血路ヲ開ケ
避難所
アメリカ軍捕虜の襲撃を乗り切った日本軍は現在、警戒態勢をあげつつ、今後の方針を考えていた
「現状の被害を報告します。各部隊の累積被害は八十七名戦死。二十名重傷。四十八名軽傷。軽傷の者は動けますが、戦うのは不可能です。一方民間人の被害は四十名死亡のみです」
「ご苦労、島田少佐。高部大佐。装備と弾薬はどうなってる」
「アメリカ兵から取り戻した装備も含めると現状、装備と弾薬は全員に配り直しても小銃弾三十発、機関銃の弾倉は三本、手榴弾は一人一発分あります。ですが、兵隊の数が少なく、装備は過剰分が出ております」
「やはり、兵隊の数が足りないか……」
「はい、過剰分の装備は一個小隊分です。予備として持って行きますか?それとも断腸の思いで破棄しますか?」
そう聞かれた鹿目少将はしばらく視線を虚空に向け
「……いや、民間人に持ってもらう。護衛の兵士は背嚢や余剰装備は民間人に預けるのだ。不死人の攻撃をかわすには身軽な方がいい島田少佐、民間人にその旨と規律の設立を頼む」
「お任せください」
「酒匂大尉、君たちが乗る迎えはいつ来るのだったかね?」
「はい、迎えは本日の午後一時から三時間、行われます。想定外の攻撃や救助が完了次第撤収の手はずが取られます。つまり」
「後八時間で我々は取り残されてしまうのか……」
「唯一の長距離無線機が破壊された以上、この島を出るにはその輸送船に乗り込むしか無い」
「迅速に動く必要がありますな」
高部大佐が含みを残しながら呟いた
「高部大佐、それは最後の手段だ。幸いにもトラックがいくつか余っている。負傷者をそれに押し込み、出発する」
「捕虜はどうします?」
「ここに残す。そのうちアメ公が助けに来るだろう。食糧も置いていく。十分人道的だ」
つまり程のいい囮だ。音に引き寄せられたのか不死人が徐々に集まり出しており、青波港までの道が塞がれる前に車両による強行突破を計る必要があった
「酒匂大尉、貴官らには青波港までの進路確保を頼みたい。装甲トラックを用意して置いた、弾も優先して渡そう」
「お任せください」
内心舌打ちしながら酒匂大尉はうなづいた
*****
第二分隊
羽田少尉
「ついた!ここだ!」
不死人に追いかけられながら這々の体で青波港に辿り着いた
「柏木丸が来るまでここを守り抜く!志村、佐垣!そこの魚雷艇を制圧しろ!穂摘!要人を護衛しろ!武藤!貴様達はあのコンテナの上から周辺を見渡せ!」
羽田少尉が素早く命令を出し、十四年式拳銃を引き抜いた
先程から遠くから聞こえて来る銃声、おそらく味方が戦っているのだろう
「四時間だ!四時間で柏木丸が来るぞ!」
*****
酒匂大尉
避難所を出撃した酒匂大尉達は戦車から引き剥がした装甲板を溶接してた装甲トラックに乗り込み、青波港までの道を走っていた
チェッコ機関銃を三丁を据えたこの装甲トラックは不死人を弾き飛ばし、青波港への道を切り開いていった
トラックの助手席には笹野少尉が座って一式機関短小銃を持っており、荷台には笹野少尉率いる分隊と酒匂分隊が乗り込んでいる
「不死人は音に引き寄せらるるのか、全員が避難所に向かっている」
「早く出ないと道が埋まってしまいますな」
笹野少尉は一式機関短小銃に新しい弾倉を差し込み答えた
後部の荷台からもチェッコ機関銃のやかましい音が響く
「酒匂大尉、とめてください」
しばらく進むと笹野少尉がそういった
「何故?」
「我が分隊は不死人の群れを誘引する命令を受けています。酒匂大尉はそのまま青波港に向かってください」
「なんと……」
ようは程のいい捨て駒だ
「気にしないでください、懲罰部隊の指揮官を拝命した時から、死は覚悟しております」
酒匂大尉は納得した。笹野少尉が常に熾烈な最前線や危険な斥候で戦っていたのは懲罰部隊という汚れ役を任される部隊だった故なのか
「酒匂大尉、帝国を、日本を頼みます」
「……わかった、家族に何か伝えることは?」
「……福岡に妹と祖母を残してきました、出来たらで構いません。笹野一は、最後まで戦友と戦った、と言ってくれれば、幸いです」
そういうと、笹野少尉は敬礼をきめ、「笹野分隊降車ぁ!」の掛け声と共にトラックを飛び降りた
空に赤い信号弾を打ち上げ、手榴弾や迫撃砲、銃声や雄叫びを派手にあげながら不死人の群れにぶつかって言った
酒匂大尉はその光景を目に焼き付け、トラックのクラッチを踏んだ
「青波港に向かう!」
*****
「羽田少尉!船です!貨物船が来ました!」
武藤がそう叫び声をあげた直後、彼のいたコンテナに銃撃が集中し、武藤一等兵は身体中に穴を開けて倒れた
「アメ公め!どこまでも邪魔をしおって!」
羽田少尉率いる第二分隊は既に穂摘伍長、武藤、鞠川両一等兵が捕虜のアメリカ軍残党にやられており、手元の持ち弾も乏しくなって来た
「羽田少尉!どうすればいいですか!?」
三島一等兵と志村二等兵が十四年式拳銃と二式小銃を交互に撃ちながら叫んだ
「……佐垣!魚雷艇まで走ってあの機関銃で援護しろ!残りは佐垣を援護だ!」
羽田少尉が指差したのは破棄された魚雷艇だ。甲板には防盾と十二.七ミリ単装機銃が据え付けられている
「わかりました!」
「よし、三で飛び出せ!一、二の、三!」
合図と同時に装備を全て外した佐垣二等兵が駆け出し、羽田少尉が百式機関短小銃を乱射した
アメリカ兵の数はおおよそ十名ほど、連発式の銃はないみたいだが、その弾幕と射撃の正確さは侮れない
「羽田少尉!佐垣が!」
「なに!?」
振り向くとそこには頭から血を流し、倒れ伏す佐垣二等兵がいた
「あぁ!くそったれ!俺に任せろ!」
そういうとスケアクロウが突然駆け出した
「なにをしている!戻れ!」
羽田少尉が叫ぶもスケアクロウは止まらない、銃撃の勢いはますます強まり、頭をあげるのも困難だった
スケアクロウは倒れた佐垣を飛び越し、魚雷艇に滑り込み、機関銃をアメリカ兵に向けた
「くそったれがぁ!俺は生きる!死ぬわけにはいかねぇんだよぉ!」
機関銃に弾を装填し、トリガーを引いた
重苦しい音と共に銃弾が衝撃波を引きながらアメリカ兵に襲い掛かる
位置的にアメリカ兵は魚雷艇から見ると丸見えであり、障害物も無いので無防備だった
機銃弾が命中したアメリカ兵は四肢を粉砕されながら吹き飛び、戦闘はあっと言う間に終わってしまった
「おい、スケアクロウ!貴様なにしてるんだ!」
佐垣を三島一等兵に任せ、羽田少尉はスケアクロウに詰め寄った
「うるせぇ!俺はあんたら日本軍に賭けたんだ!降りることは出来ねぇ!だったらあんたらが勝てるように俺だって足掻くんだよ!」
「……まぁ、いい。怒鳴って悪かった」
「いいさ」
公務員試験の勉強が忙しいのでしばらく投稿出来ないかもしれません




