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正義と魔法の在り処  作者: 水城
第四章 正義とは  七月十七日
14/15

正義の決着

「いやー、やっぱりさ。この手の本は駄目だね、まったく理解出来ない文体だよ。やっぱり独学でやるのが正解みたいだねー」

 塩山は突如として、次々と言葉を紡ぎ出す。あまりに突然のことだったため、音無も反応が少しばかり遅れてしまった。

「……独学、ですか」

「そう、魔法の独学。西洋の伝承を基にして魔法を解析するなんて、オカルトもいいところだよ。ま、この分野自体がオカルトそのものなんだけどさー」

「……はあ」

 不毛だと判断した音無は、即座に話題を切り替えにかかった。

「塩山さん。あなたは」

「そこで音無君。僕は君に対してある価値を見出しているんだよ」

 完全に台詞を妨害する気だ。恐らく、自分の話したいことを話すまで音無の話を聞く気は毛頭ないのだろう。このままでは埒が明かない。とにかく危害を加えて来たりはしないようなので、大人しく話を聞くことにした。

「価値、ですか。それは一体どんな」

「『正義の味方』、さ。賢い君なら、もうこの言葉が何を指すのか見当はついているだろう」

「……赤井沢さんのことを指すとばかり思っていましたが」

「赤井沢さんの、何を指すと思っていた?」

 ここで音無は判断を迷った。しかし、ここで自分なりに辿り着いている答えを出し惜しみして殺されたりしたくはないし、更にここで話を長引かせれば赤井沢がここまで来る可能性も高くなる。ならばここは、話を続けるべきだろう。

「赤井沢さんの、事件に巻き込まれる才能……その悪運故の才能、です」

「素晴らしいね」

 塩山は本当に、皮肉や嘲笑が一切混ざっていない純粋な声音で音無を賞賛した。

「その通り。僕が『正義の味方』と呼称する者は、その全てが本人の意図する意図しないに拘らず何らかのトラブルに巻き込まれる人間だ。そして僕は、君も十分に『正義の味方』になり得ると思っているよ」

 確かに、ここ数日だけを切り取って見れば音無は十分に「事件に巻き込まれている」。しかし、だからといって赤井沢のような、筋金入りの運悪さはあるとは言えない。

(……いや)

 よくよく考えれば、自分の親は赤井沢の才能による悪運がきっかけで死んだ、と言っても過言ではないので、これはこれで人生の大半が「事件に巻き込まれている」と言えないこともない。しかし、だからどうしたんだ、という印象は拭えなかった。ただの言葉遊びにしか過ぎないそれを、それ以上にどう受け取れというのか。

「そして、僕はその中でも君のことは特別扱いしていた。何故だか分かるかい? 赤井沢さんのことを調べているうちに、赤井沢さんに匹敵するほどの悪運を持つ人物を見つけたからだよ」

「……それが、俺ですか」

「そうだ。一応ナインにだけは、『赤井沢朱音が無理ならば音無隆盛を回収』って命令を出していたからね、僕は。……あ、この場合は回収だから、死体になっていることが前提だけど。つまり君は、赤井沢さんが魔法少女ファイブとなったその時から、事件に巻き込まれたと言っても良いんだよ」

「だから、それがどうしたって言うんですか。もし俺が赤井沢さんの最初の依頼で親を殺されていたとして、それが何かあなたの望むモノになるんですか」

 思わず詰め寄るような口調になってしまい内心胆を冷やすが、あくまで塩山は薄ら笑いを顔に貼り付けている。下はどうなっているか分からないが、少なくとも外面では激しい感情は見えなかった。

「それがね、なるんだよ。それも君達二人がいて、初めて成立する」

「……………………えっと。意味が、いまいち分からないんですが」

「当たりナンバー武装という話は、多分したよね? 僕がしなくても赤井沢さんがしているはずだ。それはまず、前提から言って僕の言った嘘だ。大嘘だ。赤井沢さんを騙すために吐いた咄嗟の出任せさ。本当は、全ての魔法少女ナンバーがそれを持っている」

「―――特殊魔法、ですか」

 塩山は軽く目を丸くした。

「おお、勉強してるね。やっぱり賢いな、君は。そう、シックスの使う『人相』のように、ナインの使う『透過』のように、ファイブにもまた特殊魔法が存在する」

(ナインの……『透過』? 『消す魔法』じゃあ……ただの勘違いだったのか……)

 内心、少しだけそこに驚いた音無だったが、顔には出さずすぐ話を続けた。相手の特殊魔法を誤解したまま殺されるような赤井沢ではないと、どこかで信じているのだろうか。

「赤井沢さんにも特殊魔法が……でも、そんなことは一言も…………」

「うん。彼女自身、使えないと思っている筈だよ。でもね、彼女のデバイスには――魔法少女『ファイブ』が使うデバイスには、最早魔法とは言えないかもしれない何かが秘められているんだ。それを僕は、この目で見てみたいんだよ」

