第百五十六夜 夜光虫
一つ、ゲームの話でもしようか。
サウンドノベルの金字塔、「かまいたちの夜」の大ヒット以来、雨後の筍のように他の会社からもサウンドノベルが発売される事になります。あまり複雑なプログラミングを必要としないサウンドノベルは特に資金繰りの厳しい中小企業によく好まれた為、出ている本数に比べてそのどれもが知名度が低いまま終わったりもしました。
今回はそんな、スーパーファミコンの知られざるサウンドノベルの一つをご紹介しようと思います。その名は「夜光虫」、早速いってみましょう。
本作はスーパーファミコン全盛期、アテナよりスーパーファミコンにて発売されたサウンドノベルです。チュンソフト以外から出た初のサウンドノベルであり、同時に文章が縦書きの初のサウンドノベルでもあります。
以下はストーリー。主人公(デフォルト名なし)は大型貨物船『ダイアナ』の若き船長。今回の航海が終われば婚約者の友香と結婚する事になっている、公私共に順風満帆な男だ。友香に見送られ、気心の知れたクルー達と共に主人公の乗った『ダイアナ』は港を出航する。しかし主人公達はまだ知らない。逃げ場のない海上で待つ自分達を待つ、悼ましい悲劇の事を――。といった感じになっています。
現実の長期航海でもそうなので仕方がないとは言え名前のある女性キャラが婚約者の友香しかおらず、しかも彼女はオープニングで姿を消してしまうので、登場人物がクルーの野郎共しかいないという大変むさ苦しい事になっております。ルート次第では密航者の女性も出てきますが、婚約者のいる主人公とそんな色っぽい関係になる訳もなし……。
またこの手のゲームには珍しく主人公が地位の高い人物で、他の登場人物も全員主人公の部下で長い間一緒にやってきた顔馴染みばかりというのも「弟切草」や「かまいたちの夜」にはなかった点です。もっともそれによる弊害も……詳しくは後述。
なお主人公には前述通りデフォルト名がないんですが、苗字でも下の名前でも普通はどっちでもいいようになっているのに対し本作では苗字で名付けないと他のキャラは苗字で呼ばれているのに主人公だけが、しかも船長なのに下の名前で呼ばれるという違和感が酷い事になります。主人公にいつも下の名前を名付ける習慣のある人は気を付けましょう。
システム的には本当によくあるサウンドノベルで、次々と出される選択肢を辿って結末に辿り着くだけのものです。但し本作は「弟切草」と「かまいたちの夜」の中間を取ったようで、選択肢によってルートが枝分かれしそれぞれが交わる事がないのは「かまいたちの夜」風ですが、どの結末も同じだけの文章量があり実質途中バッドエンドがない(最終的にバッドエンドはある)点は「弟切草」風となっております。
また本作は「弟切草」にあった『同じ結末に辿り着くごとにエンディングの内容が変化する』システムが採用されており、周回プレイに意味を持たせております。しかし本作は「弟切草」ほどは劇的に途中のストーリーが変化したりはしない為、途中の選択肢選びが作業になりやすいという問題を抱えていたりも……。
なお出航までのオープニングでは特に意味のない選択肢が幾つか出るんですが、そのデータでの五周目辺りからはオープニングそのものがすっ飛ばされ、簡易版オープニングの後いきなり本編が始まります。親切と取るべきか、たった四周分の為だけに作られたオープニングを偲ぶべきか……。
シナリオ傾向としてはホラーよりサスペンスの度合いが強く、強烈な恐怖描写はそれほど存在しません。生首シチューだけは人によっては怖いと思いますが、これも文章だけで絵はないし。
本作のグラフィックは大半が船内の様子、後はオープニングの港と海だけなので絵で怖がる要素が一切ないんですよね。シルエットもないから人物の動きで魅せる事も出来ないし。
シナリオのバリエーション的にも陸を遠く離れた海の上という限定されすぎな舞台、しかも主人公は責任ある立場とあって行動の自由はそれほど利かず、更に登場人物が全員知り合いである為あまり立ち位置を派手に弄る事も出来ないと自然とバリエーションが狭まる結果に。何と言っても、メインと呼べるシナリオの数がたったの四本しかないのですから……。
おまけにクルーの大半は何らかのシナリオで悪役を務める事になる為、結末を埋めてると人間不信になってくる事受け合い。「かまいたちの夜」も宿泊客の大半がスパイだったりしましたが、あれはまず真理以外が完全に初対面なので……。
逃げ場のない孤立した舞台を作る、この発想自体は良かったのですがそれに完全に囚われすぎた。本作を見ていると、何だかそんな気がしてきます。
本エッセイでは辛口評価とさせて頂きましたが、ゲームボーイアドバンスで追加要素をプラスした移植版が出るなど一定のファンは獲得していたみたいです。何でもいいからサウンドノベルがやりたい!という人には……アレかな?
とりあえず、今回はこれにて。




