第百十夜 RPGツクール SUPER DANTE
一つ、ゲームの話でもしようか。
『自分だけのオリジナルゲームが作ってみたい!』
ゲームにハマった人が抱く、究極の願望がこれです。ゲームを遊ぶだけではなく、作る側になってみたい!
しかしそれは、言うほど簡単な事ではありません。まずプログラミングの知識がないとゲームは作れませんし、例え知識があったとしても開発にかかる費用の問題などクリアしなければいけない事柄は山程あります。
そんな面倒なものは全部取っ払って、プログラミングの知識0でもゲームを作る方法が欲しい。そんな我が儘なユーザーの声にお応えする形で作られたのが旧アスキー、現エンターブレインから発売されている「ツクール」シリーズです。
「ツクール」シリーズではグラフィックやBGMなどの素材が始めから用意されており、プレイヤーは解りやすく言い換えられたイベント命令を組み合わせる事で各種イベントを作っていきます。パソコンで出たシリーズでは素材の自作も可能で、「ツクール」シリーズで使えるフリーの素材を配布するサイトも一時は多く存在しました。
そこで今回からは筆者が触れた「ツクール」シリーズの紹介と、筆者がそのツールを使って作ろうとしていた痛い黒歴史ゲーム晒しを同時に行っていこうと思います。題して「ツクール」小特集。
そのトップバッターを務めますのは「RPGツクール SUPER DANTE」。それでは張り切っていってみましょう。
本作はスーパーファミコン黎明期、旧アスキー、現エンターブレインよりスーパーファミコンにて発売されたゲーム制作ツールです。コンシューマでは初めて発売された「ツクール」シリーズでもあります。
元々PC-9801で発売されていた「RPGツクール DANTE98」をスーパーファミコン向けにリメイクしたのが本作で、タイトルの「SUPER DANTE」もそこから来ています。本作でどんなゲームが作れるかという事を示すサンプルゲームにも、当時アスキーが行っていた「RPGツクール DANTE98」で制作したゲームを対象にしたコンテストの入賞作品である「Fate」が選ばれる事となりました。
また本作発売と同時に本作を対象にしたゲームコンテストも開催され、多くのユーザーがこれに応募しました。余談ですがこの時のコンテストで大賞を取った作者は、後に「RPGツクール2000」を使って「盗人講座」という一風変わったフリーゲームを作りやはりコンテストに入賞する事となります。
さて本作でやる事と言ったらずばりRPGを作る、これだけです。ですがパソコンよりもずっと容量の小さいスーパーファミコンでの制作とあって、制約も幾つか存在します。
まずマップ。ダンジョンマップの方はパーツを使った自作が可能ですが、フィールドマップは自作出来ず用意された四種類のうちから選ぶしかありません。これを自作の手間が省けて楽と取るか、決められたマップしか使えなくて不自由と取るかは人によると思います。
次にイベント。人物以外のイベントや人物でもあちこち動き回るその辺の住人タイプは問題ないのですが、その場から動かない人物の場合、必ず下を向いた状態でしか設置できません。別方向を向かせたい時はその都度イベント命令を入れなければならず、余計な手間がかかります。
そして文字。本作で使える漢字は極僅かで、大半はひらがなとカタカナで乗り切らなければなりません。実際にゲーム中で表示される文字が大きめな事もあり、ちょっぴり不格好に感じてしまいます。
他にも魔法を作れる数が種類ごとに決まっていたり、一人のキャラが覚えられる魔法の数が決まっていてそれ以上を覚えさせようとすると古いものから自動的に忘れていったり、戦闘に使えるBGMが一種類だけでボス戦用のBGMが用意出来ないなど不便な点を上げていけばキリがありません。またイベントに割ける容量自体も少なく、作れるのは精々初代「ドラゴンクエスト」レベルのボリュームのゲームくらいです。
これだけ制約が多くてもRPGを作れる人は作れるのですから、ゲーム作りとはやはりセンスが問われる分野だと言わざるを得ません。少なくとも筆者には無理でした。中盤で容量が尽きた……。
本作に記録しておけるゲームは一つのみですが、同じくアスキーから発売された「ターボファイルツイン」をスーパーファミコンに接続する事で計三つまで作ったゲームを保存しておく事が出来ました。便利な事は便利なのですが、動力源である電池が切れたり入れ替えたりすると中のデータもパアになる、という大変不安定な代物でもあった為、実際のところどこまで役に立っていたかは怪しいものです……。