 そこで音無は、塩山の言葉に僅かな引っ掛かりを覚えた。臆さずに口を挟む。

「かもしれない……? あなたも、赤井沢さんの特殊魔法を把握していないんですか?」

 まさか「事件に巻き込まれる魔法」だったりしないよな、と内心で呟きつつ、塩山の返答を待った。

「そうだよ。僕自身、彼女と彼女のデバイスに眠る特殊魔法の詳細は一切知らない。…………ただ、発動条件だけが明確に理解している唯一のものだ」

「発動条件……特殊魔法の、ですか?」

「当たり前だろう。そしてその発動条件は――――デバイス使用者の活動停止か、デバイス使用者と心理的、または肉体的に近しい者の殺害。最初は僕が彼女と仲良くなって死ぬ、という方法も考えたけどね…………まあ、それだと僕が特殊魔法を観察出来ないし」

「え、ええと!」

 このままでは一晩中喋り続けそうな塩山にストップをかける意味で、音無は片手を塩山の方に向けた。いつのまにか、普段会話しているのと変わらないペースになっている。

「まず、その……発動条件とやらですか。それをどうしてあなたが知っているんですか。そもそも、あなたのその魔法を調整する技術というのはどうやって手に入れたんですか」

「…………うん、実に的確な質問だ。そうだね、何から答えれば良いか……まあ、言ってしまえば僕は知人から魔法の存在を聞かされ、教えられた。一端の研究者に過ぎなかった僕は、人類の中で恐らくは始めて魔法の研究をしたんだよ。その時に一回だけ、現代技術の枠に魔法を入れ込もうとしたんだ。それがこの……魔法少女デバイスの素体だよ」

「……!! あなたが、このデバイスの開発者なんですか?」

「いやいや、だから前にも言っただろう? あくまでも、開発者は僕じゃない。僕が偶然造って放り出した研究を、僕の知人が完成させたんだ。まあ、そいつは魔法に喰われて死んじゃったけどね」

 一瞬、その表現の意味がわからなかった。いや、冷静に考えても意味不明だ。

「魔法に……『喰われた』?」

「うん。魔法っていうのは……まあ、なんていうかさ。超低確率で起きる奇跡ってヤツを、確実に使えるようにした体系……って感じなんだよ。つまり、そこにリスクが起きる。そりゃデバイスとして確立したから危険性は下がったけど、今でも何かを代償にしていないと魔法の使用は厳禁なのさ」

 確率を支配した神の領域。それを人間程度がノーリスクで使おうという発想が、そもそもの間違いらしかった。

「僕が知ってる中でも、全ての魔法少女はその魔法を使う時に必ず何か犠牲を支払っている。それはもし、他の魔法少女デバイスを使用したとしても変わらない代償だ。シックスは『衣類』、ナインは『色素』、ファイブは――――」

「…………あ、赤井沢さんは、特に何でもないって言ってましたけど……」

 確かに魔法を使えば疲れるとは言っていたが、まさか簡単に回復する体力が奇跡の代償だなんて格安過ぎるだろう。それを言えばシックスの衣類もそうかもしれないのだが。

「――――――『人間性』。彼女の責任感の欠如は、それが原因と言っても良いね」

「……!」

 確かにこの数日のやり取りで、あまりにも責任感に欠けているというか、自分の失敗をさらりと喋ってしまうような……そんな言動はいくつかあった。しかしそれは魔法少女という職種の上で形成されてしまう、仕方のない人格なのだと自分に言い聞かせてきたのだ。

 だが、それは違った。

 赤井沢の歩んだ人生など関係なく、赤井沢の考えた事象など関係なく、赤井沢の趣味や感情など一切の関係もなく、ただ魔法少女ファイブである為の代償。

 それが、人間性。

「……そのこと。赤井沢さんは、知ってるんですか?」

「知らないさ。知っていたとしても、恐らくは自覚が出来ない。人間性そのものが代償として削られていく訳だから、そろそろ責任感とかそういうもの以外も代償となる可能性だってあるしね。…………そう、例えば三大欲求の箍が外れたり、とか」

「……だから塩山さんは、このタイミングで赤井沢さんを始末しようとしたんですか?」

「…………あー。そういうことでもいいけど、それじゃあ僕がまるで、人間性全てが無くなってしまう前に赤井沢さんをそのままで殺してあげようとした、みたいな、ある意味で良い人みたいになっちゃうんじゃないかな」

 どこが良い人なのかはまったく理解できなかったが、少なくともそんな感傷的な理由ではないらしい。塩山の喋り方と態度が、それを口で言わずとも表している。

「まあ、少なくともこのタイミングを狙っていたのは確かだよ。下手なアクションを起こして、全てを悟った赤井沢さんに逃げられるのはあまりにも惜しいしね。だから、君という『保険』を用意する為にこの依頼もしたんだ」

