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始まりの迷宮 03

「ようこそ、冒険者の皆様!」


 五人の冒険者は、受付のコンパニオンに出迎えられた。

 露出度の極めて高いビキニアーマーは革の鎧を模していて前腕と脛もプロテクターが覆っている。弘武たちの応対にあたった女性は弘武の印象では二十代半ばくらい。亜麻色のショートボブで北米先住民風のヘアバンドをしており、大きめの瞳はカラーコンタクトだろうか? 髪色に揃えてあるようだ。


「お客様情報作成にお時間をいただいている間に当社および本製品のご説明をさせていただきます」


 受付テーブルに用意された用紙にパーティメンバーの必要事項を記入する間、そのコンパニオンが話し始める。それは一見参加者に説明しているようにみせて集まった見学者に対して行われているのだろう、マイクを通してよどみなくアナウンスされていた。


「当社ジーンクリエイティブはミクロンシステムに無限の可能性を見出し、一昨年いっさくねん五月に起業いたしましたベンチャー企業です。今回ゲーム事業に参入したのは研究成果を広く知っていただくためでございます。テクノロジーの進歩により処理速度が初期モデル比で五十%向上していながらダウンサイジングされたミクロンシステムはご覧の通りのロッカーサイズ。この本体システムと独自アルゴリズムにより高速化したDNA情報解析プログラムで、従来DNA解析だけで半日かかっていた所要時間を一人あたりわずか五分に短縮。これに複数の一流大学病院と共同研究開発したバイタルデータスキャナーでの身体データ作成に五分。基礎データ作成をわずか十分で済ますことができるようになりました。これにより従来のゲームではプレイするために事前に予約しなければならなかったミクロンダンジョンが当日フラっと訪れて遊びたいなと思ったその場で遊べるようになります」


 何も見ないで行われるその説明はアナウンサーや俳優・声優としての訓練を積んでいるのか、よどみなく心地よい。


「ダンジョン内のトラップ・エンカウンターも自動制御されておりますのでシステムの処理能力から最大六パーティ三十人までの複数パーティ同時プレイも可能です。なお、今回は安全面を考慮して同時プレイは三パーティに制限させていただいております。

 さらに初回プレイ時に作成したDNA情報をICチップに記録したカードを発行いたしますのでゲームのたびに採決という無駄と苦痛を省けます。もちろんプレイ後は個人情報保護の観点からスキャンデータなどをホストコンピューターには残しません」


 記入が終わった五人は、説明の続くコンパニオンの後に続いてミクロンシステムの前を横切る。さながらガイドに連れられて歩く観光客のようだ。


「ミクロンシステムはご参加頂いている皆様ご存知かと思いますが、DNA情報とスキャンデータを利用した有機生命体縮小復元システムなので従来、スキャンおよび縮小復元の際は何も身につけずに行われていましたが、技術研究の成果である新開発の縮小復元システムにより生物由来の衣服であれば同時縮小が可能になりました。特に女性プレーヤーには朗報ですね」


 五つ並んだバイタルスキャナーのひとつの中で、服を脱いでスキャンを受けていた弘武はチラリと空港の手荷物検査機のような持ち物スキャナに目を向ける。参加するとは思っていなかったため私服が何で出来ているのかなど考えてもいなかった。少し不安な気持ちで服を着なおし、外に出るとすでに四人は待っていた。ほぼ同時に縮小復元装置の上にあるランプがひとつ、またひとつ点灯しだした。


「一組リタイアしたようですね」


 装置から出てくるこれもまたコスプレ衣装だろうファンタジックな服装の青年たちに弘武たちを案内していたコンパニオンが「お疲れ様でした」と声をかける。

 そのパーティはもう一人が担当していたのだろう、腰まで届きそうな檸檬レモン色でゆるくウェーブした髪の少々太めで豊満なコンパニオンが受付していたスペースへと誘導していった。

