第十一夜 高橋名人のBUGってハニー
一つ、ゲームの話でもしようか。
ファミコン全盛期の頃、『名人』と呼ばれる存在が何人か現れました。子供には難しいゲームをさくさくとクリアしていく彼らは、瞬く間にちびっ子達の人気者になりました。
その中でも最も有名な存在と言えるのが、今は亡きハドソンに在籍していた高橋名人です。最大の特徴は何と言っても、得意の一秒間十六連射。連射パッドなしでこの速度なのですから、いかに凄い連射力を持っていたか解るというものです。
第五夜で触れた『ゲームは一日一時間』という台詞も、この高橋名人の残したものです。ちびっ子に影響力の高い高橋名人にこれを言わせる事で、ゲームのやり過ぎを防止しようとしたんですね。
そんな高橋名人、当時は色んなメディアに出演していました。高橋名人を主役にしたゲーム、高橋名人を主役にした映画、果ては高橋名人を主役にしたアニメまでもが作られました。高橋名人はまさに、当時のゲームキッズにとってのヒーローだったのです。
今回は、そんな高橋名人を題材にしたゲームの一つ。「高橋名人のBUGってハニー」について語ろうと思います。
本作は、前述した高橋名人のアニメを更にゲーム化したアクションゲームです。同じ高橋名人の名を冠する高橋名人の冒険島シリーズとの差別化を図る為か、そのシステムはかなり特異なものとなっています。
まず、プレイヤーはキャラを操作し自由にスクロールするエリアの中に隠された卵を探します。何故キャラというざっくりとした言い方なのかと言うと、本作、一面とそれ以降とで操作キャラが異なるからです。
一面はヒロインであるハニーを操作し、囚われの高橋名人を救出するのが目的。ハニーは空を飛ぶ事が可能で、比較的操作しやすいキャラとなっています。
二面以降は、救出された高橋名人を操作する事になります。高橋名人は当然空は飛べないので、一面よりも難易度は上がります。
話を戻しましょう。隠された卵は、攻撃を何発か撃ち込む事で出現します。その卵を取ると……唐突に、ブロック崩しが始まります。
比喩ではありません。本当にブロック崩しです。
ここでの目的は、ブロックの中に隠されたパスワードを手に入れる事です。パスワードは一つのブロック崩し面に一つずつ、計八つ隠されており、これを集めてアクションステージ奧にある扉を開く事が本作の大まかな流れとなります。
このブロック崩し、最初のうちは簡単なのですがステージが進むにつれてだんだん難しくなっていきます。しかもパスワードには偽物も混じっており、そっちを間違えて取ってしまうと体力を失ってしまいます。
そして、ブロックを全部崩し終える前に体力を全て失うか、正しいパスワードを取り逃してクリアしてしまった場合……また、卵を出現させるところからやり直しとなります。なかなかにシビアです。
幸い、パスワードは必ず何かしらの意味のある文章になっているので、慣れれば正しいパスワードの推測は可能なのですが……英語をまだ知らない小学生にはなかなか厳しかったんじゃないかと思います。というか、厳しかったです。
厳しいのはこれだけではありません。卵の中にはご丁寧にハズレの卵まで用意してありまして、取ってしまうとパスワードのない、崩せないブロックだらけのハズレ面に飛ばされるのです。ハズレの卵を見分ける方法はない為、卵が出たからと言って油断してはいけません。
さて、このゲーム一番の思い出と言えば、最終面である四面です。ここでも卵を探しパスワードを手に入れる事になるのですが、その卵のうち一つを出す方法が問題。
この面には高橋名人の像が背景にあり、卵はそこに隠されているのですが、何故か何発攻撃を撃ち込んでも卵が出てこない。それもその筈、ここの卵は高橋名人ばりに一秒間十六連射をしないと出てこないのです。
一体大人も含めたどれだけの人が、連射パッドなしでそれが可能だと言うのでしょうか。少なくとも筆者には無理でした。現在に至るまで、四面の扉を開けた事はありません。
こうして高橋名人は、筆者に人生の厳しさをも教えてくれたのでした。
とりあえず、今回はこれにて。