 言いながら塩山は、ベッドにばら撒かれていた用紙を一枚手に取り、音無に差し出した。

 それは、赤井沢宅で見た依頼の詳細が書かれた用紙とどこか似ていて――――。

 違う。そっくりそのまま、内容以外全て違う。その内容は、

「城山晴香の殺害…………この依頼、まさか…………ッ!」

「僕の依頼だ。僕が君を赤井沢さんと接触させるために、わざと赤井沢さん自身にした依頼だよ。まあ君もうんざりしてたようだし、この点は僕を褒めてほしいくらいさ」

 人を殺す原因を作ったことに対し、何を褒めろというのか。とにかく、塩山は塩山でどこか頭がおかしいということだけはすぐ理解出来た―――音無は元来、研究者という職業は常識人だとは思っていないのだが。

「つまり、全てはファイブの特殊魔法を確認する為に……多分ですけど、精神的に近しい者として俺を用意した。そういうことなんですね。赤井沢さんを始末出来なくても、俺を始末すれば特殊魔法の発動条件は満たすことが出来る」

「そういうことさ。でも予想外に、君はシックスを撃退してくれやがったからねー……その所為で予測は大番狂わせだよ。君が精神的に赤井沢さんと近しくなり過ぎた。それのおかげで、赤井沢さん自身が君を守る鉄壁の防御力となってしまったんだ」

「だから今度はあなたが自ら放送で会話し、あなたを殺すという思考に行き着かせた……と。なんだか、ずっと手の平で踊らされっぱなしですね」

「当然だよ。君達はまだ子供だろう? 子供は大人の手の平でずっと踊ってるもんだ」

 普通はカチンとくる一言だろうが、音無としては「まあそうだよな」程度の反応である。

「それで、これからあなたはどうするんですか。『ハラキリ』の魔法少女はもうここには来ませんし、構成員さんも見たところいないようですけど……」

「うーん、それでなんだよ。音無君。僕はどうやらね、君を大層気に入ってしまったんだ」

「………………………………………は?」

 素に戻って返事をしてしまった。というか、ただの雑な反応にしかなっていない。

「君は賢さや『正義の味方』としての特性以上に、僕を惹きつける何かを持っている。だからね、願わくば君と一緒に見たいんだよ。魔法少女ファイブの特殊魔法が開く瞬間を」

 これは流石に予想外の反応だった。まさか、仲間になれと勧誘されるなど思ってもいなかった音無は、今後の対処をどうしても決めかねてしまう。

 というか、これはこれでチャンスなのではないだろうか。

 赤井沢と共にいれば、音無も含めての意味でその悪運で次もトラブルに巻き込まれかねない。それよりは、「ハラキリ」なんて怪しい集団に次々依頼出来るほどの財力はあるあしい塩山と行動を共にした方が、これからの人生を見れば正しい選択なのではないだろうか。

「一つ質問だよ、音無君。この世で最も難しいことは何か、分かるかい?」

「…………」

 純粋に良い機会だと思った。この回答で全て決めよう。今後の身の振り方も、何もかも。

 取り敢えず二つは思いついた。だが、その二つはあまりにも相容れない回答だ。どちらかが正解だとすれば、どちらかは間違いなく不正解になるような相容れなさがある。

 やがて、一つの結論を彼は出した。

「……この世の全ての存在に於いて、正義となること。そうですよね?」

「素晴らしい……!」

 今度は本当に、賞賛以上に驚嘆や期待も篭った「素晴らしい」だった。塩山はベッドから立ち上がると、音無の方へ興奮した顔つきの笑みを向ける。

「そこまで理解している人間は、本当に少ない。それが君だなんて、僕は今日、多分だけど人生のうち半分の幸運を使い果たした気がするよ。……やはり一緒に来てくれ、音無君。君は完全な『正義の味方』になれる。完璧な『この世の主人公』になることが出来る。」

 本当に興奮した様子で、塩山は音無の方へと一歩歩み寄ってきた。

 それを、特に何の感情もなさそうな瞳で見つめると音無は、

「それは嬉しい申し出ですが」

 明確な意思を宿した瞳を、塩山に向ける。

「残念ながら、俺とあなたは相容れないようです。だから、あなたに付く気は綺麗さっぱりなくなりました」

「は…………? 何を言っているんだい、君のさっきの回答はまさに、僕の求めてい――」

「俺はさっき、二つの可能性を思いついていた。その二つのうち、あなたが喜びそうな方を選んで答えただけです。……俺の本当の回答は、こうです。『この世で最も難しいこととは、この世の全ての存在に於いて、悪となることだ』」

