第百九十五夜 アレサ
一つ、ゲームの話でもしようか。
今は昔、やのまんという会社がありました。いや、今もあるかもしれないけど、少なくともとっくの昔にゲームを出さなくなったのは確かです。
やのまんとはゲームボーイやスーパーファミコンでRPGを出していた、中堅どころの会社でした。熱心なファンもついていたみたいで、ゲーム批評サイトが溢れ返っていた時代などには絶賛の声もちらほら見受けられました。
今回は、そんなやのまんのRPG第一弾をお届けします。タイトルは「アレサ」。一体どのようなゲームなのでしょうか。
本作はゲームボーイ初期、やのまんよりゲームボーイにて発売されたRPGです。開発は日本アートメディアという会社で、これはシリーズ全て一貫しています。
以下はストーリー。神々の恩恵を受ける平和なアレサ王国に、ある時双子の王女が誕生した。姉はマテリア、妹はエミリータと名付けられた双子は皆に祝福されたが、それも束の間、魔王ハワードによって送り込まれたゴールドドラゴンによってエミリータは連れ去られてしまう。それと入れ替わるようにして、アレサ王国を襲うハワードの軍勢。それにより国王リパートンは死亡、王妃と残されたマテリアもまた行方不明となった。それから十年以上の月日が流れ――。ハロハロの町で祖父のフロイドと共に暮らす少女マテリアは、ある日フロイドより、自分こそがアレサ王国襲撃と同時に行方不明になったマテリア王女である事を告げられる。それを聞いたマテリアは荒れ果てたアレサ王国を救う為、打倒ハワードの旅に出る事を決意する。果たしてマテリアはハワードを倒し、アレサ王国を救う事が出来るのだろうか――? といった感じになっています。
ちなみに立場上はWヒロインであるマテリアとエミリータには一応顔グラが用意されているんですが、どちらもその辺の町民の流用。特にマテリアなんて無理矢理ビキニアーマーを付け足してるものだから、首が物凄い短い事になってます。大丈夫かその体。
まず始めに言っておくと、本作はかなり個性的なRPGです。当時だけでなく、今の基準でもなかなかないんじゃないかってくらい。
ここでは思い出せる限りの、そんな個性的なシステムの数々をご紹介します。記憶の中から引き出しているので、抜けがあるかもしれませんがご了承下さい。
ゲーム開始時点、マテリアはお金を持っていませんし装備品の類も一切持っていません。売られている装備品もアイテムも異様に高額で、外に出てくる敵を倒したお金じゃ全然足りません。
そこでマテリアがまず向かう事になるのが、町中にあるキャッシュディペンサー。ここでお金を借りて、当座の軍資金とするのです。
借金生活から始まるRPGというのも、なかなかない気がします。しかもこの借金、利子を付けて返さないといけない上に完済するとより高額のお金が借りられるようになるなど妙なところがリアル。
返済期限は特にありませんが、後の事を考えると一度は完済した方がお得かも? なお返済は十回払いとなっております。
本作の店は基本的に、物を売る事はあっても買い取る事はありません。現実のお店が物の買い取りをやってないのと同じですね。
ではいらなくなった装備はどうすればいいのかと言うと、質屋に売ればいいのです。但し質屋は町にはなく、中盤に行けるようになるとある洞窟に密集しています。
質屋は何でも買い取ってくれる訳ではなく、一軒の質屋で買い取ってくれる装備はそれぞれ決まっています。中にはフィールドに隠されている換金アイテム専門の質屋なんていうのも存在します。
ちなみにこの質屋だらけの洞窟、入るのにアイテムが必要な上相当強い敵がうろついてるのでご利用は計画的に。幸い本作ではほぼ確実に逃げられますが……。
質屋以外にも、本作には異彩を放つ店があります。アップルマートという名前の雑貨屋です。
ここでは消耗品が一切売られておらず、あるのは大半がイベントで使う交換用アイテムです。イベントで使うアイテムを店売りにするというシステム自体、珍しい気がします。
イベントでアイテムを要求される度アップルマートで買ってくる必要があるので、本作はとかくお金がかかります。正直回復アイテムなんて買ってる余裕ない。
なおイベントアイテムではない、繰り返し使える類の便利アイテムも売られていますが、これがまた超高額。節約に節約を重ねて終盤やっと買えるレベルという……。
それにしても、ただのおにぎりでまで高額で売られているというのはどうなのか。特別美味しいおにぎりとかなのか……?
