第百八十五夜 クロックタワー
一つ、ゲームの話でもしようか。
ホラー、と一口に申しましても、様々なジャンルがございます。心霊ホラー、サイコホラー、パニックホラー……何が得意で何が苦手かは、皆様まちまちだと思います。
ゲームだと取り分け多いのが、殺人鬼やクリーチャーに追われる系ですね。武器や仕掛けで撃退出来るものも多いですが、中には対抗手段がなく逃げ回るしかないというゲームも存在します。
今回ご紹介するのは、そんな逃亡系ホラーゲームの元祖とも言える作品。『敵は倒すもの』というゲームの概念を覆した意欲作。
ホラーゲーム好きでこれを知らない奴はモグリだと個人的に筆者が思っているホラーゲーム界の名作。「クロックタワー」です。
本作はスーパーファミコン全盛期、ヒューマンよりスーパーファミコンにて発売された探索型アドベンチャーゲームです。当時ヒューマンが展開していた『シネマティックライブシリーズ』の一つであり、最も最後に発売された作品でもあります。
以下はストーリー。舞台は北欧のとある地域。幼い頃に父が失踪、母とも死に別れて孤児となり、グラニッド孤児院で育てられたジェニファーという美少女がいた。そんなジェニファーが十四歳になった九月のある日、ジェニファーとその友人達三人は纏めて一つの家に引き取られる事になる。引率のメアリー先生と共に、その人物――バロウズ氏の住む屋敷へと向かうジェニファー達。しかしそこで待ち受けていたのは恐るべき殺人鬼、シザーマンだった――。果たしてジェニファーはシザーマンの魔の手から逃れ、生き延びる事が出来るのか? 悪夢の夜が、今幕を開けた――。といった感じになっています。
本作のヒロインジェニファーにはモデルがおり、ダリオ・アルジェント監督作品「フェノミナ」のヒロインを務めたジェニファー・コネリーの顔を元にグラフィックが作られ、名前も彼女から戴く形になっています。他にも本作のホラー演出は、ダリオ・アルジェント氏の作品をモチーフにしたところが大きいのだとか。
従来のアドベンチャーゲームはプレイヤー=主人公であり、行動も自分自身で決めるものでしたが、本作ではプレイヤーはジェニファーに指示を出すだけの存在であり=主人公ではありません。ジェニファーに正しい指示を出し、悪夢の夜を生き長らえさせる事がプレイヤーの目的となります。
画面上にはカーソルがあり、これを使ってプレイヤーはジェニファーに指示を出していきます。指示を出すボタンはYボタンで、例えばジェニファーの右側にカーソルを移動させてYボタンを押すとジェニファーは右へ、逆に左側に移動させてYボタンを押すと左へ、それぞれジェニファーは歩き出します。
走らせたい時は、走らせたい方向にカーソルを動かして素早くYボタン二回押し。実はLRボタンでも走らせられますが、どちらにせよ走ると後述の体力を消費します。
また詳しく調査が出来るポイントにカーソルを合わせると、カーソルの形が四角に変化します。その状態でYボタンを押すと、ジェニファーがその場所に向かって調査を開始してくれます。
しかしご用心。調査ポイントによってはトラップが仕掛けられていたり、シザーマンが現れたりする事があります。これらの対処方法についても後述。
調査で見つけたアイテムをジェニファーに使わせたい時はAボタン押しっぱなしで所持アイテムの中から使わせたいアイテムを選択。それからAボタンを離すとカーソルがアイテムの形に変わるので、使わせたい対象に合わせてYボタンです。この時アイテムは、画面に映っているもの全てが使用出来る対象である事を覚えておくと後々役立ちます。
ちなみに通常の調査、アイテム使用どちらであっても何度も選ぶと異なる反応になるポイントや、一度別の場所を調べてからでないと反応しないポイントもあります。この為、本作の攻略を参照しない状態での難易度はやや高めと言えます。
さて探索中にシザーマンと会ってしまうとBGMが変化し、逃走モードに切り替わります。逃走モード中は移動が常に駆け足になり、調査も出来なくなります。
代わりに各所に点在する回避ポイントを調べられるようになり、上手くいけばシザーマンを回避、または撃退出来ます。但し一定確率で逃れられず殺されてしまうポイントや、使用する為に下準備が必要なポイントもあります。
前述通り、ジェニファーには体力が存在します。体力は走る事で減り、Xボタンや操作しないでそのまま放置するなどで行える座り込みで徐々に回復させる事が出来ます。