「なっ、」

 塩山の目が見開かれ、信じられないと言外で表していた。だが、だからなんだと言うのだろう。人の意見なんて、本来なら違って当たり前だというのに。

 同じ思考の人間なんて、存在する筈がないのに。

「この世の全ての存在に於いて正義になることは、確かに難しいです。ですが、それ以上に悪となることは困難なんですよ。いくら大事件を巻き起こそうと、人を大量虐殺しようと、全ての存在から悪になんて絶対になれない。この世に自分と言う存在がいる限り」

 音無は断言する。

「俺は、俺自身のことを嫌いではありません。殺したいとも、消えたいとも思いません。ましてや、自分のことを悪だなんて一度も思ったことがないです。……結局、人間にとって自分は『正義』なんですよ。いつだって自分が正しくて、他人が間違っているんです。この世に俺という存在がある限り、俺が生にしがみ付く限り。俺は、あなたの考えに同調なんて絶対にしません。ましてや、進んで人を殺し、自分の目的のためなら仕方ないと簡単に言ってしまえるあなたは……ただの邪悪にしか、見えないんですよ」

 当たり前だ。

 邪悪の下に付き、世界の主人公に……正義の味方になれるから一緒に頑張ろう、などと言われても、胡散臭いことこの上ない。まだ深夜のテレビ通販の方が信用できるだろう。

 そんな怪しい人間の下か、いくら常人離れしていようと必死で自分を守ろうとしてくれる女の子か…………どちらを選ぶかなど、考えるのも馬鹿馬鹿しい。

「すいません、塩山さん。あなたという邪悪の目的を、俺は自分なりの正義として阻止したくなってきました。だから絶対、俺も赤井沢さんも、これからずっと死にません。少なくとも、あなたがこの世を去るまでは死ぬことはありません。あなたは未来永劫、魔法少女ファイブの特殊魔法なんて観察出来ないし、ましてや平穏なんて訪れない」

 音無は、ポケットに捻じ込んでいたスタンガンを取り出すと、それを右手で構えた。

「あなたを、これから拘束します。しばらく寝ていて下さいよ」

 

 ナインの特殊魔法『透過』。だが、触れたものを消すのでもなければ滅するのでもない。ならば、まだ対処法があることは、ある。

 赤井沢朱音は雨雲の中を高速移動しながら、自分の髪に滴る水分を確認する。――ただでさえ雨天だったというのに、雨雲に突っ込んだおかげですっかりシャワーを浴びたようにずぶ濡れだ。この水分があれば。

(これなら、やれる……!)

 そこから少しずつ、本当に少しずつ下へ、雲の範囲を抜けるように降下していき――完全に雲範囲から出た、瞬間。

 大きく、本当に大きく息を吸った。そして、

「――――ぁぁぁああああああああああああああああああああッッッ!!!!」

 最大の絶叫。身体能力がずば抜けているということはつまり、肺活量や声量だって、本気を出せばレーダーの一種になるレベルのものだった。

即座に声を止め、雨天に広がった自分の叫び声、その僅かな木霊に耳を傾ける。先ほどは記憶の中にある放送のみで立体駐車場の隠れ家という位置を特定した赤井沢は、生の音を聞けば音の反響で物の位置をある程度把握できる。

 僅かにだが、静かに伝わっていくその声は大きな波紋を描くように広がり、ただ、ある一点のみ……奇妙な残留を見せた。

(――――そこだっ!!)

 僅か〇・二秒で標準を合わせ、紅き弾丸を射出する。それは射出した方向の空中に正確に火花を散らし、そこで、不可視となったナインに着弾したサインをくれた。が、火花が散ったということは鎧に着弾したということだ。

 だが、もうそんなことはどうでもいい。大まかな位置さえ分かれば、あとは近づくだけ。

「ナインんんんんんんんんんんんッ!!」

 叫びながら、高速でナインのいたポイントへと飛行する赤井沢。紅き軌跡を描きながら、弾丸のような速度でそこへと到達した。

 が、そんなことはどうでもいい。ナインも着弾してから赤井沢がその場に到達するまで留まるような馬鹿ではない筈なので、至近距離にいることは期待していない。

 そして赤井沢は知る由もないが、ナイン自身も雨天での追跡は避けたい事態だったのだ。それは『透過』の弱点が露呈するからであり、まさに赤井沢が辿り着いた答えでもある。

 いくら見えなくとも、そこにいる限り濡れる。恐らくは何か色のついた物体が張り付いたりすればそれごと透明になるのだろうが、水分は訳が違う。

 元々透明な上に水分は――滴る。

 雨雲に近いこの場所だからこそ、見分けられる。全ての雨は雨雲から生じるはずなのに、ある一点のみで、雨雲より低い高度から水滴が下りている部分があるはずだ。それも、その部分は何故か雨が少ないように見えるだろう。

 何故なら、『透過』で触れたものは全て透明にするからだ――ナインの鎧や顔に触れた水滴はすべて透明になる。つまり目を凝らせば、見えて来るはずだ。

 豪雨の中で不自然に浮かび上がる、人影が。

(―――――……いた)

 が、ここで銃を即座に構えるような真似はしない。未だに見つかっていない様子を醸し出し、即座に対応できないタイミングで弾丸を放つ。それが彼女の得意とする攻撃だ。

 赤井沢は心中で未だにタイミングを計りかねていたが、目は離していない。が、その地点から突如として、緑の光が襲ってきた。

 それも、手の甲などで弾けるレベルではない。

 二日前音無を襲った……光の柱と言えるレベルの、極太のレーザーだ。

(や、まず……ッ!)

