第九十八夜 シアトリズム ファイナルファンタジー カーテンコール
一つ、ゲームの話でもしようか。
音楽ゲーム、略して音ゲー。90年代後半、コナミにより世に送り出されたアーケードゲーム「beatmania」に端を発して以降爆発的に世間に普及していった、ゲームとしては比較的新しい部類に入るジャンルです。
それまでに音楽をメインとして扱うゲームとしては「マリオペイント」や「絵描衛門」の作曲モードや「音楽ツクール かなでーる」など演奏よりも一からの作曲をメインにしたものばかりで、『音楽を気軽に楽しみたい!』というユーザーには少々敷居の高いものでした。その敷居を大いに下げ、音楽の演奏それ自体をゲームの目的として落とし込んだのが音ゲーです。
流れる音楽に合わせてキーがラインに向かって落ちてくる、ラインとキーがピッタリ重なった瞬間にボタンを押すと足りない音が鳴って完璧なメロディーが生まれる、音楽が終わるまでに上手く演奏出来た度合いによってクリア評価が弾き出される……大抵の音ゲーに搭載されているこれらの要素は初代「beatmania」の時点で既に完成されており、音ゲーの本質が非常にシンプルなものである事が窺えます。しかし根がシンプルであるからこそ解りやすく、高スコアを叩き出すにはコンマ単位でタイミングを合わせないといけないなど技術を要求される作りも相まってハマるユーザーが続出し、音ゲーは一つのジャンルとしての地位を確立していく事となります。
しかし音ゲーが世間に広まっていくにつれて、ある欲望がユーザー達の間に生まれてくる事となります。それは『大好きなあの曲を音ゲーで遊びたい!』という、音楽好きなら誰もが一度は抱くであろう欲望です。
J-POPなどの版権曲は使用するに当たって高い使用料を払わなければいけない為、通常音ゲーに収録されるのはオリジナル曲ばかりです。「太鼓の達人」シリーズのように収録曲の殆どが版権曲というケースは稀で、大半は版権曲を収録出来ても本人演奏ではなくそのゲーム会社で雇った歌声そっくりさんのカバーなどでした。
ですがそれから時が流れ2000年代後半になると、「ラブライブ!!スクールアイドルフェスティバル」のように自分達が版権を持っている特定のアイドルグループの曲のみを収録した音ゲーが現れ始めます。好きなアイドルグループの曲を好きなだけ遊べる上当時のソーシャルゲームに多かったキャラ育成要素をプラスしたこのゲームは大ヒットを記録し、様々なフォロワーを生み出すに至りました。
今回ご紹介する音ゲーも、そんなフォロワーの一つです。けれどこの作品が他と違うのは、収録されている曲がアイドルグループのものではなく古今東西多種多様なゲーム音楽であるという点です。
その名は「シアトリズム ファイナルファンタジー カーテンコール」。世にも珍しい、全ての収録曲がゲーム音楽という音ゲーが今、幕を開けます。
本作は3DS黎明期、スクウェアエニックスよりニンテンドー3DSにて発売された音楽ゲームです。「カーテンコール」の名の通り本作は続編……と言うより完結編的存在なのですが、こちらしか筆者は持っていないのでこちらのみ説明させて頂きます。
ストーリーは『リズポ』という音楽の力により調和が保たれていた世界で、突如『リズポ』が失われるという事態が起こる。それは世界を我が物にせんとする、混沌の神カオス率いる混沌の軍勢の仕業だった。調和の神コスモスとクリスタルに導かれた戦士達は一度はカオスを退けるも、カオスは諦める事なく勢力を増し続け再び世界から『リズポ』を奪い去る。戦士達はもう一度カオスを退け、世界の調和を取り戻す事が出来るのだろうか……というものに一応なっています。
ぶっちゃけるとストーリーといったところで形骸的なもので、やる事はただ収録曲を遊び倒す!これだけです。一応曲をクリアする事で貯まる『リズポ』を一定値まで集めるとカオスとのイベントバトルが発生し、勝つとスタッフロールが開放されますが、正直本作にとってストーリーはあってないようなものです。寧ろスマホアプリでもない音ゲーに、簡単なものとはいえストーリーが付いているのが異例かもしれない。
収録曲数は何とDLCを入れなくても200曲以上、DLCを入れれば300曲を超えるという大ボリューム。コンシューマとしては現在でも最大の収録曲数を誇るのではないかと思われます。
曲の種類も歴代「ファイナルファンタジー」のナンバリング作品は勿論「ファイナルファンタジークリスタルクロニクル」のような有名どころや「ファイナルファンタジーUSA ミスティッククエスト」のようなマイナーゲーまで網羅した派生作の数々、DLCに至ってはスクウェアの歴代名作ゲーム達がずらり勢揃いという大盤振る舞い。またそれぞれの曲は大半がその曲が登場した最初のバージョン(いわゆる原曲)で収録されているという、シリーズのファンには嬉しい仕様となっています。
