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第百三十五夜 たけしの挑戦状

一つ、ゲームの話でもしようか。



十年に一度のクソゲーと呼ばれたソフトがあります。世に多く出たクソゲーの中でも、クソさ、そしてネタ度共に随一とされるものです。

その初代とされるのが、今回ご紹介する「たけしの挑戦状」です。現在では世界的な映画監督としても名高いお笑い芸人、ビートたけし氏全面監修によって作られたこのゲームは、そのあまりの難解さから途中で詰まる人が続出。当時二冊出た攻略本を合わせて買っても、まだクリア出来ないという有り様でした。

このゲームの発売前日、ビートたけし氏がたけし軍団を引き連れフライデー編集部を襲撃するという事件があり、その分このゲームにも注目が集まってしまっていた為か相当数ソフトが売れていたのも悪い方に働きました。かくしてこのゲームは当時のファミコンユーザーの怒りを買い、世紀のクソゲーとして槍玉に上げられる事になったのでした。

しかし時が経ち、インターネットが普及し、正しい攻略法が世に広まるようになるとこのゲームの随所に盛り込まれた氏の前衛的なセンスを評価する声も現れ始めます。世紀のクソゲーは、時代と共に、愛されるクソゲーへと姿を変えていったのです。

今回は、このゲームを攻略する流れにも少し触れつつ、このゲームの特徴的なところを出来る限りお届けしようと思います。十年に一度のクソゲーの威力、とくと思い知れ!


本作はファミコン黎明期、タイトーよりファミコンにて発売された横スクロールアクションゲームです。パスワードコンティニュー制で、後述のシューティングパート以外ならいつでもパスワードを取る事が出来ました。

ストーリーはとあるサラリーマンが宝探しの旅に出るだけという簡潔なものですが、その肝心の旅に出る方法が解らず詰まるところまでが本作の洗礼の儀式。この程度は、本作を攻略する上では単なるジャブに過ぎないのです。


まず本作の操作方法。十字キー左右で移動、上で建物内や別マップに移動、下でしゃがみ。Aボタンでジャンプ、Bボタンで攻撃、スタートボタンでステータスを開くとなっております。

ステータスでは現在のライフと所持金、持っているアイテムなどが表示され、攻撃手段を二つ以上持っている時はどれで攻撃するか選択したり、パスワードを取る事も出来ます。パスワードは取った時点での全ての情報が記録され、取った場所によって決められた位置からの再開となります。

また2コンのマイクを使うと通行人に話し掛ける事が出来、時々断片的な情報を得られる事があります。ただ本当に断片的過ぎて、意味しているところを知らないと何の事やらさっぱりなのが難点ですが。


さて、何の前情報もなしに本作をプレイした人はこう思う事でしょう。『どこに行って、何をしたらいいのか解らない』と。

本作には先に進む為に必要なヒントの類がゲーム中に一切なく、そもそも何が出来るかもよく解りません。先に進む為にはまず国内で宝の地図を入手する必要があるのですが、その為に必要な行動のヒントも当然ありません。

物凄く解りにくい場所にある路地の先にある本屋で宝の地図が売ってはいますが、そちらは偽物で買っても何の効果もありません。本物の宝の地図を入手するには、以下の手順を踏む必要があるのです。


1.スナックあぜみちという飲み屋に行き、何でもいいから酒を二杯飲む

2.三杯目を断るとカラオケが歌えるようになるので、三回連続でカラオケを成功させる(一回でも下手くそと言われたら1からやり直し)

3.わらわらとヤクザが出てくるようになるが、そのまま店に居残る

4.出てきた老人が白い紙をくれるので、正しい操作をして宝の地図を出現させる


以上です。……ノーヒントでこんなの解るか!と強く思います。

この時の宝の地図の出し方には五分バージョンと一時間バージョンがあり、どちらもリアルでその時間ゲームを放置する必要があります。五分はともかく一時間放置……やりましたけどね! きっちり一時間放置!

なおカラオケは2コンのマイクを使って行いますが、何も実際歌う必要はなく、決まったタイミングに音さえ出ていればいいので息を吹き掛けるだけでも問題なく判定は行われます。こんなに攻略にマイクを使うファミコンゲームなんて、正直本作ぐらいでしょう。


無事宝の地図を手に入れたとしても、これだけでは日本を脱出出来ません。日本を飛び出し宝探しに出発するには、適切な資格、適切なアイテムをそれぞれ手に入れる必要があるのです。

これも完全ノーヒントな上、必須アイテムの一つはこれまた一工夫しないと手に入らないときた。その他の資格もアイテムも大量にお金が必要になるので、全部取得購入して総当たりという訳にもいきません。

一番高額な飛行機のチケットだけは、宝の地図を見れば何となく行き先の当たりがつくようにはなっていますが……。当たり障りのない行き先が並ぶ中、明らかに一ヶ所だけ浮いてもいますし。

