第百六十六夜 真・聖刻
一つ、ゲームの話でもしようか。
皆様にとっての、生涯一番のクソゲーは何ですか? 世間的にクソゲーとして有名なゲーム、世間的にはそうでもないけど自分はクソゲーと感じたゲーム、答えは様々だと思います。
筆者の場合は、今回ご紹介するゲームです。今まで世間的にはクソゲー、などでお茶を濁してきた筆者が、ここまで一つのゲームを個人的感情でクソゲーと断じる事は恐らく珍しいと思います。
どんなクソゲーでも割と繰り返し遊ぶ筆者が、一度クリアしてからは二度と触れもしなかったゲーム。今回ばかりはマジモンのアレです。ガチです。
そのゲームの名は「真・聖刻(ラ・ワース)」。今回は私怨バリバリなので、そういうの苦手な方はそっとブラウザバックした方がお得ですよー。
本作はスーパーファミコン全盛期、ユタカよりスーパーファミコンにて発売されたRPGです。こんな円熟期に出たRPGだというのに、ゲームとして何もかもが足りないという宝の持ち腐れな一本でもあります。
以下はストーリー。シフォンはカルヴァレー国を根城とする盗賊団の頭、タグマの息子。ある日いつものようにタグマにどやされ自分の操兵(この世界の二足歩行ロボットの総称)を磨いていたところを盗賊団のアジトを強襲したカルヴァレー兵に捕まり、王宮の地下牢に投獄されてしまう。その王宮では、お転婆王女と名高いミシェルダが投獄されたシフォンに興味津々。侍女や兵士の目を掻い潜りシフォンに会いに来ては、他愛もない話をして王宮暮らしの退屈を凌ぐのだった。ところがシフォンの投獄を境として、王宮の人々の様子が徐々におかしくなり始める。それがシフォンが投獄される少し前に王宮に現れた女占い師ビクニの仕業ではないかと疑ったミシェルダは、現在王宮にいる人間の中で唯一正気を保つシフォンに助けを求める。タグマから大切にしろと渡された青い玉をミシェルダに預ける代わりに自由を得たシフォンは早速ミシェルダと共にビクニを探すが、ビクニは姿を見せない。城下町に逃げたのかもしれないと王宮を出たシフォン達だったがその時ビクニと共に謎の操兵が現れ、シフォンに襲い掛かった。ミシェルダが用意してくれた操兵に乗り、謎の操兵に応戦するシフォン。その戦いぶりをじっと眺めていたビクニだったが、やがて失望したように謎の操兵にトドメを刺すよう命じる。しかしその時青い玉が光を発し、謎の操兵は消滅。練法師(この世界の魔法使いの総称)集団『聖輪八門』の一人、『陽』のカーシャであると明らかになったビクニから逃れる為、二人はそのままミシェルダと親しいカーラング卿の治めるカーラング領へと落ち延びるのだった。突然やってきた二人をカーラング卿は温かく迎えてくれたがここでもカーシャの送り込んだ刺客によって食事に毒が盛られ使用人達が倒れるという事件が発生、毒を治療するには屋敷の地下にあるという聖なる泉から水を汲んでくるしかなくなってしまう。寸前で毒に気付いたミシェルダのお陰で難を逃れたシフォンは同じく難を逃れたカーラング卿の息子でミシェルダの従兄でもあるルシュナス、そしてミシェルダと共に泉へと向かう。地下に住み着いた魔物の襲撃をかわし、何とか泉に辿り着いた三人だったが、そこにあった石像がシフォンとルシュナス、どちらが『選ばれし者』なのかを確かめると言って突然襲い掛かってくる。戦いの末、石像はルシュナスこそ『選ばれし者』と見定め聖痕を与えるべくルシュナスに向かうが、ルシュナスが襲われると思いそこに割り込んだシフォンがルシュナスの代わりに聖痕を受けてしまう。この事態に石像は困惑するもやがて開き直り、聖痕を集めれば『王』になれるとシフォンに言い残しそのまま動かなくなる。その後持ち帰った泉の水で屋敷の使用人達は助かったもののここも安全ではないと悟った二人は旅立ちを決意、カーラング卿の用意してくれた操兵に乗りカーラング領を後にする。シフォンが受けた聖痕は、果たして何を意味するのか。そして聖輪八門の目的とは? 風はただ、何も告げずにア・ハーン大陸を吹き抜ける――。といった感じになっています。本格的にゲームが始まるまでのイベントを、全部入れたらこうなった。長い。
