第九十九夜 シアトリズム ドラゴンクエスト
一つ、ゲームの話でもしようか。
『「ファイナルファンタジー」の音ゲーがあるなら、「ドラゴンクエスト」の音ゲーも作っちゃえばいいじゃない』
昔の偉い人がそう言った……かどうかは定かではありませんが、「シアトリズム ファイナルファンタジー」の好評を受けて「ドラゴンクエスト」版の「シアトリズム」も制作される事になりました。その名も「シアトリズム ドラゴンクエスト」。
楽曲は勿論、「ドラゴンクエスト」シリーズの作曲を一貫して手掛けているすぎやまこういち氏全面監修。コンシューマ音ゲー随一のボリュームを誇った「シアトリズム」の、その「ドラゴンクエスト」版とは果たして……?
本作は「シアトリズム ファイナルファンタジー カーテンコール」から一年後、スクウェアエニックスよりニンテンドー3DSにて発売された音楽ゲームです。基本的なシステムは「シアトリズム ファイナルファンタジー」と同一ですが、成長システムなど細かい部分が「ドラゴンクエスト」らしいものに変わっています。
ストーリーは……「シアトリズム ファイナルファンタジー」と大して変わらないので省きます。敢えて要約するなら、『世界から失われた『リズポ』を勇者の力で取り戻そう!』といった感じです。
違いは、スタッフロール開放の為に倒す事になるボスが竜王になった事くらいでしょうか。まあ「シアトリズム ファイナルファンタジー」と同じくストーリーがついているだけで上等、と捉えておきましょう。
さてまず気になるのは収録曲数ですが、その数はDLCを含めても90曲程度。普通の音ゲーとして見るなら十分な曲数ですが、デフォルトで200曲以上が遊べた「シアトリズム ファイナルファンタジー カーテンコール」に比べると若干見劣りするのは否めません。
更に原曲で遊べるのは一部のDLCの曲だけで、後は全てオーケストラ版を本作用に再編集したものとなっています。本業がゲーム作曲家でないすぎやま氏にはオーケストラ版こそ自分の作った本当の楽曲、という事なのかもしれませんが、「シアトリズム ファイナルファンタジー」と同じように原曲収録を期待して買った筆者のようなユーザーはここでまず肩透かしを食らう事になります。
その上「シアトリズム ファイナルファンタジー カーテンコール」にはあったサウンドモードがないのも大きな痛手です。ゲームとしてだけではなくミュージックプレイヤーとしても「シアトリズム ファイナルファンタジー カーテンコール」は価値が高かった事を考えると、このモードがなくなったのは楽しみが丸ごと一つ減ったも同然です。
他にもすぎやま氏に考慮してか収録がナンバリングのみで、外伝系の作品の収録が一切ないのも地味に評価を下げているかも。「シアトリズム ファイナルファンタジー カーテンコール」は『え、そんなタイトルまで収録するの!?』という多様さも売りだったので、ここばかりは複数名が作曲に関わっている「ファイナルファンタジー」シリーズとすぎやま氏に作曲を一任している「ドラゴンクエスト」シリーズとで明暗が分かれてしまった部分だと思います。
なお戦闘曲以外の曲は一貫して徒歩になった、フューチャーゾーンで出てくるのが馬車になったくらいの変更しかありませんが、戦闘曲は「ドラゴンクエスト」の戦闘画面に合わせた結果キーが縦向きに降ってくるようになり、大分プレイ感覚が変わっています。また「シアトリズム ファイナルファンタジー」では戦闘曲のフューチャーゾーンを成功させた結果はダメージ一択でしたが、本作ではダメージ以外にも様々な効果が現れるようになり少々癖が強くなったと言えます。
登場キャラ数の方は33人と、収録タイトルが「シアトリズム ファイナルファンタジー カーテンコール」より少ない分割を食ってしまった感じです。いっそ歴代パーティーキャラ全出演でも良かったような気もしますが、それをやってしまうと作品毎の偏りが物凄い事になってしまうので仕方ないのかな、とも思います。
その代わりとでもいう風に、本作では出てくるモンスターの種類が大幅に増加しています。味方だけでなくモンスターの人気も高い、「ドラゴンクエスト」らしい変更だと思います。
しかしそのせいでモンスターのコレカを手に入れる為の労力が激増したのは、果たして喜ぶべきか。戦闘曲以外をちまちま遊んでいれば自然と溜まるキャラクターのコレカと違いモンスターのコレカは戦闘曲で欲しいモンスターから直接ドロップするのを狙うしかないので、ノーマルからキラレアまで全部揃えようと思うと同じ敵ばかり狩る羽目になりがちです。
しかもミュージックモードだとそのナンバリングの中のどのモンスターが出るかは完全にランダムになる為、確実なドロップを狙うなら後述のチャレンジモードでコレカが欲しいモンスターが出てくる曲を延々遊ぶ事に……。これには救済策も一応あるにはあるのですが、こちらはこちらで別の意味で運任せなのでどちらが楽かは悩みどころです。
