第百三十夜 ウルティマ 恐怖のエクソダス
一つ、ゲームの話でもしようか。
「ウィザードリィ」シリーズに並ぶ古くからあるコンピューターRPGに、「ウルティマ」シリーズがあります。「ドラゴンクエスト」など日本の様々なRPGの基礎を形作る為の参考となった作品ではありますが、殆どのナンバリングが家庭機用に移植され、オリジナルの展開が終了した後も日本で独自のシナリオが展開され続けていた「ウィザードリィ」シリーズと比べると「ウルティマ」シリーズの日本における展開は些か小さめで、地味な存在と言わざるを得ません。
元ファミ通編集長、バカタール加藤氏のペンネームの由来が他ならぬこの「ウルティマ」シリーズの主人公、聖者アバタールであったりしたのですが、バカタール加藤氏が現役であった頃ですらその事を把握していた読者は少なかったと思います。そのくらい地味。
「ウィザードリィ」と「ウルティマ」。同じコンピューターRPGの祖と言われながら、この差はどこから生まれたのか。
今回は日本の家庭機で初めて発売された「ウルティマ」シリーズ、「ウルティマ 恐怖のエクソダス」を題材にその理由を自分なりに考えていこうかと思います。
本作はファミコン黎明期、ポニーキャニオンよりファミコンにて発売されたRPGです。発売が音楽会社のポニーキャニオンだけあり、現在ではAKB48を始めとした数々のアイドルグループを抱えるプロデューサー、秋元康氏が日本語版テキスト執筆に参加し、更に当時は売り出し中のアイドルだった現在のベテラン人気声優、日高のり子氏がタイアップソングを歌いゲーム中にも登場するなど数々の販売戦略が練られていました。
以下はストーリー。かつて魔道士モンデイン、魔女ミナクスと二つの災厄に見舞われたソーサリア大陸。漸くその傷痕も癒えてきたかという頃、今度は謎の存在『エクソダス』の手によりソーサリア大陸は三度目の危機を迎える。この危機に、ソーサリア大陸の一国の王ロード・ブリティッシュは勇者を城へ召喚し、事態の解決に当たらせる。果たして『エクソダス』とは何なのか、勇者はソーサリア大陸を危機から救う事が出来るのか――!? といった感じになっています。
実は本作、原語版ではシリーズ三作目でして、あらすじにあったモンデインとミナクスとの戦いがそれぞれ一作目と二作目に当たります。ただ前二作は相当SF色が強かった事、また本作からパーティー制が導入された事などから、本作のみをファミコンに単品移植する事にしたのでしょう。
ちなみに原語版ではシリーズの主人公は全員同一人物、しかも現実世界の地球から事件の度に召喚されているという設定であり、何だか現代の異世界転移ものを彷彿とさせます。デフォルト名のアバタールもアバター(プレイヤーの分身)から来ており、物語の主人公はプレイヤー自身であると暗に強調する形になっています。
ゲームをスタートするとまず、使用するセーブデータを選択する事になります。この時代、バッテリーバックアップを搭載したRPGは増えてきていましたがどれもセーブデータは一つきりで、「ドラゴンクエスト3」に先んじてバッテリーバックアップの複数セーブを可能にした本作は実に画期的でした。
セーブデータにはそれぞれ名前が付けられますがこれは主人公の名前という訳ではなく、あくまでそのセーブデータの名前という感じです。気軽に付けましょう。
セーブデータに名前を付けたら、いよいよキャラクターの作成です。一つのセーブデータには20人までキャラクターを作って置いておく事が出来、その中から四人を選んで冒険を開始する事になります。
キャラクター作成には一から全部自分で設定を決める通常モードと、名前以外の全てが設定済みの11人のキャラの中から四人を選ぶだけのイージーモードのどちらかを選べます。一人一人キャラクターを作成するのは面倒!という方は、イージーモードを利用するといいでしょう。
通常モードを選んだ場合、まず種族を決める事になります。種族ごとにステータスの成長限界が異なり、その種族の得意なステータスに合った職業にした方が当然最終的には強くなります。
以下に各種族の得意不得意を上げていきます。後述の職業紹介と合わせて、どんなキャラクターがいいか考えてみて下さい。
人は不得意なステータスがなく、全てのステータスが均等に上がります。どんな職業でもそつなくこなしますが、最終的なステータスは他の種族には敵いません。
妖精は器用さが高く、法力が低いです。盗賊などの器用さを活かせる職業に向いていますが、法力を使う職業には不向き。
獣族は強さが高く、魔力が低いです。戦士系にするには最高の種族ですが、魔力を使う職業は止めておいた方がいいでしょう。
小人族は法力が高く、器用さが低いです。法力を使う職業のプロフェッショナルになれますが、間違っても盗賊系にはしない事。
魔族は器用さと魔力の二つが高い代わりに強さはほぼ上がりません。魔力を使う職業は勿論盗賊としてもいけますが、戦士系との相性は最悪……。
種族を決めたら、次は職業の選択です。種族と職業は一度登録したらもう絶対に変えられないので、慎重に選びましょう。
以下は職業の簡単なご紹介です。かなり多いですが、どの職業も個性溢れるものとなっています。
戦士は全ての武器防具が装備出来ます。直接戦う以外の事は一切出来ませんが、その分直接攻撃の破壊力は抜群です。
シスターは法力の全てをMPにする事が出来ます。武器防具は序盤に手に入るものしか装備出来ませんが、そこは回復などの法力系呪文で補っていきましょう。
魔術師は魔力の全てをMPにする事が出来ます。強力な魔力系呪文が使えるものの最低限の装備しか出来ないので、直接戦闘は絶対させないように!
