紫の彼女は六番目
赤井沢朱音は魔法少女ファイブの鎧を身に纏い、立体駐車場前のビル周辺を飛行していた。飛行というより、時間稼ぎの方が正しい表現なのだろうが。物凄い風圧を顔面に受ける中、それでも赤井沢は目を見開いている。背後を飛ぶ魔法少女シックスは決して弱くはないが、そこまで強いという訳でもなかった。利点のビーム発射の際のエネルギーチャージが短いということを活かしての飛行は評価出来るが、肝心の精度が残念極まりない。
それこそ、あのビームは対象に直撃させてからが肝心だというのに。
(私なんかよりよっぽど良いデバイス使ってんのに……『ハラキリ』も人件費不足かな?)
実を言えば、シックスのビームは低温という訳ではない。通常ならば周囲に発散するはずの熱エネルギーをビーム内部に蓄積させ、直撃した相手の内部から破裂させるという鬼のような性能なのだ。結果として誤射の嵐により周囲の人間の大半は死んでしまったが、それは自分の責任ではないと割り切れるのが、赤井沢の殺し屋としての所以である。
チラリと後ろを見ると、後方のシックスは数分前と変わらずステッキを前方に構えてエネルギー充填と発射を繰り返しているだけのようだ。確かに胴を狙うなら良いのだろうが――魔法少女同士の戦いの場合、頭部を直接射抜く覚悟で攻撃しなければ勝利はない。
それこそ、一切の脅しが効かない性能の魔法少女だからこそ生まれてしまう悪いポイントなのだが、ここはそれ以上に使用者自身の性格というのが大きいだろう。
何せ、魔法少女なんていう汚れの押し付けられ係みたいなものになる人間というのは、
「……っと!」
紫色のビームが赤井沢の髪を僅かに掠めた。が、それをまったく気にせず、赤井沢は自らのステッキを構える。
攻撃するには勿論後方を向かなければならないのだが、しかし赤井沢は違う。違うというよりも、赤井沢だけが特別なのだ。彼女は先ほどから、時間稼ぎの為だけに逃げている。それは確かに音無に提案したある作戦に関する時間稼ぎが主だが、更にもう一つ。
魔法少女ファイブのある性能に関することで、時間稼ぎをしていたのだ。
魔法少女の基本スペックは同じだが、しかしその同じ攻撃方法でも細部は違う。シックスにはシックスの特性があり、ファイブにはファイブの特性がある。
シックスのビームが、リチャージが短い連続単発型なら。ファイブのビームは、チャージが長いが一回の最大チャージで三十発撃てる連続連射型。つまり、
「上手い感じで弾幕張れば―――!」
前方に構えたステッキの先端から赤いビームが計三十発分、一斉に発射される。
それはまるで傘のように発射と同時に後方へ流れていくと――――背後を飛行中のシックスへと、全方向から襲い掛かった。
(今のうちに逃げるか!!)
撃った直後、急激な方向転換を加えて立体駐車場の右隣にあるマンション屋上へと突き進む。背後のシックスがこれで墜ちるとも思えないが、取り敢えずの時間稼ぎは済ませた。
そろそろ作戦の準備も整った頃だと思いたいが……。
「って、うわっ!?」
マンションの屋上へと足を着けるその寸前、背後からの紫の光線により足を撃たれ、バランスを崩しかけてしまった。僅かな鈍痛が走るも、しっぺ程度の痛みだ。
赤井沢は少しだけホバリングもどきをしてバランスを調整すると、マンションの屋上に今度こそ着地する。すぐさま振り返ると、十メートル先には額から血が溢れてるシックスが空中停止していた。赤井沢は敢えておちゃらけた様子で、シックスに話しかける。
「もー酷いなあ。危うく転ぶトコだったよ?」
「……お前は私の頭をビームで掠らせただろう、お互い様だ」
赤井沢自身、会話が成立したことに驚いていた。何せ、任務途中に対象以外に感心を持つことがまず稀であるため、会話らしい会話は塩山とぐらいしかしたことがなかったのだ。
「アンタは関係ない人殺しまくったでしょうが。何がお互い様よ」
「少なくとも、殺し屋の台詞ではないな。依頼のための犠牲だ、仕方がない」
赤井沢は何か怪しむような顔を浮かべると、
「……らしくないじゃん。アンタら『ハラキリ』は、お金ケチってちまちまちまちまとした依頼しかこなさないみたいな印象があったけど……こんな大規模にしちゃって。アンタ、自分がやったことに自覚ってある?」
「修繕費の事か? それとも、お前が関係ない市民の無念でも騙るのか? 誰かの都合で誰かを殺すことを正義と謳うお前が」
「……はあ? 正義?」
一瞬、赤井沢の脳裏にちらついたのは自分の恥ずかしい名刺だ。
しかしシックスなどに見せた覚えも、『ハラキリ』関係者に見せた覚えもない。
