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正義と魔法の在り処  作者: 水城
終章 明日へと  七月十七日
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エピローグ

 劇的な何かが起こるわけでもなかった。

 ただ、世間からは認知されない数名の死人と、世間から大いに注目される大虐殺が生まれただけの、魔法少女から見ればなんとことない、日常的な依頼。

 それが、今回の事件の全てだった。

 いや、一つだけ死というモノ以外に生まれた何かがあったとすれば――――。

 

 何もないな、と音無は改めて実感する。

 それは死体がないとかそういう物騒な話ではなく、自分に向けられる意識のことだ。

 音無は今、自らの通う高校の体育館でパイプ椅子に座っていた。担任教師に終業式に出席する旨を伝えると、何やら彼女を失ったショックがどうのとかいう噂が勝手に流れてくれていたらしく、彼のみ椅子に常時着席の出席を許可してくれたのである。勿論、そこでしおらしい演技を忘れないのが音無隆盛という男であるが。

 しかしまあ、彼女が死に数日休んだ後の出席だというのに、自分に対するリアクションというのは極端に少なかった。学内でかけられた言葉など担任教師の「大丈夫か」ぐらいだ。「彼女」との凄惨でも特別だった数日の印象が強すぎてすっかり忘れていたが、今まで自分の過ごしてきた世界というのは、これ程までに無関心で、自分本位な醜い空間である。

 これならまだ、ある意味で自らの欲望に忠実だった魔法少女との日々の方がマシな気分だ。校長の無駄に長く、それでいて中身は一分で終えられるものを極限まで薄めたような空っぽの話を聞きながらだと、余計にそういう思考へと意識が傾いてしまう。

 音無は溜息を漏らすと、目頭を押さえる演技をしながら担任教師に言った。

「すいません、先生。やっぱり頭痛がするので、早退していいですか」

 

 学校の校門を通り抜けると、そこには予想外の来客が待っていた。

 この学校の夏用制服に身を包んだ、「彼女」が――赤井沢朱音が、校門前にいたのだ。

 彼女は片手を上げると、笑みを浮かべながら音無へと近づく。

「どうだった音無君、余計な心配とかされてなかった?」

「心配も同情も一切なくて、こっちが泣きそうでしたよ」

「キミのその棒読み加減に私が泣きそうだよ」

 嘆息しながら赤井沢がそう漏らすも、音無はそれをスルーして会話を続けた。

「それより、赤井沢さんは、その……大丈夫なんですか?」

 少しだけ言葉に詰まった。理由としては、ここ数日の依頼の依頼人の正体を……つまりは、赤井沢を殺そうとしていた張本人が塩山であるという事実を、素直に話したことが挙げられるだろう。今度は包み隠さず、素直に事件の全てを打ち明けたのだ。

 それを受けた赤井沢は少しだけ動揺したものの、音無が予想したほどのショックは見せなかった……いや、これも塩山の言っていた、人間性の代償というやつなのだろうか。

(……違う)

 音無は、自然と否定した。することが、出来た。

(赤井沢さんはまだ、近しい人が死んで真顔でいられるほど、人間性は捨ててない……まだこの人は、俺と同じにはなっていないはずだ)

 思えば、友人なんて一人も作らなかった音無が、流れとはいえ赤井沢と会話を普通に続けられたのにも、こういったところに要因があるのかもしれない。

 人間性を最初から持たなかった者と、人間性を徐々に擦り減らす者。

 似ているようで両者は、スタート地点はまったくの正反対だった。

 だからこそ、正反対の二人が共に手を取り合ったから、生き残れたのだろうか。

 それは分からない。分からないけど、今はこのまま、進むしかない。

 音無の問いに、赤井沢は少しの間を置いてから答えた。

「もう全然平気だよ――とは流石に言えないけどね。まあ、私もうっすらとは気付いていたんだ。前から正義の味方ってワード自体は耳にしたことがあったし、何より……」

 赤井沢は、制服のポケットから一枚のカードを取り出す。

 それは音無も見せられた、魔法少女ファイブの名が印刷された名刺だった。

 苦笑しながら、赤井沢は言う。

「流石に、ここまで宣伝されてりゃねぇ」

「まったくです」

 音無も珍しく、釣られたように苦笑した。が、その苦笑はすぐに疲労の色を帯びてくる。

 担任教師に言った言葉も決して嘘ではなかった。何せ赤井沢がナインに勝利し、音無が塩山を殺害したのが今日の深夜である。それから赤井沢と合流し、現場の後片付けや事情説明、更にコインロッカーからの制服回収などをして赤井沢宅に戻ると、時間は午前五時を迎えていた。そこから一時間の睡眠を取ってはるばる電車で学校に来たため、完全に寝不足と言えるだろう。赤井沢もそれを察してくれたのか、すぐにフォローを入れてくれた。