 彼らが出ていった後の装置内を点検確認したショートボブのコンパニオンが弘武たちを振り返り、最上級の営業スマイルでこういった。


「お待たせいたしました。それでは当社ダンジョンをお楽しみください」


 言いながら発行されたばかりのDNA情報を記録したICチップ付きカードを手渡す。


「じゃあな、ロム」


 一番奥、端の装置の前に緊張した面持ちで立ちつくした弘武を早速ニックネームで呼んだのは隣の珠木理ジュリーである。彼らはミクロンダンジョンの経験があるのだろう、何の躊躇ちゅうちょもなく装置の中に入っていった。弘武は少し大きく息を吸い、ゆっくり吐き出すとコンパニオンに声をかけた。


「あ、お姉さん」


「何でしょう?」


「俺、初めてなんですけど…」


 言いながらそれまでまじまじとは見ていなかった年上の女性と目が合ってしまい思わず視線を下にらしてしまう。そこには極めて露出度の高いビキニ型の革の胸当てに収まっている胸があった。控えめながら胸当てによって寄せて上げられた存在感が思春期の少年の目を惹く。慌てて今度は改めてその女性の顔に視線を戻す。こうなると視線を外すことができなくなる。そんな少年の心の動きを知ってか知らずか、板についている営業スマイルでマニュアル通りに優しく語りかけてくれた。


「ご安心ください。縮小中に正面モニターにゲームの説明が音声アナウンスとともに表示されますし、ダンジョンアタック前に係りの者が再度ご説明いたします」


 縮小復元装置の中に弘武が入るとモニタが自動点灯し音声が流れてきた。


『ようこそ! ミクロンダンジョンの世界へ』


 音の方を見ると待っていたように音声が続く。


『一番スロットにDNAカードを挿入してください』


 画面にはスロットが映し出され、どこにどの向きで挿入するかわかりやすくアニメーション表示されている。モニタの右側には画面と同じようにスロットが横三列縦二段に並んでいて番号が振られている。彼は音声に従い一番と書かれているランプが点滅しているスロットにカードを挿入する。画面はカード情報の認識に反応し人体モデルと「こちらを向いてまっすぐ立ってください」の文字を表示する。


『事前スキャンデータと現在状態とのマッチングを行いますのでモニターの正面に立ち、直立姿勢でお待ちください』


 言われた通りにすると前後の壁面から光線が照射され彼の体を上から下まで降りてゆく。それが終わるとまた音声ガイドが流れる。


『縮小プロセス終了まで10分ほどかかります。お待ちいただく間ルール説明ビデオをご覧ください』


 画面が変わりチュートリアルが始まった。


『ようこそミクロンダンジョンへ。これから…』


 その映像は非常にわかりやすく実にエンターテイメント性に富む飽きさせない演出で何度も見たくなるようなPVといった出来だった。その面白さに真剣に見入っているといつの間にか縮小プロセスが終了していたらしい。


『ーそれではそろそろ縮小プロセスも完了していることでしょう。小さな冒険世界をお楽しみください』


 高い位置にあるモニタを見上げていた頭上からBGMとともに降ってくる音声にようやく我に返った弘武は何もかもが大きくなった世界を初めて見回した。無意識に脱いでいたらしいベルトと靴。その左の靴に片足だけ突っ込んだ状態の左足を抜きながら、ゆるくてずり落ちそうなズボンを抑える。


「俺、意外と天然素材着てたんだな」


 それから改めて部屋を見回す。モニタを正面に見て右手側が入り口。今や体感二十メートルの巨大なドアだ。左側を見るとこれもまた五メートルほど先にドアがある。今の彼のサイズに合わせた小さなドアだ。ご丁寧にドアの上には誘導灯が取り付けられている。