実は本作もまた原作ものであり、TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)「ワースブレイド」の世界観を元に書かれた小説「聖刻1092」の前日譚となっているのが本作だったりします。その為ストーリーのプロット自体はしっかりしており、こうしてあらすじだけ書き出すと案外面白そうにも思えます。
しかし実際は……。この辺りはまた別に項目を設けて、書き出すとしましょう。
本作の駄目なところその一、戦闘。本作の戦闘は、パーティーメンバーが直接戦うパーティー戦とシフォンが操兵に乗って戦う操兵戦に分かれています。
このうちパーティー戦は、戦闘中アイテムが一切使えないという難点がある以外は実にオーソドックスなシステムです。ダンジョンでは大抵このパーティー戦になりますが、パーティー戦でボスと戦う機会は実のところほぼありません。
操兵戦は、1~2体の敵操兵にシフォンの操兵一体で挑む事になります。これが本作トップクラスの問題の部分でして、プレイヤーの心をバキバキに折りにきてくれる要素となっております。
まず操兵戦でシフォンが選べるコマンドは攻撃、防御、逃走です。はい、ここで一つおかしなコマンドが混じっている事に皆様お気付きになられましたか?
答えは防御。防御とは本来、自分が身を守っている間に代わりに攻撃をしてくれる誰かがいて初めて成立するコマンド。つまり、シフォン一人しかいないこの操兵戦で防御を選んでも、無駄にターンを消費するだけで全く意味はないのです。
おまけにこれは調べて初めて知りましたが、例え防御を選んでもダメージは全く減らないときた。一体何の為にこんなコマンドを作ったのか……。
問題はそれだけではありません。ここで攻撃を選ぶと更に『殴る』と『蹴る』のどちらで攻撃するか選択する事になるのですが、この二つがまた大問題。
まず前提として、『殴る』は命中率が高い代わりに威力で劣る、『蹴る』は威力が高い代わりに命中率に欠けるという位置付けになっています。この位置付け自体にはさして問題はないのですが、この二つの場合、『長所は大して反映されてないのに短所の反映は凄まじい』という状態になっているのです。
即ち『殴る』は大して命中率が良くもない上与えるダメージは雀の涙、『蹴る』は確かに『殴る』よりは断然威力がありますが命中率が低すぎてまず当たらない、というどっちも産廃としか思えないコマンド二つきりで戦い抜く事になるのです。魔法? アイテム? そんな便利なコマンドはない。
しかもこの『殴る』、後半になると例え体力フルの状態から全発当てたとしても敵は倒れなくなります。つまりどんなに命中率が悪くても、『蹴る』に全てを託すしかなくなるのです。
操兵戦に関わるシステム回りも、バランスの悪さに拍車をかけます。まず操兵戦は基本フィールド移動時に行われますが、このフィールドの移動方法が問題。
本作でのフィールド移動はまず目的地を決め、操兵を動かしその目的地まで自動で歩いていくというシステムになっています。この自動で移動するというのが実に厄介で、移動中のセーブは出来るものの途中で引き返す事は不可。選んだ目的地に辿り着くまで、一切立ち止まる事はないのです。
更にシフォン本人のHPならば練法(本作の魔法)で回復出来ますがそれとは別扱いになっている操兵の体力は町の鍛治屋以外での回復は不可能。例え町の近くで手酷いダメージを負ったとしても引き返す事は許されず、回復も出来ないまま進み続けるしかありません。
メイン攻撃となる『蹴る』の命中率の関係上一度の戦闘で深手を負う事の多い本作で、この点は結構致命的です。逃走確率が高めに設定されているのだけが救いですが……。
そんな操兵を少しでも強くするには、搭乗者のシフォンを鍛え上げるしかありません。装備を整え、レベルを上げてやればそれに合わせて操兵も強くなります。
しかしシフォンのレベルが上がるとそれに合わせて敵もより強いものに入れ替わっていくので、正直強くなった気はあまりしません。それどころかどんどん敵の強さがこちらの成長が追い付かないレベルになっていく気さえします。
何せ本作のボス戦の大半はこの操兵戦なのですが、序盤はともかく後半はボスより雑魚の方が手強く感じる始末。本作ではお金は操兵戦でしか手に入らず、シフォン用の装備を買うにも操兵の体力を回復するにも何かとお金が必要だと言うのに……。
