第百十四夜 RPGツクールDS
一つ、ゲームの話でもしようか。
スーパーファミコンで処女作を出してより、定期的にコンシューマで新作を出し続けていた「ツクール」シリーズ。しかしジャンルを2DRPGから3DRPGに移したPS2ソフト「RPGツクール」の発売以降、コンシューマの「ツクール」シリーズのリリースはぱったりとなくなっていました。
パソコン版の「ツクール」シリーズのリリースはその間も継続されていましたが、より安価で気軽に制作出来るコンシューマ版の続編を望む声も依然として存在しました。その声に応えてか、遂にニンテンドーDSでコンシューマ「ツクール」は復活したのです。
それが今回ご紹介する本小特集最後のソフト、「RPGツクールDS」です。コンシューマ版久々の新作は、果たして如何なるものになったのでしょうか。
本作はDS中期、エンターブレインよりニンテンドーDSにて発売されたゲーム制作ツールです。前作「RPGツクール」と比べると本作ではまた2DRPGにジャンルが戻り、「RPGツクールアドバンス」以来の携帯機での「ツクール」という事もあって気軽さ、遊びやすさを重視した作りになっています。
またWi-Fiを通じて作ったゲームを専用サイトに投稿したり逆に自分のDSに投稿されたゲームをダウンロードしたり(現在は閉鎖済)、コンテストにも応募出来るなどネットワーク環境を生かしたやり取りも出来ました。新時代のコンシューマ版「ツクール」は、まるでパソコン版のような遊び方をも可能にしたのです。
と、ここまでなら順当な進化のように思えるのですが……実を言うと本作、一部では悪い意味で有名な作品だったりします。そう、クソゲーとして……。
その理由の一つが、大量のバグ。特殊な操作を行わなくてもバグが発生し、しかもそれがゲームがフリーズするなどの致命的なものであった事からプレイヤーに強い不満を抱かせました。
まあこのバグ問題に関しては筆者は幸いにと言うべきか遭遇した事がないので、それほど深くは語れません。ですが本作の真の問題は、バグ以外のところにあったのです。
まず容量。本作で使える容量はfullサイズとDPサイズの二種類あり、fullサイズの方が容量が大きい代わりにDPサイズの方はソフトを持っていないユーザーにもDS本体さえあればゲームが送れるという特徴を持っていました。持っていたんですが……。
問題はこのDPサイズ、何を設定するにも物凄く容量を消費するのです。どのくらいかと言うと、まともなフィールドマップを作ったらそこで容量が尽きるぐらい。
本作ではDSiのカメラ機能を使って画像を取り込み使用する事も出来るのですが、それも一枚使うだけで半分以上の容量がなくなります。よってDPサイズで何か作りたければ、フィールドなし、取り込み画像なしでどうにかするしかありません。
こんな状態なのに、本作を使った最初のコンテストはDPサイズ限定での募集だったからもう……。それでも多数の応募が届いた辺り、ツクラー(「ツクール」でゲームを作る人の俗称)恐るべしと言わざるを得ませんが。
ならfullサイズでなら思い通りにゲームが作れるのかというとそうとも言えず、異常な容量消費こそなくなりますがその総容量は何とスーパーファミコンの処女作「RPGツクール SUPER DANTE」並。携帯機における前作「RPGツクールアドバンス」より劣っています。
まさかDSまで来て、ファミコン並の容量のゲームの制作をやらされる羽目になるとは……。バグを乗り越えたところでこの仕打ち、やる気がどんどん削がれていきます。
ゲームとは容量が全てじゃない、アイデアが勝負だ! そう主張する人もいるでしょう。では具体的に、本作で何が出来るのか見てみましょう。
まず文字入力はDSなだけあって、流石の快適さです。カーソル操作も可能ですがやはり基本となるのはタッチペンでの操作で、ワンタッチで入力、変換、消去と思いのままに文章を打ち込めます。
顔グラフィックを挿入し、そのキャラが喋っていると解りやすく表示する事も出来ます。ここのグラフィックには取り込み画像も使用出来、自分だけのキャラクターを演出する事も可能です。
時には吹き出しのアイコンを表示して、台詞を使わずに感情を表現する事も出来ます。台詞を打つよりも容量が節約出来る場合もあるので、状況に合わせて使い分けるといいでしょう。
かようにイベント面では、本作はしっかり進化していると言えます。ではシステム面はどうでしょう。
本作で設定出来る主人公キャラは八名まで。十二人まで主人公キャラが作れた「RPGツクール2」にすら劣っています。上昇ステータスや習得特技は就いている職業によって決まり、主人公毎の設定は出来なくなっています。
職業はキャラの成長傾向を決めるもので、十六個まで設定出来ます。しかし本作、キャラをゲーム中で転職させる事が出来るシステムなんて用意されていません。
どうしても転職させたければ転職前の職業のキャラと転職後の職業のキャラをそれぞれ作り、イベント命令で入れ替えるしかありません。……もうお気付きですね? 作れるキャラの数に対して、設定出来る職業の数が過剰に多すぎるのです。
一人のキャラに設定出来る職業は一つだけ。つまり最大でも八個あればそれで十分なのに、何故かその倍の職業設定欄があるのです。どうしてこうなった。
戸惑う仕様はこれに留まりません。RPGらしく本作でもアイテムを設定する事になるのですが、付与出来る効果は『HP回復』『MP回復』『状態異常回復』『状態異常付与』……だけ。何と「RPGツクール SUPER DANTE」にすらあった『設定した特技と同等の効果を持つアイテム』が存在しないのです。
つまり『町から町へテレポートするアイテム』や『使うと敵にダメージを与えるアイテム』も作れないという事……。おまけに確率で壊れるかどうかも設定出来ず、必ず壊れるか必ず壊れないかの二択しかない為作れるアイテムの幅はどうしたって狭まります。
特技の方も問題です。ダメージや回復の設定した数値と実際の数値の振り幅が小さい、これは別にいいです。HP消費のHP回復特技やMP消費のMP回復特技か設定出来る、許容しましょう。
しかし敵に効く特技、効かない特技を設定出来ない、ここで一気にシステムが退化してしまっています。スーパーファミコンですら出来てました。繰り返します、スーパーファミコンですら出来てました。
絶対でないとはいえどんな敵にも容赦なく状態異常が効いてしまうので、状態異常は敵のみが使えるようにするなどしないとラスボスですら眠りでハメ殺しというぬるすぎるRPGが生まれてしまう事に……。本作、イベント以外を軽視しすぎじゃないですかね……?