「正義を謳うって、何の話? アンタ、私と誰かを勘違いしてない?」
「お前の暗殺依頼はちゃんと出ている。魔法少女ファイブのデバイスを使う人間を殺せ、というな」
「…………………………………………………え、ち、ちょっと待って」
何か、変だ。今のシックスの言葉が、妙に頭の中の何かに食い込むような感覚がする。
「悪いが、待ってやる義理も理由もない」
だが、当然のようにそういうとシックスは、自らのステッキを赤井沢へと向けてくる。
「いや、私も義理なんてないんだけどさ」
今の会話の間にチャージしておいたビーム三十連発をもう一度お見舞いするが、今度は右へ避けることで全て回避されてしまった。
「すばしっこいな……」
言いながら、赤井沢は横目で立体駐車場の方を見る。まだか。
流石に昨日まで高校生だった音無に、死体を踏み越えての作戦は無理があったか。
今更ながらに自分の異常性を含めた性格が大前提の作戦内容を悔いるが、今は音無を信じるということ以外は出来ない。もし作戦が出来なければ出来ないでの合図もしているし、その場合は逃走に移っても問題はないのだから。
右へと避けたシックスは、今度はビームではなく物理的な格闘で手を出してきた。先ほどまでビームを撃つアイテム的存在だったステッキを、鉄パイプのように振るう。赤井沢はそれを左腕の肘をぶつけるようにして受け止めると、間近まで迫っているシックスの顔に自分のステッキを向ける。最大チャージで三十発だが、一発撃つ程度ならば数秒でリチャージは可能だ。
「……ッッ!!」
これで殺せるものなら殺したいと願う赤井沢だったが、しかしシックスは意外にも俊敏だった。ビームを発射する寸前に顔を思い切り仰け反らせ、喉が軽い火傷する程度の負傷で済ませたのだ。これは案外、思っていたよりも機転が利く魔法少女かもしれない。
(そうなると――ますますここで殺さないと!)
更にシックスは仰け反りながらも、赤井沢の左肘からステッキを強引に外してリチャージをしてきた。肘を突き出した格好のままだった赤井沢は、空中の肘を起点に左拳を裏拳のように回すと、その攻撃でシックスのステッキをあらぬ方向へと弾く。
しかし、いくら魔法少女の鎧を着ていようともシックスの仰け反りはもう限界のはずだ。ビームを発射したままだった、右手に持ったステッキをそのまま振り下ろす。流石にこれは回避する術がなかったようで、シックスの顔面に赤井沢のステッキが直撃した。鼻の一つでも砕ければ良いのだが、伸ばしきった腕で振り下ろした攻撃だった為かそこまでの威力は出なかったらしい。
そこで、赤井沢は一つの音を聞いた。何かが切り替わるような――――銃に銃弾を込めるような、そんな音による不吉な予感。赤井沢は僅か数秒にも満たない戦闘の中で、自分の左手で弾いたシックスのステッキを見る――それは、拳銃に変わっていた。
(まずい…………『切り替えた』!!)
そしてシックスは今まで使わずに自由になっていた左腕で、赤井沢のステッキを突き出している右腕を掴む。それをぐいっと引き寄せると、当然のように近づいてきた赤井沢の頭部に――――その拳銃を突き立てた。
「ファイブッ!!」
叫びながら、シックスはその引き金を引く。その直前に赤井沢は、その右足でシックスの左足を蹴り上げた。痛みによるダメージが目的では勿論ない。
「うっ、」「んのっ!」
僅かにバランスが崩れ、額に突き立てられていた拳銃がずれる。射出された実弾は赤井沢の右肩の鎧に着弾し、軽々と弾かれた。
「危ないじゃん!!」
理不尽な叫びを上げながら、赤井沢はステッキを左へ思い切り叩き付ける。そのステッキはシックスの左耳に直撃し、そのままシックスは倒れこむ。
やったとは思えない。鼓膜ぐらいは破れたかもしれないが、魔法少女の身体能力的にこんなことで脳震盪が起こるとも考えにくかった。少なくとも、起きるまで数秒しかない。
シックスが倒れこむ寸前、左膝蹴りを顔面に叩き込んでおくと、そこで奇声が上がった。
シックスの悲鳴、ではない。それは、
「てぇぇぇぇぇぇんちょぉぉぉぉぉぉぉぉ――――う!!!」
音無と取り決めていた、作戦開始可能になった時の合図だ。
「よしきたぁっ!」
赤井沢はもう一発だけ蹴りを放とうかとも考えたが、そんな暇があれば早く立体駐車場へ行く方が良い。それに、シックスを殺そうにも蹴り殺すのはまず無理だ。蹴りを何発も入れる間に実弾を撃たれてはたまったものではない。それに加え、ビーム一発分のチャージをしている間におそらくシックスは起き上がる。
そう結論付けると、赤井沢は高速飛行で左隣の立体駐車場へと向かう。屋上にある、全フロアをぶち抜いた大きな破壊の穴へと飛び込むと――――、
