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敵ノ反攻ヲ撃破セヨ

仮設避難所


この避難所は滑走路の拡張の為、森を切り開いた際、切り倒した原木の保管、加工をする為の場所だった


その為、ここには二個工兵隊が駐留し、その日は掩蔽壕に使う建材の加工に精を出していた


そして感染が広がるにつれ、逃げてきた兵士達の話を聞き、加工した建材でプレハブ小屋四つしかなかった簡易的な詰所は増築を重ね、二百人を有する大所帯になったのだった


その避難所には木で組まれた見張り台が三箇所あり、二時間置きに兵士が見張りを交代していた


「暇だなぁ……」

今晩の当直である岩清水二等兵は三八式歩兵銃を肩に掛け、余った角材で作られた椅子に腰掛けていた


一時期は人間より水鳥の方が多いとも言われていたこのミッドウェーの夜はジメジメして暑い。日本の熱帯夜を連想させる暑さだが、遮るもののない見張り台の上は丁度いい風が吹いていてそこは心地よかった

だが、風が吹くたびにギシギシ言うこの見張り台、正直言って岩清水二等兵はそちらの方が気が気ではないが、それにも慣れてきた


「くそッ、最後の一本か……」

ポケットから取り出したホマレ、中にはくたびれたタバコが一本入っていた


その一本を加え、アメリカ兵の死体から分捕ったジッポーで火をつけた


「ふぅー、後三十分かぁ……」

煙を空に吐き、腕時計を眺めながらそう呟いた岩清水二等兵


突如、飛来した銃弾が岩清水二等兵の眉間を撃ち抜いた





*****






酒匂大尉は割り当てられた掘建小屋で仮眠をとっていた


その時、遠雷のような音が響いた


「銃声?」

その直後、明確な爆発が酒匂大尉の耳に響いた


「敵襲ぅー!敵襲ぅー!」

遅れて手回しのサイレンが鳴り響いた


「分隊起きろ!」

雑嚢や手ぬぐいを枕に雑魚寝していた兵士達が一斉に飛び起きた


「敵が夜襲をかけてきた、総員臨戦態勢で待機!毒島、指揮を任せる、私は鹿目少将に会ってくる」


「ハイ!お任せを!」


酒匂大尉が百式機関短小銃を担ぎ、掘建小屋を飛び出た


「大尉殿!どちらへ!?」

入り口には歩哨についていた栗林二等兵が敬礼してきた


「鹿目少将に会ってくる、貴様はそこで待機しろ!敵が来たら撃て!」


「ハッ!待機します!」

酒匂大尉が指揮所に駆け寄るまでに連続した銃声も混じり始めた


「酒匂大尉、入ります!」

ノックと共に部屋の中に入ると部屋の中は大勢の士官でごった返していた


「酒匂大尉、よく来てくれた」


「状況はどうなっているでありますか?もし非常時なら我々も防衛に参加しますぞ」


「うむ、一頻り報告を聞いた限りでは敵の人数は百名程、先頭に出ている敵は軽機にロ式砲、小銃で武装しており、破壊した東の防壁から侵入を試みているようだ」


「それが全部ではないでしょう」


「流石だ、第二監視塔からの報告では二十程の集団が反対側の西側で確認された、もしよければ貴官等にはこの別働隊を叩いてもらいたい、頼めるか?」


「お任せを、そこに展開している部隊は?」


「第三十八混成偵察分隊と第五十一混成機関銃分隊が展開している。笹野少尉の部隊だ」


「わかりました。では行ってまいります」


「頼んだぞ、酒匂大尉」





*****







第三研究棟 屋上

芹沢伍長


仮眠をとっていた芹沢伍長は当直の原野に起こされた


「伍長殿!敵襲です!」


