第百三十三夜 ミシシッピー殺人事件
一つ、ゲームの話でもしようか。
クイズです。開始十秒で死ねるファミコンのアドベンチャーゲームってなーんだ?
……回答が「シャドウゲイト」とあと一つで割れているのが見えます。本当は「ディジャブ」もそうなんですが死にゲーとしては若干マイナーですね。
今回のテーマは、皆様の挙げているもう一つの方。「ミシシッピー殺人事件」です。
何かそろそろ『筆者はどれだけクソゲーを好んで買ってるんだ』とか思われそうなので先に言っておくと、違います。少なくともファミコンで狙って買ったのは「スペランカー」と、まだ紹介していない「たけしの挑戦状」と「星をみるひと」だけです。それだけ狙って買っていれば十分だと言われそうですが。
それでは今回のご紹介の始まり、始まり……。
本作はファミコン黎明期、ジャレコよりファミコンにて発売されたアドベンチャーゲームです。いつものようにコマンド選択型とか付けないのは、本作、分類にすっごく困るからです。理由は後述。
以下はストーリー。ミシシッピー川をニューオリンズに向けてゆっくりと下る客船、デルタ・プリンセス号。そのデルタ・プリンセス号に搭乗し船上の旅を楽しんでいた探偵、チャールズ・フォックスワース卿と助手のワトソンは、挨拶回りに訪れた船室で死体の第一発見者となってしまう。この死体は何者なのか、そして何故死ななければならなかったのか。逃げ場のない船内で、容疑者は船に同乗していた七人の男女。それぞれが一癖も二癖もある彼ら彼女らの中から、チャールズ達は見事犯人を探し当てる事が出来るのか? といった感じになっています。
助手がワトソンなのに探偵はホームズじゃないの?とお思いでしょうが、本作は海外のパソコンゲームの移植作で、原語版では別の名前だったのを日本語ローカライズの際に探偵助手の名前として日本で知名度の高いワトソンに変更したという経緯があるのです。お陰でワトソンが知らない名前の探偵の助手になっているという、より奇妙な状況を生む事になったのですが。
本作は移動は十字キーで行い、話したい人の部屋に行ったり部屋の中で調べたい物の近くに近付いてからコマンドを出して話したり調べたりするという方式になっています。堂々とコマンド選択型と言い切れないのはこの移動の仕様にあり、話を聞く時はともかく物を調べたい時にその物の近くまでわざわざ行くのは、コマンド選択型よりもクリック型アドベンチャーゲームに近いものがあります。
本作は開始時点ではまだ事件が発覚していないという設定であり、死体を見つける前から乗客や船員達には会う事は出来ますが詳しい捜査は死体を発見し、事件発生を乗客一人一人に伝えないと出来ないようになっています。おまけにチャールズ達は死体の人物とは初対面の為、誰か被害者の知り合いを現場に連れていき身元をハッキリさせないと被害者の事を聞こうとしても誰も答えてくれないという念の入れよう。
この流れは、並み居るアドベンチャーゲームの中でもなかなか珍しい部類に入ると思います。それが面白いかどうかは別として。
さて、無事(?)事件が発覚したらいよいよ捜査の開始です。捜査の基本と言えば聞き込み。乗客や船員達に自分自身や他の人物についての話を聞いていく訳ですが、本作、ただ話を聞くだけでは本当に重要な証言は得られません。本作で重要な証言を得るには最初の証言を聞いた際にBボタンでその証言をメモし、そのメモを適切な人物に見せなければならないのです。
ならば手当たり次第にメモを取り総当たりすればいいと思っても、取っておけるメモは三つまででそれ以上取ろうとすると古いものから順に破棄されてしまいます。本作では一見何でもないような情報が重要な証言に繋がる事もあり、どの証言をメモするべきか見極めるのは困難を極めます。
別に何度でも証言を聞き直してそれで総当たりすればいいじゃない、アドベンチャーゲームに慣れている人ほどそう思うでしょうが本作においてはそれは大きな間違い。本作では一度聞いた証言をまた聞こうとすると『もう言いました』と言われ、二度と聞き直す事は出来ないのです。
即ち最初に証言を聞いた時点でその証言をメモするかどうか決めなければいけないという訳で、この仕様が本作の難易度を急上昇させる一因になっています。重要な証言に繋がる発言をメモし損ねれば当然詰みですので、それ以上どんなに捜査を重ねても無駄という事に……。
ちなみに証言の内容は証拠品を入手するなどして捜査を進めていく事で刻一刻と変化し、捜査をより困難なものにします。大半は攻略する上では聞く必要のない証言なのですが、本作の背景を知る役には立つかも?
その証拠品は誰もいない部屋を探索するか、乗客や船員達の部屋でフラグを立てる事により発見する事が出来ますがその場では詳しく調べられません。自室まで持ち帰る事で、初めて証拠品の調査が可能になるのです。
証拠品は二つまで同時に調べる事が出来、調べた二つに関連性がある場合はそれに応じたコメントが得られます。また単品で調べた場合も一度で全てが判明するとは限らず、何度も調べる事で新たな何かが見つかる事もあります。
本作の証拠品は思いもがけない所にある事もあり、全てを入手するのはなかなか困難。しかし本作に『入手しなくてもいい証拠品』は一つとしてないので、事件解決の為には頑張ってかき集めなければなりません。
さてここまでなら本作はただの『異様に難しいアドベンチャーゲーム』に過ぎません。本作がクソゲーと呼ばれる一番の理由、それは船内の至る所に何故か即死罠が仕掛けられているからに他なりません。
早い人は開始十秒、自室の隣の部屋に仕掛けられている落とし穴に落ちて死にます。と言うか筆者の初プレイがまさにそれで、突然の事に呆然としたのを覚えています。
他にも部屋に入った直後にナイフが飛んできてすぐに下に避けないとやっぱり死亡してしまう部屋もあり、船全体がチャールズに対する殺意に満ち満ちています。事件を解決されたくないから探偵もついでに殺そう、とは何という逆転の発想。
なお本作にはセーブは勿論、パスワードコンティニュー機能もありません。原語版にも即死罠はありましたが、それはいつでもどこでもセーブ可能だったからなのであり……。
またそんな即死罠や難解な捜査を乗り越えクリアしたとしても、何故か犯人に同情した他の全員から総スカンを食う上最後はゲームオーバーの文字……。確かに広義ではクリアもゲームオーバーと呼びますがこれは……。
日本のアドベンチャーにはない数々の仕様は確かに画期的でしたが、何でも画期的ならいいというものじゃない。本作のシステムを踏襲するような後継作が現れる事もなく、本作はクソゲーとして日本に名を残す事になったのでした……。
とりあえず、今回はこれにて。




