第百十一夜 RPGツクール2
一つ、ゲームの話でもしようか。
スーパーファミコン全盛期、「サテラビュー」というサービスがスーパーファミコンで開始されました。「サテラビュー」とはスーパーファミコンを受信機にした衛星放送のサービスで、簡単に言えばスーパーファミコンを使ったWOWOWみたいなものでした。
他の衛星放送のように「サテラビュー」でも主にゲームに関する様々な番組を配信していましたが、「サテラビュー」と他の衛星放送との大きな違いは、ゲームそのものを衛星放送を通じて配信していた事です。各ゲームは別売の「メモリーパック」を使う事で保存出来、一度保存すればいつでも遊ぶ事が出来ました。現代のダウンロード販売の、ある意味先駆けと言えるかもしれません。
そんな「サテラビュー」でしたが、サービスを開始して間もなくセガサターンやプレイステーションといった次世代機の台頭が始まりスーパーファミコン市場は徐々に衰退。結果「サテラビュー」もそれほど普及する事はなく、ひっそりと姿を消していったのでした。
今回ご紹介しますのは、そんな「サテラビュー」に対応していたソフトの一つ。コンシューマの「ツクール」で最も好きなソフトを決めるなら、これかプレイステーションの「RPGツクール3」だと今なお言われる「ツクール」シリーズ。「RPGツクール2」です。
本作はスーパーファミコン最盛期、旧アスキー、現エンターブレインよりスーパーファミコンにて発売されたゲーム制作ツールです。前作「RPGツクール SUPER DANTE」と比べると、あらゆる面でパワーアップを果たしています。
まず一番大事な容量が、前作の二倍以上にまで膨れ上がりました。これにより「ドラゴンクエスト3」は無理でも「ドラゴンクエスト2」レベルのボリュームのゲームなら問題なく作れるようになり、出来る事が純粋に多くなりました。
フィールドマップもパーツを組み合わせて自作する事が可能になり、作りたいゲームに合わせたフィールドを用意出来るようになりました。やろうと思えば、海の全くない陸地だけのフィールドを作る事なんかも出来ます。
ダンジョンや町に使えるパーツは全部で五つの種類が用意され、町用、城用、洞窟用の三種類だった前作より増加しました。屋内だけでなく迷いの森のようなダンジョンを作れるパーツも加わり、作れるダンジョンの幅が更に広がったと言えます。
キャラクターは前作の二頭身から三頭身に等身が上がり、種類も増えました。何よりイベントとして設置する際にあらかじめ向きが指定出来るようになり、前作にあった全員下を向いた状態から移動などを開始するという不自然さはなくなりました。
魔法は作れる総数の範囲内でならばどの種類の魔法でも好きな数だけ作れるようになり、魔法を全て攻撃魔法で埋め尽くすなんて荒業も可能に。また前作では絶対覚えない魔法というのを仕様上設定する事が出来ず、レベルカンストしないと覚えないという対処にするしかなかったのですが、本作では覚えない魔法はレベルカンストしても絶対覚えないように設定する事が出来るようになったので気軽に好きな魔法を覚えさせられます。一人のキャラが魔法を覚える数に、制限がなくなったのもプラスです。
アイテムは前作が一人一人が個別にアイテムを管理する「ドラゴンクエスト」方式だったのに対し、本作では全てのアイテムを共同で管理し種類別に複数を一括所持出来る「ファイナルファンタジー」方式に変わりアイテムを持たせやすくなりました。またゲーム中でHP回復などのアイテムの簡単な効果が使わなくても解るようになり、プレイする側の遊びやすさも上がっています。
敵モンスターは姿だけでなく、その姿の中で何色にするかも四種類の色パターンの中から選べるようになり色違いのモンスターが作れるようになりました。また落とすアイテムとその確率も設定出来るようになり、敵からのドロップでしか手に入らないアイテムも作れるように。更にイベント戦ごとにBGMを設定する事が出来、中ボス戦、大ボス戦、ラスボス戦と戦う敵によって様々にBGMを変える事が可能です。
使える文字は漢字が少ないのは相変わらずですが代わりにハートや音符をくっつける事が出来、より感情豊かな表現が可能になっています。また表示方法にウインドウだけでなくテロップも増え、オープニングなどの演出が更にしやすくなりました。
また細かい点ではありますが、ゲーム制作中のBGMを自分で指定出来るようになったのも高ポイント。この為か本作のBGMはどれも1ループが長くなっており、制作中のBGMに使ったら後半で曲調が大幅に変わって驚いた、なんて経験をした人も少なくないようです。
本作は「サテラビュー」対応という事もあり、「サテラビュー」から配信された追加素材を「メモリーパック」に保存して自分のソフトで使うなんて事も出来ました。作成したゲームを「メモリーパック」に保存する事も出来、その数はゆうに七つと「ターボファイルツイン」の二倍以上となっています。
また同時期に発売された「音楽ツクール かなでーる」との連動要素もあり、メモリーパックを経由する事で自作のオリジナル曲を一曲だけゲーム内で流す事も出来たのです。このような要素は、当時のコンシューマゲームとしては画期的でした。