一分前、音無は立体駐車場の一階にいた。
準備は万端だ。ここまで上手くいくとも思わなかったし、この後にやりきる自信もないが、それでも万端になってしまったものは仕方がない。
彼は今、黒いワンボックスカーの運転席にいた。何をするのかと言えば見ての通りだ。車の運転席に座ってすることといえば一つしかない。音無は今から、車を無免許運転する。
一応、車の仕組みは理解している。どのレバーを押したりすればいいのかも分かっているし、それも全部終わってあとはアクセルを踏むだけの状態だからこその「準備万端」だ。この車はそもそも五階にあったもので、既に一階へ移動させている時点で無免許なのだが。
ちなみに、この階にあった彼の死体は端の目立たない場所に移動させておいた。既に割り切った音無は難なくその作業をやりきったが、赤井沢の目を騙せるかは分からない。
彼はもう一度だけ深呼吸すると、車の窓を全開にして、羞恥心をかなぐり捨てて叫ぶ。
「てぇぇぇぇぇぇんちょぉぉぉぉぉぉぉぉ――――う!!!」
直後僅かだが「よしきたぁっ!」という声が確かに聞こえた。どうやらメッセージは伝わったらしい。三秒後、何かが落ちてきたような鈍い音と共に車の天井がへこむ。指示通り開けておいた後方右側のドアから、トカゲのようにするりと赤井沢が乗車した。赤井沢は後ろ手でドアを閉めつつ、音無に向かって叫ぶ。
「出してっ!」「了解です!」
返事と共にアクセルを思い切り踏み込むと、タイヤの擦るような音と共にワンボックスカーは急発進した。
立体駐車場の入口に設置された出入り規制のバーをへし折りながら、死体の山を更に轢きながらワンボックスカーは進む。
窓を閉め忘れた為に嫌な臭いが車内に入り込むが、そんなこと気にしたら駄目だ。
この作戦は、高速でやるからこそ意味がある。
今回赤井沢が立てた作戦は、あまりにもぶっ飛んだものだった。
作戦に必要な物は、車一台とペーパードライバー一人、そして魔法少女一人。
あとは、公共機関の圧倒的な力を借りる作戦だ。
様々なモノの残骸を踏み越えながら進む車内は、まるで山道を進むかのように激しい振動に見舞われる。だが、それでも走行が困難という程ではなかった。
音無は食い入るように前方を眺めながら、赤井沢に向かって叫ぶ。
「赤井沢さん、あと何発ぐらい持ちます?」
「フルチャージはあと一回撃てれば奇跡。単発なら六〇ぐらい!」
ここで言っておくと、赤井沢ら魔法少女デバイスのエネルギー弾の源は、使用者の体力に他ならない。一概に体力と言っても、本当に限界まで使用すると心肺機能が停止するぐらいにはなるらしいので、自分で限界より少し前のラインを決めることが重要らしい。
いくら体力が常人より上だとしても、スタミナに限界は必ず訪れる。それは必ずしも全ての魔法少女が同じという訳でもないらしく、赤井沢はシックスが自分よりスタミナのあることを既に見抜いていたのだ。
音無はそんな説明を受け、そして提案された作戦に乗った。失敗すれば死に、成功すれば逃走できるという意味では、その提案を蹴ることなど彼に出来るはずもなかったが。
「シックスはどのくらい消耗したんですか?」
「そうだね、多分まだスタミナは八割ぐらい残ってる。ついでに言うと、私はもう半分ぐらい使い果たした……」
「……飛行にも体力って使うんですか?」
「音無君、歩くときに体力消耗しない人間なんていないでしょ? それと一緒だよ」
何が一緒なのかはよく分からないが、とにかく音無は作戦の本命をもう一度確認する。
「それと、赤井沢さん。例の装置って……これで良いんですよね。あ、助手席です」
赤井沢は身を乗り出して助手席を見ると、そこには火災報知機の様な「何か」があった。
「そうそう、これで正解だよ。私の貰った魔力障壁の装置は」
立体駐車場五階に設置されていた魔力障壁、その源となる装置は、そのフロアにずっと駐車されていた車の内部にあったのだ。ついでに言えば、このワンボックスカーの鍵はあの隠れ家に置いてあったがため、その点で言っても戻る必要があった。
しかし、こういった事態は想定していなかったであろうこの装置で、音無の赤井沢はほぼ反則級な移動手段を手に入れたことになる。何せ、この装置が車内で作動し続ける限りシックスの攻撃は届かず、障壁内部の赤井沢からの攻撃はそのままシックスへ向かうのだ。
少しルール違反という感じもしたが、命掛けのやりとりにルールなんてあったものではない。加えて言えば、シックスが時折使用してくる実弾は魔法障壁など素通りする為、簡単に車をパンクにされる可能性だってある。
