機密物資ヲ確保セヨ
執筆を忘れているというクズ作者
「では、これより軍議を始める。神田軍曹と伊達二等兵が死んだ為、我が部隊は臨戦態勢を維持しつつ、第二研究棟三階の資料保管室にあるとされていると思われる機密資料を回収し、大型試験場を抜けて青波港に待機中の柏木丸に乗り込む。それにあたっては予定通り部隊を二つに分ける事にした」
そういうと酒匂大尉は簡単な施設の略図を前に動きを説明し始めた
「第一分隊の分隊指揮官は私が取る。分隊長は毒島軍曹、貴様が採れ」
「はっ!わかりました!」
「第二分隊の分隊指揮官は羽田少尉が、分隊長は猿飛伍長に一任する」
「わかりました」
「資料確保の任務は第二分隊に一任する。第一分隊は
柏木丸との無線交信の設備を確保する。よって」
酒匂大尉は略図の第三研究棟を指す
「第三研究棟の屋上、長距離連絡用の大型無線機の確保及び修理を第一分隊が担当し柏木丸と接触する。各隊状況は無線でやりとりをし、伝令は非常時以外は出さず、単独行動は避けろ」
「では、機関銃分隊と迫撃砲分隊はどうしますか?」
「機関銃分隊は第二分隊に、迫撃砲分隊は第一分隊に付属させる。迫撃砲分隊には無線で指示し、砲撃支援をさせる。迫撃砲分隊はその後もそこに残り、砲撃支援を続けさせて、後続の部隊が到着するのを待たせる」
「生存者や捕虜を見つけた場合は?」
そこで質問したのは毒島軍曹である
「噛まれてないか全身を調べ、同行させろ。武器は没収し、隊の真ん中を歩かせろ。捕虜の場合は分隊長に判断を託す」
「わかりました」
毒島が軍人手帳にメモを取る。彼はしっかりしているのだが、支那事変の時に手榴弾の破片が鉄兜を貫き、頭に突き刺さって以来、物忘れが酷くなったらしい
「それと、ここだけの話だが、軍上層部は今回の流出事件の発端をアメ公になすりつける腹積りのようだ。事前の通達にあったアメリカ軍の上陸云々はでっち上げと見て大丈夫だろう。だが、警戒対象がアメリカ軍から血肉を喰らう不死人に変わっただけの事。気を抜かないように、互いの連携を密にして事に当たれ、いいな?」
軍議はそう締めくくられ、解散となった
*****
第二分隊は第二研究棟の入り口に到達し、斥候役として志村二等兵と佐垣二等兵が突入した
「頭を、狙う!」
志村二等兵は銃剣を取り付けた二式小銃を突き出し、不死人と化した研究者の頭に突き刺した
足袋を履いた足で研究者の肩を蹴り、銃剣を引き抜く
「ノロノロ歩くだけだから、楽だぜ」
「油断していると神田軍曹と伊達の二の舞いだ。気を引き締めなくてはな」
「そうだな、志村、伊達をちゃんと連れて帰ろう」
「おお!任せろ!」
志村二等兵の雑嚢には伊達二等兵の両親指が脚絆に巻かれてしまわれている。青梅軍医達の努力虚しく伊達二等兵は死亡し、不死人と化して始末された
遺品として彼の手帳と識別票、血抜きした親指を彼の脚絆で巻いて志村二等兵が伊達二等兵の郷里である熊本県に持ち帰ることになった
ちなみに神田軍曹は穂摘伍長が持ち帰ることになり、神田軍曹は不死人にはならなかった
青梅軍医の見解だと、神田軍曹の場合、脊髄が完全に破壊されているため、不死人にならなかったのでは?という仮説を唱えていた
不死人になっても、最終的に指令を出すのは脳みそ、つまりその伝達手段である脊髄を断ち切れば不死人へ無力化できるということである
「この島の部隊は全滅したのだろうか……」
「おそらくそうだろう。水無月島に駐留していたのは陸軍第三師団だ。構成人数は第四十三歩兵大隊と独立第六一一歩兵大隊に第九十七戦車中隊、第八高射砲大隊に後方支援部隊が四つだったな」
「それと陸軍航空隊が3個大隊に化学兵器専門部隊の分遣隊が二個中隊、捕虜を引き取りに来た憲兵隊に民間の研究者も合わせると……」
そこで二人の足並みが止まった
「……少なく見ても六万はいるな」
「何人生き残ってることやら」
志村の頬を冷たい汗が流れた
*****
第三研究棟 屋外 非常用階段
小川伍長
災害や襲撃によって通路が塞がれた時の非常用階段を酒匂大尉率いる第一分隊が駆ける
非常用階段の各踊り場には土嚢が積まれ、即席の機関銃陣地と化しており、熾烈な抵抗の跡が伺えた
「ぜぇいやぁ!」
栗林二等兵が踊り場で立ち尽くしていた警備兵の格好をした不死人にタックルをかまし、そのまま踊り場から突き落とした
「ここもか……」
「酷いな、内蔵が全て持ってかれている」
