポケット凄いですね。
更にそれだけではなく、何と武器を一切装備していない素手の状態でもクリーチャーと戦り合う事が出来ます。流石体力勝負のトラック運転手、鍛え方が違う。
ちなみにこんな戦う気満々仕様な為か、本作のクリーチャーの数は割と多め。ここも道中のクリーチャーとガチで戦り合う事を前提にしていない従来のシリーズ作品とは趣が異なっている部分です。
クリーチャーデストロイプレイも従来より遥かに簡単になっている辺り、もう半分くらい別ゲー。もっともこの辺りは、トラヴィスに纏わるある事柄の伏線も兼ねているのかもしれませんが……。
本作と従来のシリーズ作品との違いその三、UFOエンディング。これも知らない方の為にご説明しますと、本シリーズでは今までの流れをぶち壊しにするようなギャグエンド、通称UFOエンディングがある事が恒例となっているのです。
一度は「サイレントヒル2」で外されたこのエンド、加えて欲しいという要望が多かったのか完全版に位置する「サイレントヒル2 最期の歌」では新たに追加され、後に発売された「サイレントヒル3」では更なるはっちゃけと共に当然の如く搭載されました。ナンバリング最終作となる「サイレントヒル4」では前作でやりすぎたのを偉い人に怒られたのか搭載されず、期待していたプレイヤーを酷く落胆させたとか。
で、そのUFOエンディング、本作にも存在します。してるんですが……何か違う。全然ギャグじゃないし、寧ろいい話になってる。
これも開発がコナミじゃないからか、それともUFOエンディングを入れてもいいけどはっちゃけるのは禁止という上からのお達しがあったのか……。どちらにせよ、こんな中途半端に入れるくらいならなくてもよかったのになあ……と個人的には思ったりします。
ここからは従来通りのところや純粋な追加要素色々。まず「サイレントヒル」シリーズを象徴するアイテムとして、『ラジオ』があります。
これはクリーチャーが近くに接近するとノイズを鳴らし、それを教えてくれるというアイテムです。本作ではクリーチャーがノイズの音に気付く事はありませんが、作品によっては気付く事もあるようです。
ノイズの音はクリーチャーとの距離が近くなる度、次第に大きくなっていきます。灯りがなければ周りがよく見えないような場所では、この音が結構生命線になったりします。
ちなみにライトを点けて前方を明るくする事でもクリーチャーを確認出来ますが、クリーチャーはライトの光に敏感に反応しこちらに向かってきます。あまりクリーチャーと戦いたくないような時は、ラジオが鳴ったらすぐにライトを消すのが無難。
そして謎解き。本作にも従来のシリーズ作品のように、多くの謎解きが用意されています。
とはいえ本作にはパズル的要素は少なめで、シリーズ初心者にも優しくなっています。モーテルの日付入力でちょっと詰まるかもしれないくらいか。
また「サイレントヒル3」から追加されたトドメを刺すモーションも健在で、クリーチャーにトドメを刺しておくとそのクリーチャーはもう二度と復活しません。復活する度倒し続ける事でもいつかは完全に死にますが、かかる手間を考えるとトドメを刺しておいた方が遥かに楽。
やり方はクリーチャーがダウンしたら、近付いて攻撃ボタンを押すだけ。ちなみにクリーチャーの中には、一度ダウンしただけで完全に死ぬものもいます。
本作ならではの要素としては、称号があります。これはプレイ中に決められた条件を満たしてクリアする事で、そのプレイデータに様々な称号が贈られるというものです。
称号はただ贈られるだけではなく、贈られた称号によってトラヴィスの服装を自由に変える事が出来ます。中にはシリアスがぶち壊しになるような服装も……。
またクリア特典の武器の中には、この称号が必要なものもあります。あまり強くない武器もありますが、手に入るとちょっと嬉しい?
本作以降シリーズの展開は国外が中心になっていき、それもあってか国内での知名度や売上は伸び悩んでいきます。そしてやがて、国外でもその系譜は途絶えてしまう事となります……。
とりあえず、今回はこれにて。
 