「なに!?どこだ!」


「非常階段を上っています!爆破許可を!」


「許可する!それと大尉へ連絡しろ!無線を死守するのだ!」


「了解!」

原野が階段の登り口で小銃や拳銃で敵を食い止めていた荻野と桂の二人へ合図する


二人が手榴弾を階下へ投げ、屋上へ駆け上った


「点火!」

原野がハンドルを捻ると、電流がコードを伝って爆薬に伝わり、非常階段の基部を吹き飛ばした

八九式擲弾筒の砲弾を流用して作られたこの爆薬は砲兵達が身を護る為に編み出した最終兵器だった

アメリカ兵を乗せた階段が地上に叩きつけられ、破片が残るアメリカ兵に降り注いだ


「ぶちかませ!」

登るべき道を失ったアメリカ兵は階段の踊り場で渋滞を起こしていた

そこへ芹沢伍長と桂が拳銃、原野と荻野が小銃を構え、一斉に撃ち下ろした


日本兵からの鹵獲品を身に付けたアメリカ兵は次々と弾丸に撃ち抜かれ、階段からこぼれ落ちていく


「よし、やったぞ!」

芹沢伍長が最後のアメリカ兵を撃ち抜き、万歳の声が木霊した


その瞬間、建物が爆発した


「なんだぁ!?何が起きた!」

原野が頭を庇いながら叫んだ


「あのトラックだ!」

桂二等兵が指さした先にはロ式砲を担いだ兵を乗せたトラックが走っていた


「あのメリケンを吹っ飛ばしてやれ!」

原野と荻野が迫撃砲に取り付いた


「まて!一号館の屋上に敵だ!」

なんと、隣の一号館の屋上に現れたアメリカ兵達が九九式や百式機関短小銃を芹沢達に向けて撃った


「囲まれた!荻野!酒匂大尉に連絡しろ!四方を包囲され、分隊壊滅の危機!大至急支援を請う!復唱はいい、かかれ!」


「はっ!」

荻野が匍匐前進しながら無線室に入っていく


「このままでは……」








*****






「この地点を死守だ!輜重隊、なにをグズグズしとる!はやく土嚢を積め!」


「機関銃前へぇ!支援斉射始めッ!」

アメリカ兵が放ったロ式砲で破壊された東防壁付近では日本兵とアメリカ兵が死闘を繰り広げていた

防壁の残骸が堀の一部を埋めてしまい、そこから内部に入ろうとするアメリカ兵と日本兵の陣取り合戦が始まっていた


防壁の残骸に土嚢を積んで猛烈な機銃掃射をかける日本兵に対し、アメリカ兵は鹵獲したロ式砲や擲弾筒、小銃を撃ち続けジリジリと前線を推し進めていた


避難所の近辺の木々は切り開いてあるものの、まだ残る切り株や根を掘り起こしたときの穴などに身を隠しながらアメリカ兵は果敢に進んでいた


「くそっ!メリケンの畜生どもがッ!弾早く持ってこい!」

防衛担当の小西中尉が輜重兵に怒鳴った


「小銃弾、持ってきました!」

学徒動員でやってきたと思われる若い輜重兵が敬礼すると同時に五人程の兵士が群がった


「急げ急げ!グズグズしてると抜かれるぞ!」

そのとき、前線で爆発が起こり、日本兵が三人ほど吹き飛んだ


「中尉!戦車です!」


「なんだと!?」

小西中尉が物陰から覗くと確かに八九式中戦車改ニ甲(八十粍長砲身、7.7粍機銃二門)が前線に出てきていた


「九七中隊のチハだ!工兵を援護しろ!」

ロ式砲が無い以上、工兵隊の肉薄攻撃で戦車を破壊するしか無い

破甲地雷や梱包爆弾を抱えた工兵が飛び出し、他の兵はアメリカ兵にちょっかいを出されないように集中砲火を仕掛ける


「どぅうれぇぇ!」

工兵が束ねた破甲地雷と梱包爆弾を投げた


梱包爆弾は手前に落ちたが破甲地雷はチハの側面に張り付き、爆発した


