第百十二夜 音楽ツクール かなでーる
一つ、ゲームの話でもしようか。
音ゲーが生まれるより前の音楽を取り扱ったゲームが作曲をする為のものだったという話は以前しましたが、その中でも本格的に作曲をする為のゲームというのは実に少ないものでした。大抵は作曲機能はあるもののメインとなるのは別の部分で、作曲は言わばおまけのような扱いでした。
そこで、絵を描く為のゲームがあるなら曲を作る為のゲームがあってもいいじゃない……と誰かが言ったのかは定かではないですが、とにかく、作曲に特化したゲームが発売される運びになったのです。ただ作曲するだけではなくゲーム内で実際に曲を流せるなど、夢の広がる仕様も携えて。
その名は「音楽ツクール かなでーる」。はてさて、その実力や如何に……?
本作はスーパーファミコン全盛期、旧アスキー、現エンターブレインよりスーパーファミコンにて発売された作曲ツールです。本作も前作ご紹介した「RPGツクール2」同様「メモリーパック」対応で、ソフト七本分の曲を記録したり「メモリーパック」を通じて「RPGツクール2」に曲をダウンロードさせる事が出来ました。
中にはサンプルとしてあらかじめ幾つかのオリジナル曲が収録されており、他の「ツクール」シリーズ同様データをロードして好きに弄る事が可能です。とは言えゲームと違って既に出来上がっている曲をアレンジするというのは極めて難しい行為なので、これらサンプル曲がどこまで作曲の役に立ったかはかなり疑問符がつくのですが。
さて本作を使った作曲ですが、実際のところ、他の「ツクール」シリーズのように基礎知識が全くなくてもやっているうちに学べるという訳にはいかなかったりします。始めからある程度楽譜が読める事前提の作りとなっており、楽譜内で使われる記号などの解説も一切ありません。
この事から、本作から本格的に音楽に触れていくというのはかなり厳しいと思われます。基礎知識が全くない状態で弄っても、出来るのは適当に音符を並べるくらいが関の山でしょう。
その代わり、問題なく楽譜が読めるレベルのプレイヤーが弄ればかなり本格的な曲が作れたりするのも本作。良くも悪くも、プレイヤーのスキルに左右される作りと言えます。
作曲を始める際、まず指定するのが何拍子の曲を作るかです。本作では四分の○拍子と八分の○拍子とで拍子が選べ、八分の五拍子などかなり攻めた曲も作成可能となっています。
但し曲の途中で拍子を変える事は出来ず、途中で激しく転調する曲などは作れなくなっています。ループを諦め、音符の位置をずらせば可能と言えば可能ですが、正直面倒臭いのは否めません。
次に、音階をどうするか決めます。と言っても、音楽に詳しくないと何を言っているかさっぱりだと思うのですが、要するに、ピアノなどの鍵盤のどのキーを中心にした曲を作っていくかという事です。
例えばドの音を中心にすれば、ドレミファソラシドで白い鍵盤だけ叩いていれば曲は出来上がります。しかしここでファの音を中心にするとそうはいかず、どこかで黒い鍵盤を押さなければ綺麗なファソラシドレミファのメロディにはなりません。これが音階です。
音階はシャープ、またはフラットの記号をト音記号やヘ音記号の直後に付ける事で表し、シャープやフラットの付いたラインの音は自動的に半音上がったり下がったり……つまり常に黒い鍵盤を押している状態で演奏されます。使いこなすのはかなり難しいので、慣れないうちは何も記号を付けないドレミファソラシドの音階で作曲していくのがいいと思います。
この二つを設定したら、いよいよ作曲開始です。本作ではパートを八つまで設定出来、それぞれに担当楽器を割り振ってメロディを作っていきます。
使える楽器は幅広く、ピアノやトランペットなどの基本的な楽器、マリンバや琴といった一風変わった楽器、ファミコン時代のピコピコ音源、リズムを取る為のドラムなど多岐に渡ります。パートも必ずしも全て使う必要はなく、三パートだけ使って全部にピアノを設定し、あたかも両手でピアノを弾いているような曲を作る事も可能です。
担当楽器を決めたら、パートごとにメロディに合わせた音符を書き込んでいきます。音符は画面下のリストにある四分音符や八分音符の中から使いたい音符をカーソルを動かして選び、選んだ音符を鳴らしたい音のラインを選択して置く事で書き込む事が出来ます。
一度書き込んだ音符の音色を修正したい時は、直したい音符と縦に位置を揃えて新しい音のラインを選択、でOKです。なお、例えば四分の四拍子の楽譜の一小節に四分音符を五個以上並べるという、一小節に並べられる音をオーバーした楽譜を作る事は出来ません。
ただ、単発で音符を並べているだけでは全体のメロディが上手く掴めなくなりがちです。そういう時の為に、本作では作っている最中のメロディをお試しで流せる機能も付いています。
流せる範囲は最初からと今作っている小節のみで分かれ、小節ごとのチェックも全体のチェックもどちらもいつでも可能になっています。まめに完成形をチェックする事は、曲完成の為の第一歩だと言えます。
完成した曲や、制作途中の曲はタイトルを付けて保存しておく事が出来ます。タイトルに使えるのはカタカナと数字のみ、全部で八文字以内と決まっています。
曲は複数保存しておく事ができますが、保存出来る量は曲数ではなく、一つ一つの曲の密度によって変わります。長い曲、パートを沢山使った曲ほど保存に使う容量を喰い、保存出来る容量を超えるとそれ以上の保存は不可能となります。
なのであまり大作の曲を作り過ぎると、他に何も保存してないのに『容量が足りません』なんて事になるかも……? 熱中しすぎるのは、くれぐれも程々に。
本作にはジュークボックス機能もあり、サンプル曲や、保存した曲を映像付きで聞く事が出来ます。どの映像と共に曲を流すのかは選択が可能で、お気に入りの映像とセットで曲を楽しむ事が出来ます。
また歌詞を付けた曲を流すとカラオケモードになり、曲と一緒に歌詞が表示されるようになります。漢字は使用不可能とはいえ雰囲気は出るので、恥ずかしがらずに一回ぐらいは歌詞付きの曲を作ってみるのもいいかも?
筆者も一応オリジナルのバトル曲を本作で数点作ったりもしたのですが、それ以上に多かったのが楽譜の丸写し。音楽の教科書やピアノのバイエルなどに載っている曲を打ち込んで、演奏して楽しんでいたのです。
何せギリギリバイエル程度は読めても肝心の演奏技術がなかったので、こういう手でも使わなければ完成された曲を聞く機会がなかったのです。本作の本来の楽しみ方とは違うんでしょうが、これだけでもとても楽しかったのを覚えています。
今回はちょっと音楽の専門用語的な単語も多く、いつもより読みにくかったかもしれませんね。ゲーム的な要素の少ないガチの作曲ツールなので、それも仕方ないのかもしれませんが。
とりあえず、今回はこれにて。