 回避行動を取る前に、それは圧倒的熱量をもってして赤井沢に襲い掛かる。

 だが、そこで直撃を喰らう前にレーザーの範囲ギリギリで――厳密に言えば靡いた後ろ髪が多少焦げたが――下方に降下できた。これはまったくの偶然で、飛行の制御姿勢を一瞬だけ手放した瞬間に自由落下した結果だ。

(でも―――このタイミングでやるしかない!)

 極太のレーザーの真下を滑るように高速飛行しながら、赤井沢は少しだけ思考する。今の極太の攻撃は、赤井沢の『同時射撃』やシックスの『貫通後の破裂』のように、魔法少女ひとりひとりが持っているレーザーの特性なのだろう。だが、チャージが必要と思われるそれは多少なりとも音がするはずだ。それがまったくしなかったということは、それに先ほども発砲音がまったくしなかったということも合わせて考えると、ナインの『透過』は透明にした物の発する臭いや音まで消してしまう可能性が高い。つまり、本当に近づくまでそこにあるか分からない。こんな雨天でなければ、確実に負けている。

 緑の柱をなんとか回避し、そのまま直進する――消えた。

 ナインはいない。落ち着いて周囲を見渡すと、右方三十メートル先に人影が見える。透明なのに人「影」というのも変な話だが、とにかくこう表現するしかないのだ。

 そこへ今度は躊躇なく発砲する。標準は三十メートル程度なら頭を狙える。

 が、再び火花が散ったのが確認できた。今度も防がれたらしい。

「……ちっ、」

 小さく舌打ちすると、赤井沢は急降下を始める。ここで空中戦をしていても埒が明かない。もともと白兵戦は向いていないと自分でも思っている赤井沢だが、今回ばかりはどれだけ運動が出来ようがあまり関係がなかった。

 だが、自由落下に赤井沢の高速飛行のブースターを付けた降下は確実にナインを引き離せる。赤い光も相まってまるで隕石のように地上へと戻る赤井沢は、即座に先ほどのビルの中へと突っ込んだ。もう余裕は一切ない。窓ガラスを叩き割り、防犯ベルを鳴り響かせながらビルの中を確認する。どうやら雑貨屋のフロアに突っ込んだらしく、周囲には可愛げのあるキーホルダーや手作り感満載のストラップが散乱していた。

 お店の人に悪い事したな、と思いながらも赤井沢は店の奥へと引っ込む。なるべく自分が突っ込んで生じた巨大な穴からは見えない位置を探すと、レジ裏に大きな柱が立っていた。その裏側に張り付くように体勢を整えると、視界の先に消火器を捉え、

 次の瞬間、何者かが窓ガラスの穴に踏み込む音がした。

 

 ナインの意識は既に朦朧としていた。視界の明滅は酷く、高速の飛行についていくことなんて出来ない。だから彼女には、赤い軌跡を目で追いながら少しずつ辿ることしか出来なかった。先程の溜めレーザーでかなり体力を消耗した為か、かなり息が荒くなっている。

 ビルに空いた大穴に踏み込むと、ガラスを少しだけ踏み砕きながら中へ入る。どうやら雑貨屋のようで、辺りにファンシーな置物がずらりと並んでいる。

(…………どこ、に……)

 中は薄暗い。非常ベルの所為で時折警報の赤い光が店内を照らすが、明らかにファイブの発光する赤色とは違う色だ。よく見れば、どこに潜んでいるかなどすぐに分かるはず。

 右側の棚。いない。左側の棚。いない。手前の置物が大量に並ぶテーブル。まず潜むスペースが存在しない。奥の――この場合は店内入口の――商品棚。いない。レジ裏。いな

(―――くない。まさか、あの柱の影ですか……?)

 一歩、レジへと踏み出す。だがそこでナインの足は止まってしまった。

 理由は単純で、レジ奥の柱の影から――消火器が投げられてきたからだ。

「…………な、」

 一瞬、あまりに場に不釣合いなものが登場して思わず唖然としてしまった。

 が、すぐに悟る。これはあの音無隆盛と同じ、場にあまりにそぐわないものを突然登場させ、相手を唖然とさせる――立派な戦術だ。

(しまった、すぐに何かが来ます―――ッ!!)