顔をしかめる栗林二等兵とは対照的に、小川伍長は不死人にやられた日本兵の死体を見ても冷静だった
二式小銃に取り付けた銃剣を起き上がろうとしていた不死人の後頭部へ突き刺し、引き抜いた
「ここを登れば屋上だ。さっさと銃を持て」
「ありがとうございます」
小川伍長に預けていた二式小銃を受け取ると階段を慎重に登り始めた
屋上には将校の格好をした不死人が4体おり、地面に跪いて食事に夢中だった
二人は忍び足で近寄ると銃尻を振り下ろし、不死人の頭をかち割った
「これで全部か」
「油断するなよ」
二人は銃尻にこびりついた諸々を手ぬぐいで拭い落とし、巨大な八木アンテナに歩み寄った
「ぬっ、これは……」
二人が八木アンテナの後ろで目にしたのはトタンやシーツで作られた仮説小屋や床に敷かれた布団。そしておびただしい数の死体だった
「ここに避難したはいいものの、誰かが感染してて全滅か」
「南無阿弥陀…南無阿弥陀……」
栗林が両手を合わせて死体を拝む
小川は食い荒らされた少尉の死体から十四年式拳銃を弾と一緒に回収し、拳銃囊を雑嚢に入れランヤードを胴に通した
「さぁ、大尉殿が来るまで、安全を確保するぞ」
小川伍長がそういい、変電室の扉を蹴破った
中には不死人が四人。作業着姿が三人と将校が一人だ
「うれぇ!」
栗林の刺突と小川の小銃の銃尻が二人の不死人の頭蓋にめり込み、その活動を停止させた
「栗林、避けろ!」
小川伍長が先ほど鹵獲した十四年式拳銃で不死人の頭を素早く撃ち抜いた
「伍長殿!変電機にあたりますよ!?」
「心配いらん。こう見えても特別射撃徽章を持っている。拳銃の射撃には自信がある」
そう言い切った小川は拳銃を腰元にくくりつけ、変電室を歩き回る
「安全確保。大尉殿に報告に行け」
「はい!」
*****
第二研究棟
「せぇい!」
佐垣二等兵が研究室の扉を蹴破った
「突入!」
羽田少尉の号令と共に第二分隊の面々が研究室に雪崩れ込んだ
「制圧!」
「部屋を捜索しろ!それらしい資料は俺の前にもってこい!」
羽田少尉が怒鳴り声を上げながら部屋を見渡す
十畳ぐらいの部屋の中央は机が六個、固まって配置されており、机の上にはたくさんの帳面や資料、紙の束が散乱していた
(どうやら慌てて逃げる準備をしていたようだな)
机の上の書類をザッと見た限りだとここは最終的な実験の結果が集められた場所のようだ
(さて、見つける資料は確か……)
羽田は集められた資料を吟味し始める
(感染症……昆虫?……熱帯……落下衝撃……あった!)
羽田少尉が肩がけの雑嚢にしまったのは【Z計画草案書】と書かれた帳面だった
(資料甲は確保した。後は……)
胸を撫で下ろした羽田少尉が偽造としてめぼしい資料を雑嚢に突っ込んでいると
「羽田少尉殿!志村二等が生存者を発見しました!」
穂摘伍長が報告に来ると同時に志村二等兵が白衣を着た一人の女性を連れてきた
その女性を見た人は全員が険しい顔をし、機関銃を持っている武藤一等兵などは同じ機関銃分隊で弾持ちの三島一等兵から弾倉を受け取るほどだった
なぜなら、その女性は金髪碧眼。明らかに日本人ではなく、アメリカやイギリスと言ったいわば敵対国の人間だからである
「羽田少尉!この女、職員証も無しにここの職員などと申しております!」
「鬼畜米英のスパイに違いない!」
「そうだ!今すぐ殺しましょう!羽田少尉!」
「黙れ!」
熱り立つ日本兵を羽田少尉が一喝した
「女、名前は?」
「…………エルンスト。エルンスト・グレッペリン。ドイツ人です」
その女、エルンストはか細くもはっきりとした日本語でそう言った
「……竹山軍医少尉」
「はっ」
しばらく黙った羽田少尉は部隊一の年長者で軍医の竹山少尉を呼んだ
「彼女の身体を調べて噛まれてないか調べろ。この女が回収物資の一つだ」
「本当ですか、羽田少尉殿?」
「穂摘伍長、何か意見でも?」
「い、いえ……」
「竹山軍医、くれぐれも丁重にな」
「はい、もちろんです」
竹山軍医はもう五十代の後半だが、日本を愛してやまないその愛国心と空挺降下に耐えうる強靭な肉体を持って未だ第一線で戦う古参兵である
ちなみに竹山軍医はすでに結婚しており、一姫二太郎の子持ちで、既婚者がこの第二分隊では彼しかおらず、女性の身体検査を安心して任せられるのは彼だけだった
「向こうの仮眠室で行え、他の者は捜索を続行!早くしないと化け物が寄ってくるぞ!」
羽田少尉の発破と共に、兵士達が動き出した