「まあ今はゆっくり休もうよ。面倒なことはそれからだよ」

「すいません、迷惑かけて……。家にも帰るに帰れないですし」

「あー……そっか。そうだよね、流石に。そろそろ警察に呼ばれてもおかしくないかも」

 音無と赤井沢は、取り敢えず現場の後片付けということで隠れ家に持ち込まれた様々な物品を整理している時に、塩山の他の依頼書を発見した。それは最初からあった依頼だったようで、依頼の日時はごく最近のものになっている。

 内容は、音無の両親の殺害。

 と言っても、現両親の……つまりは義理の両親の殺害だ。音無自身も予想外なぐらいに、彼の心は揺らがなかった。小波さえ立つことなく、波紋さえ広がらず、彼の心の水面は未だに静寂に包まれている。それに実行日は、今日の未明。それは「ハラキリ」とは別の組織へと依頼だったらしく、既に実行されている可能性が高い。今から何かをしたところで無駄なのだろう。そう考えた音無は、本当にきっぱりと、そのことを「割り切った」。

「…………割り切る、か」

 小さく呟き、音無は改めて実感する。

 確かに、音無は人を殺した。それは彼の外面的な変化には及ばず、彼の内面的にも大した変化は生まなかったような、決して劇的とは言えないことだったのかもしれない。

 ただ、塩山の額に拳銃を突き当て、引き金を引いたあの時。彼の中に唯一存在していた、他人から異常だと思われない為に必要だった、頭の中にある倫理と呼べるものが破綻した。

それは言い方を変えれば、「命の価値観」が変わった――と言えるかもしれない。

零れる命は零れる、それは仕方ない。この認識は変わらない。

 だが音無は今、自分の選択で零れる予定のない他の命を零すことさえ、許容できる。

 自分に対しての生の本能が、強くなり過ぎたのだ。

 音無がこれからどうなるかは、彼自身が一番わからない。予測すら不可能だ。ただ一つ言えることは、それがどんな結末にせよ、赤井沢が共にいなければ成立しないであろうということ。それだけは、音無も確信を持って言える。

「そういえばさあ音無君、あれって反則だと思わない? ほら、ナインのレーザー」

 と、ここで赤井沢は急に話題を変えてきた。

「え? ……ああ、あの魔力障壁装置を貫通したヤツですか。まあ、あれはあくまで魔法しか弾きませんからね。塩山さんが通常のレーザーが出せるように調整したのか、それとも魔力障壁装置を貫通するように魔法を調整したのか、それはわかりませんけど」

「あの場に魔力障壁装置じつぶつがもう一つあったからね、魔法の調整だって出来ても不思議じゃないでしょ。しっかしもう一つの装置、どこで手に入れたんだろ。私と一緒でどっかの研究機関から盗んだのかな……? まあデバイスも全部回収して装置も破壊したし、どっかの誰かに流れて悪用ってことにはならないと思うよ」

 不穏なワードは聞き流し、音無は真っ先に思いつく可能性を返してみる。

「あの人なら一から作りかねないですけどね。まあ、今となっては闇の中ですけど」

 さて、と音無は珍しく、会話を先導するように区切りを付けた。

 それはある意味での、本当の区切りだったのかもしれない。

「それじゃ、赤井沢さん。帰りましょうか、家に」

「そうだね。……まあしばらくは同棲ということで、またドキドキ生活に戻れたねぇ」

「いやードキドキするなー」

「キミのその棒読みはもう少し改善できないかなぁ……」

 がっくりと肩を落とす赤井沢を横目に、音無は歩き出す。が、音無がいつもより歩調が大きくなっていたのか、赤井沢との間に距離が出来てしまった。

 赤井沢が追い付いてくるまでその場で少しだけ留まる。いつも一人で歩いていた音無からしてみれば、歩調がずれた誰かを待つなんてことは久しぶりだったのか、何だか妙な感覚を覚える行動だった。

 赤井沢と並び、再び音無は歩き出す。

 それは帰路であると同時に、始まりの一歩。

 過去への執着など微塵もなく、ただ己の未来を渇望する少年と。

 己の過去への執着が故に、他人の未来を壊し続けた少女の。

 生きることを求めた二人による、明日へと進むための歪んだ一歩。

 他人への正義など僅かにも存在しない、不合理で不条理な魔法が我が物顔で存在する、そんな世界へと平然な顔をして向かっていく狂った二人の一歩が今、踏み出された。

 後戻りは、出来ない。


ここまで読了くださり、誠にありがとうございました!

実は同じ作者名での別IDで他の作品も書いているので、そちらも閲覧していただけると嬉しいです。「0820」と小説家になろう内で検索していただければヒットします。

今作は、もちろん道徳的にあまり褒められた作品ではなかったですが、道徳的じゃないものでも自分の伝えたい物事を書けることが小説の自由さだと思うので、これからも思いつけばグロだろうと何だろうと書いていきます!

それでは、またどこかでお会い出来ますように。

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