 次の瞬間、柱の影から間違いなく赤井沢朱音が放ったのであろうレーザーが射出され、消火器を射抜いた。それ自体はいい。予想できた攻撃だ。問題は、レーザーの色だった。

(…………紫?)

 まさか、赤井沢は再びシックスのデバイスを使用したのか?

 同じ戦闘で、同じ戦術を繰り返し躊躇なく使ったのか?

 この世のどの兵器よりも恐ろしい、魔法少女相手に、もう一度それが通用すると疑いもせず確信したのは、馬鹿や愚かを通り越して恐ろしい。唖然と呆然。二つの思考停止に縛られたナインは、そこで何かで「それ」を防ぐという行為を忘れてしまっていた。

 目の前に転がってきた消火器。それを射抜いたのはシックスのレーザー。

 つまりそれは、消火器が内側から「破裂」する、ということを意味していた。

 直後、消火器の容器は破片と化し、その一つひとつが凶器となって高速で飛来する。その破片のうちいくつかは、ナインの顔面へと直撃し、ナインの左頬を裂いた上―――――右目に、深々と突き刺さる。

「い、た、い……ッ! い、ぁああああああああ熱い! 熱い、熱い熱い!!」

 思わずその場に蹲り、悶絶するナイン。だが、彼女はその激痛の中で気付いた。何とか、そちらに気を回すことが出来た。

 破裂した消火器の中身は……今もこの空間に広がっている。目の前で直撃を受けたナインの場所になど、もうとっくに消火器の粉塵が充満しているだろう。そしてナインは未だ、特殊魔法『透過』を解いていない。つまり今、ナインの姿は――――、

(煙の中で、くっきりと人型に浮かび上がって…………っ!?)

 気付き、顔を上げた時にはもう遅い。

 柱から姿を現していた、紫色の鎧を纏った赤井沢朱音が、こちらへ銃口を向けていた。

 銃声が響く。ナインの喉をそのレーザーが掠った。本当は真ん中を打ち抜く軌道だったが、多少なりとも首を動かしたのはナインの最後の足掻きだったと言えるだろう。が、それも無駄に終わった。シックスのレーザーに掠ったナインの首は、次の瞬間に四分の一が破裂したのである。これは、絶対に絶命するほどの致命傷だ。

「が、ぶぅぁあ……ッ!?」

 ゆっくりと、しかし魔法少女のレーザーの勢いに押されるように、ナインの体は窓ガラスに空いた大穴へと向かっていく。あまりの激痛からか魔法は解除され、飛行をするような思考も残ってはいなかった。一歩、二歩と大穴へと近づいていき……が、大穴の縁ギリギリのところで、その足は止まった。最後の最後、彼女は自らの足で生を求めた。

「バイバイ、ナイン」

 だが、赤井沢が手にしていたシックスのデバイスから最後の一撃を放ち、それがナインの額ど真ん中を貫通したことで――――後方へとバランスが崩れた。

 次の瞬間、足を滑らせたような感覚と共に、景色が急激に遠ざかる。いつもより近かった雨雲は離れていき、ナインの体は重力に導かれていった。

 最後の瞬間、彼女が何を思ったのかは、そもそも何か思えたのかは、分からない。

 言えることは一つ。彼女の思考は、永遠の闇に閉ざされた。

 

 荒い息をしながら、赤井沢朱音は呆然とする。

 勝った。

勝負が成立する相手ではないとずっと思っていたナインに、勝利した。その事が未だに実感が湧かず、よろよろと窓ガラスの大穴に近づくと、下を静かに覗きこんだ。

 そこには、可視化されたナインの死体が地面に叩きつけられているのが窺える。頭部がレーザーの特性によりザクロのように弾けていた。落下時の衝撃が強かったのか、手足の関節は不自然な方向に曲がっている。

 確認を終えた赤井沢は、改めて自分のデバイスでファイブの鎧を召喚させた。

 ナインのデバイスを回収した方が良いのは分かっている。だが、それよりも音無が心配だった。彼女はすぐに窓ガラスから飛び立つと、立体駐車場へと向かい飛行を始める。

 

 スタンガンを構えたのは良かったが、肝心の塩山はまったく動じていなかった。それどころか、更にご機嫌になったと言っても良い。

「そうか……僕が邪悪ねえ…………。うん、面白い。そうだね、僕は決して正義ではない。けど、君が言っただろう。僕にとって僕の行いはその全てが『正義』なんだ。だから、君の言い分は全て『悪』だと判断することにしたよ」

 その直後、塩山はポケットから拳銃を取り出した。どう見てもモデルガンには見えない、本物の重みがその拳銃には篭っている。

(……最悪の事態ってやつだな)

