巡査・頭山怛朗の活躍(第四話 外伝 頭山怛朗少年の証言)
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巡査・頭山怛朗の活躍(第四話 外伝 頭山怛朗少年の証言)
「では、去年八月一日、夕方の五時ごろ、山下さんの家から男が飛び出して来るのを見たわけだね」と、検事が言った。
「はい」と、少年が言った。
「間違いなく八月一日だった?」
「打ち上げ花火の日で急いでうちに帰るところだったから間違いないよ 」
「言うまでもなく八月一日はK花火大会の日。で、その男の人はここにいるかい? 」
「あの人だよ、間違いない! 」と、少年は被告席の男を指差し言った。
「被告は」と弁護士が言った。「先程聞いてもらったように人望厚い人物です。裕福で犯罪暦もありません。スピード違反、一時停止違反すらありません。被告と被害者は面識はありましたが、殺人に結びつくトラブルもありません。第一、被告が被害者を殺したという物的証拠は一切ありません。状況証拠しかありません。被告がここにいる理由は一つ。この少年、小学校三年生の証言のみです。でも、本当に幼いこの少年の見間違いではなかったのでしょうか? 」
「おじさん、前に会ったことあるね!? 」と、少年が突然口を開いた。
「……」弁護士が少年の顔をまじまじと見つめた。「いや、君と会うのは今日が初めてだ! 」
「おじさんの車は白のレクサス。車両番号は……」と、少年。
「車両番号? 」弁護士が困惑して言った。
「ナンバープレートの番号だよ。 おじさんは法律家(少年は“弁護士”ではなく“法律家”と言った。)のくせに“車両番号”の意味も知らないの? 」
法廷内に嘲笑が漏れた。
「車両番号は××× 3×× つ45-53での白のレクサス。去年の6月の11日J町のホテルから出てくるのを見たよ。ぼく、このおじさんの車に弾かれそうになったからよく覚えている。おじさん、慌てていたのはよく分かるけれど、歩道も道路だよ。歩道に出るときもきっちり停車して、左右を確認しないと」
J町のホテルはモーテル。法廷内に笑いが漏れた。
裁判官が笑いを押さえ口を開いた。「弁護士さん、あなたは白のレクサスに乗っている? 」
「確かに白のレクサスに乗っています」と、弁護士。弁護士は明らかに動揺していた。
「車両番号は××× 3×× つ45-53かね? 」
「45-53は間違いありませんが、ひらがなは何だったかな……。でも、私の車とこの裁判とは関係ありません」
「今、この少年の記憶が正しいかどうかを調べている。それも君が始めたことだ! 廷吏、弁護士さんの車両番号を確認してきてくれ 」
「その時、このおじさんの車の助手席には女の子が乗っていたよ。どう見ても高校生だった。おじさん、法律家のくせに女子高校生とモーテルに行っちゃ駄目だよ!
法廷内はついに我慢できなくなり爆笑の渦となった。
「君は根も葉もないことを…… 」
「本当だよ。今、その女の子、傍聴席に座っている」少年は傍聴席の一角を指差した。指差された若い女は慌てて、法廷を逃げるように出て行った。
「逃げたら事実だと認めることになるよ」と、少年が女の背中に言った。「おばちゃん」
廷吏が裁判官にメモを渡した。
「間違いなく弁護士さんの車は、××× 3×× つ45-53での白のレクサス。一年前に見た、たった一度だけ見た、持ち主本人さえ曖昧な車両番号のひらがなまできっちりこの少年は覚えていた」
弁護士は椅子に崩れ落ちた。
「事件から、まだ、半年。あなたの淫行のおかげで少年の記憶は確かであることが証明されました」と、裁判官が皮肉交じりに言った。
弁護士は身動き一つ出来ず、被告の男は頭を抱えた。
裁判官は証人の少年の名を確認した。少年の名は“頭山怛朗”。“人は外観で判断してはいけない”
被告には懲役十年の判決が下り、弁護士は離婚し街を出て行った。