サンプルゲーム「Fate」について。こちらは前述した通り「RPGツクール DANTE98」のコンテストで入賞した作品……を本作に合わせて大幅に簡略化した上で移植したものです。
よって本来はもっと奥深いストーリーだったであろうものが、何だか大味な説明がされただけの味気ないものになってしまっています。「RPGツクール DANTE98」版を遊んだ経験のある人の感想を、ちょっと聞いてみたいところです。
以下はストーリー。アスガル城の王子ライネスとミズガル城の王女ファルミアの結婚の準備が進んでいたある日、アスガル城の近くにある世界樹に突如雷が落ちる。その時に聞こえた自分を呼ぶ声に従い、ファルミアを連れてライネスが世界樹に向かうとそこには仮面を付けた謎の黒騎士の姿があった。黒騎士にモンスターを差し向けられ窮地に陥るライネスとファルミアだったが、不思議な光によってモンスターは消え去りそれを見た黒騎士もまた姿を消す。残された二人の耳にライネスを世界樹に呼んだ声が響き、その声にライネスは聖剣ユグドラシルを託される。果たして世界に何が起こっているのか。ライネスとファルミア、二人の運命や如何に……。といった感じになっています。
この移植、容量確保の為なのか台詞が本当に必要最低限しか収録されておらずその為色んなイベントが唐突な感じになってしまっています。それでも一応のストーリーはちゃんと解る辺り、サンプルゲームとして移植するのに『使える』作品ではあったのでしょう。
なおサンプルゲームは遊ぶだけではなく、データをロードして中身がどうなっているのか見たり更には中身を好きなように弄ってアレンジする事も出来ます。本作におけるサンプルゲームの位置付けは実プレイで楽しむよりもこちらのデータ参照の役割の方が強く、サンプルゲームのイベント群を参考にイベントを作ってみて下さい、という文字通りゲーム作りのサンプルという扱いになっています。
いよいよ誰も得しない、今回の黒歴史開封のお時間がやって参りました。筆者が本作で作ったゲーム、タイトルは「リトルクエスト」。
以下はストーリー。かつて三英雄と呼ばれる三人の勇者の手によって魔王が封印され、平和を取り戻した世界。その三英雄のうちの一人が建国した魔法国家ラグーラの王女マリルは、いつも魔法の勉強をサボってばかりで周囲を困らせていた。マリルの十五歳の誕生日、父である国王はマリルに城の転送陣から行く事が出来る大陸にある試練の塔に赴き、代々王家の者に課せられる試練を受けるよう告げる。渋々ながら世話役の神官戦士レジーと塔のふもとの村に住む王家の案内人の一族である剣士ディムを連れ試練の塔へ向かったマリルは出された謎を解き、守護者に力を示して見事試練を乗り越えた証である指輪を手に入れる。しかし城に戻ろうと転送陣のある祠にやって来たマリル達が見たものは、壊れた転送陣と瀕死の重傷を負った一人のラグーラ兵の姿だった。ラグーラ兵はマリルにラグーラがモンスターの手に落ちた事、そして指輪を守れという国王の最期の言葉を伝えるとそのまま息を引き取る。突然国と父を失い失意に沈むマリルだったが、レジーとディムに励まされまずはディムの知り合いである隣町に住む賢者エラインを訪ねる事になる。旅の中、やがて明らかになる魔王の復活。マリルはかつての三英雄のように、魔王を再び封印する事が出来るのか――? といった感じになっています。
本当は最後までストーリーは出来ているのですが、流石に全掲載は長すぎるので前半のみ。規模が全然リトルじゃない気がしますがそこは見ない方向で。
主人公マリルは魔法国家の王女なだけあり魔法使い。最終的には魔法使い、神官戦士、剣士、賢者というえらいバランスの悪いパーティー構成になる予定でした。
とにかく最初から通行人作りまくり、イベント入れまくりだったのでそんな状態では当然容量が足りる訳もなく、隣町の近くにある洞窟を作り始めた段階でギブアップ。「リトルクエスト」は敢えなくお蔵入りとなったのでした。
コンシューマ初の「ツクール」という事もあり次への課題も多い本作ですが、『ゲームを作る楽しさ』というのは十分に伝えられる出来ではあったと思います。同時に、『ゲームを作る難しさ』も嫌と言うほど伝わったんですけども、ね。
とりあえず、今回はこれにて。