宝の地図を手に入れ、必要な資格とアイテムを全て手に入れたら晴れて日本脱出です。準備が不十分な状態で日本を出ようとしても、途中で飛行機が爆発してしまい強制ゲームオーバーになってしまうので注意する事。


日本を脱出しても、ここで終わりではありません。寧ろここからが、本当の試練の始まりです。

まずは到着した島を更に出て、宝の地図に記された島へと向かう訳ですがその手段がハングライダー。ハングライダー以外も資格を持っていれば選べますが、その場合どう頑張っても島に着陸出来ないので結局ハングライダーを選ぶしかないのです。

島への移動は横スクロールシューティングゲームになっており、攻撃を行うには直前に銃を買っておく必要があります。更にその銃を買うにはまず銀行で通貨を両替しなければならないなど、何だか妙な部分がリアルです。

シューティングパートの操作方法は十字キー左右で移動、下で下降、銃を持っていればBボタンで攻撃。自主的に高度を上げる事は出来ず、高度を上げるには時々正面から吹いてくる風に触れる必要があります。

移動中は鳥が次々と飛来し体当たりを仕掛け、こちらを仕留めようとしてきます。鳥は銃一発で打ち落とせますが、こちらも体当たり一発で即死する為細心の注意を払って挑まなければなりません。

前後移動の幅が思いの外狭い、自由な上昇が出来ない、直線上にいないと鳥に攻撃が当たらないのにその鳥は斜め上または斜め下からゆっくりこちらの高さに接近してくるなどの要因から難易度はすこぶる高く、日本での理不尽な謎解きに耐えたプレイヤーの心をバキバキに折りに来てくれます。筆者もここで何回ゲームオーバーになり、島に到着したところからやり直したか解りません。

ちなみに目的の島に無事降り立つ事が出来ればゴールなのですが、やろうと思えば島を通過し更に飛んでいく事も出来ます。先に進んでいくと敵が鳥からUFOになり、更には戦闘機になり……最終的にどこかの国へ辿り着きますが、ここの地面に降り立つ事は出来ず最後には山に行く手を塞がれてどう足掻いても死亡は確定となります。

もっともここまでやり込めるのは余程の暇人か求道者くらいでしょうが……。はい、筆者は暇人側でした。


数々の苦難を乗り越え、やっと辿り着いた宝島。いよいよお宝とご対面!と思いきゃあれ、いきなり誰か現れた……?

気が付くと、そこは見慣れた日本。あれ!? 宝島は!?

……実は日本である二つの事を済ませて置かないと、折角宝島まで辿り着いても日本へ強制送還させられてしまうのです。何と言う鬼畜仕様。

その二つの事とは『辞職』と『離婚』。これまた妙にリアルな条件です。

このうち辞職は一度ボーナスを貰った後一旦社長室を出、もう一度社長に話しかければすぐに出来るのですが問題は離婚。単に自宅に帰っても女房と子供が襲い掛かってくるだけで、離婚のりの字も出やしません。

離婚話を切り出すには特定の飲み屋で酒を飲み続け酔い潰れる必要があり、更に所持金の半分慰謝料を払わなくては離婚は出来ないのです。そりゃ現実でも離婚というのは何かと面倒なものですが……。

仕事と家庭、二つとキッパリ縁を切ったら漸く宝島を自由に歩けるようになります。もっともこの後も宝を手に入れる為の試練はまだまだある訳ですが……これ以上は攻略サイトに譲る事にしましょう。


ここまで簡単な攻略を紹介してきた訳ですが、これだけで如何に本作の難易度と発想があさっての方向に突き抜けているかお解り頂けたと思います。しかし本作の真の見所は、攻略以外の部分にあるのではないかと筆者は思うのです。

まず主人公の住む下町の町並みは、大変無駄に凝っています。辺りには行く必要の全くない店が大量にあり、正直容量の無駄でしかないのにその雑然さが逆に生活感を感じさせるのです。

カルチャースクールで大量に覚えられる資格は本当に名前だけのものもありますが、島に渡る際のハズレ選択肢のようにクリアには使えなくとも使い道のちゃんと用意されているものもあり、そんな使い道を見つけると無駄なのに何だか嬉しくなってしまいます。本作最大の魅力はこういった、無駄を楽しむ事にこそあるのではないでしょうか。

有名なエンディングの台詞『こんなげーむにまじになっちゃってどうすんの』も、ただクリアを目指すだけがゲームじゃないというビートたけし氏からのありがたいお言葉……だったら面白いなあとは思いますが、実際は額面通りの意味でしょう。だってビートたけし氏だもの。


当時タイトーや攻略本の出版社、果てはビートたけし氏本人やたけし軍団にまで苦情が殺到した理由は痛いほど理解しつつも、近年になって本作に魅力を感じる人が出始めた理由もまた何となく理解出来てしまう。本作は何だか不思議なゲームだなあと、そんな事を考える次第です。



とりあえず、今回はこれにて。

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