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第百二十六夜 じゃりン子チエ ばくだん娘の幸せさがし

一つ、ゲームの話でもしようか。



知っている人は知っている、知らない人は全く知らない。そんな微妙な位置付けの作品は正直多いです。

はるき悦巳の漫画「じゃりン子チエ」も、そんな作品の一つです。昭和期の大阪を舞台に、小学五年生にしてホルモン焼き屋を一人で経営する少女竹本チエとその父で重度の博打好きの竹本テツを中心とした人々の日常を描いた漫画で、舞台設定故に大阪では高い知名度を誇るもののそれ以外の地方ではあんまり……という偏った人気を誇る作品であります。

そんなローカル人気の強い「じゃりン子チエ」ですが、一度ゲーム化された事があります。制作はあのコナミ。海外アニメや映画などのゲーム化をよく手掛けていたイメージの強いコナミですが、日本の作品をゲーム化した事はあまりなく、珍しい例だと言えます。

コナミの版権ゲーと言えば名作が多いイメージですが、果たして本作は……? それはこれから紐解いていくとしましょう。

それでは今回のテーマ「じゃりン子チエ ばくだん娘の幸せさがし」、紹介の始まり始まり……。


本作はファミコン黎明期、コナミよりファミコンにて発売されたコマンド選択型アドベンチャーゲームです。パスワードコンティニュー方式で、再開にはゲームオーバー時に表示されるパスワードを入れる必要があります。

以下はストーリー。家出していた母ヨシ江が、やっと帰ってきた竹本家。ところが今度は父テツが家を出ていってしまう。責任を感じるヨシ江に、自分がテツを連れ戻すと宣言するチエ。果たしてチエはテツを連れ戻し、また家族三人で暮らす事が出来るのだろうか? といった感じになっています。

筆者は原作を読んだ事がないので解らないのですが、本作の全三章からなる物語の幾つかの部分は原作にあったエピソードを元にしているらしく原作を読んだ人ならニヤリと出来る作りになっているようです。勿論筆者のような原作を知らないプレイヤーでも十分に楽しめるので、原作を読んだ事がないからと言って身構える必要はありません。

全三章はそれぞれ主人公が違い、章ごとに途中再開ポイントもあるのでボリュームはかなりのものです。一章はチエ、二章はチエの飼い猫コテツ、三章はテツをそれぞれ操る事になり、各々のキャラクターの特徴を活かしたストーリーが展開されます。中でも猫がアドベンチャーゲームの主役を張るというのは、なかなか珍しいんじゃないでしょうか。


本作はアドベンチャーゲームとしては珍しく、文章やコマンドが縦書き表示です。他に縦書き表示方式を採用しているアドベンチャーゲームは「ふぁみこん昔話」シリーズくらいしかなく、これだけで本作が如何に特殊か解ります。

勿論珍しさの為だけに縦書き表示されている訳ではなく、本作ではフキダシの中に登場人物の台詞を縦書きに表示するという手法を使う事により、より『漫画らしさ』を表現しているのです。この試みは見事に成功し、まるで漫画のキャラが漫画の中でそのまま喋っているかのような感覚を本作は与えてくれます。

本作の『漫画らしさ』はそれだけではなく、画面自体の構成にもあります。通常アドベンチャーゲームにおいてメイン画面とコマンドの位置は固定ですが、本作ではシーンごとに画面が横に割れたり縦に割れたり、メイン画面とコマンドのどちらが上でどちらが下か、またどちらが右でどちらが左かもその都度コロコロと変わっていきます。

その目まぐるしさがあたかも漫画のコマを読み進めているようで、見ていて飽きない作りになっています。目まぐるしくはあるもののそれぞれのシーンの移り変わりは実にスムーズで、猥雑さを感じる事もありません。

また本作では場面によっては『まわりみる』のコマンドで360度をぐるりと見渡す事が出来、これによって視界に映さないと話しかけられないキャラなんかもいます。このシステムが最も活かされているのが三章にてテツの鑑別所時代の仲間に話を聞くシーンで、一つの画面には入りきらないほどの大勢がいる様子が表現されている様はさながら漫画の大ゴマを見ているかのようです。

ゲームでありながら漫画らしい。当時のコナミの技術力が光る逸品だと思います。


そんな本作ですが、難易度はというと少し高めです。と言うのも、アドベンチャーゲームとしての難易度はそれほどではないのですが、要所要所に挟まれるミニゲームの難易度が高い上、負けると即ゲームオーバーになってしまう作りだからです。

コンティニューも章始めか途中再開ポイントからで、すぐにミニゲームの元まで辿り着けないのもネック。ミニゲーム以外にゲームオーバー要素はないので、気軽と言えば気軽なんですが……。

特にミニゲームが多いのは三章のテツ編ですが、筆者が苦労したのは二章のコテツ編。選択肢を選ぶだけのミニゲームではあるのですが、正解の選択肢に繋がるヒントが全くないのでまあゲームオーバーになる事なる事。

そんな訳で二章は、筆者にとって色んな意味で一番思い出深い章だったりします。猫の世界というだけで猫好きの筆者にはパラダイスですしね!


グラフィックは手持ちの説明書と比較するとよく解るのですが、原作の味を損なう事なく忠実に描かれています。背景も当時の下町の感じがよく出ていて、今見るとノスタルジックな気分になったりします。

お馴染みコナミ矩形波倶楽部による楽曲も雰囲気を損なう事なく場に馴染み、下町情緒溢れる、それでいてどこか大阪らしさを感じるものとなっています。ゲームにBGMって大事なんだなと、前回のご紹介がアレだっただけに余計に強く思います。

また原作ものとして重要な登場キャラ数もかなり多く、チョイ役のキャラも多いとは言え説明書に載っているキャラだけで二十人を超えるほど。喋る台詞もそれぞれ特徴があり、『原作ではどんなキャラなんだろう』と思わせてくれる味があります。

しかし原作が長寿漫画であったようなので、興味はあるけど購入しての一気読みは躊躇われる現状……。興味を持ったはいいけど既刊十巻以上とかだと、集めるにもお金がかかりますしね……。


しかし本作を省みて思うのは、昔は自由な時代だったなという事です。何せ一般人がヤクザをどついて金を巻き上げる、とかいい大人が小学生とおいちょかぶやってやっぱり金を巻き上げる、なんてイベントが用意されてますから、今出したら前者はまだしも後者は絶対バッシング不可避だと思います。

本作が出た昭和の頃は表現の規制が今よりずっと緩く、今ではネット上でしかお目にかかれないような過激な表現も一般誌に堂々と載っていたりしました。しかし平成に入り、規制の声が大きくなるとそういった過激な表現は徐々に自粛に追い込まれていきました。

これ以上は本エッセイの主旨と異なってしまうので控えますが、最後に一つだけ。徹底除菌した世界で産まれた子供は、本当に健やかに育ちますか?


版権ゲーでありながらも実にコナミらしい、そして漫画らしい魅力に満ち溢れた本作。知らない漫画だからと敬遠せず、もし見かけたら一度プレイしてみては?



とりあえず、今回はこれにて。

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