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雑なダンジョン 03

 ジュリーが自分の不甲斐なさに歯噛みをしている間、ロムはカマキリをかくしながらじりじりと壁際を移動し続け、ようやく出口の扉にたどり着こうとしていた。時折繰り出される鎌腕は杖で弾き、フェイントの攻撃はしても有効打は当てない。あくまでも安全にこの部屋を抜け出すことを最優先に考えていた。


 それは決して見た目ほど楽な戦いではなかった。


 ここが最終決戦というのであれば、多少の怪我を覚悟することで目の前の敵を倒すことも可能だろう。大きさもロムの半分以下、繰り出される攻撃も速さはあるが重さはない。そもそもカマキリの前脚(鎌腕)は獲物を捕まえて逃さないためのものであって相手に致命的ダメージを与えるためのものではない。ここまでの攻防を彼なりに分析した限りにおいて、むしろ負ける要素こそ少ない。一連の攻防から考えると現状獲物として狙われているかどうかも疑わしい。しかし、万が一捕獲された場合脱出できるかどうか? 喰われるようなリスクはおかしたくない。相手はここに閉じ込められるまで野生として生きていたと思われる。決して隙を見せるわけにはいかないのだ。


 たどり着いた出口にはドアノブに手をかけたジュリーが、眉間にしわを寄せた真剣な目でロムとカマキリを見つめている。

 ここがこの戦いの正念場。

 ロムは八畳ほどの部屋の中、カマキリの間合いで対峙している。

 扉の正面に立った彼は、カマキリを睨みつけその背を仲間に向けたまま言った。


「三つ数えたら部屋を出るからすぐに閉めてくれ」


「わかった」


 ジュリーの返事を聞いたロムは一際ひときわ大きく杖を回し一度大きく退かせると足を止めて斜に構え、杖の先をピタリと相手に向ける。体重は親指の付け根に乗せ、心持ち膝を曲げ力をためる。

 呼応するようにカマキリもまた動きを止め、こちらの様子を伺う。

 静寂が空間に満ちた。


「一…二…」


 廊下で待っている中の様子が見えないサスケとゼンにも部屋の中の緊張感が伝わってくる。


「三っ!」


 弾けるように廊下に跳び退しさるロム。

 半拍遅れてジュリーが力いっぱい扉を閉める。

 ランタンの明かりが照らす廊下に安堵が広がった。


「悪趣味です」


 ゼンが呟く。


「野生の昆虫を捕まえて安易にダンジョンに配置するなんて、やっていいことと悪いことの区別がつかなくなっているとしか思えません」


 いきどおるゼンに「でもよ」とジュリーが問いかける。


「ここがのダンジョンだとしたら…」


「…残念ながら、ここはのダンジョンではありません」


 被せられた言葉にジュリーは黙ってしまう。


「このダンジョンにはあの時のような巧妙さがありません。おそらくこの先も思いつきに過ぎない危険な罠が仕掛けられているでしょうが、あの時のダンジョンのように冒険者に慎重さがあれば対策が打てるというようなものではないでしょう」


「この先にもカマキリのような罠があると見てるでござるか?」


 四人は再び歩き出す。地図を書きながらサスケは隣りを歩くゼンに問いかけた。


「ええ、きっとモンスターとして配置されてます」


 ゼンの言葉には確信が込められている。


「なら、隊列を組み直そう」


「ロム?」


 言って、ジュリーは立ち止まり後列を歩いていたロムを振り返った。見るといつもの飄々ひょうひょうとしたものとは違う渋い表情が浮かんでいた。


「私も賛成しますよ。このダンジョンに後ろから襲われる心配はありません。先頭の攻撃力を上げて一気に正面突破しましょう」


「わかった」


 ロムがジュリーの隣に並びその後ろにゼンとサスケ。隊列を組み直した四人は周囲の警戒を最小限に先を急ぐ。その歩みは街の小道を行くような気安さでサスケがマッピングが追いつかないからと二、三度立ち止まらせたほどである。幾つかの角を曲がりやがて冒険者は扉の前にたどり着いた。

 急造で立て付けの悪い木製の扉。先ほどのものと一緒だ。誰もが一様に同じような罠があるとそう思うほどに安易な構造だった。

 ロムが扉に耳を当てるが特に中の様子がうかがい知れるわけでもなかった。


「でも、気配はある。集団の気配だ」


「それだけわかれば覚悟ができる」


 言ってジュリーは腰のさやから細身ながら厚みのある片手剣を抜き、フッと短く息を吐いた。


「確認だ。明らかな敵意がない限り部屋を突っ切る。それでいいんだな?」


「ええ。各自自分の身は自分で守る。私も頑張りますよ」


「じゃ、遭遇戦エンカウントだ」


 ジュリーの宣言と同時にロムが扉を開け、四人は部屋に踊り込んだ。

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