「メモリーパック」が使えるゲームは少なく、流通数も決して多いものではありませんでした。筆者は運良く中古の「メモリーパック」をゲット出来ましたが、今から手に入れるのは厳しいわもしバッテリーバックアップだったら電池切れの可能性もあるわで現在実用可能かは大変難しいのが実情であります……。
サンプルゲーム「だんきちのバクチン大作戦!!」について。今回は前作のサンプルゲーム「Fate」と違い、本作用に一から作り上げたゲームとなっております。
作者は当時の「ファミ通」編集者、桃栗たき子氏。氏のギャグセンスがふんだんに発揮されつつ、遊びながら本作のテクニックも学べて、尚且つゲームとしても十分に遊べるという一粒で何度も美味しい良作に仕上がっています。
以下はストーリー。学校にも行かず、毎日家で惰眠を貪っていた主人公のだんきち。たまりかねた母親の手によって家を追い出され、仕方なく学校へ行く事に。学校へ行くと、丁度学園祭のミスコンの真っ最中。そこでグランプリに輝いたミナヨちゃんに、だんきちは一目惚れしてしまう。ミナヨちゃんがゲーム好きだと知っただんきちは早速「RPGツクール2」を購入。ゲームを作ってミナヨちゃんにプレゼントしようとするが、家に帰ってゲーム作りを開始しようとしたその時突然怪しい二人組が部屋に乱入。だんきちは二人組に連れ去られてしまう。辿り着いた場所は『ツクール学園』という何やら怪しげな学校。そこでだんきちは、同じように集められた「RPGツクール2」購入者達と一緒にゲーム作りのノウハウを学ぶ事に……。果たしてだんきちは無事『ツクール学園』を卒業し、ゲームを作ってミナヨちゃんのハートを射止める事が出来るのか!? といった感じになっています。
あらすじだけだとRPG要素がどこにあるんだという感じですが、そこはそれ、RPGとしてきちんと成立するようイベントは工夫されています。キャラも個性的で凝ったイベントも多く、本作で出来る事をフルに活用した作りになっています。
ただ後半の戦闘バランスはちょっと厳しめで、そこはやはり素人の作品かなという感じはします。個人的にはそこも含めて味だとは思いますが。
これ以降、「ツクール」シリーズのサンプルゲームはそれ自体が一つのゲームとして十分遊べる凝ったものばかりになっていきます。ツールの進化により出来る事が増えた為というのもあるのでしょうが、正直凝りすぎてて『ゲームのイベントなどを作る為のサンプル』としてはどこまで機能しているやらちょっぴり怪しくなってきます……。
さて今回の黒歴史開封のお時間です。本作で筆者が作ろうとしたゲーム、タイトルは……あれタイトルがない。どうやら付け忘れていたようです。仕方がないのでタイトルは「PEACEMAKER」とかで。
以下はストーリー。ヨシュアはファレルの村で村娘リーザと共に暮らす青年。一ヶ月前に傷だらけになって村の外に倒れていたヨシュアをリーザが見つけ介抱したのだが、目を覚ましたヨシュアは自分の名前以外の全ての記憶を失っていた。リーザの必死の看病の甲斐もありヨシュアの傷も癒えてきたある日の事、村を突然モンスターが襲撃する。ヨシュアは記憶を失う前から持っていた剣を手にモンスターを撃退するが、村にモンスターが現れた事で元々ヨシュアの存在をよく思っていなかった他の村人達の不満が爆発。村が襲われたのはヨシュアがやって来たせいだとして、村を追い出される事になってしまう。一人悲しみに暮れるリーザに別れを告げ、旅立つヨシュア。彼はまだ知らない。自分の身に課せられた、重たき使命を――。といった感じになっています。
若干冒頭がなろうに投稿させて頂いている拙作と被っていますが、意識した訳ではありません。単純に筆者の引き出しが狭いだけです。
この作品はマルチエンディングになっており、旅先で遭遇する事になる様々な争いをどれだけ平和的に治められたかによってエンディングが分岐する予定でした。基本的には主人公の一人旅ですが、イベント毎にゲストキャラが仲間になり争いを治める手助けをしてくれる事になっていました。
また主人公の持つ剣は一つイベントが終わった後でカエルの賢者の所へ持っていくとパワーアップし、武器の買い換えが必要ない作りになっていました。イベントの間だけ入れるダンジョンも存在するなど、全体的に前作で作ったゲームより凝っていました。
……それがいけなかったのでしょう。最初の争いが治まるまでを作ったのはいいのですが、イベント、フラグ共に序盤から膨大で作り終わった時にはすっかり燃え尽きてしまい……。
結果、この作品もお蔵入りという事になってしまったのでした。今から言っておくと、筆者が「ツクール」で最後まで作品を作り上げた事は一度もありません。
前作と比べると出来る事が大幅に増え、コンシューマの「ツクール」でもここまでやれるという事を本作は示してくれたと思います。やがて「ツクール」の舞台はより容量の大きなプレイステーションに移り、コンシューマのツクールでは最高傑作の呼び声高い「RPGツクール3」が発売される事になるのです。
とりあえず、今回はこれにて。