なお「シアトリズム ファイナルファンタジー」で使用キャラを増やすにはキャラ毎に該当する色の『クリスタルの欠片』を必要数集める必要がありましたが、本作では六色の『オーブ』を全て揃えるとランダムに選ばれた八人の中から一人だけを選べる方式に変わっており若干難易度が増したと言えます。基本的にはリズポを集める事で稼ぐオーブですが、そんなちまちました事はやってられないという方はこれにも救済策があるのでそちらで荒稼ぎを狙うといいでしょう。
キャラの育成法は曲を遊んで経験値を稼ぎレベルアップしたり、コレカを使ってステータスを底上げしたりという流れそのものは変わりませんが、それ以外の部分が「ドラゴンクエスト」のシステムに準じたものに変わっています。まずキャラクターにはそれぞれ『職業』が設定されており、キャラクター達はその職業に応じた呪文や特技を習得していく事になります。
「シアトリズム ファイナルファンタジー」と違い呪文や特技はセットする必要がなく、AIがキャラ毎に設定した作戦に従い状況に合わせて自動的に使用する形になっています。勿論無限に呪文や特技が使える訳ではなく、MPがなくなればそのキャラクターはもうプレイしている曲の間は呪文や特技は使えません。
これら呪文や特技はあらかじめ使って欲しいもの、欲しくないものを設定しておく事も出来ます。使わないに設定した呪文や特技は、どのような作戦であろうと絶対に使う事はありません。
これら職業は、『転職』をする事で変える事が出来ます。レベルは職業毎に記録され、例えば戦士のレベルが50のキャラが転職し、再び戦士に戻った際には同じレベル50からのスタートとなります。
職業には最初からなれる基本職の他『○○のさとり』を使用する事でなれる上級職があり、最初から上級職に就いているキャラも何人かはいるもののそれ以外は地道に『○○のさとり』を集める事になります。『○○のさとり』は消耗品の上、どう頑張っても人数分を揃える事が出来ないものまであるので誰かはその職業にするのを必ず諦めなくてはならないのがちょっと辛いところ。
なおコレカで上がるステータスは今就いている職業のもののみで、他の職業には適用されません。この為全ての職業のステータスをカンストさせようと思うと、膨大な数のコレカと莫大なプレイ時間が必要となります。
本作のモードは好きな曲を一曲ずつ遊ぶ基本の『ミュージックモード』に加え、各ナンバリング毎に決められた曲を一曲ずつクリアしながらボスを目指したり、日替わりで決まる特殊な条件下でランダムに決められた曲をクリアしたりしていく『チャレンジモード』、そして時にランダムに決められた曲をクリアしながらゴールを目指し、稼いだコインでコレカやオーブを購入する『すごろく』の三つがあります。「シアトリズム ファイナルファンタジー カーテンコール」にあったバーサスバトルは削除され、完全な一人用ゲームになりました。
中でも目玉になるのがすごろくで、ここでは『○○のすごろく場』と名の付いた『○○』の部分のモンスターのコレカのノーマルとレアが販売しているのです。勿論サイコロで販売している店に上手く止まれたら、という但し書きは付きますが。
遊べるすごろく場の数はクリアしたすごろく場の種類によって増えていき、最終的には全ての雑魚モンスターのレアまでのコレカが買えるようになります。また買えるのはコレカだけではなく、使う事でサイコロの数を増やしたり必ず決まった目が出るようにしたりとすごろくの進行の助けになる魔法のサイコロや、店によってはオーブまで買う事が出来ます。
コレカやオーブや魔法のサイコロを手に入れる方法は買うだけに留まらず、道中に置いてある宝箱を開けたり、運が良ければ空白マスを調べる事でも何かしらのアイテムが手に入ります。本家「ドラゴンクエスト3」のすごろくと違い空白マスを調べても不利になる効果は現れないので、空白マスでも諦めずどんどん調べていきましょう。
途中には曲のプレイが発生するマスもあり、クリアする事でショートカットが可能ですが途中にある宝箱や店もショートカットしてしまう為狙うかどうかは考えどころ。このすごろくではサイコロを振れる回数をどれだけ残しているかによってクリア時の賞金につくボーナスが変わるので、それ狙いなら早くあがれる曲マスを利用するのはアリかもしれません。
なおクリアする事になる曲の難易度は、遊んでいるすごろく場に依存します。後に遊べるようになるすごろく場ほど高い難易度でのクリアを要求されるので、全ての難易度で曲をやり込んでいないと後半はきつくなるかも……。
「ドラゴンクエスト」らしい意匠は随所に見え隠れするも、やはり曲関係の不自由さが相対的な評価を下げてしまっている気がします。本作が思ったより売れなかったのかそれともすぎやま氏が許可を出さなかったのか、よりボリュームを増やした完結編を望まれながらもそれは叶わないまま現在に至ります……。
とりあえず、今回はこれにて。