(……最悪の事態は考えるな。とにかく今は、駅へ向かうんだ。駅へ行ってからの行動で、全てが決まる)
自分に言い聞かせるも、少しだけ音無の鼓動が早まる。やはり、緊迫した空気も度を過ぎるときついものがあるのだった。後部座席では赤井沢が、「疲れた」と呟き魔法少女の鎧を解除する。それを見た音無はビックリしたように目を見開いたが、
「大丈夫だよ。見た感じまだシックスは来てな……あ、いや、もう来てるな。あちゃー、どうしよ。流石にエネルギー弾三〇連発はもうしたくないし」
「その状態でも撃てるんですか……というか、ああ、魔法少女状態のときのステッキって、この拳銃だったんですね」
「今更だねー、キミは。まあステッキと拳銃で切り替えられるよ。ちなみに性能に差はない。ただ、ステッキ状態だと殴ったりするときに便利だね」
性能になんの違いも出さない武器変形はどうなんだ、と音無の僅かな男心が刺激されたが、生憎と変形の単語で燃え上がれる程に昭和な男心ではなかったらしい。すぐに興味をなくすと、少しだけ余裕が出来たのかバックミラーを横目で覗いた。
そのミラーには、魔法少女シックスの顔が目一杯に広がっていたのだ。
音無は横を向く。無免許運転中の人間がすることではないが、今はそれ以上にそれどころではない。
車の右隣で密着し並走するかのように、シックスは間近へと迫っていた。
窓が開いていた為、お互いの顔が至近距離で丸見えである。
少しだけつり上がったようなシックスの目を見ながら、音無はこう言うしかない。
「……ど、どうも」
「貴様、どういうつもりだ……暢気に挨拶など、随分と余裕ではないか……っ!」
次の瞬間、後方の開いていた窓から赤井沢の赤い銃弾が飛び出す。しかし、それは明らかに外れたルートとなってしまい、シックスはそれに構わずステッキを振り上げ車に叩きつけようとする。
だが大丈夫だ、あれも魔法少女のステッキであり、障壁に反応する――と、音無が確信にも似た感情を抱いている最中。
信じられない事が起こった。信じられない、というか、おかしい。前提が崩れ去る。
魔法障壁は、外部からの魔法を弾く障壁ではなかったのか。
なら、どうしてシックスの振り下ろしたステッキは、運転席の扉を軽々と貫通し、音無のアクセルを踏む足にあと数センチの位置まで迫っているのだ?
「………………赤井沢さん、速度上げますッ!」
「駄目だよブレーキ踏んで!!」「!?」
その一秒未満の叫びに対し、反応できた音無の反射神経は褒めても良いぐらいだった。
思い切りブレーキを踏むと、タイヤが擦り切れるのではないかというぐらいの悲鳴を上げる。同時に、運転席側の扉に突き刺さっていたステッキはもう少しだけ扉を抉るように横へと激しく振動した挙句に、あっさりと抜けてしまった。
いや、違う。ステッキを持った本人が、ワンボックスカー以上の速度で飛行してしまった為に、ステッキは当然の結果としてワンボックスカーから抜けていったのだ。
「あ、ぶなかった……あ、ぐぅぁあっ!?」
安堵の息を吐こうとしたまさにその時、後部座席の赤井沢は音無の左肩を途轍もない力で叩いた。あまりの威力にドアが開き、そのまま車外へと音無の体は転がっていく。
「な、ん……?」
音無からしてみれば、いきなり赤井沢に追い出されたとしか思えないのも当然だ。しかし、疑問符を全て口に出すその前に……ワンボックスカーが炎上した。
つい数秒前まで音無が座っていた運転席のシート、その下にあるエンジンが炎上した。
あのままでいたらどうなっていたかなど、想像は容易だ。
しかし、叩かれた衝撃のみで車外へ放り出された自分の背中が軋むような音を立てたことで、音無は赤井沢に感謝を言う余裕もなくなってしまう。
視界の端ではシックスが、ワンボックスカーの三十メートルぐらい先でステッキを降ろしていたところだった。あれで運転席の真下を撃ち抜いたのだろう。
シックスは遠距離攻撃の技術が未熟だと赤井沢から聞いてはいたが、あの一瞬では正面から迫るワンボックスカーなど動かない的と同義だ。経験さえあれば当てられても不思議ではない。
とにかく起き上がらなければ、今度は音無が良い的となってしまう。誘拐などは勿論、拷問なども避けられれば避けたい音無からしてみれば、多少無理をしてでも起き上がるのは当然の行動とさえ言える。
腕に力を込めると、徐々に上半身を浮かせて膝を立てる。その頃になってやっと確認できたのだが、既に赤井沢は魔法少女の鎧に身を包みこちらへ迫ってきていた。片手にはきちんと魔力障壁の装置が握られており、すぐに音無の方へ来なかったのはそれを回収していたためであろう。いかに魔法少女とはいえ頭は剥き出しなのだ、炎上する車の中で回収出来ただけでも儲けかもしれない。
