第百二十七夜 暗黒神話 ヤマトタケル伝説
一つ、ゲームの話でもしようか。
諸星大二郎。SF・伝奇漫画の大家です。
筆者は主に活躍していた時代が合わなかった為直接漫画を拝見した事はないのですが、「妖怪ハンター」、「西遊妖猿伝」など数多くの著書を手掛けています。ただ絵のタッチが非常に独特なので、現代では人を選ぶかもしれませんが。
そんな氏の著作の一つに、「暗黒神話」という漫画があります。山門武少年の辿った数奇な運命を描いたこの作品をゲーム化すべく、東京書籍という会社が名乗りを上げます。
果たして諸星大二郎氏の描く壮大な世界を、東京書籍は表現し切れたのでしょうか。「暗黒神話 ヤマトタケル伝説」、紹介の始まりです。
本作はファミコン全盛期、東京書籍よりファミコンにて発売されたコマンド選択型アドベンチャーゲームです。パスワードコンティニュー方式で、章の終わりに表示されるパスワードを入力する事で次の章から再開出来るようになっています。
以下はストーリー。武の父は武がまだ幼い頃に死んだ。何者かに殺されたのだ。武が十三歳になったある日、父の友人と名乗る長野の考古館館長、竹内から手紙が届く。考古館を訪れ、竹内から父の事を聞いた武は、父の足跡を辿るべく父の死体が発見された蓼科へと向かう。そこで武は、八つ全てを身に宿せば大いなる存在『アートマン』になれるという聖痕を身に受ける事に……。最高神ブラフマンの導きにより聖痕を集める旅に出た武の前に、立ちはだかる暗黒神の化身達。武の宿命の戦いが、今始まる――。といった感じになっています。
原作を知らなくともウィキペディアで原作のあらすじと比較するだけで解りますが、本作、原作とはストーリーが全くの別物です。共通しているのは一部の登場人物と武の父が殺されたという事実、そして『アートマン』という単語だけで、後は完全に独自のストーリーが展開されていきます。
共通している登場人物達にしても役割は原作とはまるで異なり、約一名に至っては顔まで違っているという始末。ここまで派手に改変するなら、もうそれオリジナルで良かったんじゃ……?
システムは基本的には一般的なコマンド選択型アドベンチャーゲームのものと同一ですが、本作のみの変わったシステムというのも一部に存在します。ここではそれをご紹介していきます。
まず本作で色々なものを見たり聞いたりすると、コマンド一覧の右に本の形をしたマークが増えていきます。これはいわゆる、ゲーム内の『フラグ』を視覚化したものです。
このマークは増やさなくても先には進めますが、あまりに数が不十分だとその章の最後に突入する前にゲームオーバーになってしまう事があります。なので面倒臭がらず、調査はしっかりやっておく事をお勧めします。
そしてしっかりとマークを稼ぎ、章の最後に突入すると……突然横スクロール型アクションゲームが始まります。誇張ではなく、マジで。
操作は十字キーの左右で移動、Aボタンでジャンプ、Bボタンで攻撃とオードソックス。武を操り、現れたボスを倒すとその章はクリアとなります。
ボスというだけあり出てくる敵は皆巨大で、岩のバリアで身を守る六章ボスのスサノオと火を噴く足場に乗って攻撃を当てねばならない八章のラスボス暗黒神を除けばどれも非常に攻撃が当てやすいです。しかしその分攻撃も苛烈で、その上本作では武の残りライフが解らない仕様にされているので油断しているといつの間にか死んでいたりします。
死ねば当然ゲームオーバーとなり、おまけにその章の始めから再開させてくれるような親切な機能もなく、ゲームオーバー後は容赦なくタイトルに戻されパスワードを入力しないと再開出来ません。ゲームオーバーに直行するような選択肢も少なくない本作ではここはかなりの不便ポイントであり、せめて章の始めからでもやり直させてくれれば……と思わずにいられません。
ただアドベンチャーパートの中で武が兜を手に入れるとアクションパートの武も兜を被る、手にした剣によって攻撃範囲がパワーアップしていくなど変なところは妙に凝っています。東京書籍がどちらのパートををメインに据えていたのか、いまいち解りにくいところではあります。
さて本作のグラフィックは癖の強い諸星大二郎氏の絵柄を可能な限り再現しようと試みたもので、グラフィック班の頑張りが垣間見えるのですが……その反動なのか、グロい。特に各章ボスとかめっちゃグロい。
本作をプレイしたユーザーの間でよく語り草になるのが、四章ボスヨモツシコメのグロさ。醜女なんてもんじゃないグロくてでかい生首がふよふよ浮かび、飛び出た目玉の眼孔から弾を発射する姿を見た時は『これ大人になってから買って良かったなあ……』としみじみ思ったものです。
ですが個人的に最もグロいと感じたのは、実はボスではないのです。それは物語も終幕に近付いてきた七章での出来事。
ここで古代のタイムカプセルを開け古代人を目覚めさせる事になるのですが、どのカプセルも中身は肉の溶け切った骸骨が入っているばかり……。一縷の希望に賭けて最後のカプセルを開けると、そこには体のしっかりと残った女の子が!
女の子は身を起こし、武に自分の持っていた三種の神器の一つである鏡を渡そうとしますが、その時女の子の体が崩れ始め……。とこの、『女の子の体がゆっくりと溶けて崩れていく』シーンを丁寧に表現してくれているからたまらない。
ずるずると体から頭が落ちていく様を見せつけられた方は、たまったものじゃありません。原作からして子供向けじゃないのは解ってたけど、もし子供が間違ってこんなの見たら確実にトラウマになるぞ……。
以前「スウィートホーム」回では『原作とかけ離れた方が名作になる』なんて事を書きましたが、全部が全部そういう訳ではないようです。とは言え唐突なアクションさえなければ普通に遊べる出来ではありますので、グロ耐性のある方にはいいんじゃないでしょうか。
とりあえず、今回はこれにて。




