第百二十三夜 名探偵ホームズ Mからの挑戦状
一つ、ゲームの話でもしようか。
ファミコンにおいて、とてもホームズを扱っているとは思えないアクションゲームを発売したトーワチキ。しかしトーワチキの攻勢は、これで終わりませんでした。
その後トーワチキは新たなホームズゲー、「名探偵ホームズ 霧のロンドン殺人事件」を発売します。ジャンルは流石に非難が殺到したのか純粋なアドベンチャーゲームとなり、こちらはなかなか評判も悪くなかったようです。
これに気を良くしたのか、トーワチキはホームズゲー第三弾を計画します。ジャンルはやはりアドベンチャー、今度はホームズの宿敵であるモリアーティ教授も交えて……。
そうして出来上がったのが今回ご紹介する「名探偵ホームズ Mからの挑戦状」です。今度のホームズゲーは、果たして名作になり得たのでしょうか?
本作はファミコン全盛期、トーワチキよりファミコンにて発売されたコマンド選択式アドベンチャーゲームです。全五章からなるストーリーを、名探偵シャーロック・ホームズとなり読み解いていくという内容になっています。
以下はストーリー。ベーカー街に居を構える名探偵、シャーロック・ホームズの元にある日一つの依頼が舞い込む。それは英国一のヴァイオリニスト、コーネルが所持するバイオリンの名器『ストラティバリ』を奪うという脅迫状が届いた為それを警護して欲しいというものだった。脅迫状の差出人はあのモリアーティ教授。ホームズは依頼を引き受けコーネルが参加するという演奏会の会場に向かうが、コーネルの案内で向かった演奏会のプロモーターの事務所で殺人事件が起こってしまう。果たしてこれは偶然なのか、それとも……? といった感じになっています。
ただお宝を頂くというだけなら脅迫状ではなく予告状なのでは?とかこれってモリアーティ教授と言うよりアルセーヌ・ルパンとかの犯罪予告じゃない?とか言いたい事は色々ありますが、まあ置いておきましょう。ルパンは怪盗であって殺人はしませんしね。
システム面はよくあるオードソックスなコマンド選択式アドベンチャーゲームのそれであり、特筆すべきところは特にありません。しかし細かい部分にまで目を向けてみると、ここちょっと変だな?と思うところは存在します。
一つはゲーム内の視点。本作では章の始めと終わりにモリアーティ教授が現れ自分の犯罪計画を喋りまくり、それ以外はホームズ側に立って話が進んでいきます。
何しろモリアーティ教授がこれから何をするつもりなのかを常にベラベラと暴露してくれる為、いざ事件が起こっても『知ってた』という事になりがちで衝撃が薄い事薄い事。一応モリアーティ教授はあくまで自らの手では事を起こさず、事件は全て彼の部下によって行われているのですが、それにしたって本当に必要だったのかこの犯人視点。
ちなみに本作はパスワードコンティニュー方式なのですが、それを教えてくれるのもやっぱりモリアーティ教授。敵を助けてどうするモリアーティ教授。
捜査中の視点もどこかおかしく、本作ではホームズやワトソンを含めたキャラ達が頻繁にメイン画面を入れ替わり立ち替わりします。この為本作が一体誰視点で進んでいるのか初見ではいまいち解りにくく、混乱を招きがちです。
他にアドベンチャーゲームを遊んだ事のある人なら解るかもしれませんが、通常メイン画面というのはプレイヤーの分身である主人公目線で見えているものを映す画面であり、主人公はイベントシーン以外姿を見せないか見せてもメイン画面とは別の画面に姿を見せるのが普通なのです。ところが本作はホームズ視点にもかかわらずホームズが他のキャラと同じようにメイン画面を出入りする為、アドベンチャーゲームに慣れている人ほど本作が誰視点なのかに混乱するという状況を作り上げているのです。
どうしてもホームズの姿を見せたかったのならホームズを別枠で表示するなり、メイン画面に映したいなら映したいでホームズだけは常に固定で出るようにするなりすれば良かったのに……。本作発売時点で、そうしているアドベンチャーゲームが他にあったにもかかわらず……。
変と言えば、パスワードもちょっと変。本作のパスワードは完全固定で、それぞれ世界的な音楽家の名前になっている、それは別にいいんです。
本作が変なのはそれらパスワードが全部で四文字までしかないのに、パスワードの入力画面では最大十一文字まで入力出来てしまう事です。残り七文字必要ないだろ!
……と言いたいところですが、どうやら裏技のサウンドテストなどに対応する為のこの文字数の様子。だったら各章のパスワードも同じ文字数にすれば良かったのでは……。
ちなみに本作は楽団のヨーロッパ公演がメインという事もあり、BGMもクラシックの名曲が使われています。クラシックは著作権が切れている事が多いので、ゲーム業界ではよくある流用だったりします。
ストーリー面について。ストラティバリの持ち主コーネルを含めた楽団が公演する先々で次々と事件が起こるというのが本作の流れなのですが、結論から言ってしまえばそれらの犯人は全てモリアーティの息のかかった人物であり、更に大半が楽団員です。というか、本作の名有り楽団員はほぼ全員モリアーティの部下です。
もしかして自分のお抱え楽団にコーネルを呼んだ?と思うも作中のモリアーティ教授の談からするとどうもそういう訳でもなさそう。今回の一連の事件の為だけに、一つの楽団にそんなに部下潜り込ませられる……?
また本作のホームズは基本的に後手後手で、結果的にモリアーティ教授の企みを阻止しているのは殆どがホームズ以外の人物です。ホームズが後手に回らないとストーリーが進まないとは言え、世界的名探偵にさせる事としてはどうなのか……。
ただ詰みやゲームオーバーはなく、コマンドを総当たりしていればいつかはクリア出来ます。細かい事を気にしない人なら、クリアまでは楽しめるのではないでしょうか。
頑張って特徴を挙げてはみたものの、総じて言えば『地味なゲーム』、これに尽きます。本作が出た頃は他に目を引くようなアドベンチャーゲームが数多く出ており、突出したシステムやストーリーのない本作が埋もれてしまったのも仕方のない事なのかもしれませんね。
とりあえず、今回はこれにて。