また難易度も三段階ありそれぞれが全く違う譜面となっている為、極めようと思えば相当長く遊ぶ事も出来ます。特に最高難易度の『混沌』は音ゲー熟練者でもフルコンボは難しく、スクウェアエニックスの本気を感じさせる作りとなっています。
これら曲は遊ぶだけではなく、リズポを溜める事で少しずつ曲が開放されるサウンドモードでじっくり聞き込む事も出来ます。収録曲だけとは言えシリーズ歴代の名曲が本作一本で全て聞き放題というのは大きく、特に古いシリーズのサントラは現在では入手困難な為これだけでも本作の価値は高いと言えます。
勿論キャラ育成要素もあり、本作では歴代「ファイナルファンタジー」シリーズの登場キャラ達を育てていく事になります。選べるキャラはDLC抜きでも77人とこちらも大ボリュームで、曲をプレイしていると手に入る『クリスタルの欠片』を集める事で集めた色に対応したキャラが一人ずつ開放出来る仕組みになっています。
最初に歴代の主人公キャラを四人選び、選ばなかったキャラや最初に選べないキャラをクリスタルの欠片で後から選ぶという形で使用キャラは増えていきます。各キャラはそれぞれに初期ステータスや習得アビリティが異なるものの使えない、いわゆるお荷物キャラというのは一人もおらず、育成次第で誰もが最強になれる可能性を秘めています。
パーティーに入れたキャラは、曲をクリアする事で経験値を得てレベルが上がっていきます。レベルが上がるとステータス上昇の他にアビリティを覚える事があり、覚えたアビリティをセットする事で各曲をより有利に進める事が出来ます。
アビリティには条件を満たすと発動するものと常に発動するものとがあり、そのうち四つまでを選んで付ける事が出来ます。但し何でもという訳ではなく、各アビリティの消費アビリティポイント(AP)の総数が自分のAPを超えない範囲に限られます。
強力なのは勿論常に発動する方ですがこちらは相応に消費APが高く、幾つも付けてはいられません。また場合によっては条件発動の方が効果的な時もあり、アビリティ選択には大いに悩まされる事になります。
キャラを成長させる方法はレベルアップだけではなく、曲をクリアする事で入手出来る『コレカ』を使う事でもキャラのステータスを上げられます。コレカは本作に登場するキャラや敵が描かれたもので、それぞれのコレカ毎に上げられるステータスやステータスアップが成功する確率などが設定されています。
コレカには同じキャラのものでもノーマル、レア、キラレアとランクがあり、レアリティが高いものほど当然効果も高くなります。但し成長に使ったコレカは成功失敗にかかわらず消滅してしまうので、安易に使ってしまうのは考えものです。
コレカは一度に八枚まで使用出来、中には他のコレカの成功率を上げるといった変わった効果のコレカも。コレカが大量に貯まってきたら複数枚組み合わせて、成功率を上げて挑むと良いでしょう。
なおレベルが99になったキャラはレベルリセットが出来るようになり、その回数も記録されます。レベルをリセットしてもコレカを使って上昇させたステータスはプラスされたままなので、全員のレベルを上げきってしまった!という時はリセットして育て直すのもいいかも?
さて、そろそろ音ゲーパートの操作について説明させて頂きます。本作はボタンとタッチペンのどちらにも対応しており、どちらを使ってプレイしたかもハイスコアと一緒に記録されます。
まず○キー。最も基本になるキーで、光るマークに重なったところでボタンを押すかタッチペンでタッチすればOKです。
次にラインキー。単発ではなく一つのラインとして降ってくるキーで、ラインが続く間はボタンを押しっ放しかタッチしっ放しにしなければいけないといういわゆるホールドの操作を要求されます。
そして最後に矢印キー。これは矢印の向きに合わせてアナログパッドを動かすかタッチペンを動かさないといけないというフリック操作が要求されるキーで、ただでさえ斜めフリックまであって混乱するのにホールドの最後にこれをしなければならない場合もあり、最も厄介なキーだと言えます。
キーは成功失敗だけではなくどのタイミングで成功したかによっても評価とスコアが分かれ、スコアをカンストさせるには全てのキーを最高評価のcriticalで成功させる必要があります。幸い音ゲーとしては本作は評価は甘めなのでcriticalを出す事自体は難しくないのですが、それでも全てをcriticalにするのは相当神経を集中させる必要があります。
また本作には曲毎にクリティカルバーというものが存在し、曲のどの辺りでcriticalを逃したかがリザルトの際に解りやすく表示されるようになっています。このクリティカルバーは最高評価が累計で記録される為、全ての箇所を全critical成功で埋めるか一回のプレイでオールcriticalを達成するとそれぞれの記録に応じて印が付き求道者魂を燃え上がらせてくれます。
本作の収録曲は大まかに分けると戦闘曲とそれ以外となり、それぞれ遊び方も変わってきます。以下に、双方の特徴を述べていきます。