そんな駄目なところだらけの戦闘で唯一褒められるところと言えば、レベルアップするとパーティー戦だろうが操兵戦だろうがステータスが全快するところでしょうか。例えパーティー戦でシフォンがレベルアップしてから操兵戦に移ったとしても操兵のステータスは全快しているので、ダンジョンに潜った際は一度はシフォンをレベルアップさせておくといいかも。
本作の駄目なところその二、ストーリー。前述した通り、本作はストーリーのプロット自体は実にまともなんです。
しかしそれを感じさせないレベルで、ゲーム内で語られるストーリーはぶっつぶつのぶつ切り状態です。後に本作のプレイ日記を載せているサイトで見た原作版ストーリーを知った際、こんなしっかりした話だったのかと思わず驚愕する程には。
ダンジョンに行く度突然出てきて二、三言喋っただけでシフォンに倒されていく聖輪八門。唐突に仲間になり唐突に別れるを繰り返す仲間達。思わせ振りに説明書に書いておきながら、その実それらがゲーム内で情報として出てくる事は殆どないという謎の設定の数々……。
とにかく何もかもが唐突な上描写もうっすいので、ろくに頭にストーリーが入ってきません。せめて敵幹部の大安売りだけは何とかならなかったのか……。
当時本作のクリアにかかった日数は大体三日くらいですが、そのプレイ時間の大半はレベル上げと装備品購入に費やした時間です。本作のボリュームが、いかに薄っぺらいかご理解頂けると思います。
何せ本作をクリアしエンディングになった時、スタッフロールが流れ始めるまでは『ははあ、ここから第二部が始まるんだな』と思ったくらい短いのですから。「ファイナルファンタジー6」よりも後に出たソフトでこれはない。ちょっと比べる対象が優秀すぎる気もしますが。
大体パッケージでも説明書でも原作について一切触れられていない時点で、メディアミックスとしては如何なものかと。筆者も他所で紹介を見るまでは、本作に原作があった事など全く知らなかったのですから。
本作の駄目なところその三、テキスト。これは前二つに比べると、気にしない人は全く気にしない要素かもですが一応。
多くのプレイヤーは特に気にも止めていないでしょうが、テキストに使うフォントというのは意外と容量を食う代物です。ファミコン時代のRPGやアドベンチャーゲームがひらがなやカタカナばかりだったのは、対象年齢に合わせたのもありますがそれ以上に漢字のフォントにまで容量を割けなかったからなんですね。
本作はスーパーファミコン中期の作品ですので、当然テキストにも漢字が使われています。しかし漢字に使うフォントをケチって容量を節約しようとしたのか、その文章にはところどころおかしなところが散見されます。
例えば、『育』という字。本作では形が微妙に似ているからいけると思ったのか、この字を使う部分に代わりに『青』の字が当てられています。
つまり『育てる』は『青てる』となり、これで『そだてる』と……読めるかあ! 何でこれで誤魔化しが利くと思ったのか、小一時間問い詰めたい。
もっと酷いのは『教』を右側しか被ってない『救』で代用している点で、しかもこの字はエンディングにも出てくる為、折角の締めに誤字なんだか何なんだか解らない漢字が出てくるという散々な事に。ファミコンの「ドラゴンクエスト」シリーズで行われていた『リ』を『り』に置き換えるフォント代用方法と同じ感覚でやったのでしょうが、漢字の場合はそもそもの形が一つずつ違うと何故解らなかった……。
ちなみに本作では純粋に誤字も多く、ヒロインミシェルダの名前が時々『ミシュルダ』になっていたり本来『すべる(統べる)』となるべきところが全部『のべる』となっていたりします。こんなせこい手で容量削減を試みる前に、まず基本の文章をしっかり添削して欲しかった。
そんな本作のいいところ……パッケージと説明書のイラストはいい。以上。
だって本当にそこしかいいところがないんですよ……。イラストはゲーム中でも一応見れるけど、微妙に絵が潰れてるし。主に女性陣。
正直何でこの出来でゴーサインが出たのか、解らなくなるばかりの本作。まだネットが普及していない時代に出会ってしまった事を、ただただ悔やむしか出来ないです……。
とりあえず、今回はこれにて。