第二百二夜 ビタミーナ王国物語
一つ、ゲームの話でもしようか。
日本が平成の世を迎えたばかりの頃。それまでは取り沙汰される事のなかったある話題が、徐々に世間に広まり始めました。
それは環境問題。森林破壊、海洋汚染、拡大していくオゾンホール……地球を取り巻く数々の問題が、広く人々に知れ渡るようになりました。
そんな環境問題が注目され始めた頃に発売された、一本のゲームソフトがあります。残念ながら売上は奮いませんでしたが、現実の世界の問題を取り扱ったRPGとしては初のものであると記憶しています。
今回のテーマはそのゲームソフト。「ビタミーナ王国物語」です。
本作はゲームボーイ初期、旧ナムコ、現バンダイナムコエンターテインメントよりゲームボーイにて発売されたRPGです。キャラクター名、地名、アイテム名などその殆どが食べ物に関わるという一風変わった世界観になっています。
以下はストーリー。主人公イート(名前変更可)はある日父親と共に、環境の調査の為にとある森を訪れていた。一人森の奥へと向かっていった父親の帰りを待つイートだったが、その時何もない空間から一人の老婆と一匹の魔物が現れる。戸惑うイートの目の前で、戦いを始める二人。そしてイートは老婆の唱えた転移の魔法の暴走に巻き込まれ、自分の暮らしていた世界とは違う世界『ビタミーナ王国』に飛ばされてしまう。転移の魔法の暴走の影響で魔力を失い窮地に陥った老婆をすんでのところで救い、魔物を撃退したイートは、ババロアと名乗った老婆にその腕を見込まれ、ビタミーナ王国を我が物にせんとする魔王『天下仏』との戦いに身を投じる事になる。果たしてイートは、天下仏を倒す事が出来るのか。そして、元の世界に無事帰る事は可能なのだろうか――? といった感じになっています。
今回のあらすじも記憶が頼りなので、もしかしたら細部が違っているかもしれません。間違ってたらすみません。
本作の戦闘は一対一のタイマン勝負なのですが、そのシステムが少々変わっています。というのも、全ての流れが可能な限り簡略化されているのです。
本作はターン制で、ターン毎に行動を選択するんですが、その選択の仕方が特殊。何とボタンを一回押すだけ。
戦闘で選択出来る行動は、大まかに分けると三つ。攻撃、魔法、逃亡です。
本作ではこのうち攻撃をAボタン、魔法を十字キー、逃亡をBボタンに割り振っています。取りたい行動に対応したボタンを押すだけで、即行動に移れる訳です。
この時同時に敵の行動も行われ、互いに与えたダメージや魔法の効果が一緒に表示されます。回復行動を行った時には回復値からそのターンに受けたダメージを引いた値だけ回復し、ダメージが回復値を上回っていた場合にはダメージから回復値を引いた分だけダメージを受けます。
この為本作の戦闘は、大変スピーディーに進んでいきます。ボス戦以外で長引く事はないってくらい。
魔法を使いたい時はまず、移動中のメニューで十字キーの上下左右にそれぞれ対応した場所に使いたい魔法をセットしていきます。但しこのうち右だけは、回復魔法しかセット出来ないようになっています。
魔法をセットし終わったら、戦闘中に使いたい魔法をセットした方向に十字キーを押すだけ。ただ当然MPが足りなければ魔法を使う事は出来ないので、残りMPに常に留意しておくべし。
なお全魔法のうち『カイポ○-○(○の部分には数値が入る)』という回復魔法だけは、MPを一切消費せずに使う事が出来ます。その代わり使用する度に右側の数値が減っていき、0になると消滅してしまうという半分アイテムのような存在となっています。
ストーリー中、主人公の旅路には何人もの仲間が加わります。彼女達は直接戦闘に参加する事はありませんが、ターンとターンの間にこちらに有利になるよう支援を行ってくれます。
ここではそんな仲間達を、一人ずつご紹介していきます。ちなみに全員女性で、野郎は一人もいないというギャルゲー状態。いやまあ最終的にはギャルゲーになるんだけどもこれ。
エーナはビタミーナ王国の第一王女。一番最初に仲間になるキャラですが、すぐに離脱する上その後はラストダンジョンまで出番がなく、目立ったイベントも用意されていないと何かと不遇なキャラかも。
戦闘ではその戦闘中に限り、主人公を庇って防御力を倍にしてくれます。支援効果も地味なのがまた不遇……。
