第十夜 さんまの名探偵
一つ、ゲームの話でもしようか。
ファミコン黎明期、その人気にあやかるべく様々な有名人のタイアップゲームが発売されました。
最も有名なのは、伝説のクソゲーと名高い「たけしの挑戦状」でしょうか。ビートたけし原案のその内容の奇抜さと突き抜けた難易度は、現在をもってなお語り草になるほどのものです。
今回取り上げるゲームは、そんな有名人タイアップゲームにおける数少ない名作と謳われる作品。
「さんまの名探偵」です。
本作は旧ナムコ、現バンダイナムコエンターテインメントより発売された、コマンド選択式のアドベンチャーゲームです。プレイヤーは探偵となった明石家さんま(以下さんまちゃん)のパートナーとなり、桂文珍殺人事件の犯人を見つけ出すべく捜査を開始します。
この説明からも解るように、本作の登場人物の殆どはさんまちゃんを始めとした当時の吉本の人気お笑い芸人達です。ファミコンのドット絵で可能な限りそっくりに表現された彼ら彼女らは、時に捜査を引っ掻き回し時に快く協力してくれます。中には、今はテレビから姿を消したあの芸人なんかも……。
また本作は推理ものアドベンチャーには珍しく、小ネタがやたら豊富です。自由捜査のカーソルの『カニ』から始まり、オリジナルヒロインの体を調べ回せたり、果てはエアロビクス教室で女の子のレオタードを脱がすなんて大胆行為も。
今出そうとしたら、一体CEROいくつになるんでしょうか。地味に気になります。
お笑い要素ばかりで、推理ものとしては面白くないのでは? という心配も無用です。次々と現れる容疑者、二転三転する状況など推理ものとしてもなかなか遊び応えがあります。また、この時代のアドベンチャーにしては珍しくバッドエンドもある為、総当たりすれば楽勝と油断をしていると……。
かように名作の名に相応しい本作ですが、実は、当の出演芸人達には無許可で制作されたと言います。これはナムコの手落ちではなく、ナムコ側はきちんと吉本に許可を貰ったのですがその吉本が出演芸人に話を通さぬまま企画を推し進めてしまったと、こういう事情らしいのです。
特に主役のさんまちゃんは今でも吉本のこの行為を許してはおらず、本人の前でこのゲームの話をするのはタブーになっているみたいです。ゲームの出来はいいのに勿体無い話ですね。
ただ、被害者役の桂文珍だけは香典と称してちゃっかり出演料をせしめたのだとか。作戦勝ちと言うべきですかね。
閑話休題。このゲームの思い出と言えば、ミニゲームのギャラクシガニでしょうか。ギャラクシガニは作中のゲームセンターで遊べるミニゲームで、上から降りてくるカニ型の敵を撃つ縦シューティングです。残機なしの一発勝負ではありますが負けてもペナルティはなく、勝てば捜査状況に合わせてヒントが貰えるというアドベンチャーが苦手な人の為の救済策の要素も兼ねています。
第六夜でも述べた通り、シューティングは鬼門の筆者でしたがこれだけはヒント欲しさに何度も頑張りました。ボスを初めて倒せた時は、本当に嬉しかったのを覚えています。
まあ本当に欲しいヒントは貰えなかった事の方が多いのですが、それでもやり込みたいと思わせる中毒性があるのは流石でしたね。
そして何より、さんまちゃんの楽しい台詞群。本作では状況説明は全てパートナーのさんまちゃんがしてくれるのですが、これがまたバラエティ豊かで見ていて飽きない。
可愛い女の子には、ついついデレデレしちゃうのもご愛嬌。厳しい捜査を、楽しく和やかにしてくれます。
……もっとも、そんなさんまちゃんだから、時々シリアスな顔を見せた時はとても怖く感じるのですけど。怖めの効果音も合わさって、余計に。
とりあえず、今回はこれにて。