第二百八夜 天外魔境ZIRIA
一つ、ゲームの話でもしようか。
今回のテーマは何と本エッセイ初、PCエンジンのソフトです! ……正確にはPSPに移植されたものをやっただけなんですけどね。
PSPソフト、「天外魔境コレクション」。PCエンジンにて発売された「天外魔境ZIRIA」「天外魔境II卍MARU」「天外魔境風雲カブキ伝」「天外魔境カブキ一刀涼談」の四本のソフトが一本で楽しめるという、お得感満載の移植作品です。
今回はその中の一本、「天外魔境ZIRIA」をテーマにお送りしたいと思います。ただここで残念なお知らせが。
実は筆者、この「天外魔境ZIRIA」しかクリアしていない状態で「天外魔境コレクション」をやむを得ず売ってしまった為、他のソフトの紹介が出来ません。特に一番人気である「天外魔境II卍MARU」を遊ばずに売ってしまったのは痛恨の極み……。
そんな悲しみに暮れつつも本文、いってみましょう。
本作はPCエンジン中期、ハドソンよりPCエンジンにて発売されたRPGです。当時PCエンジンの新しいROM媒体として発売されたばかりのCD-ROM2で出た初のRPGで、ゲーム中の本格的なアニメーションや声優によるボイスが初めて搭載されたRPG作品でもあります。
以下はストーリー。東洋の神秘の伝わる、黄金の国ジパング。このジパングに今、危機が訪れようとしていた。海の向こうからやってきた『大門教』という集団が、江戸のショーグンに取り入り各地で悪事を働き始めたのだ。大門教の目的は、かつてジパングの支配を企み勇者の一族である火の一族に封じられたマサカドの復活。その為に人々を苦しめてからその苦痛に満ちた魂を抜き取り、マサカドに捧げているのだ。筑波国は筑波山に住むガマ仙人の元で鍛えられた火の一族の一人、自来也は、大門教の野望を阻止する為に旅立つ事を決意する。その行く手に立ち塞がるのは、大門教の中でも最も強い力を持つ大門教十三人衆。果たして自来也は十三人衆を打ち倒し、マサカド復活を阻止する事が出来るのか――!? といった感じになっています。
本シリーズは『外人から見た間違った日本観』がコンセプトとなっており、地名などは実際の歴史に沿っていますがそれ以外は割とぶっ飛んだ設定になっています。でもその割には外人が大好きなニンジャサムライはあんまり出てこない。自来也を始めとしたパーティーメンバー三人の名前の由来が忍者で、服装もちょっとそれっぽいかなというくらい。
ちなみに架空の原作として、P.H.チャダという人物が書き記したと言われる『FAREASTOFEDEN』という本が存在します。シリーズ作品は全て、この本を元にゲーム化したという設定。
本作の特徴と言えば何と言っても、戦闘でボスキャラがアニメーションする、そしてイベントの要所要所でボイスが入る。当時CD-ROMをこういう風に使ったゲームはまだ存在せず、本作が如何に画期的だったかが解ります。
声優陣も豪華で自来也に岩田光央氏、綱手に渡辺菜生子氏、大蛇丸に塩沢兼人氏と当時の人気声優を惜しみなく起用。開発のレッドカンパニーは元々アニメなどの企画を手掛けていた会社だったので、声優業界とはパイプがあったのでしょう。
また当時の週刊少年ジャンプの読者コーナー「ジャンプ放送局」で露出はあったものの声優としてはまだ無名だった横山智佐氏もこの頃からチョイ役で登場しており、以後レッドカンパニー製のゲームにはちょいちょい出演するようになります。人に歴史あり。
さて先程から触れているのがアニメーションとかボイスばかりで肝心のゲームとしてはどうなのかと言うと、これが意外にもオードソックスな和風RPG。とはいえそこはレッドカンパニー、この頃から定番はきちっと外してきます。
まず本作のパーティー構成は男二人に女一人。こう来ると普通は紅一点に魔法使い系の役割を当てると思いますが、本作は違います。