盗賊は器用さの恩恵を最も受けやすく、宝箱やダンジョンの罠をガンガン外してくれます。が、武器防具は序盤のものしか装備出来ず、罠外し以外の場面では持て余されがち。
騎士は全ての武器を装備し、法力の半分がMPになります。回復も出来る戦士として頼りになりますが、あまり重い防具は装備出来ないので過信は禁物。
山賊は全ての武器を装備し、罠も外せます。盗賊より罠解除の信頼性は低く防具の面では変わりないので、盗賊とどちらがいいかはお好みで。
詩人は全ての武器を装備し、魔力の半分がMPになります。強さと魔力の相性が基本的に悪く防具も最低限なので、どこまで役立つかは微妙……。
魔女は法力の半分がMPになり、罠も外せます。MPがシスターの半分なのに装備出来る防具が更に弱い……いくら罠が外せても……。
僧侶は法力系と魔力系両方の呪文が使え、法力と魔力のうち高い方の半分がMPになります。装備可能な武器防具は貧弱なので、回復も使える魔術師として運用する?
化学者は魔力の半分がMPになり、罠も外せます。装備が最低限なのは魔術師と一緒なので、罠解除にMP半分の価値があると思うかどうかで評価が分かれます。
レンジャーは法力系と魔力系両方の呪文が使え、法力と魔力のうち低い方の半分がMPになり、罠も外せます。武器防具も全部ではなくともかなりいいものまで装備出来る、まさに器用万能の職業。唯一の欠点はMPが伸ばしづらい事。
種族と職業を決めたら、今度は初期ステータスを決めます。まず最初に50ポイントが与えられ、強さ、器用さ、魔力、法力の四つのステータスにそれぞれ好きな数値を割り振っていく事となります。
ポイントは5刻みで上下し、一つのステータスには25ポイントまでしか割り振れず、どのステータスも最低5は割り振らないといけないなど制約も多いですが、就いた職業に必要なステータスをメインで割り振っていけば問題はないでしょう。ピッタリ50になるようポイントが割り振れたら、最後に名前を付けてキャラクター登録は完了です。
キャラクターをある程度作ったら、その中から四人を選んでパーティーを編成しいよいよ冒険に出る事になります。パーティーは必ず四人編成でなければならないので、最低四人はキャラクターを作成しておきましょう。
気を付けなければいけないのはパーティーの再編成はキャラクター作成画面からいつでも出来ますが、その度にレベルもステータスも全て初期化され、最初からのスタートになってしまう点です。即ち他にキャラクターメイキング要素のある「ドラゴンクエスト3」や「ウィザードリィ」のような自由なパーティーキャラの入れ替えは出来ないに等しいので、どういう編成で旅立つかはよく考えてから決めた方がいいかと。
さて遂に冒険が始まった訳ですが、本作には日本のRPGには馴染みのないシステムが幾つか存在します。ここでは、それらのシステムをご紹介していきます。
まずあらゆる場所で表示されるパーティーの簡易ステータスの中に、Fという見慣れない数値があります。これは『food』、つまり食料を意味しており、そのキャラが今どれだけ食料の蓄えを持っているかを表すものです。
食料は何もしなくても時間経過で減っていき、食事を取り鋭気を養ったという事なのか、HPが減っていた場合は徐々に回復もします。しかしもし食料が0になると、今度はHPがどんどん減っていってしまいます。
食料の値段は決して高くはないので、遠出をする際はなるべく多めに買い込んでおきましょう。食料は個別管理なので、死亡した者以外全員の持つ食料を均等にしてくれる『しょくりょう』コマンドで常に均等に分けておく事。
食料以外のアイテムは全体管理ですがそれを買う為のお金は個別管理で、買い物の際は誰が支払いをするかその都度決める事になります。本作では戦闘に勝利した際に得られるお金は宝箱に入った形で現れ、それを開けたキャラのみにお金が入る仕組みになっています。
