第百三十六夜 殺人倶楽部
一つ、ゲームの話でもしようか。
ファミコン時代、推理ものアドベンチャーゲームは数あれど、警察が主人公というものはあまりありませんでした。ファミコン初のアドベンチャーゲームである「ポートピア連続殺人事件」、それとシナリオ原案者を同じくする「北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ」は警察が主人公でしたが、それ以外は職業探偵か、探偵役を務める事になる一般人が主人公になる事が殆どでした。
その理由を上げるならやはり、警察の捜査のしがらみの多さが上げられるでしょう。上記の二作では大分簡略化されていますが、警察の捜査というのは本来何をするにも手続きが必要で、探偵のような自由な立ち回りは到底出来ないのです。
しかしそんな中、その複雑な警察の捜査を敢えて簡略化する事なく再現したゲームがパソコンにて登場します。他の推理ものアドベンチャーゲームにはないリアルさと重厚なシナリオで人気を博したそのゲームは、その後ファミコンにも移植される事となります。
現在でもスマートフォンアプリやNintendo switchなどに移植されているそのゲームの名は、「殺人倶楽部」。今回のテーマとなります。
本作はファミコン全盛期、セタよりファミコンにて発売されたコマンド選択型アドベンチャーゲームです。パソコンで原作を出したのはリバーヒルソフトという会社で、その後も本作を処女作とした「J.Bハロルドシリーズ」を次々と世に送り出していく事になります。
以下はストーリー。アメリカ、リバティタウンの一角である一つの殺人事件が起こった。被害者はロビンズ商会社長、ビル・ロビンズ。事件を担当する事になったリバティタウン警察所属の刑事J.Bハロルドは数多くの容疑者と乏しい証拠に苦戦しながらも、やがてリバティタウンに過去に存在した一つの集まりへと辿り着く。果たして今回の殺人とその集まりとの関係は? ビルは何故殺されなければならなかったのか? 全ての謎が明らかになった時、ハロルドは一体何を思うのか――。といった感じになっています。
舞台がアメリカなので洋ゲー?と思われるかもしれませんが、意外にも本作は純国産ゲー。日本で完全に海外が舞台のオリジナルのアドベンチャーゲームが作られるというのも、なかなか珍しい気がします。
主人公ハロルドがまずやる事と言えば、事件関係者の元へ出向き聞き込みをする事。……なのですがこの聞ける項目が多い。めちゃくちゃ多い。
他の関係者や事件に関係するとおぼしき事柄についての証言は勿論の事、一人一人の人物のプロフィールまで事細かに聞く事が出来ます。この為一人に総当たりで全ての項目を聞こうと思うだけでも、かなりの時間を有する事になります。
その上行ける場所も最初からかなり多い。舞台となるリバティタウンは三つの区画に分かれており、移動の際はまずどの区画に向かうか選び、続けてその中のどこへ行くかを選択するようになっています。
その全ての行き先に関係者がいる訳ではなく、時には何の関係もない一般人からも聞き込みを行う必要があります。事件解決の糸口は、どこに存在するか解らないのです。
聞き込みが一通り終わったら、今度はその中で特に怪しいと思われる人物の家を家宅捜索します。しかし勿論無断で家宅捜索を行うような事は出来ず、家宅捜索を行う為には、検察と交渉し令状を取らなければならないのです。
聞き込みが不十分で家宅捜索に踏み込めるだけの容疑がないと、幾ら検察に頼んでも令状は取れません。ここまでの捜査が十分なものだったか、試される場でもあります。
令状が取れたら、いよいよ家宅捜索の開始です。その家の中を徹底的に調べ上げ、証拠品を押収しましょう。
押収した証拠品は鑑識に持っていく事で、その証拠品についての詳しい情報を知る事が出来ます。こういうところがいかにも警察の捜査、という感じがしますね。
物証も得て、ある程度容疑が固まった。そうなったら遂に、逮捕状の請求となります。
逮捕状は、家宅捜索の令状を取るのと同じく検察での請求となります。その時点での容疑が十分なら関係者の逮捕状を取る事が出来、取調室に連行して事件についてもっと詳しく聞く事が出来ます。
逮捕、とは言うものの実際やっている事は任意同行の上での取り調べに近く、実際の逮捕に至る容疑よりも遥かに軽い容疑で、しかも何人も引っ張れてしまいます。リバティタウン警察署の留置場が何だか凄い事になっている気がしますが、そこはそういうもんだと流しておきましょう。
ここでの詳しい取り調べにより出てきた新たな情報を頼りにまた聞き込み、容疑が固まったら家宅捜索、物証が出たら逮捕して取り調べ……。以上の繰り返しで、本作の捜査は進んでいく事となります。
完全なる詰みやバッドエンドこそないものの、本作の難易度はかなり高い方に入ります。その理由として、選択肢が膨大すぎる事による情報漏れの解りにくさが挙げられます。
本作は一通りコマンドを総当たりするだけでも大変な時間がかかり、それ故何か聞き漏らしがあったとしてもすぐには解りにくくなっています。そして例え聞き漏らしに気付いたとしても、どこで、誰に、何を聞くべきか調べる為にはやはりまた時間をかけて総当たりする羽目に……。
これが面倒で、本作を投げてしまった人も少なくないんじゃないかと思います。地道な捜査こそ事件解決に最も必要な事、とはよく言いますが……。
ちなみに本作はこの時代のアドベンチャーゲームの例に漏れずパスワードコンティニュー制となっていますが、パスワードを聞く際先輩刑事が現在捜査がどこまで進んでいるかを点数で教えてくれるようになっています。とにかく選択肢が多く先が見えない本作においてこの点は結構ありがたく、捜査が先に進まなくなったけど点数は高いから解決まで後少し……!というような原動力にも繋がるようになっていると思います。
警察の人間でなければ出来ない面倒臭さが、逆に面白さに繋がっているという稀有な例。一風変わった推理ものがやってみたい、そんな方は最新の移植を遊んでみるといいかも。
とりあえず、今回はこれにて。