幸か不幸か、装甲を貫くことは無かったが、その衝撃は戦車内の乗組員に襲い掛かり、全ての乗員の聴覚と神経を破壊し、動きが止まった


「重機関銃が通るぞ!道を開けろ!」

そこへ一式重機関銃改二の三脚と本体、遅れて弾薬箱を背負った兵士が駆け抜けた


「機関銃設置まで、メリケンを抑えるぞ!擲弾筒よーい!テッ!」

四門の擲弾筒が一斉に発射され、戦車の周りに着弾、戦車を盾に進んでいたアメリカ兵を吹き飛ばした


火力の逆転により、形勢は逆転しつつあった






*****







それと同時期、酒匂大尉率いる分隊は現在アメリカ兵の猛攻を受けていた


「向こうの戦車は囮、本命はこっちって事か……」

酒匂大尉がそう呟いた


「あちらさんは三十人程で、全員が一式機関短小銃、九九式、連射できる奴ばかりだ」


「こちらも自動小銃はありますが、いかんせん、数で負けてます、アメ公め……」

笹野少尉が呟いた


笹野少尉の部隊は十二人で、内六人が機関短小銃で残りが普通の小銃である


「手榴弾も流石にあそこまでは届かないし、このままではどうしたものか」

笹野少尉と酒匂大尉が頭を突き合わせて銃撃に耐えている時、酒匂大尉があることを思いついた


「大石!いるか!」


「います!」

酒匂大尉とは別の穴に隠れた大石一等兵が怒鳴り声のような声で返した


「信号銃はあるか!?」


「持っております!」

無線機を持ち歩く特技兵は無線機が使えない時や友軍砲兵の誘導の為、信号銃を持ち歩く事が多い


羽田少尉が使ったのも細川一等兵から借りたものである


「発煙弾を奴らにぶち込んでやれ!弾数は任せる!」


「わかりました!」


「総員着剣!煙幕に紛れて突っ込むぞ!」

酒匂大尉の選択は、煙幕に紛れた肉薄戦闘であった


「煙幕、撃ちます!」

大石一等兵が信号銃だけを遮蔽物の丸太から出して山なりの軌道で煙幕弾を発射した

二発、三発と発射された煙幕弾は戦場を白く染め上げ、めくら撃ちが止み、静まり返った


「では、ご無事で」


「そちらもな」

酒匂大尉は百式機関短小銃に、笹野少尉は一式機関短小銃に銃剣を取り付け、自分たちの部隊の把握に移った


「毒島軍曹、無事か」


「はい、ですが葛原二等が頭に直撃をくらい、戦死、小川伍長と栗林の小銃が破壊されました」


「二人には葛原の武器を持たせろ。合図があるまでは撃たず、手榴弾を用意させろ」


「了解であります」

敬礼と共に分隊の元へ戻った毒島は全員に着剣させた


同じく部下を掌握した笹野少尉と目を合わせ、手榴弾を取り出す


「投げろぉー!」

全員が一斉にピンを抜き、鉄兜に手榴弾を叩きつけ、手榴弾を投げた


教本通り、地面に倒れこむように伏せた直後、手榴弾がまばらに爆発した


「突撃ぃー!」


『オォーッ!』

二十名近くの部隊が一丸となってアメリカ兵めがけて突っ込んだ


アメリカ兵の多くは伏射体勢でいたらしく、手榴弾の爆発で、数名が戦闘不能になり、他の兵士も爆風や土煙で視界が塞がっていた為、反撃に移れなかった


寝転んだアメリカ兵の背中に飛び乗った酒匂大尉は倒れこむように銃剣をアメリカ兵に突き立て、引き金を二回引いて止めを刺した


百式をそのままに、酒匂大尉は腰に吊るした軍刀を引き抜き、次の獲物に襲い掛かった


酒匂大尉の軍刀は満州駐留時代、現地の刀工に打ってもらった”東亜一心刀”であり、特注品なだけあって、試し斬りの豚の頭骨を見事に両断した業物である


「シャッ!」

鋭い呼吸と共に振られた軍刀は横を向いて銃を構えていたアメリカ兵の鼻から上を削ぎ落とし、頭を両断した