お金は『ゴールド』コマンドで他のキャラに渡す事も出来るので、それほど深く考えなくても大丈夫ですが、誰が一番お金を持っているかは常に把握しておきましょう。最も大抵の場合、罠解除役がその立場になる訳ですが……。
フィールドや街で見る事が出来る視界も変わっていて、今自分のいる位置から死角になるような場所は見る事が出来ず、移動によって見える範囲が次々と自動的に切り替わっていくようになっています。森や林など視界の悪い場所にいる時は見える範囲も限定され、手探り感が強くなります。
本作ではダンジョンは3Dダンジョンでエンカウントもランダムエンカウントですがそれ以外ではシンボルエンカウントとなっており、戦闘も敵シンボルに隣接して待つか『たたかう』コマンドを選ぶと戦闘に突入する事となります。それ自体は別にそれほど変わってはいないのですが、この『たたかう』コマンド、何と街の住民にも容赦なく実行出来てしまうのです。
勿論ペナルティはあり、住民を殺した途端に街には屈強な兵士が溢れこちらを追い詰めてきます。もっともこちらに十分なレベルとステータスがあれば、逆に兵士達を狩りまくる鬼畜プレイも可能となるのですが。
ちなみに本作で最も強い敵はラスボス……ではなく、国王ロード・ブリティッシュ。彼を倒せるようになるまでレベルとステータスを上げるのが、本作における一種のやり込みになっているとか。そんだけ強いならお前が行けよと、本作が揶揄される一因にもなってますが。
そのレベルとステータスですが、レベルは経験値を溜めてロード・ブリティッシュに会えば上がるものの本作ではレベルアップしてもステータスはHPしか上昇しません。ではどうやってステータスを上げればいいかというと、中盤以降行けるようになる神殿に多額の寄付をすればいいのです。
本作がとにかくお金がかかると言われる一番の原因がこれで、各ステータスを最高値まで上げようと思うと膨大なお金が必要になります。特に呪文を使う職業にとってMP上昇の為にはステータス上げは必須作業なので、神殿に行けるようになってからは常に金策に走り回る事に……。
ここまで本作のシステムを解説してきた訳ですが、そろそろ皆様本作の問題点が見えてきた頃と思います。そう、本作、何をするにもとにかく面倒臭い!のです。
日本のRPGにも多少複雑なシステムはあれど、基本的には初めてRPGを遊ぶ子でも楽しめるように……となるべく色んな事を簡略化しているのが国産RPGのパイオニア「ドラゴンクエスト」から徹底されている事柄であります。それに比べて本作は、あまりにも猥雑すぎた。
同じ海外発の「ウィザードリィ」が日本でもウケたのは、難易度自体はシビアですが、ゲームシステムの方はそれほど複雑でもなく覚えやすかったからです。対して本作は難易度はそれほどシビアでもありませんが小難しい面倒臭いシステムが満載で、何をしたらいいのか解りにくい。そこが両者の日本での明暗を分けたのではないかなと思います。
特に面倒なのが戦闘で、本作ではお互いが一ターンに一歩ずつ相手に近付いていくというシミュレーションのようなシステムが取られています。これがまた、とんでもなく時間がかかる上に一度戦闘に突入したら逃げる事も出来ない!
戦闘に入る度にこれなので、だんだんやる気も削がれていきます。しかしお金を稼ぐにはどうしたって戦闘しなければならない……悪循環。
結局筆者、それで途中で飽きて本作はクリアしていないのです。せめて戦闘がもう少しスムーズなら……。
本作の原語版が発売された時代では、確かに本作は画期的な名作だったのだろうと思います。しかし日本で売り出された時には、本作はただ面倒臭いだけのゲームとなってしまっていたのです。
もっとも面倒臭いシステムが多ければ多いほど魅力を感じるという人も世の中にはいるので……本作、やってみる?
とりあえず、今回はこれにて。