体力の正確な値を見る事は出来ませんが、大体の目安はジェニファーの顔グラフィックとその背景の色で解るようになっています。背景の色は体力がなくなるにつれ青→黄色→橙→赤の順で変化していき、体力の消耗そのもので死ぬ事はありませんが後述の緊急回避に強い影響を及ぼす事となります。
探索中トラップに引っ掛かった時、またはシザーマンに追い付かれた時、ジェニファーの背景が激しく点滅する事があります。この時Bボタンを連打すると緊急回避が発動し、トラップの場合は完全回避、シザーマンの場合は一時回避が出来ます。
但しこの方法でシザーマンを回避しても、逃走モードは解除されません。逃走モードを解除するには、回避ポイントを使って回避ないし撃退を行わなければならないのです。
また体力が赤状態だったりシザーマンに追い付かれた場所が袋小路だったりすると、そもそも緊急回避が発動すらせずあっさりと殺されてしまいます。緊急回避はあくまでも、発動したらラッキーな文字通り緊急手段とお考え下さい。
ちなみにこのボタン連打による緊急回避、公式では『RSIシステム』という名前が付けられています。このRSIが何を表しているのかと言うと、『R=連打 S=せずには I=いられない』。プレイヤー心理をこの上なく表したネーミングだと言えます。
本作では殺人鬼シザーマンが徘徊する屋敷を探索していく訳ですが、一度エンディングを迎えたから後はエンディング分岐まで前回通りに進めるだけ……とはなりません。何故なら新しくゲームをスタートする毎に、一部アイテムや部屋の配置が変わってくるからです。
なので前回アイテムがあった場所に今回もアイテムがあるとは限らず、また怪しい所を洗いざらい調べていかなければならない訳です。シザーマンがいつ姿を現すかと怯えながら……。
『わざわざ最初からやり直さなくても分岐点でセーブしたのをロードすればいいじゃん』、そう思ったあなたは甘い。本作では部屋を出入りする毎にオートセーブがなされ、再開は常に最後に部屋を出入りした直後から。しかもセーブデータは一つきりときています。
なので例えば必要なアイテムを持たずに後戻り不可の場所に来てしまうと、完全なハマり状態に陥る訳です。そうなるとエンディングを待たずに最初からやり直すしかなくなるので、多少の危険は覚悟で探索は念入りにしておきたいところです。
ちなみにこのオートセーブ、悪い事ばかりではなく部屋に入ってから不味い事をしてしまった際に即リセットする事で部屋に入ったばかりの状態に時間を巻き戻す事も可能です。オートセーブも使いよう。
さてまともに初見プレイすれば何度シザーマンに会うか解らない本作ですが、実際のところ必ずシザーマンから逃げなければいけないのは二回きり、しかもそのうち一回はエンディング手前なので実質一回シザーマンから逃げ切るだけでベストエンディングまでいく事が可能だったりします。と言うのもシザーマン出現ポイントにランダム性が殆どなく、一度出現ポイントさえ覚えてしまえばそれ以降はそこさえ調べなければシザーマンが出現する事はなくなるからです。
こうなってしまえば神出鬼没なシザーマンも形無し。クライマックスでの出番を、一人寂しく待つだけです。
流石にこれは反省点だったのか、次作「クロックタワー2」からは時間経過でもシザーマンが現れるようになりました。プレイする方にとってはいい迷惑ですがホラーとしてはグッド。
ちなみにベストエンディングでは友人を一人だけ生還させる事が出来るのですが(死体を発見する事で初めて死亡が確定する為)、ジェニファーの親友という設定のロッテという少女だけはどう足掻いても生き残らせる事が出来ません。この『親友だけは助からない』という無情感が、いかにもホラー的だなと思います。
なお筆者がプレイした本作はオリジナルのスーパーファミコン版なのですが、このスーパーファミコン版、ただ移動しているだけで体力がいきなり最低値になってしまうという結構深刻なバグを抱えていたりします。シザーマンに追われている時にこれが出てしまうと大ピンチな為、今からやるならスーパーファミコン版以外がお勧め。
ホラーゲームとして優れているだけではなく、アドベンチャーゲームに探索型という新たな道を示した(実際にはこれ以前もあったのでしょうが、増え始めたのは多分これ以降)という点でも本作の価値はあったのではないかと思われます。殺人鬼に翻弄される可憐な少女、というシチュエーションを楽しみたい方は是非。
とりあえず、今回はこれにて。




