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第百四十四夜 ヘラクレスの栄光3 神々の沈黙

一つ、ゲームの話でもしようか。



ギリシャ神話。現存する宗教のものでない神話としては、最も有名なものでしょう。

最高神ゼウスを始めとした数多くの神々や英雄が織り成す物語は、時には星座の由来として、或いは創作のモチーフとして現代においても広く語られています。現代の宗教の神話と比べ神々がどこか人間臭いのも、魅力の一つかもしれませんね。

そんなギリシャ神話の英雄の一人、ヘラクレスを主人公としたゲームがファミコン黎明期に発売されます。それが「闘人魔境伝 ヘラクレスの栄光」です。

街とフィールドがシームレスに繋がっている、一人旅なのに主人公が一切魔法を使えないなど一風変わったシステムを持つこの作品は大味なゲームバランスでありながらも一定のファンを獲得し、二年後には続編も出ます。「ヘラクレスの栄光2 タイタンの滅亡」です。

前作と異なりごく一般的なRPGのシステムに寄ったこの作品の評価は結構まちまちで、前作のシステムを惜しむ声もあればシステムが解りやすくなり遊びやすくなったという声もあります。この作品からはタイトルに反してヘラクレスは主人公ではなくパーティーメンバーの一人となっていく訳ですが、それにしても唯一の女性パーティーメンバーが意思を持った青銅の女神像という完全無機物なのは硬派すぎやしませんか。

そして更に時は流れ、スーパーファミコンにてシリーズ人気を決定付ける一作が登場します。それが今回のテーマ「ヘラクレスの栄光3 神々の沈黙」です。

恐らくシリーズ内の知名度順で言えばこの作品がトップであり、特徴的なシステムが多い初代はともかく二作目は初代とこれの間に挟まれてしまったせいで正直物凄く影が薄い存在だったりします。それだけの存在感をこの作品が持った理由、それはスーパーファミコンで出たRPGの中でも五本の指に入るほどの深いストーリーに他なりません。

今回は重要な部分のネタバレのない範囲で、そのストーリーに触れていきたいと思います。また前置きが長くなりましたが、それではいってみましょう。


本作はスーパーファミコン初期、データイーストよりスーパーファミコンにて発売されたRPGです。シナリオは後に「ファイナルファンタジー7」のシナリオを担当した事で一躍脚光を浴びる事になるライター、野島一成氏が手掛けており、無名時代の氏の担当した作品として注目される事もあります。

以下はストーリー。クレタ島にある妖精の村で、主人公は目を覚ます。彼には目覚めるより前の記憶が一切なかった。外に出たところで突然開いた冥界への穴に落ち、それでもなお死ななかった事から自分が不死だと知った主人公は、自分は何者なのか、何故不死であるのかを知る為に旅に出る事にする。手掛かりは、時折見る不思議な夢。旅の中で次々と出会う、同じ不死の体を持つ仲間達。明らかになっていく地上の異変。やがて失われた記憶を取り戻した時、主人公は一つの決断を迫られる事になる。主人公が下した決断とは。地上の危機に沈黙を続ける神々は、果たしてそれに何を思うのか――。といった感じになっています。

スポット参戦キャラも何人かいるものの本作で基本となるパーティーメンバーは全員不死の体を持っており、その為全滅してもタイトル画面行きとはならず、街に戻っての再開となります。「ドラゴンクエスト」タイプの再開方法で、それに対する説得力のある説明が為されているのも珍しい気がします。

また他のRPGでは気兼ねなく行われる飛び降り行為に、『普通の人間がやったら死ぬけど主人公達は不死身だから特別に大丈夫』という理屈がついているのも何だか凄い。実際主人公達が高所から飛び降りた際は、フィールド上を除けば物凄く痛そうな感じで落下し地面に貼り付く事になります。ドガッ!という感じで。


ストーリーについての前にシステム面について。初代ほど尖っていないとは言え本作にも特徴的なシステムは幾つかあるので、その一部をピックアップしてご紹介していきます。

まず魔法の習得について。本作では魔法はレベルアップだけでは習得出来ず、まずは各地に存在する神々の神殿の中にある泉に浸かり魔法の知識を授かる必要があります。

覚えられる魔法の知識はキャラや神殿に奉られている神によって異なり、キャラごとの重複はありますが神殿ごとの重複は存在しません。よって全ての習得魔法を得るには存在する全ての神殿を巡る必要があり、また上位互換、下位互換といった形もありません。

新しく仲間になったキャラは魔法の知識が全くない状態から始まるので、仲間が増える度に一から神殿巡りをやり直さなくてはならないのが少し難点ですが、ポセイドンの神殿だったら水属性の攻撃魔法を覚えられるなど各神々の特徴が出ていてなかなか面白いシステムだと思います。序盤に回復魔法を覚え、中盤で攻撃魔法が揃っていき強力な補助魔法は後半になど習得バランスも取れていますし。