 左手でズボンを抑えながら出口へ向かった弘武はドアノブに手をかけフッと一息吐き出すと意を決してドアを開ける。


 開けられた扉に最初に気づいたのはジュリーだった。


「来たな」


「ようこそ十分の一の世界へ」


 ロムが開けた扉の正面、カウンターを挟んでドイツの民族衣装風な装いの受付女性が挨拶をする。その日本的な顔立ちには少々似合わない山吹色の髪をつむじに近い高い位置でポニーテールに結い上げ前髪を切りそろえている。衣装は生成きなり色のブラウスと無地の葡萄えび色スカートに、白に近い水色のエプロンというクラシックなデザインで着用者のスタイルに起因しているのだろうか、少々胸を強調しているように見える。


「ここは出発までの準備を行う場所、ドラゴンの酒場亭です。ここでは武器や防具を貸し出しています。何か必要なものはございますか?」


 そこはファンタジーゲーム世界の酒場を模した部屋になっていた。店内は木製で調度品もオーク材に見える。カウンターの向こう、女性の後ろは棚一面に衣装や武具・防具が陳列されており更衣室なのだろうカウンター横の壁面に五つの扉が並んでいる。


「みんなはもう借りたのか?」


 四人ともカウンター前に揃って来たのを確認したロムの問いに答えたのはゼンだった。


「いいえ、私たちは自分たちで用意して来ましたから」


「……あ・そう…」


 気持ちを立て直すのに数秒を要したロムだったが気を取り直してカウンターの後ろ、天井高三メートルはありそうな壁面いっぱいに陳列されている貸し出し品をざっと眺める。今現在彼に必要なのは縮小できなかったベルトと靴。それを探すとかなり高い位置に置かれている。


「布製のベタ靴と…このズボンのベルトループを通せる帯ひも見たいのないかな?」


 女性スタッフは備え付けの梯子を登りながら訊ねる。


「武器はどうしますか?」


「いらない」


「え?」


 ロムの返答に一瞬手を止め梯子の上からチラリと振り返って見せた彼女はしかし、特に何をいうでもなく要望の品を用意する。


「拳士…ですか?」


「そんな感じ」


 訊かれて答えるロムは照れるでもなく格好つけるでもない極めて自然体だった。


「では、皆様お揃いのようなので、改めてゲームの説明をいたします」


 梯子から降りて来たスタッフは、カウンターに用意の品を揃えて置くと、これも外の世界のコンパニオン同様よどみなくダンジョンの概要を説明し始めた。


「当ダンジョンはTRPGの世界で有名なGMゲームマスター安田やすだりょう氏が作成した迷宮ダンジョン地図マップを基に造形師グループ大陸堂に製作していただいたリアリティを追求したダンジョンです。ダンジョン内はコンピューター制御でモンスターやトラップをコントロールしておりますが、特撮専門の映画制作会社に監修してもらうことにより最新の小型化技術と精緻な造形美を駆使した世界観を最大限邪魔しないリアリティが追求されています。迷宮はE社が発表した初代ミクロンダンジョンに準じた三階層構造で、各フロア一時間の制限時間以内にクリアして展示で見ていただいていたあの赤い竜レッドドラゴンを倒すことが目的です」


 一通りの説明が終わると彼女はカウンターの下から紙片を一枚取り出した。


「これはフロアサイズが書かれた地図作成マッピング用の方眼紙です」


 それを受け取ったサスケは数秒それを見つめるとスタッフにフロアマップを向けてぼそりと呟くように訊ねる。


「このフロアサイズは本当に正確でござるか?」


「え? …はい」


「……あい判った」


「フロア前で招待状に書かれていたIDの入力をすることでタイムアタックスタートです。タイムオーバーギブアップ後はIDが無効になりますので必ずここにお戻りください」


「よっしゃ、行くぜ!」


 ジュリーの熱血芝居掛かった一声でドラゴンの酒場亭を出てゆく五人の背中に女性スタッフが声をかける。


「皆様のご健闘をお祈りします。頑張って」


 と。

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