音無がよろめきながら何とか立ち上がったところで、赤井沢が音無の顔を両手で掴む。
「傷は……なさそうだね。走れそう?」
「ま、まあ、なんとか……」
その音無の返事が言い終わるかどうかというところで、紫色のビームが飛来してきた。実際にそれを音無が認識出来たのは赤井沢が左腕の装甲でビームを弾いた後であり、改めてその反応速度に背筋が凍る。
赤井沢は地面を一回蹴るだけで燃え盛るワンボックスカーの後方へ移動すると、左腕を使いまるで薙ぎ払うかのようにワンボックスカーを押した。物理的な衝撃を受けたそれは本当に真っ直ぐ、綺麗な直線を描きながらシックスへと迫っていく。遅れて爆音が響き、その音が音無の鼓膜を叩く頃には、既にワンボックスカーはシックスに激突していた。
赤井沢は音無の方へまたジャンプ一回で跳んで来ると、近くの飲食店の駐車場へと音無の手を引っ張りながら向かう。その飲食店は二階が本店、一階は全て駐車スペースとなっている構造で、幸いというか当たり前のように、人は一人もいなかった。
その支柱であろう一本に音無の背を付けさせると、赤井沢は少しだけ早い口調で音無に伝える。
「稼げるのは二十秒ぐらいだから、聞いて。やっぱりワンボックスで逃走出来る相手じゃなかったみたいだから、今度は私達の体を酷使してやるしかない」
既に十分酷使しています、とは口が裂けても言えない。
「でも、本質的な役割は変わらないよ。キミが逃げて、私が戦う。この一点は変わらない。だけど、体力の消費が想定の比じゃないぐらいになる。だからこそ、勝手だけどキミにも多少のアドリブをしてもらう必要はある」
わかりました、と反射的に音無が答えそうになったところで、道路の方から何かが破裂するような音が響いた。稼げる時間は既に使い切った、ということだろう。
「……っ。じゃあ、手はず通りにお願いね。体力的に私が戦えるのはあと五分程度だけど……大丈夫だよ。まあ、なるようになるって」
即座に黒い影が、駐車場の目の前へと瞬間移動のように現れた。
それは既に形を成していないであろうワンボックスカーの方から飛んできた、シックスであるのは疑いようのない事実だ。
「それじゃ!」
まるで友達との挨拶のような軽い調子で言うと、赤井沢は真っ直ぐシックスの方へと向かって飛んでいった。
「…………」
少しだけ息を潜める。十秒後、どうやら赤井沢が上手く誘導してくれたのか、飲食店の目の前からは魔法少女は消え去ったようだ。
「……あんまりぼーっともしてられないな」
そして音無は、すぐさま作戦の想定にない行動へ移った。
赤井沢が一気に、それこそ弾丸のような速度でシックスへ突っ込んだのにはそれ相応の理由があった。いや、自分の都合というのが正しいか。要はスタミナがやばい。
通常では、赤井沢の得意とする依頼達成方法は暗殺のみだ。それも特に遠距離からの狙撃という方法で、逃走の際に身に付いた高速飛行のみが取り得である。
彼女とシックスの間にある体力の差も、そういう日々の依頼の系統によってのものなのだろう。シックスなどの、特定の部隊に入っている人間は白兵戦に近いものも強いられるが、赤井沢には組織的な束縛など最もと言っていいほどに無縁なものだった。
つまり、今の状況を鑑みれば。
(先手必勝で殺すか、体力を温存しながら作戦通りにするか……)
後者はないな、思いながら、目の前の影に思い切りステッキを叩き付ける。言った通り彼女は通常なら対人戦闘などしないため、全ては我流の攻撃方法だ。しかし、その影にステッキを叩き付けた途端に、それは倍返しの衝撃となって返ってきた。流石にそこまでの衝撃は予想の範囲外だったのか、僅かに空中に浮かんでいた赤井沢の身体が薙ぎ払われる。
空中で慌ててブレーキをかけると、今度は赤井沢がステッキを拳銃へと切り替えた。今の倍返しで理解したが、シックスは相当な怒りを覚えている。恐らくだが、こういったちまちまとしたことは苦手な性分なのだろう。ビームの精度が悪いのもそれの所為か。
そうなれば自然に、遠距離からの攻撃を放った方がマシというものだ。
(私の領分だしね、拳銃は)
一発分をすぐさまチャージすると、目の前の黒い影に標準を僅か〇・三秒で合わせた。即座に引き金を引くと、流石にそれには反応出来なかったのか、向こうの装甲で弾かれた音がする。
しかし相手も、そこまでなにもしてこないような無能ではなかった。相手は――シックスは、その血走った目を最大限に見開き、赤井沢へと喰らいつこうとする肉食獣のような表情を浮かべた。その顔の、片方で。
(……マジ?)