戦闘曲はスーパーファミコンまでの「ファイナルファンタジー」シリーズのように、パーティーと敵が横並びに向かい合う形になります。画面にはパーティーキャラ四人の元へ続く四本のラインが横に走っていますが、これは『キーが通ったラインのキャラが成功すれば攻撃、失敗すればダメージをそれぞれ担当する』というシステムの為で、どのラインのキーを叩くのも同じ操作で構いません。
キーを正しく叩く事でキャラは攻撃し、その攻撃で敵が倒れると確率でコレカかアイテムが手に入ります。敵は倒される度に次々と補充され、曲の終わりまで尽きる事はありません。
逆にキーを叩くのに失敗すると、敵からダメージを受けてしまいます。HPが0になってしまったキャラは戦闘不能となって戦線離脱し、全員のHPが0になるとその曲はクリア失敗となり途中終了してしまいます。
降ってくるキーには時折光っているものがあり、それをcriticalで成功させると通常より多く敵にダメージが与えられます。あくまでcriticalでないと発動しないので、光るキーが降ってきた際は必ずcriticalを出せるよう心掛けましょう。
曲の途中にはフューチャーゾーンと呼ばれるエリアがあり、これが終わると召喚獣を召喚する事が出来ます。召喚獣の強さはフューチャーゾーンの成績によって決まり、成績が良ければ強力な召喚獣を呼び出し敵に大ダメージを与えられますが、成績が悪いと弱い召喚獣になってしまい大して役に立たないまま終わってしまいます。
また敵を倒していくとやがてボスが出現し、見事撃破するとレアなコレカやアイテムが手に入る事があります。レベルがある程度あればボス撃破は十分に可能なので、戦闘曲を遊ぶ時は積極的に撃破を狙っていきましょう。
それ以外の曲はフィールドやダンジョンをパーティーキャラ達がとことこ歩いたり、シリーズでお馴染み飛空艇に乗って空を飛んだりします。戦闘曲と違いラインは一本のみですが、ここでのラインは頻繁に軌道が変わるのでホールド中はそれに合わせてマークを動かさないといけません。
ここでも現れる光るキーをcriticalで成功させると移動速度が上がり、より長い距離を移動する事が出来ます。曲終了時の総移動距離が長いほどいいコレカやアイテムが手に入りやすいので、こちらも積極的にcriticalを狙いたいところ。
逆にキーを叩くのを失敗してしまうとパーティーキャラが転んでダメージを負い、移動速度も下がってしまいます。全員のHPが0になると強制終了してしまうのはこちらも同じなので、なるべく失敗しないようにしたいものです。
こちらのフューチャーゾーンは終わった後、徒歩ならばチョコボを召喚し飛空艇ならば速度が大幅に上がります。どのぐらい速いチョコボを呼べるか、どのぐらい飛空艇のスピードを上げられるかはやはりフューチャーゾーンの成績によるので、ここでも是非オールcriticalを狙っていきましょう。
なおこちらでのコレカやアイテムは、移動中に自動入手の他ゴールで確実に手に入るようになっています。堅実にコレカやアイテムを集めたいなら戦闘曲以外、レアなコレカやアイテムをドカンと稼ぎたいなら戦闘曲と差別化が出来ているのは評価点だと思います。
先程からアイテムという単語がちらほら出ていますが、本作では曲をプレイする際一つだけアイテムを持っていけます。アイテムは減ったHPを回復してくれるもの、戦闘曲で必ず強い召喚獣を呼ぶもの、戦闘曲以外で速いチョコボを召喚しやすく(もしくは飛空艇のスピードを上げやすく)なるものと多岐に渡り、挑む曲に合わせて使い分ける事が重要となります。
アイテムは消費制ですが在庫がある限り消費しても曲が終わればすぐに新しいものがセットされるので、いちいち装備し直す手間も省けます。まあ筆者のようにアイテムを全て集めて悦に浸りたいタイプのプレイヤーには、少々厄介な仕様ではありますが。
本作のモードは好きな曲を自由に遊べる『ミュージックモード』の他ランダムに決められた何曲かをクリアし報酬を得る『クエストメドレー』、音ゲーとしては非常に珍しい二人対戦が楽しめる『バーサスバトル』などがあり、単純なプレイだけではない様々な遊び方が出来ます。中でも『二人同時プレイ』ではなく『二人対戦』の名に相応しく相手のプレイを妨害出来る要素を持つバーサスバトルは、音ゲーの新たな可能性を広げてくれたと思います。
またミュージックモードには毎日更新される『今日のオススメ』があり、オススメに指定された曲を遊ぶと最初の一回のみ貰えるリズポが増えるというボーナスがあります。どの曲で遊ぶか迷ったら、とりあえずオススメを遊ぶのも悪くないかも?
これでも大分要点だけ書き出したんですがそれでも今回のこの文章量になった辺り、本作のボリュームを実感せずにはいられません。「ファイナルファンタジー」ファンならばやって損はない本作、是非『音ゲーはちょっと……』という方にも食わず嫌いせず遊んで頂けたらと思います。
とりあえず、今回はこれにて。