次に戦闘について。本作はこちらがレベルアップするごとに敵のステータスも増加していくというシステムになっており、前半と後半で出る敵は同じなのにステータスは段違い、なんて事が頻繁に起こります。

即ち本作のレベルアップの意義は知識を得た魔法の習得とHP・MPの増加、それとボス戦が楽になるか否かのみなのですが、このシステムで困るのがそのレベルアップ。本作では同じ敵を倒し続けるとだんだん得られる経験値が少なくなっていくので、後半に最初の方で出た敵が現れたりすると、苦労して倒しても経験値はしょっぱい……という事になってしまうのです。

一応新規の敵も常に追加されるので、経験値が稼げず詰む事はありませんが……。何とも面倒臭いシステムではあります。


戦闘面においては敵だけではなく仲間の方も特徴的なのが本作。本作では仲間の行動をAIに任せるか自分で命令するか選ぶ事が出来るのですが、このAIにはリメイク版「ドラゴンクエスト4」に何年も先駆けてキャラごとの性格が設定されているのです。

例えばレイオンというキャラは作中でいい雰囲気になるステイアというキャラには少しHPが減っただけでも即行で回復魔法をかけますが、一方であまり好意的に思っていない謎の男(名前はプレイヤーが付ける)の事はギリギリまで回復しません。その謎の男は真面目で堅実な性格の為何よりも補助魔法で守りを固めるのを優先し、パーティーを補助魔法でガチガチにしてからやっと攻撃に移ります。

こうしたストーリー上で見られる性格や人間関係に沿った行動を取るAIは、当時は珍しかったと思います。自分で操作するのが一番確実なのは勿論なんですが、本作のAIに行動させていると各々のキャラがまるで本当に生きているような気がしてきて何だか愛着が沸いてきます。


探索面にも変わった部分があります。この時代のRPGと言えば人の家のタンスや壺からアイテムを押収してもお咎めなしが普通でしたが、本作では仲間がいる状況でこれを行おうとすると仲間から『それは人の物だ』と指摘が入るようになっているのです。

それでも構わず押収を行うと、行った回数だけ『信頼度』のステータスが減っていきます。この値が低いほど、仲間は戦闘時に命令を聞いてくれなくなるのです。

本作のタンスアイテムにはかなりいいものもあり、ペナルティ覚悟で頂いてしまうかどうか大いに悩まされます。人の物を勝手に取るとペナルティがつくというRPGのお約束を逆手に取ったこのシステムは、後のシリーズにも継承されていく事になります。


細かいところでは『レイオンの日記』と『神話辞典』の存在もなかなか味があります。この二つはアイテムとして使う事で、その中身を読む事が出来るのです。

レイオンの日記はその名の通り仲間のレイオンの日記で、ストーリー進行に合わせて次々と内容が更新されていきます。現在進めているイベントが何なのかおさらい出来るのと同時に、このイベントの時レイオンはこう考えていたのかとキャラを深く知る要素にもなっています。

神話辞典は作中に登場する神々についての解説を見る事が出来ます。解説は始めから全て見れる訳ではなく、その神の神殿を訪れたりストーリー中に出てきて直接関わったりしないと追加されない為神話辞典を埋める事自体が一つの楽しみになったりもします。

この時代アイテムとしての読み物はまだ珍しく、ストーリーに直接関わらないとは言え画期的な要素であったと思います。ストーリーに関係ないお遊び要素をRPGに入れる事が増えてきた時代ならではの、遊び心に溢れたシステムだと思います。


そろそろ本題、ストーリーについてのお話に参りましょう。本作のストーリーはギリシャ神話らしい、神々の思惑が複雑に絡み合ったものとなっています。

神々はただ地上の危機を傍観している訳ではなく、その奥に人間への希望、最高神ゼウスに取って変わろうとする野心、様々な思いを宿しています。しかしそんな神々の目的はただ一つ。人間の手で傷付いた大地、そしてそれを司る神々の母ガイアを救う事です。

神々の一人、プロメテウスは選んだ人間に不死を与える代わりに記憶を奪い、真っ更な状態の人間が起こすありのままの行動に賭けました。プロメテウスが選んだ人間は三人。しかし集った不死の仲間は、何故か四人……。

地上を救う為に為すべき事が何なのか、神々は何も教えてはくれません。人間が自らの手で過ちに気付くか否か。神々は、それを試しているからです。

旅の中、幾つもの試練を経て記憶が戻った時、主人公は漸く自分が為すべき事に気が付きます。しかしそれは、かつて自分自身が犯した大きな過ちを知る事でもあったのです――。

失われた記憶とそれが持つ意味、というシナリオの流れは、後の「ファイナルファンタジー7」にも通じるものがあると思います。自分自身を知るという事。それを描いていくのが、野島氏の持ち味であるのかもしれません。


神々や登場人物達の手で綴られる複雑かつ奥の深いストーリーは、プレイした者の多くの心に深い印象を残しました。決して難易度が低いとは言えない本作ですが、是非皆様にも直に体験して頂きたいものです。



とりあえず、今回はこれにて。

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