敵は最初、マテリアのレベルが上がるごとに一段階ずつ強い敵にシフトしていきます。しかしある程度までマテリアのレベルが上がると、ぱったりと敵が出現しなくなってしまいます。
本作では地域やダンジョンによって出てくる敵のレベル上限が決まっており、マテリアがそれ以上強くなるとエンカウントが止まってしまうのです。これにより、本作では過剰なレベル上げが出来なくなっています。
但し敵がまだ出る状態で質屋の洞窟以外のダンジョンや別の地域に行くと出現する敵が上書きされ、フィールドや前の地域に戻ってもその敵しか出なくなります。敵の強さに比例して得られるお金が多くなる本作ではこれを利用し、危険を覚悟で強い敵をわざと出して多めにお金を得る、なんて芸当も出来ますが……序盤は逆に返り討ちに遭うだけなので止めておきましょうね。
敵と言えば、本作では敵を捕らえて一戦闘だけ味方として利用出来るというシステムも搭載されています。それもボスクラスの敵でも捕らえる事が出来るというトンデモぶり。
本作の魔法の一つに、『ファイアーボール』というものがあります。普通なら敵にダメージを与える効果を想像しそうなものですが、本作での用途は違います。
ファイアーボールが成功すると、敵は水晶となり即死します。そしてその水晶は戦闘後カプセルに詰められ、カプセルモンスターとして利用する事が可能になるのです。
ただ難点は、敵をカプセルモンスター化させるとその戦闘で得られるものがそれだけになってしまう事。本作ではただでさえ敵との戦闘後に得られるものがお金かHP回復以外の消費アイテムかのランダム二択で、お金が貯まりにくくなってるのに……。
ファイアーボールの他にも、魔法は色々存在します。しかし本作に、MPの類は存在しません。
ではどうやって魔法を使うのかと言うと、HPを消費して使用するのです。HP回復魔法も全部HP消費。
魔法は仲間のドールが使用し、レベルアップではなくフォースというアイテムを得る事で使用出来る魔法を増やしていきます。フォースは上中下の三つがあり、一つのフォースを得るとその系統の魔法を全て使えるようになります。
名前の後ろにA~Cのアルファベットが付いている魔法は、AよりB、BよりCの方が効果が高くなります。もっとも効果に比例して、消費HPも増えていきますが。
基本的にはドールにしか使えない魔法ですが、終盤一時的にドールが離脱した時は、特定の武器を装備する事でマテリアもフォース中までの魔法を使う事が出来るようになります。とはいえマテリアが倒れたら即ゲームオーバーのこのゲーム。それらの武器の攻撃性能の方はイマイチな事もあり、マテリアに魔法を使わせるかどうかはプレイヤーの裁量に任される事になります。
本作は割と、クリティカルは出やすい方です。しかし本作でクリティカルが出るかどうかは、武器の種類によって決まるようになっています。
クリティカルしない武器でいくら戦っても、クリティカルが出る事はありません。しかしクリティカルする武器で攻撃をすれば、結構な頻度でクリティカルが出るようになります。
クリティカルする武器のタイプにも二種類あり、通常より高いダメージを与える普通のRPGと同じタイプと、ダメージは通常通りに連続攻撃を与えるタイプに分かれています。後者の場合回数は武器によって固定で、多いものだと計八回もの連続攻撃を行います。
傾向としてはマテリアが後者、仲間のシビルが前者、ドールはそもそもクリティカルしない事が多い気がします。技のマテリア力のシビル。
基本的には値段が高いもの、後から手に入るものの方が攻撃力は高いのですが、このクリティカルの仕様がある為単純に攻撃力が高い武器が強いとは言えなくなっています。時には攻撃力で劣る武器の方が最終的なダメージは高くなる事もあるので、武器選びは慎重に。
本作のダンジョンには洞窟と砦の二種類があります。このうち洞窟の方は別に何て事ない普通の洞窟なんですが、砦の方は一風変わっています。
砦を探索していると、所々の壁の上に線が入っているのに気付きます。この線のある部分に体当たりすると、壁が崩れて先に進めるようになるのです。
但し中にはフェイクもあり、崩れたと思ったらすぐまた塞がってしまう場所や、最初から崩れていると思ったら通ろうとした途端に塞がって壁になってしまう場所も存在します。これらは変幻自在のダンジョンをどう潜り抜けていくか、というパズル要素にもなっています。
なお砦の一番上の壁は一見何もありませんが、時々宝箱が隠されている事があります。一番上の壁まで辿り着いたらとにかく体当たりしまくれば、幸せになれるかも?