ビーナはビタミーナ王国の第二王女。最も最後に出会う事になる王女で、そのグラフィックの可愛さから断トツの人気を誇りますが、出会った時には既にウオッカという子持ちの男性と相思相愛である事に血涙を流したプレイヤーも少なくないとか。
戦闘では支援してくれた次のターンに限り、バリアを張って敵の攻撃を完全シャットアウトします。魔法だろうがお構いなしで防ぐので、敵の魔法攻撃が激しい登場エリアでは救いの神。
シーナはビタミーナ王国の第三王女。男勝りな性格で、独自にレジスタンスを組織し天下仏への抵抗活動を行っています。イベント面ではビーナと並び、最も優遇されているキャラ。
戦闘では果敢に敵に斬りかかり、追加ダメージを与えます。この時のダメージは主人公の攻撃力に依存するので、主人公が強くなればそれだけシーナも強くなる事になります。
ディーナはビタミーナ王国の第四王女。多分グラフィックで最も損してるキャラ。とてもじゃないけどビーナやシーナより年下には見えない……。
戦闘では敵の弱点を分析し、その戦闘中敵の攻撃力・防御力・素早さのどれかを半分にしてくれます。どれが下がるかは完全ランダムなので、いまいち当てにしにくいのがネック。
イーナはビタミーナ王国の第五王女。本作のロリ担当兼、初めて本格的に同行してくれる仲間です。グラフィックもビーナの次に可愛いと評判。
戦闘ではその戦闘中に限り、主人公を応援して攻撃力を倍にしてくれます。最も使い勝手のいい支援効果なだけに、仲間になってくれるのが一度きりなのが残念……。
ババロアはビタミーナ王国の宮廷魔術師。主人公をビタミーナ王国を巡る争いに巻き込んだ張本人で、本来は強い魔力の持ち主ですがストーリー中はその力の大半が失われています。
戦闘では三種の攻撃魔法の中から一つを使い、敵を攻撃してくれます。上手く敵の弱点の魔法が出てくれればダメージ倍プッシュ。
シャクヤクは医者の娘。名医である父・ゲンノショウコを天下仏の部下に捕らえられており、それを助ける為に主人公に同行する事になります。仲間になるキャラの中では唯一、主人公と結ばれる事のない娘さん。
戦闘では怪我の治療を行い、主人公のHPをある程度回復してくれます。イーナと並んで使い勝手のいい支援効果なせいか、彼女も仲間になるのは一度きり。
一度に同行してくれる仲間は一人きりで、新しい仲間が加わるとそれまでの仲間は外れる事になります。まあゲームボーイの処理能力の都合上致し方なし。
本作は魔王によって平和を脅かされている世界を救うという、前提だけならシリアス一辺倒な世界観なんですが、それにしてはまあ変なイベントが多い。以下に、筆者が最も印象に残っているイベントを挙げます。
ストーリーの途中、主人公はある温泉を訪れます。途中に出る妙に弱い敵を蹴散らし、最奥にあった温泉で一息吐いているとそこに怪しい影が……。
その影はなんと、着替えを含めた主人公の全ての荷物を奪って逃亡してしまいます。それを慌てて追い掛ける主人公。フルチンで。
そう、窃盗犯に追い付くまで、主人公はなんとフルチンで戦い続けなければならないのです。ご丁寧に、このイベント専用の素っ裸グラフィックまで用意して。
道中の敵が妙に弱かったのも、武器防具から魔法まで全ての装備を奪われた状態に合わせた強さだったからなのです。このイベントに対する気合入りすぎだろ。
ちなみに装備以外のアイテムも一切合切奪われる為、出てくる敵といちいち真面目に戦ってたらHPを回復出来ずまず死にます。おバカイベントだと思って油断しない事。
もう一つご紹介。ストーリー中盤の終わり頃、主人公はビーナと共に吹雪の山を越える事になります。
山を越えるには、吹雪を防いでくれるビーナのバリアが頼り。しかしビーナの魔力とて、決して無限ではありません。
そこで途中にある山小屋で休む事になるのですが……そこは主人公も年頃の少年。美少女と山小屋の中で二人きりの夜を過ごすなんて美味しすぎるシチュエーション、意識せずにいられる訳がない。
アレな妄想はどんどん膨らんでいき……爆発寸前になった結果……何とそれが敵として襲ってきます。名前は『エッチなもうそう』。おいストレート過ぎんだろ。
どう見てもマッパの女の子というそれを倒すと主人公は無事理性を保ち、何事もなく夜が明けます。この時戦闘に負けたらどうなるのか気になりつつも、実行した事はありません。
ちなみにこのイベント、全部で二回やる事になります。一回では気が済まなかったらしい。