本作の紅一点、火の一族の一人綱手は何とドの付く超脳筋。術は一切使えず、素の攻撃力もパーティー中最高となっています。
紅一点がこんなキャラだというのも、当時はなかなかなかったと思います。ビジュアルが微妙に美少女とは言いがたいのも、定番を外した部分か。
また終盤、自来也達一行は大門教が本拠地とする江戸に乗り込んでいく訳ですが、これが入った途端に超歓迎ムード。町人達は皆一行を褒め讃え、これで大門教なんか怖くない!と町中がお祭り騒ぎとなります。
普通敵の本拠地と言うともっと暗い雰囲気を想像するものですが、これには完全に面食らいました。もっともこの後、更に予想もしなかったオチが待っているんですけれども……。
後は自来也達一行を、表立って支援してくれる組織が存在する事。彼らは各地に点在する『雲切の里』を拠点とし、戦闘に参加する事はない代わりにその地域の情報を集めて一行を手助けしてくれます。
個人が主人公達を手助けしてくれる事は珍しくなくても、一つの組織が最初からまるっと協力してくれるというのはかなり珍しい流れです。大抵のゲームでは、主人公一行だけの戦いになりがちですからね。
本作のイベントで印象的なものと言えば、アシモト五兄弟のイベント。終盤、敵に捕らわれた綱手を救出する為ある城に行かなければならないのですが、そこに立ち塞がるのがこのアシモト五兄弟。
見た目も口調も全く一緒のこの五兄弟、名前通りとにかく人の足元を見てくる。綱手の囚われている城に通じるこの一本道を通りたければ、通行料を寄越せとこう来る訳です。
しかも通行料の額はだんだん吊り上がっていき、終いには所持金全額とか言われる始末。それだけでなく預かり所に預けているお金やアイテムも全て寄越せと言われ……。
しかしこれには抜け道もあり、所持金全額はその時点でお金を全額預けておけば、預かり所のもの全部はお金を全額、アイテムもどうしても必要なものは引き出してそれ以外を引き渡せば被害は最小限で済みます。実プレイ時それに気付かず、本当に色々巻き上げられてしまった筆者の愚かさよ……。
ちなみにこのアシモト五兄弟、後のシリーズにもちょいちょい出演する準レギュラーキャラとなっていきます。やっぱり気付かず巻き上げられた人が多く、印象に残りやすかったのか……。
本作の術はMP消費制ですが、術そのものは装備制。同じハドソンから出た「邪聖剣ネクロマンサー」も、同様のシステムになっていました。
但しキャラによって装備出来る魔法の種類が違っていた「邪聖剣ネクロマンサー」と違いこちらは自来也と大蛇丸、どちらも装備出来る術は一緒でその全てが使えます。術が使えない綱手も、MPが0から上昇しないだけなので術の装備自体は出来ます。
これを利用し、普段は使わないけど手元には置いておきたい術を一旦綱手に預けておく事が出来ます。一時的な術預かり所みたいな感じです。
それ故綱手が一時的に抜ける終盤始めは術の遣り繰りに苦労する事になりますが……。本当にいらない術は、前述のアシモト五兄弟に押し付けてもいいかも。
また本作、敵を倒すだけでなくイベントをこなす事でも経験値が入ります。この辺りはTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)のシステムに少し通ずるところがあります。
もっともTRPGとは違い敵を倒すだけでも十分な経験値は得られるので、イベントで入る分は単純にボーナスとお考え下さい。終盤になるとヤケクソに近い頻度でイベント経験値が入って来るようになりますが。
基本的には癖の少ないRPG。そこにレッドカンパニー独特のセンスが加わって、色々と規格外な作品に仕上がったのが本作。
一番人気の次作には劣るかもしれませんが、遊んでみれば、きっと楽しさが伝わる筈です。
とりあえず、今回はこれにて。
 