本作の移動は、少なくともゲームボーイのRPGでは他にないくらい快適です。移動速度そのものも並のRPGよりずっと早いし、更にちょっとした出っ張りぐらいなら自動的に避けてくれるのです。
更に当時の他のゲームボーイのRPGにはなかった、ルーラ的システムも搭載されています。各町には、それぞれの町の名前が付いた『羽』というアイテムが存在します。
その羽を使うと、羽の名前の町の入口まで一瞬で移動する事が出来るのです。アイテム欄から行きたい町の羽を探すのが少し面倒臭いですが、何度使ってもなくならないしHPやMPの類も消費しないので地味に利便性がいい移動手段です。
但し便利なだけあって、どの羽もそう簡単には手に入りません。お金で買えるのはまだ楽な方で、時には遠く離れた町で売っているアイテムと交換……なんて事もあります。
なお本作の町はフィールドと一体化しており、入口を堺としてエンカウントがなくなるようになっています。もっとも入口は一ヶ所しかないので、そこ以外の方向から町に辿り着いた時は遠回りする事になりますが……。
本作は初期のゲームボーイソフトでありながら、何と漢字が使われています。と言っても小学校一年で習うような画数の少ない漢字のみですが、それでも驚異的には違いありません。
当時、稀にあった漢字を使っているゲームはその分フォントサイズも大きくしていたものですが、本作は通常のゲームと同じ大きさのフォントで上手く漢字を表現する事に成功しています。本作のドッターの、並々ならぬセンスが窺えます。
画数の少ない漢字のみというのも、低年齢層が遊ぶのに差し支えがないという点ではプラス。ここら辺はよく考えたな、と思います。
フィールドを歩いていると、時々マテリアが独り言を呟きます。これは『次はここに行けばイベントが起こる』というサインになっています。
次にどこに行けばいいか示唆してくれるRPGは数あれど、ここまで誘導が露骨なのはそうそうないんじゃないでしょうか。確かに詰まらずには済むけれども……。
そして本作、というか本シリーズを語る上で欠かせないのがこれ。デバッグ用アイテムの存在。
いや、公式にそう名言された訳ではないのですが、効果的にそうとしか思えない。そのぐらい凶悪なアイテムです。
その効果はなんと、キャラのレベルをその場でカンストさせてしまうというもの。バランス崩壊とかいうレベルじゃない。
一応扱いは隠しアイテムになっており、通常のプレイでは見つけられないようにはなっているものの、手に入る時期が序盤も序盤。具体的に言うと二番目のダンジョン。これがデバッグ用でなかったら何なんだ。
ちなみに存在が有名になりすぎてしまった為開き直ったのか、このアイテムは次作以降も普通に隠しアイテムとして登場する事になります。それでいいのか。
さてここまでは、良くも悪くも本作の個性的なところをご紹介して参りました。しかしそうは言ってもゲームボーイ初期の作品、粗も幾つか存在します。
その一つが、グラフィックパターンの乏しさです。前述通りマテリアとエミリータの顔グラは町民の流用ですし、敵グラフィックの種類も決して多くありません。
ただパターンの乏しい中にも差異が見られる敵もいるのと、ラスボスは専用グラフィックなのは評価点か。前回ご紹介した奴はそれすらなかったので……。
そして肝心のストーリーが結構雑。本作、イベントは確かに多いんですが、その大半がただのお使いな上ストーリーにどう関係があるのか解らない事になっています。
ストーリーに絡んでいるなとハッキリ解るのは、ドール周りのイベントとエミリータ周りのイベントくらい。後は何か、行った先に敵がいたのでとりあえずボコる、みたいな……。
ストーリーに関係あったらあったでこれまた雑。産まれてすぐにさらわれた筈のエミリータが、自分の名前も生まれもマテリアが姉である事も全部把握していたり……。さらったハワードが親切に教えてくれたんでしょうか。
ドール周りはそういう事は全くないんですが、エミリータ周りは本当に雑。最後はろくに会話するシーンもなかった筈のシビルといつの間にか結婚してるし。
あとこれは個性欄に書くべきだったかもしれませんが、ホテルと薬屋に時々意味もなく利用拒否されるのは正直何とかして欲しかったです。普通に何度か入り直せば利用可能になるから、ただ手間が増えているだけだし……。
ゲームボーイ初期のソフトなのに、ただ個性を書き出しただけでこの文章量はかなり凄い事だと思います。とはいえ名作扱いする程では個人的にはない、かも。
とりあえず、今回はこれにて。