少しの間――といっても一秒未満ではあるが、ほんの数瞬、目の前の事実が真実かどうか疑ってしまった。確かに目の前にあるそれは、しかし俄かには信じ難い。
シックスの左目は、なかった。シックスの右頬は、抉れて骨が見えていた。
まるで違法薬物の中毒者のような表情を浮かべながら迫ってくる「それ」は、空中に涎さえ垂らしていた。原因として考えられるのは、赤井沢が吹き飛ばしたワンボックスカーに対し、全てビームで対処しようとしたのだろう。見事に数発のビームに再度貫かれたワンボックスカーは、シックスの顔の直前で特性上の「破裂」を起こしたのだ。
しかしここで即座に、抉れて見えている骨を攻撃しようと左手を動かせた赤井沢の思考力と判断力、そして責任感の欠如はこの場合にのみ、賞賛に値するものだろう。
その動きのおかげで、獣のような姿に変貌したシックスが右手に構えていた、実弾装填をした拳銃の銃口の向きを少しだけずらすことが出来たのだから。
赤井沢自身意識的な防御ではなかったので、少しだけ胆を冷やしながらも右手の拳銃をシックスの眉間へと押し当てた。既にリチャージは一発分済んでいる。赤井沢の右人差し指がその引き金を引く寸前、シックスは実弾を発射し、それが胴体に当たった衝撃で赤井沢の銃口もずれてしまった。再び見当違いの方向へと飛んで行くビームになど目もくれず、赤井沢は次の行動に移る。
「ふぁ……ぃ、ぶ!!」
獣の唸り。野獣に近しい表情を浮かべるシックス。それに対し赤井沢は、拳銃の底で思い切りシックスの後頭部を叩いた。どんなに魔法少女の身体能力が上がってるとはいえ、頭を殴られては脳震盪を起こす。そんな当たり前の現象を起こそうとしたが故の行動だったのだが、それは相手が普通の人間の場合のみだった。
相手は人間兵器。それも、自分のパーツを奪われ錯乱した人間。
後頭部を叩かれても、シックスは小さな呻きすら上げなかった。ただこちらを見据え、再び実弾の篭った拳銃を向けてくる。
(なら……攻撃の方向性を変えよう)
赤井沢は一瞬でそう判断すると、未だに空を切っていた左手で向けられたシックスの拳銃を握り締める。親指で銃口を塞ぐと、右手を引き戻してシックスの拳銃にエネルギー弾を放った。
魔法少女のデバイス。それの根幹を成すのは、やはり座標を撃ち込むこの拳銃だ。これさえ破壊してしまえば鎧は解除され、更には身体能力も通常に逆戻りする。
が、そこは魔法少女のデバイスであるがため、それ相応の強度を誇ってはいた。いくら火薬を使用しても、現代文明では決して破壊出来ない硬度。それを破壊出来る攻撃方法と言えば、同じ魔法少女のエネルギー弾ぐらいしか存在しない。
発射した瞬間、殺ったと思った。余計な労力を音無に使わせず、自分で解決出来たと。
そして、その判断はすぐに、自分の軽率な思考に対する戒めへと変化する。
「あ、ぁぁぁあぁああああッ!!」
シックスはあまりにも不安定な金切り声を発し、空中に浮かんでいる自身の体の状況を活かして、その左足で赤井沢の拳銃を蹴り上げたのだ。通常なら間に合う筈のない攻撃だが、飛行のブースター付きの蹴りは亜音速で振るわれる。しかしそこは同じ魔法少女の攻撃、いくらか赤井沢の銃口が狙いより上へ行ったが、完全に外れるということはなかった。
シックスの拳銃に、エネルギー弾が僅かに掠る。
「!?」「うっし!」
たったそれだけのことなのに、ガクンとシックスの身体が下へと「下がった」。飛行に関する魔法を使う為のデバイスが、多少なりともダメージを受けたのだ。
これでもう、シックスは羽虫のような飛行しか行えない。
赤井沢は一瞬、悪魔のような笑みを浮かべると、自身の持つ拳銃をステッキに変形させた。それを前方に振り、シックスの顔面へと叩き込む。
しかしここで、赤井沢の「我流」が諸刃の剣となった。
我流とは聞こえがいいが、つまりはその場凌ぎ。即席の演舞のようなものだ。通常の格闘などは、どうすれば最小限の体力で最大限の効果を生み出せるかなどが考えられている。
しかし、赤井沢のはただの喧嘩。スケールの大きい小さいは関係なくすれば、街中に溢れる若者同士の殴り合いと大差ないレベルのものだ。つまり、意味するものは。
(…………っ!)
