第百三十八夜 探偵神宮寺三郎 時の過ぎゆくままに…
一つ、ゲームの話でもしようか。
ファミコン時代から現在まで続いているシリーズの一つに、「探偵神宮寺三郎」シリーズがあります。最近も最新作の情報が続々明かされ、まだまだシリーズとして現役である事をアピールしています。
東京は新宿歌舞伎町に事務所を構え、片時も煙草を手放さないヘビースモーカー。学生時代はボクシングも経験し、いざとなれば荒事もお手のもののハードボイルドな魅力に溢れた私立探偵。
そんな神宮寺の作り出す世界観に惹かれたプレイヤーは多く、こうして長寿シリーズとしての地位を確立したという訳です。助手を務める才媛、御苑洋子とのくっつきそうでくっつかない微妙な距離感も、シリーズの見所の一つかもしれません。
そんな「探偵神宮寺三郎」シリーズ、ファミコンではディスクシステムも含めて四作が出ています。アドベンチャーゲーム冬の時代となるスーパーファミコン一強の頃には一作も出ず、復活はプレイステーション全盛の頃になるとはいえ、ファミコンで、しかもアドベンチャーゲームが四作も出ているというのは実に驚異的な事です。
今回ご紹介するのは、「探偵神宮寺三郎」シリーズのファミコン最終作。神宮寺が手掛けた数々の事件の中でも一風変わった、それでいてファンの間では人気の高いエピソードをご紹介しようと思います。
タイトルは、「探偵神宮寺三郎 時の過ぎゆくままに…」。筆者も好きなこのエピソード、皆様にお伝え出来れば幸いです。
本作はファミコン全盛期、データイーストよりファミコンにて発売されたコマンド選択型アドベンチャーゲームです。パスワードコンティニュー制ですがパスワードは数字四桁と実に簡潔で、メモしやすいものとなっています。
以下はストーリー。夏のある日。依頼もなく、新宿中央公園でのんびりと昼下がりを過ごしていた神宮寺の前に、散歩中の一匹の犬が通りかかる。それを見て、過去に手掛けたある事件について思い出す神宮寺。そこに丁度やってきた既知の仲である刑事の熊野にせがまれ、神宮寺はぽつりぽつりと当時の思い出を語り出す――。その日神宮寺は過去に事件を通して知り合った関東明治組組長、風林豪造に、知り合いの女性、細川信子からの依頼を引き受けるよう頼まれていた。何でも信子の家にある美術品が、盗難の被害に遭っているのだという。依頼を受け細川家に向かう神宮寺だったが、信子の子供達は何故か捜査に非協力的で……。一方洋子は街中で迷子の少年を保護し、事務所に連れてきていた。丁度同時期に熊野から預かっていた元警察犬のズタに少年はなつくが、このままという訳にもいかず、一人少年の親を探し始める洋子だったが……。といった感じになっています。
本作では神宮寺や洋子が過去にあった事件について熊野と語り合うという形でストーリーが進んでいき、それ故詰みやゲームオーバーがなくアドベンチャーゲームとしては易しい方に入ります。だからと言ってつまらないのかといえばそんな事はなく、遊んだものを惹き付ける魅力的なストーリーに仕上がっています。
神宮寺と洋子、二人がそれぞれ関わった一見何の関係もなさそうな二つの小さな事件がやがて一本の線に繋がっていく流れは非常に見事で、不自然さを感じません。読後感も爽やかで、エンディングを迎えた後は何だか温かい気持ちになりました。
また作中は話をしている現在の画面はフルカラー、話の中で語られる過去の画面はセピア色で統一されています。この為過去と現在の移り変わりが解りやすく、過去を遊んでいる間は何だかこちらまでノスタルジックな気分になってきます。
システムに特に特筆すべき点はありませんが、神宮寺ならではのアイテムとして『名刺』と『煙草』があります。この二つだけは使用が回数制で、もし切れたら事務所に戻って補充する必要があります。
私立探偵というあまり堅気とは言えない職業である神宮寺も、立派な社会人です。初対面の相手にはきちんと名刺を差し出し、素性を明らかにしなければなりません。
また神宮寺はヘビースモーカーであり、煙草は片時も手放せない友であります。現在の状況を整理したい時などは、『タバコすう』のコマンドで煙草をふかしながらゆっくりと思考を巡らしましょう。
時にはこの二つを効果的に使わなければ話が先に進まない事もあるので、補充はまめに行っておきましょう。どちらも補充抜きでも十回は連続で使えるので、無駄遣いさえしなければストーリーの流れで事務所に戻る事になったら補充、で十分事足りますからあまり神経質にならなくても大丈夫です。
本作で神宮寺が担当する事になる事件は、決して派手なものではありません。人も一切死にませんし、解りやすい盛り上がりには欠けるでしょう。
しかし事件を通じて徐々に明らかになっていく細川家の人間関係、そこに更に洋子が関わった事件までもが絡み合っていき、やがてバラバラになっていた家族が一つの結末を迎えるという、ある意味「探偵神宮寺三郎」というシリーズものだからこそ出来た登場人物に深く絡み合ったストーリーは、ファンの心を惹き付けて止まないものになりました。
探偵を主役としながらも、殺人事件を扱わない。殺人事件を解決するだけが、探偵の仕事ではない。
決して主流にはなり得ない形であろうとも、本作が推理ものアドベンチャーゲームという存在に一石を投じた事は確かだと思います。
アドベンチャーゲーム自体が斜陽の時代に入りかけていた頃に出た本作は、シリーズファン以外には決して目立った存在ではなかったでしょう。しかしもしも見つける事があったら、是非とも遊んで欲しいと筆者が強烈に思う一本でもあるのです。
とりあえず、今回はこれにて。