 この場で一番登場してはいけない武器が、あちらの手元に存在している。間違いなく音無のほうが不利だ。これならまだシックスに特攻した昨日の方が勝率も高かった。

 結局、健康体な人間が持つ拳銃、という組み合わせほど、恐ろしいはないのだ。

「……あれ、俺って気に入ってもらえたんじゃなかったんですかね」

「気に入っていたさ。本当に残念だよ。残念で残念で仕方がないくらいだ。もう、いっそのことここで僕が死んだほうが丸く収まるんじゃないかって気がしないでもない」

 すると、ここで塩山が音無の顔から視線を外し、彼の胴体へと目を向ける。

「君はこんな時にまで僕の作った玩具を着てくれているのかい。いや、趣味で作った物を大事にしてくれるとは有り難いよね、シックスの時の閃光弾もだけどさ」

「……この服、妙に重いんですよね。軽量した方が良いですよ本当」

 敢えて軽口を叩く。だが、それも恐らくは無駄になるだろう。

「そうだね、それは事実失敗作だし。無駄に重量だけ加算されて、肝心の耐久度がな……」

 言いながら、塩山は目を少しだけ細める。

「でも、僕はこのまま君を殺しても心は痛むが、それで赤井沢さんが特殊魔法を解放したのを見ればその達成感で心の痛みは帳消しされるだろうね。だから悩んでいるんだ、君を悪と取るか、この『正義ぼくの味方』と取るか」

「…………」

「こういう時に無反応っていうのは、本当に困るな……」

 音無がスタンガンを握りなおすと、何かするとでも思ったのか塩山は拳銃を敢えて音を立てるように振った。

「……一応聞きますけど、俺が見つけた死体って何だったんですか?」

「あれはシックスの『人相』によるカモフラージュ。そんなの、ここまでの話を聞けば小学生だって予想出来ると思うよ?」

 そろそろ痺れを切らしたのか、塩山は改めて拳銃を構えなおすと、前からは想像もつかない、氷のように冷たい声音で告げる。

「さて最後だ、音無君。こっちに来る気はないか?」

「……俺も、人から褒められるような人生は送っちゃいませんけど」

 対して返した音無の言葉は、彼らしからぬ強気なものだった。

「あなたと同じなんて、まっぴらごめんです」

「残念だな、キミなら『正義の味方』になってくれると思ったんだけど」

 瞬間、一切の躊躇なく引き金が引かれた。

 乾いた破裂するような音が響き、音無の胸の辺りに衝撃が走る。

 その勢いに流されるまま、音無の体は抗いようもなく地へと倒れるしかない。

だがその寸前、朦朧とした意識で音無は思考した。

(あれ……)

 何か、おかしい。どうして。

(どうして…………血が出てないんだ………………………?)

 違う。激痛が走ってこそいるが――――音無の体は、銃弾に貫かれてなどいなかった。

「う、ぅうううっ………ッ!!」

 歯を食い縛り、なんとか足を後方と前方それぞれに出して、姿勢を保ちなおす。

 未だに痛い。だが、痛いだけだ。血は、出ていない。

 なんとか体勢を完全に立て直すと、自分の撃たれた胸部を確認する。その部分のワイシャツは完全に黒く焼け焦げたような色をしているものの、穴自体は空いていない。

(ど、どういう……どうして…………?)

 まさか、とは思う。

このワイシャツは塩山の改造品。となると、間違いなくこの性能は……、

 そこで何か言う前に、音無も塩山も予期しなかった音が次の瞬間響き渡った。

『―――ぁぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――!!!!』

 外から響く、赤井沢朱音の声。しかも、途轍もない声量の絶叫だ。駅前一隊に間違いなく響き渡っているだろう。

「なっ……」

 流石に塩山は面食らっていくらしく、思わず天井を見上げていた。おかしな音が響き渡った時、自然と上を見上げてしまうのは人間の自然な動作である。

 そして音無が、そんな当たり前の動作をして停止しているはずもなかった。

 素早く一歩、大きく踏み出す。未だ胸部に痛みが残るが、それでも構わなかった。この大きな一歩が踏み出せれば、それで目的の半分は達成される。

 その動作に気付いた塩山が何かしようとする前に、音無は右手に持ったスタンガンを塩山の首筋に押し当てた。

「おやすみなさい」

 スイッチを押した直後、電流が走る。塩山は一瞬で意識を手放し、ほんの刹那の時間だけだが白目を剥いてベッドへと倒れこんだ。手放した拳銃が、ベッドの上で何回か跳ねる。

 僅かな沈黙を経て、音無は完全に自覚した。

 終わったのだ。

 依頼人である塩山の意識はもうない。ここまで一端の高校生である音無が出来れば、上出来もいいところだろう。もう、やることはない。

 なんとなく、だが――音無は、塩山がどういう人間なのか、最後に少しだけ理解出来た気がした。もっとも、音無が理解出来る人間なんていう存在がこの世にいるのかと言われれば、それは疑問なのであるが。

