第百三十一夜 星霊狩り
一つ、ゲームの話でもしようか。
ここ最近のご紹介からも解るように、八十年代末期はファミコンのアドベンチャーゲーム全盛の時代でもありました。この時代に多くのアドベンチャーゲームが生まれ、世に送り出されていきました。
しかしストーリーはそれぞれ違ってもシステムには大して違いがない、言ってしまえばワンパターンなアドベンチャーゲームは九十年代に入ると急速に衰退し、スーパーファミコンが発売されて間も無く台頭してきたサウンドノベルに取って変わられる形で表舞台から姿を消します。アドベンチャーゲームが徐々に復権を始めるのは九十年代後半、「クロックタワー」のようなアクション性を持つアドベンチャーゲームが現れてからの事になります。
今回ご紹介するのも、アドベンチャーゲームがそんな暗黒期に入る前の黄昏の時代に出た作品の一つ。有象無象のアドベンチャーゲームのうちの一本です。
それでは今回のテーマ、タイトルは「星霊狩り」。当時のアドベンチャーゲーム界の試行錯誤を感じながら、お楽しみ下さい。
本作はファミコン全盛期、ハドソンよりファミコンにて発売されたコマンド選択型アドベンチャーゲームです。シナリオ原案に小説家の中島渉氏、キャラクターデザインに漫画家の神崎将臣氏を起用し、ノベル・ウェア・アドベンチャーゲームと題し鳴り物入りで売り出されました。
以下はストーリー。その日ミチムネは、同級生のミウの十六歳の誕生日をミウの祖父と共に彼女の家で祝っていた。しかし突然辺りが暗くなり、暗闇の中から不気味な男の顔が現れる。ミウの祖父と旧知の仲らしいその男、ローゼンクロイツは、自らの野望の為ミウをさらっていこうとする。それを阻止しようとローゼンクロイツに立ち向かうも、返り討ちに遭ってしまうミウの祖父。虫の息のミウの祖父に後を託され、ミチムネもまた敢然とローゼンクロイツに戦いを挑むが力及ばず、逆にローゼンクロイツの強力な一撃を受けて意識が遠のいていき……。次に気が付いた時、ミチムネは大学病院のベッドの上にいた。ミウを守れなかった無力感に打ち震えるミチムネを大学病院の若き教授、草野が呼び出す。草野は自分もローゼンクロイツの事を調べていると語り、ミチムネにミウの家に落ちていたというロケットを渡す。それはミウが、いつも身に付けていた物だった。ロケットを受け取ったミチムネは、ミウを救う為、草野と共にローゼンクロイツを追う事を決意する。果たしてミチムネの行く手に待ち受けるものとは、そしてさらわれたミウの運命は――!? といった感じになっています。
そのゲームシステム上どうしてもミステリーやホラーに偏りがちなアドベンチャーゲームにおいて、本作は珍しく王道少年漫画のようなストーリーとなっております。まあ本作も序盤はホラー要素が濃いですが。オープニングのローゼンクロイツの顔とか最初に行く事になる館とか。
本作はシステム的には、本当に何も特筆すべきところがないくらい普通のコマンド選択型アドベンチャーゲームです。……が、それだけだと紹介がここで終わってしまうので、以下に『本作っぽいところ』を纏めて書き出してみました。ご覧下さい。
まず本作、セレクトボタン一つでいつでもパスワードが取れ、しかも章区切りの再開ではなくパスワードを取った直後からの再開となります。その分パスワードが長いのが難点ですが、この再開方式はなかなか珍しかったんじゃないでしょうか。
そして、ストーリー中に何度か敵との戦いが挿入されます。と言っても、「暗黒神話」のようにいきなりアクションゲームになる訳ではありません。本作の敵との戦いは、コマンドを選択する事によって行われます。
敵と戦っている最中はパスワードも開けず、後戻りの出来ない一発勝負です。戦う時は闇雲に戦わず、敵の様子をよく観察したり持っているアイテムを駆使して敵の弱点を見極めましょう。
ちなみに終盤まで武器らしい武器が出てこないのにミチムネは普通に攻撃を行っているので、攻撃手段が何なのか地味に気になるところです。もしかして素手?
筆者の本作とのファーストコンタクトは友人の家で、オープニングのローゼンクロイツの顔が怖すぎて直視出来なかったのを今でもよく覚えています。あれが本作一番の思い出と言っていいぐらい怖い。
謎解きは結構フラグ立てが複雑な部分が多く、同じ場所を何度もグルグル回ってしまう事になりがちです。幸い終盤に行く事になる剣山を除いては即死選択肢はそう多くないのが救いですが、死んだら即タイトル画面に戻されるのでパスワードはまめに取っておく事をお勧めします。
あとこれは人によるかもしれませんが、ローゼンクロイツとの決着はきっちり着くものの最後が完全に『俺達の戦いはこれからだ!』エンドなのがちょっと……。ハドソン的にはこれが売れたら第二弾を!という考えだったのかもしれませんが、残念ながら実現はしませんでした。
恐らくはシステムで差別化が図れないなら内容で勝負、というつもりだったのでしょうが、全体的な作り込みが甘かったのが災いしてか、本作は特に話題になる事もなくひっそりと歴史の陰に埋もれていきました。今ではアドベンチャーゲームがやがて辿る事になる未来を暗示する、幾多のマイナーゲームのうちの一本として語られるのみです。
とりあえず、今回はこれにて。