体力の急激な消耗。普通の喧嘩ならば、ここまで一気に体力が減ったりはしないだろう。しかし、赤井沢は自身の体力を消費してビームやエネルギー弾を発射している。一瞬の間に数発撃つようなスピードで消耗すれば、体力などすぐに底を尽きてしまうはずだ。
それでも、赤井沢の目に見えるようなダウンはほんの〇・二秒程度だった。表情にすら出さず、体のバランスが少し崩れたようにしか見えなくても不思議ではないような挙動で上手く体勢を立て直そうとする。
しかし、赤井沢のステッキを顔面に喰らっていたはずのシックスは、その隙を見逃そうとは決してしなかった。
ここで忘れてはならないのは、赤井沢とシックスは性能の面では大差ない魔法少女ということ。そして、体力面での差はシックスが大きく勝っているということ。つまりこの隙を活かそうにも、あまり有効打は叩き込めない。
だからこそシックスは赤井沢に、強制的に隙を作らせた。
「…………え?」
シックスの拳銃が、空気を裂いて赤井沢の顔面へと迫る。ここで実弾を使わずに拳銃の底で殴るという選択肢を選んだのは、赤井沢にも何故か分からなかった。弾切れか?
しかし、そんなことは今の赤井沢にとって些事に過ぎない。
あまりにも衝撃的な「それ」を見せられた赤井沢は、迫り来る拳銃への対応がまったく出来なかった。
直後、空中にいたシックスの全体重を乗せた拳銃が、赤井沢の眉間に直撃する。
「いぁ……っ!?」
僅かな呻きを上げるも、赤井沢はすぐに頭部の痛みで現実へと戻ってきた。
(やって……くれたなっ!!)
割れた額から血が溢れるよりも早く、叩きつけられたシックスの拳銃を左手で掴む。
「あァッ!!!」
それこそ獣のような声を上げ、赤井沢は右足を踏ん張ると、掴んだ拳銃を思い切り左側へと投げた。それは道路の白線上を真っ直ぐに突き進み、五十メートル先で落下する。
それまでの様子を愕然とした表情でシックスが見ていたのを、赤井沢は見逃さなかった。赤井沢が左側へと拳銃を放った影響で、大きく真横へ広がったシックスの右腕。
つまり、胴ががら空きだった。
(――――今なら、いける……!)
左側へ物を投げたことにより僅かに左へと逸れていた身体のバランスを、そのまま逆らうことなく限界まで崩す。本当に限界間近、これ以上数ミリでも左へ逸れたら倒れるというところで、赤井沢は身体の筋肉を総動員し、一気に重心を右へと戻した。
膝を折り、鞭のようにしならせていた、その左足の解放と同時に。
その左足は空気の抵抗を全て薙ぎ払う。シックスが反応し防御してくるよりも先に、それは耳元で爆竹でも鳴らしたかのような爆音を当たりに撒き散らしながら、シックスの右胴へと叩き込まれた。
途轍もない運動エネルギーが赤井沢の左足を伝い、シックスの全身へと広がっていく。
一瞬のタイムラグを挟み、シックスの体は右方向へと吹っ飛んだ。無機物のように、ただ手と足をだらんとぶら下げたまま飛んで行く。
一切の抵抗を見せずに、シックスはそのまま地面へと落下した。
「~~~~~~~~っ!!」
遠くの方で、シックスの怒声とも悲鳴とも思えないような声が響く。それを平然とした顔で眺め、やがて視線を外した。痙攣のようなものを起こしているが、流石に死んだということはなさそうだ。なら、まずシックスのデバイスを回収してから殺す必要がある。
赤井沢がシックスよりもデバイスを優先する理由は、単純にそれだけ希少価値があるからだ。シックスを殺す間に誰かにデバイスを拾われる可能性は万に一つ、億に一つにもないかもしれないが、決してゼロとは言い切れない。ゼロではない以上、真っ先に回収する必要があることを、赤井沢は自分の身に宿った武力で身に染みて分かっている。
こんな殺戮マシンは、そう何人もいらない。
(帰ったら、塩山さんに研究材料みたいにしてプレゼントしようかな……。結構迷惑かけちゃったし)
そんな、音無が聞いたら返事に困りそうなことを考えながら、赤井沢はふと先ほどの不可思議な減少を思い出す。赤井沢が強制的に隙を作らせられた、あの瞬間。というか、その後の腹を蹴る時もなのだが……、
(……顔が、音無君になった?)