「……こんな重量で、銃弾が弾けるほどの耐久度か。世に出回れば、確かに大変なことになりますね、塩山さん。確かにこれは、失敗作です」

 塩山の最初で最後の発砲の時――あの時に、本当は自分が造った防弾のワイシャツを音無が着ていると分かっていたのに、敢えて塩山は音無の頭ではなく胸を撃った。そういうことが、土壇場で起きてしまう人間なのだ……最後の最後でやはり自分の手を汚したくない、そんな思考が絶対に働く、普通の人間なのだ。

「邪悪、か……」

 普通の人間はみんなこれに当て嵌まるんだろうな、と思いながら、音無はベッドの上に放られていた拳銃を掴む。赤井沢の拳銃を握ったときとはまた違う、奇妙な重みがあった。

 うろ覚えの知識で操作すると、何とか銃弾をリロード出来た。素人目から見ても危なっかしい、この拳銃の暴発で音無は死ぬんじゃないかと思うくらいに危うい挙動だったが、リロード出来たのならもうどうでもいい話だ。

 それを、意識を失った塩山の額に押し当てる。途轍もない重みが、想像の十倍ぐらいの重量が音無の右手首に負担をかけていた。人間の額に押し当てているにも拘らず、この重量。もう二度と関りたくないものだと思いながらも、引き金に指を当てる。

 その姿勢でしばし、音無は停止した。

 もう事は済んだ。なのに自分は、まるで当たり前のように拳銃を再び握り直している。

 昨日シックスに言った、音無が彼女を見逃す理由を思い出す。

 度胸がない、と言ったが、もうほとんど嘘みたいなものだった。いや、度胸がないのは本当だが、こんな世界でならばもう人を一人殺そうが殺すまいが関係ないだろう。それくらいにこの数日は血に塗れ、死体に彩られ、腐臭を放っていた。

 だが、何故か。こんなにも手が震えるのは、何故か。

 純粋に怖いのだろう。それは殺した後どうなるとかとか、警察がどうとか、そういう話ではない。自分が当たり前のように普通の人を殺したら、同じく普通の人である音無だって簡単に死んでしまうということに気が付いてしまうから。それを自分で証明してしまうから。次は自分だと、こうなるのは自分だと思うと、怖くてたまらないのだろう。

 少なくとも二日前の音無なら、この引き金は引けなかったに違いない。

 だが今は、違かった。今の音無は、ただの孤高を気取る高校生ではない。

 事件に必ず巻き込まれる者と共に、この惨劇を平然と乗り越えてきた、異常なる存在。

 ならもう、信じるしかないじゃないか。

 この先に何があっても、自分と赤井沢朱音で乗り切ることが出来ると。二人なら絶対に大丈夫だと。未来永劫、二人で突き進むと、誓うしかないじゃないか。

(……大丈夫、大丈夫だ。きっと赤井沢さんだって、今頃ナインを倒してこっちに来てくれてる。俺はもう、非力でもなければ一人でもないんだ。だから…………)

 尚を震え続ける右手を、左手で掴む。強く掴み過ぎて爪が食い込むが、構わなかった。

 歯を食い縛ると、何故か噴き出す汗が顎を滴る。その感触が気持ち悪くて、大きく被りを振った。意味もなく大きく呼吸をすると、目を見開く。

 大きく息を吸った。敢えて大声で、何かの感情を上塗りするように怒鳴り散らす。

「俺は……俺は!」

 それはまさに、宣言。

「もう逃げない、臆すこともない! ここから、やっと俺の人生が始まるんだ!」

 それは恐らく、覚悟すら決められない数日前の自分との、決別のような何か。

「ただ怠惰に過ごして流れるだけの人生なんて御免だ! 俺はこれからも、赤井沢さんと一緒に、この世界で生きていく!!」

 自分で言っていて何だが、まさに邪悪だと思った。自分の為に人を殺したいが度胸がなく、己を鼓舞するために自分の行いを正当化し、それを口に出して叫ぶ。最低の、行いだ。

 だが、それがどうしたと音無は思う。

 最低の行いくらい、したって当然じゃないか。

 音無は身体能力がずば抜けてる訳でも、レーザーが撃てるわけでも、魔法を独学で勉強出来る訳でもない、普通の人間なのだから。

「だから…………あなたを………………ここで…………ッッ!!」

 そして、その引き金をゆっくりと――――――………………。

 

 瞬間、一発分の銃声が響き渡った直後、何かが飛び散るような音がした。

 それきり、塩山の体は冷えていく。どこまでもどこまでも、凍て付いていく。

 その体に温かみが戻ることは、もう永遠にない。

 

 七月十七日、午前一時十二分。

 音無隆盛は、初めて人の命をその手で奪った。

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