マップも個人的には不服を申し立てたいところです。本作、フィールドマップと洞窟や森のマップは自由に作れるのですが、町や城、塔などのマップは自由に作れず、既に出来上がっているマップを利用するしかないのです。
使えるマップの種類も決して多くはなく、誰が作っても同じような町、同じような城になってしまいがちです。まあ実際一緒なのですが、折角人によって個性が出せる箇所を無個性にしてどうするのかと……。
あとこれは実に細かい、人によってはどうでもいい部分ではありますが敢えて触れていきます。本作ではモンスターのグラフィックをポップ調にするかリアル調にするか設定出来、設定した方にグラフィックが統一されるようになっています。
ポップ調はどのモンスターも小さめの、可愛いデザインです。対してリアル調は……でかい。異様にでかい。
そのでかさたるや、一番小さなSサイズモンスターですら横に三体並んだらぎゅうぎゅうになって絵が重なるほど。一番大きなLサイズモンスターなど、一体で画面全部を覆い尽くすでかさです。
本作ではモンスターのサイズ毎にどんな隊列で出現させるか決められるという、それによる効果などないのに無駄に凝っている仕様があるのですが、どうやらポップ調の方を基準にしているのか一度に出せるモンスターの数が多いのなんの……。幾らSサイズでも画面上に五体とか出したら、ポップ調なら良くてもリアル調ではごちゃごちゃする事受け合いです。
なので筆者は本作でゲームを作る時は常にモンスターグラフィックはポップ調にしています。自分がやるなら、すっきりした戦闘画面でプレイしたいもので……。
サンプルゲーム「サンプルクエスト あなたが作る物語」について。この作品はタイトル通り、本作用サンプルとして一から作られたゲームです。
以下はストーリー。ウィンディオは記憶喪失の冒険者。ある日ゴブリン退治の依頼を受け、町の北にある洞窟へと向かう。無事依頼を果たし、不運にもゴブリンに囚われていた盗賊ナルテマを救出したウィンディオ。ナルテマを連れて洞窟を抜けると、そこは別の町だった……。とこれで全部です。
はしょりまくった訳じゃありません。本当にこれしかストーリーがないんです。
歴代サンプルゲームの中でも驚異の薄さ。イベントも本当に最低限しかありません。これをやった後だと、「RPGツクール SUPER DANTE」の「Fete」は制約多い中で移植物凄く頑張ったんだなあ……とつい思えてしまいます。
正直薄すぎてゲーム作りのサンプルとして使えるかも怪しいので、本作のサンプルゲームの存在は記憶から速やかに消去しちゃっていいと思います。データをロードすると容量はまだまだ余ってるので、もしかしたらこの続きは自分で好きに作ってね!という事なのかもしれませんが。
さあ最後の黒歴史開封です。と言ってもこれのみ、まだ最後まで作り上げる可能性が残っているのですが。本作で制作しようとしたゲーム、タイトルは「混沌の迷宮」。
ストーリーらしいストーリーはあまりなく、内容は仲間とはぐれた勇者が迷い込んだ謎の迷宮を進んでいく、これだけです。本当は「リトルクエスト」(「RPGツクール SUPER DANTE」回参照)をリメイクしようとしたんですがあまりにもイベント以外にやる事がなくて途中で躓き、ならばいっそシンプルなゲームを作ってしまえ!と開き直った結果生まれたのがこの「混沌の迷宮」だったりします。
主人公の勇者はHP消費によるMP回復の特技とMP消費によるHP回復の特技をそれぞれ持っており、それ以外に回復手段は存在しません。よってどのタイミングでどちらの回復を行うか、慎重に見極めなければなりません。
宝箱や特定の敵からは、時々敵全体を眠らせるアイテムが入手出来ます。時にはこれを利用し、敵を無力化するのも手です。
各エリアのガーディアンを倒すと勇者のレベルが上がり、ステータスも全快します。通常戦闘では経験値は入らないので注意しましょう。
このゲームは二種類のエンディングに分岐しています。勇者の戦いがどのような結末を迎えるかは、プレイヤーが取った行動次第です。
今まで作った中で、結果的にこれが一番ゲームとして凝ってる気がします。なので完成させたい気持ちはあるんですけどね……イベントもラストバトル以外は作り終わってるし。
可愛いキャラや多彩な顔グラフィック、進化したイベント命令など見るべき部分はあるものの、それ以外の部分がことごとく劣化してしまっているのは如何なものか。この後もコンシューマ版「ツクール」はDS系列で出続ける事となりますが、なかなか満足のいく仕上がりとはいかないようです……。
とりあえず、今回はこれにて。