正直に言えば、一瞬だけ音無が敵になったと錯覚したほどに顔が「似た」。「似ていた」のではなく、あの瞬間に急に「似た」のだ。魔法少女となるデバイスは女性しか扱えないという前提条件を知っていてでも、ほんの一瞬疑念を抱いてしまう程によく「似た」。
とはいえ、ここで無理にそのことに頭を悩ませても仕方がない。赤井沢は拳銃の下まで歩み寄ると、紫のラインが奔っている拳銃を掴み取ろうと腰を曲げる。
「っ……、」
が、少し体を傾けたところで重心の感覚が薄れていき、危うく足をもつれさせそうになりかけた。拳銃の打撃によるダメージは、意外と響いていたらしい。それに、シックスへの蹴りで足首を痛めたかもしれない。
「駄目だ……」
自分の怪我を冷静に分析するも、それに対して甘えてはいけない、と自分を戒めた。普段は肉弾戦の経験など皆無だが、責任を背負うと決めた以上は少しの怪我で泣き言を漏らしてはいられない。
頭を軽く振り、切り替える。今度はスムーズな動作で拳銃を拾うことが出来た。他の魔法少女のデバイスを触るなど初体験だが、見た目や重量にも特に差は感じなかった。偉そうな解説を音無にしている赤井沢だが、彼女自身も魔法が具体的にどういったものかは深く理解はしていない。「そんな魔法もあるんだろう」という極めて曖昧な認識でまかり通ってしまうぐらいに荒唐無稽、ということしか定かではないのだ。だから赤井沢は、シックスが「音無に極めて似た顔になる魔法」というのを使ったのだろうという、ある意味で状況をそのまま文章にしたような言葉で自分を納得させる。拳銃を拾えば、あとはシックス本体を殺すだけだ。悲鳴らしきものを上げてはいたものの、赤井沢に思い切り蹴られて吹っ飛ぶ最中で受け身の一つも取らないのは、それほどまでに余裕がないということの証明にも繋がる。拳銃で二、三発でも撃てばそれで終わるだろう。
深呼吸を一つ、くるりとシックスの方へと振り返ると、
(……………………………………え)
突如、思考が停止した。
衝撃的な何かを見て動きが止まったとか、そういう意味ではない。単純に、そのままの意味で、思考の働きが一気に鈍くなった。この感覚は、誰もがよく知るあの感覚。
「眠気、が……」
本当に睡「魔」と呼んでも差し支えないような眠気が、一気に頭の中を支配する。もう辺りの風景もぼんやりとしか見えなくなってきた。
(やば、い…………駄目だ、駄目だ!)
敢えて割れた額を手の甲で叩いた。鉄板のような強度のそれが額に直撃するも、眠気は一向に治まることを知らない。むしろ、余計な衝撃で意識が飛びかけそうになる。
歯を思い切り噛み締めると、奥歯が一つ欠けた。それほどまでに食い縛っても、どんなに力んでも痛めつけても、眠気は徐々に体の全てに浸透していく。
そこで、赤井沢はようやく気付いた。
シックスの銃の底――そこに、何か小さな針が飛び出ているのを。
それを見ればもう明白だ。赤井沢は、よりにもよって額に薬品を叩き込まれた。
仮にも魔法少女としての身体能力を駆使して、それでいてこの途轍もない眠気。恐らくは、常人ならば一瞬で昏倒するようなものなのだろう。睡眠薬どころか、致死性のものだってあり得る。
いつのまにか足の踏ん張りが利かなくなったのか、赤井沢は前のめりに倒れこんだ。手で受け身を取るものの、意識の明滅によって魔法の制御が難しくなっていく。魔法少女の力の制御自体はとても簡単だ。ただ「使う」と思えばいいだけなのに、今はそれすら意識的にしないと維持できない精神状態になっている。
そして、本当に意識が闇に包まれるその直前。すぐそばで、誰かの足音を聞いた。
金属板を地面に擦ったようなその耳に悪い音は、普通の靴ではまず鳴らない。鳴るとすれば、魔法少女の鎧を纏った――――魔法少女シックスのみだ。
「お前はなかなかに機転が利くようだったが――流石に、敗北の真似事だけは見抜けなかったようだな。常に一瞬で人を殺してきたお前だからこそ、人が散り際の『フリ』をするなんて発想、なかなか思いつかないのも無理はないが」
明らかにシックスの声音。しかし、戦闘が終わった今、彼女はとても饒舌になっている。
そう、戦闘は終わった――終わったのだ。
赤井沢は音無のことを守れず、シックスに深手を与えたものの――いや、フリという言葉からして、そのダメージも本当かどうかは定かではないが――それで終わってしまった。
これからシックスは、赤井沢を殺して音無も惨殺するのだろう。
そこまで惨たらしい殺し方はしないと思うが、それでも確実に始末はされる。
しかし、今の赤井沢には、それに対する贖罪の念を抱く思考は既になかった。
自分の手から、拾い上げたシックスの拳銃が抜き取られる感触が分かるぐらいが関の山。
「さよならだ。……まあ、お前のデバイスぐらいは墓に供えてやるさ」
シックスの方向から、拳銃の引き金に触れた音が聞こえた。そして、
「『正義の味方』よ」
周囲に、着弾音が響き渡った。