上の項目だけ見るとどう見てもバカゲーとしか思えない本作。しかしその中には、環境問題に対する強いメッセージ性もまた含まれているのです。
例えば、ゴミというアイテムがあります。宝箱の中から時折出てくるこれは、本当に何も使い道がないゴミそのものです。
しかしこれが他に類を見ない特徴を持っておりまして、何と店で売ろうとするとマイナスの値が付く。即ち、引き取って欲しけりゃ金を払えと逆に要求されるのです。
しかもゴミ一つを引き取って貰う為に必要な金額は3000。結構馬鹿にならない額です。「ドラクエ」でうまのふんを売ったら例え1ゴールドだったとしても金を出してくれた事を思うと驚異的です。
ならばと捨てようとしてもこのゴミ、絶対に捨てる事が出来ません。『ゴミのポイ捨てはいけません』とこう来る訳です。
つまり一回手に入れてしまったが最後、持ち物欄を圧迫する覚悟で持ち続けるかお金を払って引き取って貰うかどちらかを選ぶしかなくなるのです。罠アイテムなんてレベルじゃない。
トドメにストーリーが進むにつれて、宝箱の中にゴミが入っている確率はどんどん上がっていきます。終盤なんて最早半分以上がゴミ。
自分がポイ捨てしたゴミで、迷惑する誰かがいる……。このゴミというアイテムは、それを表しているのかもしれません。
そして敵の首領、魔王天下仏の目的。部下達を使いビタミーナ王国の自然を壊し続ける天下仏ですが、クライマックスで、実は彼もまた本来は主人公の世界の人間であり、自分の世界の環境汚染物質を全てビタミーナ王国に移す事で自分の世界を救おうとしていたという真の目的が明らかになるのです。
敵にもまた敵の正義があったというのは、後に同じナムコから出た「テイルズオブファンタジア」にも通じる部分です。しかしクレス達の世界の人間達の暴走がなければクレス達の世界に手を出す気はなかったダオスと違い、天下仏のやり方はあまりにビタミーナ王国の都合を考えていません。
一応天下仏もビタミーナ王国が滅べばいいとまでは思っていなかったらしく、自分の支配下に置いた町の人間に過酷な環境でも生きていける薬を配ります。しかしそれを服用した人間は皆その副作用で廃人同然となり、とても生きているとは言えない状態になってしまいました。
そもそも天下仏の取った解決策は、単なる問題の先送りでしかありません。結果、天下仏を否定した主人公は天下仏に最後の戦いを挑む事になります。
環境問題を本当にどうにかするには、一人一人がしっかりそれを意識しないと駄目。本作には、そんなメッセージが込められているのではないでしょうか。
さてちょっぴり真面目な話も挟んでしまいましたが、本作最大の肝はその天下仏を倒した後、即ちエンディングにあります。本作というゲームの最大の山場は、このエンディングにこそあると言っても過言ではありません。
エンディングを迎えると国王、つまり五人の王女の父親に、娘と結婚してこのビタミーナ王国を治めて欲しいと頼まれます。この時『いいえ』を選ぶとそのまま何事もなくスタッフロールに突入するんですが、問題は『はい』を選んだ場合。
『はい』を選ぶと、それでは妻に迎えたい相手に話し掛けてくれと言われます。何かデジャブを覚える光景ですね。そう、「ドラゴンクエスト5」の嫁選びの時とそっくり。
但しあちらと違うのは、その場にいる全員が嫁候補という事。既に恋人がいるビーナも、国王の隣にいる王妃も、国王本人ですらも……。
殆どモブと変わらないようなキャラも合わせると、その数総勢十人。年齢も性別も、相手がいるかどうかも全てお構い無し。いくら何でも自由過ぎるだろ。
更にこの嫁選びの前にご丁寧にセーブまで可能になっているので、一回のプレイで幾らでもトライアンドエラーが可能。全員分試せって事ですね解ります。
ちなみに筆者の一番のお気に入りはイーナとのエンディング。ロ○コンと呼びたくば呼べ。ビーナとのエンディングは罪悪感が半端なかったので、個人的にはもう見たくないです……。
ちなみにこのエンディングの後おまけとして五王女+ババロアのプロフィール、全ての敵グラフィック、全てのBGMが鑑賞出来るモードが始まります。とりあえず、ババロアのプロフィールは何故入れた。
真面目なんだかふざけてるんだか解らない。最終的な感想はその一言に集約されるんですが、まあ、そんなカオス感も含めて実にナムコらしいゲームだなとは思います。
とりあえず、今回はこれにて。