「ゼェッ!」

息を殺さず、木の陰から飛び出したアメリカ兵の腕を切り落とし、返す刃でアメリカ兵を袈裟斬りにした


辺りを見渡すと戦闘は終結しており、アメリカ兵の死体があちこちに転がっていた


「ふぅー、まだまだ鈍ってないな」

軍刀に着いた血糊を手ぬぐいで拭い取り、刀を鞘に納めた


「お見事です、酒匂大尉」

そこへ返り血を顔に浴びた笹野少尉がやってきた


「無事でしたか」


「ええ、なんとか。しかし部隊の半分が逝ってしまいました……」

笹野少尉の視線の先にはアメリカ兵と刺し違えたのか、折り重なるようにして倒れる一等兵があった


「時任軍曹!四人連れて歩哨に立て!まだ残党がいるやもしれん!」


「わかりました!」

生き残った時任軍曹が新しく鹵獲したらしい一式機関短小銃を抱えながら数人を連れて行った


「毒島軍曹、我が隊の損傷は?」


「はっ、栗林二等兵が戦死、大石が眉間に傷を負い重症。今は青梅軍医が診ております」


「そうか、この分隊もだいぶ数が減ったな」


「大尉殿、早くこの場を離れてはどうでしょう。あの不死人に襲われる可能性もあります」


「確かにな、酒匂分隊!武器と戦死者を回収しろ!笹野少尉、ここは任せてよろしいですか?」


「お任せください」


「私は鹿目少将に報告してきます。毒島!回収と埋葬が終わったら元の拠点にて待機せよ、復唱はいい!」


「ハッ!わかりました!」





*****






水無月島上空

アメリカ海軍 第12偵察隊

ライアン少尉


PBYカタリナの機内は狭い

20メートル程の狭い機内に九人の乗組員と無線機材、銃火器、弾薬、食料が詰め込まれているのだ

この機体はM2ブローニング二丁と後部上層に対空用に改造した2連装の7.7mm機銃が一門、最後尾には爆弾投下兼トイレの役割も兼ねているハッチがあり、カタリナの通路には乗組員の寝床や無線機が固定されていて、まさにゴミ溜めのようだった


「コニー、どうだ、ミッドウェーは?」

ライアン少尉は用を済ませ、代わりに左舷機銃に取り付いていたコニー軍曹に声をかけた


「暗くて何も見えません。ですがこれだけ近づいて対空砲火も迎撃機も無しとは異常です」


彼らは航路を読み間違い、ミッドウェー島の真横を飛んでいた


「日本軍も今日は休みか?」

ライアン少尉が首を捻っていると操縦席の方からパーク上等兵がやってきた


「少尉!ミドル中尉が呼んでます、操縦席まで来てください」


「わかった、コニー、もう少し見張りをしていろ、パークはコニーの代わりに対空機銃に付け」


「了解であります!」

ライアンが操縦席のミドル中尉の元に行くとミドル中尉が操縦桿を握りながら怒鳴った


「ミッドウェーは完全に沈黙してる!滑走路にも多数の人影があって、迎撃機を上げる気配もない!少尉、見てみろ!」

ライアン少尉が双眼鏡で操縦席の下の元機銃座のスペースから下を覗く


「本当だ、しかしなんだか妙だな」

数瞬、まよったライアン少尉はミドル中尉へ振り向いた


「ここは一度帰投し、現状を報告しましょう」


「賛成だ、ライアン。地上の写真を撮れ」


「了解しました」


ライアン少尉が持ち帰った写真は、後にアメリカ軍の動向を大きく変えたのだった


果たして、それが良い方向での変化なのかはわからないが




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